哲学者オリュムピオドーロス
[人物] A.D. 1-2?、錬金術師。 アガトダイモーンまたは善なるダイモーンは,エジプトの神クヌム〔フヌム〕と同義語である。それは医学の神を象徴している。あるグノーシス派では,その象徴として,蛇を崇拝していた。そして,アガトダイモーンという名で,家のまもり神として考えられていた蛇の飼育さえしていたのである。この人物と,錬金術の象徴である尾をかむ蛇とに近親関係がみられる。その信徒たちは,錬金術師と同一視されていた。 オリュムピオドーロスは,軽信にも,アガトダイモーンの神秘説的,エペメロス的性格を疑っている。 《ある者は,それが,エジプトの古い哲学者の一人であるといっている。また他の者は神秘的な天使,またはエジプトの保護者である善良な神といっている。ある者は,それを空とよんでいる。なぜなら,その象徴が世界像であるから。実際,エジプトの学僧は,オベリスクの上で地球を表わそうとし,聖なる文字で,そこに蛇(ウロボロス)の絵を描いている。》アガトダイモーンは,われわれの錬金術師によって,実在の著作家としてしばしば引証されている。アガトダイモーンの名による,シピリンスの謎の書をわれわれはもっている。また,オシリスにあてられ,オルフェウスの古い神託に関係する注釈,すなわちグノーシス派の栄光を秘める2世紀のもう一つの外典も現存している。そこでは,この著作者は金属を白くしたり,金色にする術について語り,金属を銀と金に変えることと,種々の錬金術の処方とを伝えている。 (ベルトゥロ『錬金術の起源』p.131-132) 錬金術断片 (Fragmentum alchemicum)(sine titulo) (e. cod. Venet. Marc. 299, fol. 95v) 4086 001 2.115."6t" 2.115.7 2009.04.30. [参考] 錬金術作業過程には4つの局面があって、それぞれの局面は、既に夙くヘーラクレイトスが言及している根源的色彩、つまりメラノシス(melanosis・黒化)、レウコシス(leukosis・白化)、クサントシス(xanthosis・黄化)、イオシス(iosis・赤化)という特徴を帯びて現れるということである。過程のこのような四分法は哲学の四分法(tetramerei:n th;n filosofivan)と呼ばれた。<……>。黒色すなわち「ニグレド」は作業当初の状態であって、「第一質料 prima materia」の、つまり混沌ないし「混沌塊 massa confusa」の特性としてそもそもの初めから存在しているか、または四大の分解(solutio・溶解)、セパラティオ(separatio・分離)、ディウィシオ(divisio・分割)、プトレファクティオ(putrefactio・腐敗)を通じて現出せしめられるかのどちらかである。後者の場合、つまり分解された状態が前提されている場合には<……>、対立物の合一が男性的なものと女性的なものの合一という比喩(coniugium・連結、結婚)、マトリモニウム(mattimonium・結婚)、コンイウンクティオ(coniunctio・結合)、コイトゥス(coitus・交合)の形で成就され、その後で、このような合一の産物としての死(mortificatio・死亡)、カルキナティオ(calcinatio・か焼)、プトレファクティオ〔腐敗〕が、死を示すニグレド(黒化)という形をとって現れる。ニグレドの続く状態は三様であって、ニグレドが洗滌(ablutio・沐浴)、バプティスマ(baptisma・洗礼)によって直接に白化するか、死に際して肉体を抜け出た魂 anima が再び死せる肉体に合一して、それを蘇生させるか、あるいは多くの色(omnes colores・全色)、カウダ・パウォニス(cauda pavonis・孔雀の尾)を経て、あらゆる色を内包するひとつの色、すなわち白色に変ずるかである。これによって作業過程の最初の主要目的が達成される。<……>。とはいえ実際にはこれは銀ないし月の状態にすぎず、この後なお太陽の状態にまで高められなくてはならないのである。「アルベド(白化)」はいわば夜明け前の薄明であって、「ルベド(rubedo・赤化)」に至って初めて日の出となる。ルベドへの移行段階をなすものとして「キトリイニタス(黄化)」という状態が存在した<……>。 (ユング『心理学と錬金術』II, p.12-14) |