南伊のエピゼピュリオイ・ロクロイ出身の女流詩人で、メレアグロス(盛時、前100年頃)ギリシア詞華集『花冠』に採録された12編の詩の作者。多くは奉納物と技芸をうたっている。彼女は自らをサッポーと比較し(AG. VII_718)、V_170 では、恋愛詩を書いたことを示唆している。
(OCD)
[底本]
W. R. Paton, Greek Anthology I, Loeb Classical, Harvard, 1992
W. R. Paton, Greek Anthology II, Loeb Classical, Harvard, 1993
「恋よりも甘きものはなし、いかな栄華も、みな
次善。わたしは蜜さえ口から吐き出した」
かく言うはノッシス。なれど、キュプリス〔=アプロディティー〕が愛したまわぬ者、
その者は、薔薇の花がいかなるものかも知らず。
ブレッティアの男たちが武運つたなき両肩から棄てた武具がこれ、
戦い巧者のロクロイ人たちの手に撃たれて。
武具は彼らの有徳を讃える――神々の総帥のもとに横たわり、
自分たちの残した臆病者の もせず。
とうときヘーラさま、しばしば天界より降りたまいて、
ラキニオン神殿に没薬をみそなわす、
麻布の衣裳をお受け取りください、――あなたのために愛しき娘
ノッシスとともに、クレオカの娘テウピリスが織りしもの。
アルテミスよ、ダロス〔デーロス〕を領したまう恋しきオルテュギアよ、
聖なる弓はカリスたちの膝に置きたまいて、
イノーポスの泉に御身を清めたまい、ロクロイにいでましたまえ
アルケティスを陣痛の苦しみより救い出したまえ。
おもうに、アプロディタ〔アプロディーテー〕は長髪をよろこびたもうゆえ
この髪抑えを奉納物としてサミュタより受けたもうらん。
巧みを凝らしたものゆえ、また、神酒よりも甘き香りがするゆえ、
神酒は、かの女神も美しきアドーン〔アドニス〕に油ぬりしもの。
これなるはメリンナその女(ひと)。ごらんなさい、何と優しげな顔が
わたしたちを優しく見やっているように思われることでしょう。
何と娘は母親にあらゆる点で似ていることでしょう。
子が親に似るのって、美しいですね。
ここからも、サバイティスの肖像が有名なことが知れる、
その器量よさと気高さのゆえに。
ごらんなさい、彼女のつつましを。すぐにも彼女の優しさを
眼になさることを望みます。ばんざい、女に幸あれ!
ほんにからからと笑って通り過ぎなされ、愛想のよい
言葉ひとつもわしにかけて。わしはシュラクウサイ人リントーン、
ムーサらのしがない歌鶯のひとり。とはいえ、悲劇的
茶番劇によって、独自のキヅタの花冠を摘みとりしなり。
おお、旅人よ、御身もし、舞踏場も麗しきミュティラナ〔ミュティレーネー〕に航(ゆ)きたもうなら、
美神らの花サッポーを燃えあがらせしかの地に
伝えてよ、――ロクロイの地もまたムーサらに愛でられ、彼女にも
等しき女を生みぬ、してその名はノッシスと。お行きなさい。
神殿に行って、アプロディタの木像を
見ましょう、どれほど黄金で巧みにこしらえられているか。
これをこしらえたはポリュアルキス、すこぶる多くの持ち物を、
自らの身体の輝きから取り出して。
この画板にあるは、タウマテラの肖像。まなざし優しい彼女の
素敵さ、あでやかさがよく描かれている。
家番の子犬も、あなたを眼にしたら、じゃれつくことであろう、
わが家の女主人を見つけたと思って。
カッローは、金髪のアプロディタの社に
どこもかしこも等しく描かれた肖像画を奉納した。
何と優雅に立っていることか。優美さの咲きにおう大きさをご覧なさい。
ご機嫌よう。人生にいかな欠点もないのだから。