アニュテー( !Anuth) (盛時、前3世紀初期)

 アルカディアのテゲアの女流詩人。
 生前からすでに賞賛を博していた。およそ18編のドリス語エピグラムの多くは追悼歌で、『ギリシア詞華集』に収められ、このうち1篇はポリュクス5_48に引用されている。彼女の叙情詩は失われたが、繊細なエレギアふう4行詩には、サッポーの精神のいくぶんかを伝えている。彼女は生きものの追悼詩を書いており、また牧歌的主題を扱ったのは、この詩人が初めとされる(例えば、AG. XVI_228)。
 (OCD)




[底本]

W. R. Paton, Greek Anthology I, Loeb Classical, Harvard, 1992
W. R. Paton, Greek Anthology II, Loeb Classical, Harvard, 1993
W. R. Paton, Greek Anthology III, Loeb Classical, Harvard, 1983

feather.gif


AG.VI_123
ここに立ちてあれ、人殺しの槍よ、もはやまがまがしき
青銅の穂先に敵の血をしたたらせせることなかれ。
むしろ、アタナの高き白亜の館の上に休らい、
クレーテー人エケクラティダスの男らしさを報じよ。

AG. VI_153
牛も入るほどの大釜。奉納者はエリアスピダスの子
クレウボトス。祖国は雄大なるテゲア。
こはアタナ〔アテーナ〕への贈り物。制作者はアリストテレースとて
クレイトール人にして、父と同じ名を継ぎしひと。

AG. VI_312
雄山羊たちよ、おまえに子どもたちは、ほんに緋色した手綱を
つけ、髭面の口もとに轡をはめ、神殿のまわりを、褒賞かけた競馬遊び、
幼い遊びに興じる子らを見そなわす神のもとで。

AG. VII_190〔一説にレオニダス作〕
野の歌い女たるakrisと、樹上の住まい人たる
蝉のために 木の塔婆をつくりしは少女ミュロ、
乙女の涙をそそぎつつ。これら二つの
遊び友だちをば 頑なるアイダス〔=ハデス〕 連れ去りぬれば。

AG. VII_202
もはやわたしを、かつてのように、力強く羽ばたいて
朝早く、寝台から起こさないでおくれ。
さもなきゃ、おまえが寝てる間に、盗人めがこっそり近づいて
喉にすばやく爪を引っかけて、殺してしまうだろうよ。

AG. VII_208
踏みとどまって亡にし軍馬のこの碑を建てしは
ダミス、馬の胸をば、血みどろのアレースが
突きしゆえ。このとき、赤黒き血、馬の厚き獣皮を
ほとばしり、末期の痛苦に、〔軍馬は〕泥にまみれたり。

AG. VII_215
渡りゆく海原に得意になって
深みからあがって頚を突き出すことは、もうしません、
船の舷門近く、うるわしの唇に、
あたしの顔が嬉しくなって、口づけすることもしません。
けれど、海の汐紫の波は、わたしを陸の上に投げあげて、
こうしてわたしはこのほっそりした渚に横たわっているのです。

AG. VII_486
しばしば、娘のこの墓標に、母クレイナはいたましく
夭折せしいとしの子のために慟哭す、
ピライニスの魂を呼びもどさんと――嫁ぎもせず
アケローン河の蒼き流れを渡りし子の。

AG. VII_490
わたしの悼み嘆くは処女アンティビアー――数多くの
花婿たちが、彼女にあこがれて、父君の館に赴いたもの。
美しさ、利発さを伝え聞いては。けれども、最後に
おぞましきモイラが望みをひっくり返すとは。

AG. VII_492
われら去らん、おお、ミレートスよ、愛しの祖国よ、掟知らずの連中の
無法なガリア流の性愛を拒みしゆえ、
われら三処女は汝が市民、ケルタイ人たちの
荒ぶるアレースが、われらをこの運命に陥らせたり。
われらは不敬の交わりはもとより、「婚礼歌(ヒュメーン)」の
花嫁とならんよりは、むしろアイダを身内にせん。

AG. VII_538
これなる男、かつて生きてあるときはマネース*。いまは死んで、
大王ダレイオスにも匹敵する力を持つ。
*コッタボス遊び。

AG. VII_646
これはいまわのきわのことば――愛する父に手をさしのべて
エラトーが述べたる。ぼうだの涙あふれるままに。
「お父さま、あたしはもうお父さまのものではありません、
あたしの眼を暗く覆ていますもの
あたしはもうだめ、黒い死が」

AG. VII_649
めでたき私室と、厳かな婚儀の代わりに、おまえの
母は、大理石のこの奥津城の上に建てました
背丈も美しさもおまえに似た乙女像を――
テルシが。けれど、おまえのよこす挨拶が、おまえの死とは!

AG. VII_724
しかり、荒武者ぶりがおまえを、プロアルコスよ、斬り合いのさなかに亡き者にし、館と
〔父〕ペイディアスとを、かぐろき慟哭に突き落としたのだ。
されど、美しきこの墓石が、おまえのために天来の歌を唱う、――
彼は愛する祖国の前で闘って死せりと。

AG. IX_144
これはキュプリスさまの領地、この女神の愛したもうは
照り輝く海原を陸よりいつも眺めつつ、
船人たちに旅の恙なきを愛したもう。海は一面
身をおののかせる、輝かしき像を仰ぎ見て。

AG. IX_313
美しく生い茂る月桂樹の葉陰にすっぽり覆われてお座りなさい、
そして季節のみなもとから甘い飲み水を飲みなさい、
そうして、夏の労苦にあえぐあなたの両膝を
休めなさい、ゼピュロスの風に当てながら。

AG. IX_314
われヘルマス〔ヘルメース〕、ここに立てり、風吹く苑の
三叉路、白波立つ渚のかたえ、
疲れはてし人々に、道行きの休み場を与えんと。
澄んだ冷たき泉もこんこんと湧かせて。

AG. IX_745
ブロミオス〔バッコス〕の有角の山羊をご覧なさい、
もじゃもじゃの顎髭に どんなに高慢ちきな眼をしていることか、
偉そうにしているのは、山々の中で、あの両頬の縮れ毛を
ナイス〔=ナーイアス〕がしばしば薔薇の手に迎え入れてくれたから。

AG. XVI_228
旅人よ、楡の木陰に、くたびれはてた脚をやすめよ。
緑の葉陰に、げに快き風がさんざめく。
冷たき清水を泉に飲め。まこと、これは
燃える夏、道行く人々のいとしき憩いの場。

AG. XVI_231
 パーンの像に寄せて
a. なにゆえにただひとり、狩人パーンよ、蔭暗き森に
坐して、甘き音あぐ葦笛を奏でたもうのか?
b. されば、露けきこの山で、わたしのおかげで草はめるよう
若き雌牛たちが房よき麦穂を摘みながら。

AG. XVI_291
髪強きパーン、ならびに、家畜囲いの守り姫たるニュンペーたちに、この
贈り物を、物見の丘の麓に捧げしは、羊飼いのテウドトス。
乾きの夏に疲労困憊せしとき
休めてくれたがゆえに、蜜ほど甘き水を両の手に差し出して。

forward.GIFノッシス