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オルペウス作品集

オルペウスの諸神讃歌(1/2)



[底本]
TLG 0579 ORPHICA 001
Hymni
Hymn., Hexametr.
W. Quandt, Orphei hymni, 3rd edn. Berlin: Weidmann, 1962
(repr. 1973): 1-57.

[参考]
Thomas Taylor, The Mystical Hymns of Orpheus, Translated From the Greek , London : Bertram Dobell, 1824.
Apostolos N. Athanassakis & Benjamin M. Molkow, The Orphic Hymns, Translation, Introduction, and Notes , Johns Hopkins University Press, 2013.




P
オルペウスからムゥサイオス [001]

いざ、学び知りたまえ、ムーサイオスよ、いとも厳かなる供犠 [002] の執行、
祈りをば、これこそが何にもまして傑出していることを。
〔我が呼び降ろすは〕王ゼウスとガイア、ヘーリオスの
天上の聖潔なる炎、メーネー〔月〕の聖なる煌めきに、ありとある星辰。
して御身、漆黒の髪した、大地を禦するポセイドーンに、
清潔なるペルセポネーに、輝く実りのデーメーテールに、
猟矢射る乙女アルテミスに、弓矢のポイボス、
デルポイの、聖なる平野に住みたもうところの。また、浄福なる者らの間に
最大の名誉を有する、合唱舞踏者ディニューソス。
気負い猛のアレースに、ヘーパイストスの聖らかな力に、
泡から生まれた女神、威名鳴り響く贈り物を抽籤するかた。
また御身、地下界の王、偉大・著名なダイモーンも、
またヘーベーに、エイレイテュイアに、ヘーラークレースの逞しい力。
さらに我が勧請するは、 正義敬虔の大いなる加護、
名高いニュムペーたちに、最も偉大なパーンに、
ヘーレー、つまり、神楯まとうゼウスの頼もしい連れ合い。
慕わしいムネーモシュネーに、聖潔なるムーサたち、9人を
呼び降ろす、カリスたちにホーラたち、あるいはまたエニアウトス〔年〕、
結髪もみごとなレートーに、厳かな女神ディオーネーに、
武装したクーレースたちに、コリュバースたち、あるいはまたカベイロスたちと [003]
偉大な救主たちをみな、ゼウスの不滅の子どもたち、
イーダの神々に、あるいはまた天界のものらの御使い、
伝令使ヘルメイアに、人間どもの腑分け占い師テミスに、
我が呼ばわるは、最年長のニュクスに、光りをもたらすヘーマル〔日〕、
ピスティス〔信〕あるいはまたディケー〔義〕に、気高いテスモドテイラ〔立法の女神〕、
レイアー、あるいはまたクロノスに、か黒いペプロス被(かず)くテーテュース、
偉大なオーケアノスに、オーケアノスの娘たちもともに、
アトラースとアイオーンの偉大・著名な強さと
久遠のクロノスと、ステュクスの輝く水。
〔これら〕慈悲の神々に、万人に善なるプロノイア〔摂理〕に、
至聖のダイモーンに死すべき身の者らの致命的な女ダイモーン、
天界、大気界、水中なるダイモーンたちと、
地上界の、地下界の、あるいはまた火中を行き交う〔ダイモーンたち〕、
バッコスのセメレーに、エウアイの声上げるありとあるものたち、
イーノー、レウコテアーに、幸い与えるパライモーンに、
蜜より甘いニーケーに、あるいはまた御女神アドレーステイア [004]
偉大な王、癒しの与え手アスクレーピオス、
戦いを呼び起こす乙女パッラースに、あらゆるアネモス〔風〕たちに、
ブロンテース〔雷〕に、4柱なるコスモスの部分をば我は歌う。
我が勧請するは、不死なる者らのメーテール〔母〕に、アッティスとメーネー、
女神ウーラニアに、不死にして聖なるアドーニスとともに、
アルケー〔初め〕とあるいはまたペラース〔終わり〕 — つまり、万物にとって最も重要なもの — よ、
好意をいだき、悦びの心もて来たりますよう
供犠執り行うこの生贄と、厳かなる灌奠に。


(1.)
<ヘカテー讃歌>

ヘカテー・エイノディア [005] を勧請せん、三叉路に坐す( triodi:tiV)、いとしき女神、
天と地と海をみそなわし、クロコス色のペプロス被(かず)く、
奥津城にまし、死人たちの魂たちとともにバッコスを祀る、
ペルセースの娘御 [006] 、荒れ野を愛し、鹿たちを誇る女神、
夜の守り神、仔犬の守り神、たたえられる女王、
獣の咆吼に先触れされ、なだめられ、敵しがたい姿を持てる女神、
タウロポロス(tauropovloV)、全世界の鍵もつ御女神、
嚮導者、ニュムペー、子どもの養い親、山の渉猟者よ、
乙女として、神法にかなえる秘祭に来臨したまわんことを請い願いつつ〔勧請せん〕、
いつも心喜ばしき牛飼い( boukovloV) [007] に好意をいだく乙女として。


(2)
プロテュライアー [009] 讃歌

   薫き物は蘇合香

耳傾けたまえ、おお、いとも厳かなる女神よ、名号数多なる神霊、
陣痛から助けてくださる方、産の床にある女たちの快き御姿、
女たちの唯一の救い主、子を愛する方、気だて優しき方、
安産をもたらしてくださる方、死すべき者らの若き女に付き添ってくださる方、プロテュライアー、
鍵の持ち主、近づきやすき方、養育を愛する方、万物に優しい方、
御身は家々を保ち、統べ、ことに多産を嘉したまう
場を失い 見ることあたわず。しかして すべての為すべきことを現わしたまう
労苦と同じものを持ち、また 安産を嘉したまう
エイレイテュイア、恐るべき必然の裡にある労苦を解きたまう方。
何となれば、子作りの苦しみから解き放って、これを終わらせるのは、御身次第なのですから、
アルテミス・エイレイテュイア、いとおごそかなる、門口にましますプロテュライアーよ、
耳傾けたまえ、浄福なる方、助け手として子孫を授けたまえ、
そして救いたまえ、あらゆるものの常に救い主として生まれついておいでなのですから。


(3)
ニュクス〔夜〕讃歌

   薫き物は松明

神々の、そしてまた人間どもの生みの母なるニュクスを歌わん。
{ニュクスは万物の生みの親[010] 、これをわれわれはキュプリスとも呼ぶ} [011]
耳傾けたまえ、浄福なる女神よ、蒼黒くきらめき、星とともに輝くかた、
静寂を歓び、深き眠りをもたらす安らぎを嘉したまうかた、
好機嫌、歓喜、全夜祭を愛するかたよ、諸々の夢の母、
†善き憂さ晴らしにして、労苦の休息を持つかた、
眠りもたらすかた、万人の愛するかた、馬を駆るかた、†夜に輝くかたよ、
完成半ばのかた、地界と天界の女神にして、彼女はまた、
周回するかた、大気を通う追跡者たちにとっての舞妓、
御身は下界にまで光を差し入れ、
冥府へと逃れたもう。何となれば、恐ろしい必然( ajnavgkh)が万物を支配するゆえに。
今、御身を、浄福なるかたよ、呼ばわん、恵み深きかたよ、万人に慕われるかた、
親しみやすきかたよ、嘆願者の声を聞き届けたまい
来たれる者らに好意を示して、夜に輝く恐れを防除したまえ。


(4)
ウゥラノス〔天空〕讃歌

   薫き物は乳香

永遠に衰えを知らぬこの世の部分、万物の生みの親たるウーラノスよ、
最も年嵩のものよ、万物の初めにして万物の終わり [012]
秩序正しき父、大地を球のように廻るものよ、
浄福なる神々の館、唸り独楽の旋回を以て道行きしつつ、
御身は天的にして地的 [013] 、万物の守りとして見まわしたまい、
胸の内に自然の堪えがたき必然を持し、
蒼黒き色した、不壊なる、星ちりばめたる、千変万化の方よ、
万物を見そわなすもの、クロノスの父よ、浄福なる者よ、万物を超越したダイモーンよ、
耳傾けたまえ、新しく秘儀に参入した者に神法にかなう生命を唱導して。


(5)
アイテール〔霊気〕讃歌

   薫き物はサフラン

おお、高みにうちたてられし、ゼウスの覇権握る、永遠に衰えを知らぬものよ、
星々の、太陽の、そして月の領分よ、
全覇者、火の息吐くもの、あらゆる生きとし生けるものに活気を与えるもの、
高みに顕わるるアイテール、この世の最善の元素よ、
おお、輝ける若枝、煌めきをもたらす、星の微光、
耳傾けたまえ、御身が混成して好天たれと我が祈願に。


(6)
プロートゴノス [014] 讃歌

   薫き物は没薬

我が呼ばわるはプロートゴノス、両性にして、偉大、アイテールを漂えるもの、
卵生にして、黄金の翼を誇り、
牡牛の唸り声をあげる [015] 、浄福なる神々と死すべき身の者らとの祖として、
種子は恨み尽きせず、数多の狂宴で祀られるエーリケパイオン、
口外すべらからざる、唸り音の秘儀、光り輝く若枝、
御身、両の眼から蔭暗き霧を晴らすかた [016]
翼の羽ばたきで世界をくまなくめぐり、
照り輝く聖らかな光を運ぶかた、このゆえに御身パネースを我は勧請せん、
しかり、主人プリエーポスを、また眼煌めく [017] アンタウゲース〔反射の意〕を。
いざ、浄福なるかたよ、匠に長けたかたよ、喜びの心いだいて到りませ、
狂宴に入信せしめる祭司たちによる、彩り豊かな聖なる秘儀へと。


(7)
星辰讃歌

   薫き物は香草

天空の星辰の神聖な煌めきを招請せん、
供犠にかなう声もて聖なるダイモーンたちを勧請して。
天空の星々、黒きニュクス〔夜〕の愛しき子たちは、
王座の廻りを円環をなして旋回しめぐる。
きらめくものたち、火のようなものたち、常に万物の生みの親たち、
定めるものたち、あらゆる定めの徴をつける者たち、
死すべき人間どもの神的な不変性を決める者たち、
七層に光る帯を運行し、アイテールを漂うものたち、
天上のものにして地上のものたち [018] 、火の走路駈ける、永遠に衰えを知らぬものたち、
夜の暗色の衣裳に常に光り出るものたち、
まばゆさにきらめく、陽気にして夜のものたち。
厳粛な秘儀に来たりませ、
誉れある祭事にかなうしあわせな走路を完成するために。


(8)
ヘーリオス〔太陽〕に寄せて

   薫き物は粉末乳香

耳傾けたまえ、浄福なるかた、万物見そなわす永遠の眼を持ち、
黄金に煌めくティーターン、ヒュペリーオーン、天界の光、
自生者、疲れを知らぬ者、生きとし生けるものの快き視覚よ、
右手は暁の生みの父、左手は夜のそれ [020]
季節の支配権を持ち、四足の〔馬たちの〕足どりで舞踏する [019]
俊足にして、唸り音立て、火のごとく、喜ばしげな顔した、馭者よ、
際限なき唸り独楽の回転路を走りつつ、
敬虔なる者たちにとっては美しき事どもの案内者、不敬虔なる者たちにとっては猛威あり、
黄金の竪琴、世界の調和せる走路を曳きつつ、
善き為業の指揮者、四季養う若枝、
世界の覇者、笛吹く者、火の走路走り、円環をめぐるもの、
光をもたらし、変化し、命をもたらし、実りをもたらすパイアーン、
常磐なる、穢れなき、時間の父、不死なるゼウス [021] よ、
明澄なる、遍照する、世界を取り巻く眼、
美しくかつ明るき光線を消し、また、照らせ、
義しさの規範、水を愛するもの、世界の大男神、
信実の守り神 [022] 、永遠に至高なるもの、万物の守護者よ、
明澄な鞭で四頭立て戦車を追い立てる者よ。
言葉に耳傾けたまえ、そして甘き人生を秘儀参加者たちに現前せしめたまえ。


(9)
セレーネー〔月〕 [023] に寄せて

   薫き物は香草

耳傾けたまえ、女神なる女王、光放つ、尊いセレーネー、
牡牛の角もつ [024] †メーネー〔暦月〕、夜を走り、大空を通うかた、
夜間、松明持つ、乙女、明るい星、メーネーよ、
満ちたり欠けたり、女性にして男性 [025]
光りを与え、馬を愛し、時間の母、実りもたらす方、
琥珀色した、気難しい、†夜の照明者、
万物みそなわし、眠ることなく、美しき星々に溢れ、
静かさと、幸せな晴朗さを歓ぶ、
明るい、歓び与える、完成をもたらす(telesfovroV) [026] 、夜の聖像、
星辰の女王 [027] 、長い衣曳く、走路を走る、全知の乙女よ、
来たりませ、浄福者よ、晴朗に、明るい星よ、3倍に輝け、
照りかがやきつつ、御身の若き嘆願者たちを救いたまえ、乙女よ。


(10)
ピュシス〔自然〕 [028] 讃歌

   薫き物は香草

おお、ピュシス、母の中の母なる女神、いとも術知に長けた母よ、
天界なる、老齢の、多くを建設するダイモーンなる、御女神、
万物をみそなわし、不羈なる、女操舵手、輝きわたる方、
万能の女神にして、万物を超越し、万人に†崇拝されているかた、
物惜しみすることなく、初めに生まれたものにして、古より語り伝えられ、誉れを与えるかた、
夜の輩にして、星数多(あまた)に、煌めきもたらす、制圧されがたきかた、
無音の足跡で骰子のように急旋回したもう、
神々の聖らかな、女監督官たる、終わりなき終わり [029]
万物には共有されるが、おのれ独りは非共有なかた、
みずからが父にして、父なきもの、愛すべき、†悦び多き、最も偉大なかた、
花うるわしく、波うつ、愛しい、彩りも綾なる、ダイモーン、
女嚮導者、覇者、命を与え、万物養う乙女、
自足するかた、義しさ、カリスたちの、名号数多なる説得者、
上天、地上界、海洋を統べるかた、
劣悪な連中には苛酷、従順な連中には甘美、
全知にして、万物を与え、指導する、女王中の女王、
生長を促し、熟したものをふくらませ、解き放つかた。
げに、御身は万物の父親、母親、養い親あるいは里親、
安産の女神、浄福者、豊穣、季節の旬、
よろずの術知に長けた、塑造者、建造数多なる者、ダイモーンなる†御女神、
永遠なる、運動をもたらす、熟練した、思慮深いかた、
久遠の車輪に、速き守りで回転させるかた、
全き流れ、回転、変転きわまりなき [030] かたよ、
玉座もみごとな、尊い、ひとり決心されたことを成就したもうかた、
王笏保つものらを超絶して轟き渡る最高の女覇者、
畏れなく、万物見そなわし、備えられたるかた、定め、火の息吹、
永遠の命、あるいはまた不死なる摂理。
御身がすべてです、御女神。これを達するのは、ひとり御身のみですから。
いざ、女神よ、†時節を得て、†御身に請い願わん、
平和、健康、万物の生長を連れ来たりたまわんことを。


(11)
パーン [031] 讃歌

多彩な薫き物

我が呼ばわるはパーン、逞しい、羊飼いなる、宇宙の全体、
天、あるいは海、あるいは女王中の女王たる地と、
そして不死の火を。何となれば、それらの諸部分こそがパーンのものなればなり。
来たりませ、浄福者よ、跳びはねるもの、駆けまわるもの、ホーラーたちと玉座をともにするかた、
山羊足の、バッコス信徒、神来状態の愛者、星辰の下に暮らすかた、
宇宙の調和を戯れ好きな調子で編むかた、
幻想を払い除け、はかなき者らを恐怖の恐慌をもたらすかた、
春に、山羊飼いたちや、あるいはまた牛飼いたちを歓迎し、
狙いただしい、猟師、エーコーたちを愛する、ニュムペーたちの合唱舞踏隊員、
万物を産む、万物の生みの親、名号数多なるダイモーン、
宇宙の覇者、生長するもの、光をもたらすもの、実り豊かなパイアーン、
洞窟を悦び [032] 、遺恨深き、真の角もつゼウス [033]
何となれば、大地の果て無き野は御身によって支えられ、
そこには、倦むことなきわたつみの、深みを流れる水
†水で大地を護るオーケアノスも、〔御身に〕譲り、
養分の大気の領分、生き物らに活気を与え、
最も軽い火〔Pl. Tim. 56B〕の眼は頂点に懸かっている。
何となれば、御身のいいつけにより、これら神的なものらは、広く離れた距離を保っているのだから。
ただし、万物の変化する自然本性は、御身の摂理によって
人間どもの誕生を、際限なき宇宙で養うのだから。
いざ、浄福なる、バッコス信徒よ、神来状態の愛者よ、厳粛なる灌奠に
登壇されよ、ただし、人生の善き終わりは授けたまえ、
パーンの激情は大地の崖に追い払いたまいて。


(12)
ヘーラクレース讃歌

   薫き物は乳香

勢い猛なるヘーラクレース、大いなる力揮う、剛勇のティーターン、
手力強く、不撓不屈、覇者の褒賞に勇往邁進し、
千変万化の、時間の父、†永遠に†陽気な方、
男らしく、性粗暴、祈願者数多なる、万能者、
全角闘技者の精神を持ち、強さは偉大、射手、預言者、
大喰らい、万物を生み、万物に抜きん出、万人にとっての守り神、
御身、死すべき身の者らに安らぎをもたらし、野蛮な輩を追跡し、
若者養う平和を渇望し、誉れも輝く方、
自生者、疲れを知らぬ、大地の最もすぐれた若枝 [034]
プロートゴノスたちに矢弾[035] を投げ返す 、威名鳴り響くパイオーン、
御身、日とか黒い夜とを頭のまわりにめぐらせ、
東から西まで、十二の功業を行き渡らせたもう、
不死であり、経験豊かであり、際限なく、揺るぎないもの。
来たりませ、浄福なかたよ、病に対するありとある呪いを運んで、
ただし、悪しき命運は手の棍棒を揮って追い払いたまえ、
有翼のものらと有毒のものらには、難儀な角を送りつけたまえ。


(13)
クロノス讃歌

   薫き物は蘇合香

浄福な神々の、そしてまた人間どもの、永久の父、
策略に長け、汚れなく、大いなる力を揮う、剛勇のティーターン [036] よ、
御身、すべてを費消し、みずから再び増大せしめ、
不壊の鎖を、無際限なる宇宙に所持するかた、
万物の永遠なる父クロノス、物語り多きクロノスよ、
ガイアと、星煌めくウゥラノスとの若枝として、
生まれ、生え、枯れる、レアーの夫、厳かなプロメーテウス、???
御身は世界のあらゆる部分に住し、
狡知に長けた、並びなきかたよ。嘆願者の声を聞こし召して、
人生の永久に非の打ち所なき多幸の終わりを送りたまえ。


(14)
レアー[037] 讃歌

   薫き物は香草

御女神レアーさま、変幻自在のプロートゴノス[038] の御娘 、
†牡牛の牽く†神聖なる戦車を禦する、
太鼓を打ち鳴らし、狂乱を愛し、青銅を打ち叩く[039] 乙女、
オリュムポスの、神楯纏う御男神ゼウスの母、
まことに誉れある、姿うるわしい、クロノスの浄福なる伴侶、
御身、山々を悦び、また死すべき身の者らの戦慄の叫声を悦びたもう、
女王中の女王レアー、戦塵巻き上げ、気負い猛のかた、
瞞着者、救済者[040] 、解放者、創生者よ、
まことに、神々と、そしてまた死すべき身の人間どもとの、母。
何となれば、御身から大地も、じかに生まれた、
そしてわたつみも、風も。走ることを愛し、大気の姿したものよ。
来たりませ、浄福なる女神よ、
平和をば、素晴らしき冥加とともに引き下ろして、
穢れと横死を大地の崖まで送りたまいて。


(15)
ゼウス [041] 讃歌

   薫き物は蘇合香

いとも誉れ高きゼウス、不滅のゼウスよ、 我らの捧げる
証しと祈りこそ、解放なれ、
おお、王よ、御身の頭を通して[042] 、これらの女神は現れたもうた、
山々の母にして高き丘々なる神さびた大地と、
わたつみと、天界のうちに定められたかぎりのすべてが。
クロノスの御子ゼウス、王笏保ち、稲妻とともに降下する、気負い猛なるかた、
万物の生みの親、万物の初めにして、万物の終わり[043]
大地を揺すり、生長させ、浄化し、万物振る神、
雷光の神、雷鳴の神、稲妻の神、
我に耳傾けたまえ、千変万化の方よ、そして与えたまえ、瑕疵なき健康と、
神的な平和と、富の瑕疵なき栄光を。


(16)
ヘーラー [044] 讃歌

   薫き物は香草

紺碧の淵に座を占め、大気にも似た姿のかた、
女王中の女王ヘーラー、ゼウスの浄福なる伴侶、
死すべき身の者らに、魂養う慈悲深い微風をもたらし、
まこと雨の母、風の養い親、万物の生みの親よ。
何となれば、御身なくして、何ものも生命の自然をまったく生まぬゆえ。
何となれば、御身はすべての厳かな日を支配し、共有したもうているゆえ。
何となれば、御身のみが万物を支配し、万物にとっての御女神である、
大浪ごとに日の根に
いざ、浄福な女神よ、名号数多なる、女王中の女王よ、
美しく、喜ばしい顔色に好意を湛えて来たりませ。


(17)
ポセイドーン讃歌

   薫き物は没薬

耳傾けたまえ、大地を支えるポセイダオーン、漆黒の髪なびかせるかたよ、
馬の神、両手に青銅で鍛造された三叉銛を携えるかた、
御身、懐深きわたつみの礎に住まいし、
わたつみ統べる、汐海鳴らせ、深く響もす、大地を揺するかた、
大波豊かに、恵みの神、四頭立ての戦車を駆り立てるかた、
海棲の
御身、海の深き  に第3の籤を引かせ、
大波と、同時にまた  を悦ぶ、わたつみのダイモーン。
大地の座と、船船の快走する勢いを扶けたまえ、
平和、健康、そしてまた、瑕疵なき冥加を引き連れて。


(18)
プルートーンに寄せて

   薫き物は乳香

おお、地下界の館に住まいたもうダイモーン、気負い猛の御方、
タルタロスの、蔭深くして光なき牧野に〔います〕
ゼウス・クトニオス [046] 、王笏保つ方よ、この供犠を切に受けたまえかし、
プルートーンよ、御身、大地の鍵 [047] すべてを握り、
はかなき種族を、年々歳々の果実で豊富にしたもうかた。
御身が抽籤したもうたは、第3の分け前たる地界の王中の王位、
不死なる者らの座、死すべき身のものらの地からある支援。
御身、玉座を暗黒の場所の下に据えたまい、
幽明のハーデースにして、
大地の根を有する、  アケローン
死すべき身の者どもの死の恵みを握る、おお、
エウブゥロス、御身、かつて、— 聖潔もたらすデーメーテールの御子を、
花嫁とせんと、牧野から連れ去って、わたつみを抜け、
四頭立ての馬どもによって、アッティカ地方はエレウシス区の
洞窟に連れ去りたもうた、冥府への門戸のあるところに。
目に見えない所行も目に見える所行も、審判は御身ひとり、
神にして、全能、至聖にして、誉れも輝くかた、
厳かな密儀執行者たちと、神法にかなう敬神者たちを悦ばれるかた。
ご満悦の御身の称名を唱えん、密儀を嘉納して示現したもうよう。


(19)
ゼウス・ケラウノス〔稲妻神ゼウス〕讃歌

   薫き物は蘇合香

父神ゼウスよ、火照る宇宙の至高の走路に禦しつつ、
上天の閃光の至極の輝きを煌めかせつつ、
浄福至極の者たちの御座を、神的な雷光で揺るがせ、
雨もよいの群雲に、燃え上がる稲妻を点火し、
颶風、豪雨、強烈で雷鳴轟かせる嵐をば、
†轟く炎のごとくに投げつけ、矢弾に隠すは、
恐るべき飛び道具、動悸激しさせ、髪の毛も逆立たせ、
思いも寄らぬ、轟き渡る、不敗の清潔な矢弾、
際限なき唸り音あげ、ものみな貪り尽くす突撃、
破砕されることなく、気負い猛なる、手のつけられぬ雷火を吐く、
天降って焼きつくす天来の鋭き矢弾、
これには、大地も、まぶしく煌めく海も、戦き震え、
獣たちも飛んで逃げる、雷鳴が耳に入るときには。
されど、顔は輝きに反射し、窪みの内なる上天の稲妻は
響動する。御身は天来の覆いたる外衣を引き裂いて、
白光放つ稲妻を†投げつけたまう。
いざ、浄福者よ、怒りをば[……]わたつみの波と
山々の頂きに。御身の力は、我らみなの知るところ。
いざ、灌奠を嘉したまいて、定めのすべてを心に授けたまえ、
すなわち、心持ちも冥加な命と、御女神なる健康もろともに、
神的な、若者養う、誉れも輝く平和と、
好意ある思量にいつもあふれる生とを。


(20)
ゼウス・アストラパイオス〔雷光神ゼウス〕讃歌

   薫き物は乳香粉末

わが勧請するは、偉大なる、聖なる、雷鳴轟かす、隠れもない、
大空なる、火を放ち、火の走路駈ける、大気の輝き、
走路を音立てて進む轟きとともに、群雲の煌めきに雷光を放つかた、
身の毛もよだつ、恨みも深い、不動の聖なる神、
雷光放つゼウス、万物の生みの父、最も偉大なる王、
好意もて、生の甘き終わりをもたらしたまいますよう。


(21)
ネポーン〔雲〕たち讃歌

   薫き物は没薬

大空なる雲たちよ、果実を養い、天界をさまよい、
雨を子に持ち、風に乗って世界を走る、
雷鳴轟かせ、火を閃かせ、咆え猛り、水分の小径もつかたがた、
大空の懐に、恐ろしい衝撃を起こし、
吹く風に反対方向に引きずられて、どんどん
今こそ、御身らに請い願わん、 露まとう、微風の風通しよきかたがた、
果実養う雨を、母なる大地に送りたまわんことを。


(22)
タラッサ〔海〕 [048] 讃歌

   薫き物は乳香

オーケアノスの新妻を呼ばわらん、眼(まなこ)煌めくテーテュースを、
か黒いペプロス被(かず)く御女神、甘き息吹の微風に
逆巻く波をたぎらせて、大地に打ちつけるかたを。
岩がちな海岸に大波を打ち砕き、
優しく穏やかな走路に凪いで、
船に歓喜し、獣を養い育て、湿り気の小径持つかた、
げに、キュプリスの母、黒々とした群雲の母、
また、ニュムペーたちの、流れも溢れるあらゆる泉の〔母よ〕、
我に耳傾けたまえ、おお、いとも厳かなるかたよ、そして好意をいだいて力をかしたまえ、
直航する船船に順風を送るために、浄福なかたよ。


(23)
ネーレウス讃歌

   薫き物は没薬

おお、蒼黒く煌めく座にあって、海洋の根を保持するかたよ、
五十人の乙女たち(美しい子らの合唱舞踏隊)に
波間に讃えられる、ネーレウス、威名鳴り響くダイモーンよ、
げに、海洋の底、大地の果て、万物の初め、
御身、デーオーの聖なる深みを掻き乱す方、吹きすさぶ風どもを
隠れ家の奥処に閉じこめたもう時に。
いざ、浄福なかたよ、地震どもは思い止まらせ、秘儀に与る者らには、
幸いと平安と、長閑な健康を送りたまえかし。


(24)
ネーレーイス〔ネーレウスの娘〕たち讃歌

   薫き物は香草

水に棲むネーレウスの、花の蕾にも似た顔の、聖らなるニュムペーたちよ、
† 深みを領し、踊り戯れる、水分の小径を有する、
波間のバッコス信女たち、
トリートーン一行の行列に得意気に付き従い、
わたつみがその身体を養う、獣の姿形して、
やはり深みに棲む他の者らと、トリトーンの館に、
水路を走り〔泳ぎ〕、跳びはね、波間に旋回する、
わたつみ流離うイルカたち、海鳴りの、蒼黒く輝くかたがた。
御身らを勧請せん、密儀に与る者らに数多の冥加を送りたまうよう。
御身らこそ、厳かな秘儀を初めて明かしたかたがたなれば、
厳粛なバッコスと、清潔なペルセポネーとの〔秘儀を〕、
母なるカッリオペーと大男神アポッローンともどもに。


(25)
プローテウス [049] 讃歌

   薫き物は蘇合香

プローテウスを勧請せん、わたつみの鍵持つかた、
初めに生まれ、全自然の初めをば、聖なる質料を
多形の諸形相に替えて、示したかた、
まことに誉れある、謀にとむ、現にある事どもも、
かつてありし事どもも、これからまたあるであろう事どもも知れるかた。
何となれば、 みずから万物を有し、不死なるかたがたの他の何ものも
変えることはないゆえ、雪いただくオリュムポスに座を有し、
わたつみと大地と大空にあるものらが渇仰する〔不死なるかたがたの〕。
何となれば、ピュシス〔自然〕が最初に†万物を†プローテウスに納めたゆえに。
いざ、父よ、神法にかなうはからいもて、密儀執り行う者らに示現したまえ、
冥加に余る生のしあわせな終焉を勤行に送りたまいて。


(26)
ゲー〔大地〕 [050] 讃歌

   薫き物は、空豆と香草とを除くあらゆる種子

神さびたるガイアよ、死すべき身の人間どもと浄福な〔神々〕との母よ、
なべてのものを育み、万物を与え、よろずのものを実らせ、なべてのものを滅ぼしたもう、
生長を扶け、果実をもたらし、美しき季節に溢れ、
不死なる宇宙の礎、多種多彩な乙女、
御身、安産の陣痛によって多種の果実を孕み、
永遠の、畏れ多い、懐深い、冥加授ける霊よ、
甘き風に花咲き乱れる草原を悦ぶダイモーン、
雨を悦び、御身のまわりに、技巧に優れた星辰の世界は、
久遠なる自然と恐るべき流れに引かれる。
いざ、浄福なる女神よ、愉しみ豊かな果実を生長させたまえ、
好意ある心もて、†冥加な季節と†ともに。


(27)
神々の母讃歌

   多彩な薫き物

不死なる神々の、誉れも神さびた母、万物の養母よ、
示現し
牡牛殺しの獅子どもの牽く疾走する戦車を仕立てて、
名にし負う極星の笏 [051] 執る、名号数多なる、厳かなかた、
御身、宇宙の中央なる玉座占めるかた、御身みずからが
大地を保持したもう所以は、死すべき身の者らに親切な養いを提供するため。
されば、御身から不死なる者らと死すべき身の者らとの種族は誕生し、
河川と、ありとある海はいつも御身に服し、
ヘスティアと呼称されている。また〔人びとは〕御身を冥加授けるかたと呼び、
死すべき身の者どもに、ありとあらゆる善きものら贈り物を恵まれるからである、
秘儀に来たりませ、おお、女神様、太鼓を悦び、
万物見行(みそなわ)す、プリュギアの女神、救い主、クロノスの同衾者、
ウゥラノスの娘御、高齢の婦人、いのち育むかた、狂乱好きのかた。
来たりませ、喜びいさみ、敬虔な勤行に満悦したもうて。


(28)
ヘルメース [052] 讃歌

   薫き物は乳香

我に耳傾けたまえ、ヘルメイア、ゼウスの使者、マイアの息子よ、
すべてを負かす肝っ玉を持ち、策略に長け、伝令師にしてアルゴスの殺し手、
翼のサンダルを履き、人間愛の持ち主、死すべき者らにとっての言葉の預言者、
競技を、企みと欺瞞を悦ぶ、生の援助者、
万事の解釈者、競技の主催者、憂いを追い払うかた、
平和の瑕疵なき武器を手に持つかた、
コーリュキュスにます、浄福なる、お助け神、物語り沢なるかた、
功業の助っ人、死すべき必然にある者らにとっての友、
人間どもにとって尊き、舌の恐るべき武器。
我が祈りに耳傾けたまえ、人生のしあわせな終焉を〔我が〕行為に
付与したまえ、言葉の恵みと記憶とによって。


(29)
ペルセポネーへの讃歌

   薫き物は乳香

ペルセポネーよ、偉大なゼウスの娘御、来たりませ、浄福なかたよ、
ひとり娘なる [053] 女神よ、嘉納される供儀を受けるために、
プルートーンの尊い伴侶、高貴なかた、命を与えるかた、
御身、大地の奧処にハーデースの門をおさる、
プラークシディケー〔正義を執行する女神〕、美豆良も慕わしい、デーオーの聖潔な若枝、
エウメニスたちの生みの女親、地下界の女王、
ゼウスが秘密の精子で子づくりしたもうた乙女、
雷鳴り轟かせる変化自在のエウブゥレウスの母御、
ホーラたちの父を同じくする姉妹、光をもたらす、姿も輝くかた、
厳かな、万物の覇権を握る、果実をあふれさせる乙女、
光り輝き、有角にして、ひとり死すべき身の者らに渇望されるかた、
春の女神、草原のそよ風に歓喜し、
聖なる人像を枝なる緑の果実に現せたもう、
子を拐かされた秋の新床に嫁入りしたまい [054]
辛労多き死すべき身の者らにとって、生と死は御身ひとりのものです、
ペルセポネーよ。何となれば、御身はいつも万物を養い育て、かつ、殺される [055] のですから。
耳傾けたまえ、浄福なる女神よ、そして大地より果実を送り届けたまえ、
繁栄させたまえ、平和と、癒しの手もつ健康と、冥加に余る生 —
つややかな老齢を、御身と、御女神よ、力あるプルートーンとの領土へと降らせたもう〔冥加に余る生〕でもって。


(30)
ディオニューソス [056] 讃歌

   薫き物は蘇合香

我が勧請するはディオニューソス、咆哮し、エウアイの声挙げる方、
初めに生まれ、男女両性、三度生まれ、バッコス祭の主、
田舎者、口外すべからざる、隠秘の、二本角、二形相の神、
キヅタ豊かな、牡牛の顔した、アレースの伴、エウ・ホイの神[057] 、聖なる、
生肉喰い、三年ごとの神、葡萄の実つける、枝葉に包まれた神。
良き忠告者、謀にとむかた、ゼウスとペルセポネーとの、
口外すべからざる婚礼の寝台において子づくりされた、不死なるダイモーンよ。
声に耳傾けたまえ、浄福者よ、そして害なき快を吹き送りたまえ、
好意の心をもって、帯よろしき養母たちとともに。


(31)
クーレースたちへの讃歌

   薫き物は乳香

跳ね人( skirththvV)たるクーレースたち、出陣用律動の歩調を定め、
歩調を踏み、唸り独楽のように旋回し、山棲みの、エウ・ハイの叫び声を上げる者たち、
竪琴を弾じ、律動もよろしく、歩みつづける、足跡も軽く、
武具まとうもの、番人、統領、輝く声望、
山を渉猟する母の道連れ、狂宴の導師たち。
来たりませ、言祝ぎに好意を持って、
いつも喜ばしき心持ちで牛飼いに出会うため。


(32)
アテーナー [059] 讃歌

   薫き物は乳香

自生者パッラース、大いなるゼウスの厳かなる御息女、
神々しく、浄福なる女神にして、戦塵巻き上げ、気負い猛、
謳われることなく、謳われ、威名鳴り響く、 洞穴暮らしのかた、
御身の差配したもうは、項(うなじ)高き山の背と、
鬱蒼と木の間暗き山々、そして渓谷も御身の心を愉しませ、
武具好き、はかなき者らの魂を狂気に狂い悶えさせるかた、
鍛錬する乙女、戦慄させる気象をもち、
ゴルゴー殺し、婚礼の新床を厭う、諸術知の冥加に余る母、
衝動をうえつけ、悪人らには詮索好き、善人らには気遣い。
げに、男・女として生まれ、 戦争好き、賢女、
千変万化の、雌ドラコーン[060] 、神来状態を愛する、誉れも輝くかた、
プレグライの野のギガースたち [061] の殺戮者、馬を禦するかた、
トリートゲネイア、諸悪から解放し、勝利もたらすダイモーン、
昼も夜も、
我が祈りに耳傾けたまえ、そして冥加に余る平和と、僥倖と、そしてまた健康を、
†冥利の†季節に加えて、授けたまえ、
燦めく眼した、術知の発明者、祈願者数多なる女王よ。


(33)
ニーケー〔勝利〕讃歌

   薫き物は〔乳香の〕粉末

力あるニーケーを呼ばわらん、死すべき身の者らに渇望され、
御身のみが、死すべき身の者らの、面突き合わせた勝負において、
競い合いの衝動と苦痛に満ちた争乱とから解放し、
諸々の戦闘において、勲功を判定したもうのは御身、
吶喊のあと、甘美このうえない祈願をもたらすところの〔勲功〕を。
何となれば、万事を制覇するは御身にして、ありとある争いのしあわせな褒賞、
祝祭に溢れる褒賞は、ニーケーの誉れにあるゆえ。
いざ、浄福なかたよ、来たりませ、照り輝く眼を渇望されつつ、
誉れある業にしあわせな褒賞をいつも連れて。


(34)
アポッローン讃歌

   薫き物は〔乳香の〕粉末

来たりませ、浄福なかた、パイアーン、ティテュオス殺し、ポイボス、リュコーレイアにます男神、
メムピスにます男神、誉れも輝く、イエー・パイアーンの喚声挙げ、冥加授けるかた、
黄金の竪琴もつ、種子の主宰者、農業神、ピュートーに坐す、ティーターン、
グリュネイオンに坐す [062] 、スミンテウスなる、ピュートー殺し [063] の、デルポイに坐す、占い師、
粗暴な、光をもたらすダイモーン、慕わしい、栄えある青年、
†ムーサたちの指揮者、合唱舞踏の司、遠矢射たもう、弓射るかた、
ブランコスの〔〕にしてディデュマに坐す、†遠矢の御神、ロクシア、聖らなるかた、
デーロスの御男神
黄金の髪、清浄な声で預言を言い放つかたよ。
民のため、晴朗な気分もて、我が祈りに耳傾けたまえ。
何となれば、御身はこの際涯もない大気すべてを眺望し、
しかし冥加授ける大地は、上方から〔夜の〕薄明を通して〔眺望し〕 [064]
夜の静けさのうち、星の眼もつ暗がりのもとに、
〔大地の〕下方の根を見そなわし、かくてまた全宇宙の果てを
保たれる。始まるも終わるも御身次第、
万物を花咲かせ、御身はすべての極点を多音の竪琴に
調和させたもう [065] 、高音のときは頂点にのぼりつめ、
逆に低音の時には、ドーリス調へと、
すべての極点を調律して、万物の命育む部族を分別したまい、
人間どもにとっての全宇宙的分け前を調和的に混成し、
冬と夏とを、両方ともに等しく混ぜ合わせ、
低音には冬を、高音には夏を割り当て、いとも慕わしい春の花咲く季節にはドーリス調を〔割り当てたもうた〕 [066]
はかなき者らが大男神として勧請する御身をば、パーン、
有角の御神、風の葦笛吹き送るかた [067] と呼ぶ所以は、
全宇宙の印章の指輪 [068] を持っておられるからです。
耳傾けたまえ、浄福なかたよ、嘆願の声に応えて、秘儀に与る者たちを救うため。


(35)
レートー [069] 讃歌

   薫き物は没薬


か黒いペプロス被(かず)くレートー、双子をもうけし、厳かな女神、
コイナンティス、意気盛んな、祈願者数多なる女王、
ゼウスの多産の陣痛を
ポイボスと、アルテミス
前者はオルテュギエーで、後者はデーロスで
聞こし召せ、神々しき大女神さま、そうして御満悦の心持ち、
甘き結果をもたらすため、万神の秘儀に登場したまえ。


(36)
アルテミス讃歌

   薫き物は〔乳香の〕粉末

我に耳傾けたまえ、おお、女王、ゼウスの名号数多なる乙女よ、
女ティーターン、ブロミオスを祀るかた、威名鳴り響く、射手、厳かなるかた、
遍照するかた、松明携える女神、ディクテュンナ〔「猟網」の女神〕、安産の女神、
陣痛を防ぐかたにして、陣痛の秘儀には与れぬかた、
労苦を解き放ち、探究好き、女猟師、憂いを追い払うかた、
俊足、矢を射る女神、田舎好き、猟好き、夜のさすらい人、
オルテイアの、速やかな安産の[070] 、はかなき者らの若者養うダイモーン、
はかなからざる、地の女神、獣殺し、冥加授ける女神、
御身、 山々の走路を掌握したもう、鹿射る、厳かなるかた、
御女神、女王中の女王、美しき若枝、永遠なるかた、
樹木を心にかけ、仔犬の守り神、キュドーニアに坐す、千変万化の方よ。
来たりませ、神さびた救い主、愛しいかたよ、密儀に与るありとある者たちに、
花盛りのかたとして、大地から美しき果実たちと、
慕わしい平和と、美豆良も美しい健康とを伴いて。
されど、病と苦痛は山々の頭に送りやりたまえ。57


(37)
ティーターンたち讃歌

   薫き物は乳香

ティーターンたち、ガイアとウゥラノスとの輝ける生子たち、
我らの父祖の先祖、大地の下、
地界の内奥なるタルタロス [071] の館に住まいする方々、
辛労多き死すべき身の者らと、海棲のものら、有翼ものら、
地上に棲む者らの初めにして源 [072]
というのは、御身らからありとある生成はこの世にやって来たのですからから。
御身らを勧請せん、気難しい怒りを防除したまわんことを、
地界の先祖たちの何者かが、〔ダレの?〕館に攻めかかるなら。


(38)
クーレースたち [073] 讃歌

   薫き物は乳香

青銅を鍛造するクーレースたち、アレースの武具を我がものとして持ち、
天に、地に、海中にあって、冥加に余るかたがた、
生き物生む息吹、宇宙の輝かしき救い主たち、
サモトラケーなる、聖なる大地に住持し、
海洋さすらう死すべき身の者らの危難を厄払いするかたがた。
御身らはまた秘儀をも人びとに初めて定めたもうた、
不死なるクーレースたち、アレースの武具を我がものとして持つかたがたよ。
オーケアノスを養い、汐海を養い、樹林をも同様にする。
大地に到来して、鹿の足もとに恐ろしい響きをあげたもう、
武具に火花を散らして。して、〔御身らの〕突進に、獣どもはみな
恐れ戦き、騒ぎと叫声は天まで達し、
到来者たちの円舞に、足もとの砂塵は、
群雲に届く。この時にこそ、花もみな満開の時。
不死なるダイモーンたちよ、養い育てるものと同時にまた破壊者たち、
人間どもに憤慨し突進するときにこそ、
生命と財産と、そしてまた彼らそのものをも滅ぼし、
†……深く渦巻く大いなるわたつみは呻き、
梢高くかかげる樹木は根こそぎに地に倒れ、
木々の葉のざわめきに、木魂は天に反響する。
クーレース・コリュバースたち、いとも有力な大神々にして、
サモトラケーなる御神々、してまたまことのディオスクーロスたち、
久遠の息吹、魂を養い育てる、上天の気のごときかたがた、
御身らこそ、オリュムポスにおける天界の双子 [074] と呼ばれる方々にして、
風通しよく、穏やかな、救い主にして親切なかたがた、
季節を養い、果実を実らせ、息吹を吹きこみたまえ、御男神たちよ。


(39)
コリュバース [075] 讃歌

   薫き物は乳香

我が勧請するは、久遠の大地の最大の王、
善福の霊に守られたコリュバース、アレースの伴、直視もできぬかた、
夜のクーレースにして、身の毛もよだつ恐怖の抑止者、
諸々の幻視からの助成者、荒野をさまようコリュバースよ、
千変万化の御男神、神性二重にして、変幻自在のかた、
二人の血を分けた兄弟に殺された血塗られたかた、
御身、デーオーの意思により、聖なる体つきを、
か黒い大蛇の獣の形に変えたもうたかたよ。
浄福者よ、〔われらの〕声々に耳傾けたまえ、そして、気むずかしい瞋恚を防除したまえ、
諸々の幻視を、諸々の必然に怯える魂から停止させて。


(40)
エレウシスに坐すデーメーテール讃歌

   薫き物は蘇合香

デーオー、母の中の母たる女神、名号数多なるダイモーン、
厳かなるデーメーテール、若者を養い育てる、冥加を授けるかた、
富を授ける御女神 [076] 、穀物の穂の養育者、あらゆるものの授け手よ、
平和と、辛労多き仕事とを歓び、
種子の主宰者、刈り入れの与え手、打穀場の女神、緑の果実をもたらすかた、
御身、エレウシスの聖らなる渓に住まいするかた、
奥床しくも、慕わしいかた、ありとある死すべき身の者らを養う女親、
牛たちの牽く鋤に初めて軛をかけ、
そして、はかなき身の者らに冥加に余る生を送る奥床しいかた、
生長を促し、ブロミオスの連れ、誉れも輝くかた、
松明かかげ、聖らなる、夏の収穫の鎌に歓喜するかた。
御身は大地の女神、御身は顕現した女神、御身は万人に親切なかた。
轡をつけた大蛇牽く戦車を駆り立てつつ、
御身の玉座のまわりを旋回しつつエウアイの声を挙げる、
独生者、多産の女神、死すべき身の者らに
その形姿は数多く、花咲き乱れ、聖らに咲きほこるかた。
来たりませ、浄福な、聖潔なる、夏の果実もたわわなるかた、
平和と、慕わしい秩序と、冥加に余る富とを、
もちろん女主人なる健康もろともに、降ろしたまいて。

2016.12.11.  一応、訳了。

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