アルカディアのテゲアの女流詩人。
生前からすでに賞賛を博していた。およそ18編のドリス語エピグラムの多くは追悼歌で、『ギリシア詞華集』に収められ、このうち1篇はポリュクス5_48に引用されている。彼女の叙情詩は失われたが、繊細なエレギアふう4行詩には、サッポーの精神のいくぶんかを伝えている。彼女は生きものの追悼詩を書いており、また牧歌的主題を扱ったのは、この詩人が初めとされる(例えば、AG. XVI_228)。
(OCD)
[底本]
W. R. Paton, Greek Anthology I, Loeb Classical, Harvard, 1992
W. R. Paton, Greek Anthology II, Loeb Classical, Harvard, 1993
W. R. Paton, Greek Anthology III, Loeb Classical, Harvard, 1983
ここに立ちてあれ、人殺しの槍よ、もはやまがまがしき
青銅の穂先に敵の血をしたたらせせることなかれ。
むしろ、アタナの高き白亜の館の上に休らい、
クレーテー人エケクラティダスの男らしさを報じよ。
牛も入るほどの大釜。奉納者はエリアスピダスの子
クレウボトス。祖国は雄大なるテゲア。
こはアタナ〔アテーナ〕への贈り物。制作者はアリストテレースとて
クレイトール人にして、父と同じ名を継ぎしひと。
雄山羊たちよ、おまえに子どもたちは、ほんに緋色した手綱を
つけ、髭面の口もとに轡をはめ、神殿のまわりを、褒賞かけた競馬遊び、
幼い遊びに興じる子らを見そなわす神のもとで。
野の歌い女たるakrisと、樹上の住まい人たる
蝉のために 木の塔婆をつくりしは少女ミュロ、
乙女の涙をそそぎつつ。これら二つの
遊び友だちをば 頑なるアイダス〔=ハデス〕 連れ去りぬれば。
もはやわたしを、かつてのように、力強く羽ばたいて
朝早く、寝台から起こさないでおくれ。
さもなきゃ、おまえが寝てる間に、盗人めがこっそり近づいて
喉にすばやく爪を引っかけて、殺してしまうだろうよ。
踏みとどまって亡にし軍馬のこの碑を建てしは
ダミス、馬の胸をば、血みどろのアレースが
突きしゆえ。このとき、赤黒き血、馬の厚き獣皮を
ほとばしり、末期の痛苦に、〔軍馬は〕泥にまみれたり。
渡りゆく海原に得意になって
深みからあがって頚を突き出すことは、もうしません、
船の舷門近く、うるわしの唇に、
あたしの顔が嬉しくなって、口づけすることもしません。
けれど、海の汐紫の波は、わたしを陸の上に投げあげて、
こうしてわたしはこのほっそりした渚に横たわっているのです。
しばしば、娘のこの墓標に、母クレイナはいたましく
夭折せしいとしの子のために慟哭す、
ピライニスの魂を呼びもどさんと――嫁ぎもせず
アケローン河の蒼き流れを渡りし子の。
わたしの悼み嘆くは処女アンティビアー――数多くの
花婿たちが、彼女にあこがれて、父君の館に赴いたもの。
美しさ、利発さを伝え聞いては。けれども、最後に
おぞましきモイラが望みをひっくり返すとは。
われら去らん、おお、ミレートスよ、愛しの祖国よ、掟知らずの連中の
無法なガリア流の性愛を拒みしゆえ、
われら三処女は汝が市民、ケルタイ人たちの
荒ぶるアレースが、われらをこの運命に陥らせたり。
われらは不敬の交わりはもとより、「婚礼歌(ヒュメーン)」の
花嫁とならんよりは、むしろアイダを身内にせん。
これなる男、かつて生きてあるときはマネース*。いまは死んで、
大王ダレイオスにも匹敵する力を持つ。
*コッタボス遊び。
これはいまわのきわのことば――愛する父に手をさしのべて
エラトーが述べたる。ぼうだの涙あふれるままに。
「お父さま、あたしはもうお父さまのものではありません、
あたしの眼を暗く覆ていますもの
あたしはもうだめ、黒い死が」
めでたき私室と、厳かな婚儀の代わりに、おまえの
母は、大理石のこの奥津城の上に建てました
背丈も美しさもおまえに似た乙女像を――
テルシが。けれど、おまえのよこす挨拶が、おまえの死とは!
しかり、荒武者ぶりがおまえを、プロアルコスよ、斬り合いのさなかに亡き者にし、館と
〔父〕ペイディアスとを、かぐろき慟哭に突き落としたのだ。
されど、美しきこの墓石が、おまえのために天来の歌を唱う、――
彼は愛する祖国の前で闘って死せりと。
これはキュプリスさまの領地、この女神の愛したもうは
照り輝く海原を陸よりいつも眺めつつ、
船人たちに旅の恙なきを愛したもう。海は一面
身をおののかせる、輝かしき像を仰ぎ見て。
美しく生い茂る月桂樹の葉陰にすっぽり覆われてお座りなさい、
そして季節のみなもとから甘い飲み水を飲みなさい、
そうして、夏の労苦にあえぐあなたの両膝を
休めなさい、ゼピュロスの風に当てながら。
われヘルマス〔ヘルメース〕、ここに立てり、風吹く苑の
三叉路、白波立つ渚のかたえ、
疲れはてし人々に、道行きの休み場を与えんと。
澄んだ冷たき泉もこんこんと湧かせて。
ブロミオス〔バッコス〕の有角の山羊をご覧なさい、
もじゃもじゃの顎髭に どんなに高慢ちきな眼をしていることか、
偉そうにしているのは、山々の中で、あの両頬の縮れ毛を
ナイス〔=ナーイアス〕がしばしば薔薇の手に迎え入れてくれたから。
旅人よ、楡の木陰に、くたびれはてた脚をやすめよ。
緑の葉陰に、げに快き風がさんざめく。
冷たき清水を泉に飲め。まこと、これは
燃える夏、道行く人々のいとしき憩いの場。
パーンの像に寄せて
a. なにゆえにただひとり、狩人パーンよ、蔭暗き森に
坐して、甘き音あぐ葦笛を奏でたもうのか?
b. されば、露けきこの山で、わたしのおかげで草はめるよう
若き雌牛たちが房よき麦穂を摘みながら。
髪強きパーン、ならびに、家畜囲いの守り姫たるニュンペーたちに、この
贈り物を、物見の丘の麓に捧げしは、羊飼いのテウドトス。
乾きの夏に疲労困憊せしとき
休めてくれたがゆえに、蜜ほど甘き水を両の手に差し出して。