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ギリシア語錬金術文献集成

TLG4335

クレオパトラ

002
クレオパトラの錬金法





[出典]

写本2249, 96葉;聖マルコ写本188葉Vの写本製版。





クレオパトラの錬金法



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左上に題名:KleopavtrhV crusopoiiva〔クレオパトラの錬金法〕

3つの同心円:
 いちばん外側の円:%En to; pa:n kai; di=autou: to; pa:n kai; eijV aujto;u to; pa:n kai; eij mh; e[coi to; pa:n oujdevn ejstin to; pa:n〔万有は一であり、万有はそれに始まり、万有はそれに帰着する、もしも〔一が〕万有を包含しないなら、万有は無である〕。
 第2の円:Ei|V ejstin oJ o[fiV oJ e[cwn to;n io;n meta; duvo sunqevmata〔蛇は一であり、2つの化合物を備えた毒を持つものである〕。
 中央の円:〔聖マルコの写本2327の記号解説にしたがえば〕向かって右から、金・銀・水銀の記号。
同心円の下にある図形群:賢者の卵(創造の象徴)の装置類だとされている。(平田寛『錬金術の誕生:科学史とその周辺』p.30)
下部の左:ウゥロボロス。その中央に En to pan〔万有は一〕。
右上の記号群は、意味不明である。(下の[参考]を参照)。
右下に、2つの尖端をもった蒸留装置。
 その炉に、fwta〔炎〕。
 その上に「長くびフラスコ」lwpavV
 蓋にあたるのが fiavlh。〔この頭部の装置は、普通、bi:koVと呼ばれる。管が2本のものが(dibikovV)、3本のものが(tribikovV)。3本のものは、ユダヤ女マリアの発明品とされる〕。
 向かって左の管が、ajntivceiroV solhn〔親指の管〕。
その他の記号の意味は、はっきりしない。

2009.05.05.




[参考]グノーシス派における錬金術の起源

 聖マルコの写本188葉Vと国立図書館の写本2249の96葉には「クレオパトラのクリュソポイイア(クレオパトラの錬金法)」の名で〔ゾーシモスのものと〕同じ素描がみられるが,もっと複雑で,もっと表現が豊かである。実際,三つの円には同じ神秘説の公理が描かれているだけではなく,その中心は,金,銀と水銀〔銅の間違いか?〕の三つの記号が入っている。その円の右側は,尾の形をして引き延ばされ,これが一連の魔術的記号にとどいている。その記号は,まわりに向かって広がっている。この三つの円の構造は,さきに引用した蛇の同心円の三色に相当する。その下には,主要な公理《万有は一である》を添えた蛇の絵がある。蛇は同心円の形式ではあるが,実際は,世界の象徴と錬金術の象徴である賢者の卵とは,同じ思想を表すものである。

 それらは,ライデンのパピルスに書かれた魔法の輪が示すように,またルナンの『キリスト教起源史』〔VII, p.183〕にみられるように,グノーシス派の記号と空想である。

 尾をかむ蛇は,星のイメージとグノーシス派時代の彫刻石に書かれたまじないの文句と常に結びついて現われる。それはシャブイエ氏(Chabouillet)によって出版されたパリ国立図書館にある彫刻されたカメオと石のカタログ中で確かめることができる。写本2176, 2177, 2180, 2194, 2196, 2201, 2202, 2203, 2204, 2205, 2206番などのあらゆる種類の神秘説の記号には,蛇の絵がついている。2193番には,同じように,火とかげがついている。2203番には,ヘルメス,セラピス,七つの惑星を表わす七つの母音が,すべて,尾をかむ蛇で囲まれている。2240番には,惑星の記号があって,そのうちの水星のしるしは今日と同じものである。これらは,4世紀の医術者,セクストス・エンペイリコスによれば,病人の首にかけ,あらゆる用途に役立たせたおまもりと魔除けであった。これらの記号は,錬金術の記号と同じ種類で同じ時代のものである。

 尾をかむ蛇は,プリュギアのヒエラポリスで,初期のキリスト信者であるグノーシス派のナアセン派教徒に崇拝されていた。このグノーシス説の重要な支流オフィス派は,すぐれた力の象徴として認められた蛇を崇拝するという共通点をもつ数派を含んでいた。オフィス教徒は,蛇を,もしそれが欠けているとすれば,すべては存在できない水を含むものの象徴として,あるいはすべてを包み,宇宙の芙と調和の象徴である星々をかざる天空に生命を与える万物の魂として考えていた。この蛇(ウゥロボロスOuroboros)は,錬金術師の賢者の卵と,同じ形に表わされていた。蛇は同時に善であり悪であった。この悪は,闇と太陽に対するエジプト人の戦いの象徴である彼らの蛇,アポピスに相当している。

 同時に人間であり星座であるオフィウゥコス(Ophiouchos)は,オフィス教徒の一派であるベラテースの神話で重要な役割を演ずる。彼は邪悪な蛇に対し,人間を守ってくれる。われわれはオリュンピオドーロスの中に,このオフィウゥコスを見出すのである〔写本2327, 204葉〕。

 他の所でわれわれは,グノーシス派の著作家たちがいっている《大地は 処女であり,血ばしり,水を吹き,そして肉欲的である》〔聖マルコ写本、190葉〕という特殊な言葉に出合う。

 グノーシス派のひとびとは,初期の錬金術師やアレキサンドリアの新プラトン主義者たちのように,魔術を彼らの宗教上の勤行と結びつけていた。ヴァレンティヌスの著作の中でも同様だが,クレオパトラの錬金法を囲む象徴の中に,アッシリアの太陽の象徴である八光線をもった星があるのも,これによって説明できるであろう。その星は,セネカも語っているように,グノーシス派の神秘説のオグドアド(Ogdoade)[八つ組]や,もともとエジプトにあった,男女神を1対ずつ集めた八神などを思い起こさせる。他の所で私は,エジプト人や,グノーシス派マルコスにおいても,ゾーシモスにおいても,4という数字が基本的役割をなすことを示した。

 男の本質の役割は,朝日と同じとされ,女の本質は夕日となぞらえたこと,これらが結び合って作りなされたもの(plhrouvmenon),ゾーシモスによって引証され〔写本2327, 220葉〕中世の著作品にも現われてくる〔『化学の劇場』V, 804〕雌雄同体の本質である尊いもの(エジプト人の女神,ネイトNeith),グノーシス派の予言者を思い起こさせる女の錬金術師,テオセベイア,ユダヤ人マリ,学者クレオパトラが入っていることなど,グノーシス派と錬金術師たちに共通する特徴がある。

 ユダヤ人の伝統では,マルコスのグノーシス派が重要な役割を果たした。このユダヤ人がかかわっていることは錬金術の著作にも,ライデンのパピルスにも,共に同じようにみられる。ゾーシモスとオリュンピオドーロスは,エジプト人トトと同じ人とされている万能の人アダム(Adam)〔写本2327, 20葉。写本2249, 98葉。聖マルコの写本190葉〕についてのグノーシス派の推測を再び取り上げている。このアダムの四つの文字が,四つの基本の元素を示しているということである。イブ(Eve)はパンドラと同じ神として扱われている。プロメーテウスとエビメーテウスは寓話の言葉で魂と肉体を表わすものとして引用され,重要視されている。

 『ゲオポニカ』〔イラニンの名で伝わる農耕術の書〕の中でもまた,デーモクリトスのものだとされた処方がある。そこには,鳩小屋から蛇を追い払うよう運命づけられたアダムの名がある。それは,粗野な形をした,依然として迷信のようなものである。このようなギリシア,ユダヤ,キリスト教神話の混合は特徴がある。グノーシス派の一つセツ派は同じように,オルフェウスの神話と聖書の概念を結びつけていた。われわれの錬金術作家たちは,ヘブライの書物の権威をよりどころとしている。それは,初期のキリスト教の護教論の方法,すなわちそれらの書物を,ヘルメス,オルフェウス〔写本2327,262葉〕,へーシオドス,アラトス〔写本2327, 256, 93葉〕,哲学者たち,古代の知恵の師たちに結びつける方法である。

 この言葉,これらの記号,これらの象徴は,われわれを,歴史の中でよく知られた包括的諸教混淆のまっただ中に投げこんでしまう。その歴史の中では,オリエントの信仰と宇宙開闢説が,ヘレニズムとキリスト教とに混じりあったのである。哲学者であり,司教であり,さらに学者,錬金術師であったシュネシオスがつくったグノーシス派の聖歌は,同じ混淆を示している。

 さて,グノーシス説は,オリエント全域,とくにアレキサンドリアで,2世紀に重要な役割を果たした。しかしその一般的影響は,4世紀以隆まではおよばなかった。錬金術の文書によって,グノーシス説がますます激しく関心をもたれたのは,この時代の合間あたりである。この錬金術の文書は,象徴と寓話のべ−ルに隠されている哲学と宗教の理論の真の意味を教えるグノーシス説と,自然の隠された特質についての知識を求め,今日でさえ自然の特質を二重,三重の意味をもつ記号で表わしている化学との間に,その起源から,ひそかな親族関係があったことを示している。
 (ベルトゥロ『錬金術の起源』p.59-63)


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