title.gifBarbaroi!
back.gif神統記 断片集

オルペウス作品集

鉱石誌



[底本]
TLG 0579 ORPHICA
011
Lithica
Hexametr., Nat. Hist.
R. Halleux and J. Schamp, Les lapidaires grecs. Paris: Les Belles Lettres, 1985: 82-123.

[邦訳]
小林晶子「『リティカ』—解説と全訳—」(『明治薬科大学研究紀要』通号21、1991)



t

鉱石誌(LIQIKA)

厄除けゼウスの、死すべき者らに賜物を授けよとの
命により、マイアーの息子、お助け神〔ヘルメース〕が運んで来たのは、
われらが悲惨さからの確かな加護を得られるためである。
はかなき者らをして喜んで受け取らしめよ — 聡き者らにわれは告げん、
善き心持ち、不死なる者らに聴きしたがう者らにこそ —。
小童どもには、紛うなき優位を見出す定法なし。
その同じ賜物ゆえにかつても崇められた者たちを、
つまり、レートーの息子〔アポッローン〕は、〔自分の〕息子〔アスクレーピオス〕をば、死すべき者らの癒し手として、不死なる者らのために
雪を頂くオリュムポスへ伴い行き、そしてまた、慎み深い
パッラス・アテーナーが、民を奮いたたせるヘーラクレースを〔伴い行った〕。
さらにまたクロノスの子ケイローンも、久方の天空超えて、オリュムポスへと急ぎ
昇った、不死なる賜物を聞き知ったからである。
もちろん、かの非の打ちどころのなきゼウスの館は
喜んで彼らを迎え入れた、神の血筋を引く者らの中でも、とりわけ最善な者らを。
われわれには、黄金の杖をもつかた〔へルメース〕がお命じになる、大地の上で幸いを
悦び、性悪の試練を受けずに生きるようにと。
ヘルメースは人間たちのなかの賢い心に命じた。 自分のすばらしい洞窟の中へ入るように。
そこにはあらゆる種類の良いものがたくさん置かれていた。
己へ)~メスは命じた。すぐに、両手にたくさんのよいものを持って涙に満ちた苦難を避けて、家に帰るようにと。
そう?,1ばその人間は、家においては力を弱らせる病気に打ち負かされることもなく、、九では)敵意ある者の恐るべき暴力に怯えることもなく、
喜.ましい勝利をあとに残して帰るだろう。
ご主て号、;まこり舞う競技場へ格闘家として立っとき、
闘L、を挑む気になる者はいないだろう。
たとえ青銅の手足や不屈の力を持った男が、栄冠を求めて戦いにきていたとしても。
山に住む獣にとっては、その人聞を
恐ろしいライオンにし、人々にとっては神にも似た者としよう。
ゼウスに愛された王たちにも、
異国の人々たちの聞でも、易々と尊敬される名誉を私は彼に与えよう。はつらつとした青年たちは、
永遠に、彼らの愛らしい手で抱きしめようとするだろう。
やさしい乙女は、黄金の寝所へいつも彼を引き寄せるだろう。
飽くことのない愛を求めて。
彼が祈りを鋒げるときには、神々の耳もとにその祈りが届けられるだろう。海の嵐に悩まされることもなく、
波に足を濡らすこともなく、彼は肥沃な大地へ踏み入るであろう。
荒々しい海賊たちさえ、たった一人の彼を避けて逃げ、
奴隷たちは彼を自分たちの父とみなし、
崇拝し、自分たちの主人の館に満足するだろう。
彼がもし知ろうとするなら、知ることができるだろう。人々が心の中で企んだすべての秘密を、
空を飛ぶ鳥たちが仲間のあいだでさえずるすべてのことを。
人間たちには理解できない歌を口ずさみ、
偉大なるゼウスのすばやい語り手である鳥たちがさえずることを。彼はまた、地面を遣う蛇のぶきみな音を止める術も、
忍び寄る蛇の毒を消す術も知るであろう。
50私は彼に、月の怒りにふれた人聞を救い、
象皮の病を患う者を救うようにさせよう。また、もし死者の魂が暗し、ハデス固から やってきて、誰かに近っこうとするならば、これを追い払わせよう。そのほかさらに、策略に長けたへルメスが運び込んでおいた
数限りない贈り物が洞窟の中に置かれている。
すばやくどんなことでも成し遂げる、不死なる本当の贈り物が。その贈り物に辿り着いた人は、半神(英雄)にして幸いなる人。@
人々を鼓舞するアルゴスの殺害者(へルメス)は、これらの贈り物を
人間たちに知らせるようにと私に命じた。蜜のようい甘い
歌声で心から歌うようにと促しながら。
しかし、死すべき人間たちには節制を心掛けようとする思いさえ全くない。
そして突然、輝かしい知恵よ、あなたをさげすむようになる。英雄の母親たる美徳に耳を貸すこともなく、
いちもくさんに逃げてし、く。労苦は救い主であるのに、
人生の助けとなる労苦をひどく忌み嫌う。
彼らの家の中では、至福が支配者となって彼らと交わることもなく、誰も不死なる神々と話をする術を知らない。
彼らは良き知恵を町や村から追い出してしまった一一一
ああ、あわれな者たちよ一一へルメスに不敬をはたらきながら。
昔の半神たちが骨折ってした仕事が無に帰してしまった。
へルメスは今やあらゆる人にとって、やっかいで憎むべき者となった。@
そこで人々は彼にマゴスというあだ名をつけた。
それゆえ、かの神のごとき人間は、剣で首をはねられ、
みじめな死に方をして、土の中に積たわっている。
神の知恵欠く人間どもは、獣に似て無知で無学。
人を滅ぼす禍から、
神の助けで逃れることもなく、わざ
実に讃嘆すべき神の業をも知らぬ。
それどころか、彼の心には暗雲がまといっき、
栄冠に満ちた徳の
花咲く牧場へ行くことを拒む。
しかし私は約束しよう。信ずる者には私の宝を授けることを。山のような黄金よりも、はるかにすばらしい私の宝を。
私が探しているのは心強き人、
何事にも熱心に取り組み、労苦をいとわぬ人、
学ぶ人、知識を探究する人。
なぜなら、労苦を惜しまぬならば、クロノスの息子、千里眼の神(ゼウス〉は、言葉にも業にも、必ずや大いなる力を授けるのだから。
あの若馬たちも、きらめくアイテールの中を西へと向かつて90戦車に乗せた輝く太陽を、息を弾ませ運んでいるのだから。

91t

[主題]

私は、分別のある人聞の励ましの言葉を聞くことのほうに、
万人の支配者たる黄金を得るよりも、もっと満足するであろう。
というのも、へリオスに捧げるための犠牲を連れていた私は、@
田舎から町へやってきた大変思慮、深いテイオダマスに出会った。
そして私は、彼の手を手にとって、次のように言葉で話しかけた。
「もしどうしても行く必要がさしせまっているのでないならば、友よ、町へは明日容易に行くことができょう。
今まさに神御自身が、饗宴に向かう私にあなたが出会うよう
取り計られたのだ。それゆえ、どうか私と一緒に行くことに同意してほしい。
犠牲が聖なる儀式にふさわしいものとなるためには、
善良な人聞が俸げることだ。不死なる神々の御心は好意的なものとなり、
喜びに満ちるだろう、最もよい人々が歌や踊りを神々のために催すときにはいつも。
だが、私は遠くまで連れていくつもりはなし、。というのは、あなたがご覧のとおり、私はわれわれの村の峰へ行こうとしているところなのだから。
昔、若かった頃私はあそこへ一人で畳りに行った、
すばやい二匹のヤマウズラが逃げていくのを追し、かけながら。
鳥たちは、たしかに名前を呼ばれると、その聞はとまったままでじっとしていたが、
手が差し出されるのに注意していて、
手で摘まえる寸前に逃げ去った。
しかし、私はまるで顔からつっこむようにして飛びかかつては さらに再び地面から跳びおきて、鳥たちを追いつめた。
ところが、頂上に追いつめられて、そのてっぺんにきたときに、鳥たちは、そこで突然けたたましい叫ぴ声をあげ、
投槍よりも速く、矢のように、
高く葉をつけたカシの木へと急いだ。飛びかかろうとしている恐ろしい蛇を予見して。
蛇は、死に満ちた顎を広げていた。
一方私は、飛びかかろうとしている敵に近づいたが、それに気がつかなかった。私の眼は鳥を追い求めていた。
まさに、その恐ろしい首が地面から持ちあがったのに気がつくまで、
そして、今にも食り食おうと'欲する姿に気づくまで。
もしそこで、ある人が、急いでその場を去ろうとする私を見たならば、私が、疾風のように速いヤマウズラを追L、かけてきたとも
幼い足で支えられていたとも思わないであろう。
というのも、恐怖が私に、翼を広げた鷲になれ、風の疾風となれ
と命じたからである。なにしろ、その悪しきものは、私の足元lこし、た。
蛇は衣服の端の先に何度も達した。
そして、この途方もなく恐ろしい獣は、大きく口をあけて私を飲み込んだかもしれない。
もし私の心が私自身に、急いで‘祭壇の上へ飛び乗るよう駆り立てなければ。
その祭壇とは、昔の人々が、人間に光を与えるへリオス神のために奉納したものだ。
さあ、すると、その上に乾いたオリーブの技の棒きれが残されていた。
その伎は、食欲な火が泊されたあとに残したものであった。私はその技をつかむと、災いをもたらす蛇の正面に、
向き直った。すると、山をすみかとしている蛇のおそろしい力が、
立ち向かおうとする私を見て、戦おうと猛り狂い、しっかりととぐろをまいた。
長い背中を丸く曲げながら、しっかりとまきついて、 さらに重なりあって、曲げた体は輸になった。
再び蛇は、祭壇の上に首を持ち上げた。
私の絶叫する声よりもずっと大きくシュウシュウと音を立てながら。私は野獣の不死身の頭を、右から左からなぐりつけて、
焦げてもろくなっていた木の技を折ってしまった。
だが、私は、血に飢えた野獣の餌食になる運命にはなかった。それゆえ、速くで草をはむ山羊の群れを追し、かけていた
私の父の二匹の犬たちが、叫んでいる私に気づいて
駆けてきた。というのも、私は犬たちをよく世話していた。
やがて犬たちは吠えながら駆けつけてきた。その後、蛇はすぐに
犬たちのいるほうへ向かったので、私は地面へ(降りると)まっしくらに走り出し、そして、野兎が、ゼウスに仕える鈎爪をもった鷲から逃れて
茂った薮の中に隠れたように、
同じように山羊たちに混じって、子山羊たちの真ん中に入り、
うずくまるようにして凶暴な野獣から身を隠した。
それゆえ、誠実な私の父は生きている限り、
いつも、私を救ってくれた祭壇のところへ子牛を連れていった。
へリオスに、自分の子供を救ってもらったお礼をするために。そしてさらに、死の運命が父をこの世から連れ去った後には、
私自身が春になると、牛の群れの中から
若い母牛の胸で育った、太った子牛を駆り立てながら、山の峰へと行く。楽しげに歌い踊る仲間たちを連れて。
彼らと一緒に、自ら蛇を倒したこの二匹の犬もやってくる。神の祭壇のまわりには、甘い喜びがあり、
黄色い土の上には、柔らかな草がはえ、
葉の繁る検の木の下には、木陰がある。さらに、それらの近くには、滑らかな岩の下に、尽きることのない澄んだ水が
ほとばしり、歌姫のように音をたてている。
さあ行こう。神々の饗宴の拒んではいけない。J
このように私は語った。すると、その神のごとき人は、私に次のように語りかけた。
「全く本当に、我々に光を授けるへリオスは、いつでもあなたを痛ましい禍から連れ出して、涙を知らぬ至福の
大いなる賜物へと導いてくださる。神御自身の慈悲深さゆえに。
でも私は、あなたにお返しをせずにすまそうなどとは決して思わなL、。
それどころか、あなたは犠牲を俸げに山に登るところなのだから、 あなたの祈りを神が聞き入れてくださるように、お返しをしよう。

172t

[水晶(kruvstalloV)]

透明に輝く水晶石を手に取れ、
火と燃える不老不死なる陽光の流出を。
不死なるものらの不滅の心は、火を大いに喜ぶ。
もしもこれを手に持ってそなたが神殿に行くなら、
げに浄福なる者らのうち何びとも祈りを拒む者なからん。
されば聞け、煌めく石の効能を学ぶために。
例えば、燃えさかる火がないときに、炎を起こしたければ、
乾いた薪の上にこれをかざすよう勧める。
それから、これをば太陽が反対から照らすなら、
たちまち薪の上に光線を小さく集中させるであろう。
しかしこれは、乾燥した太い木材に触れると、
煙を、次いでは小さな火を、そして大きな炎を
起こすだろう。されば、古の代の人々は、これを聖なる火と謂いならわしてきた。
私としては、別のではなくて、むしろこの炎を選びたい、
不死なるものらにかくも喜ばれる腿肉を焼くには。
かてて加えて次のことも、友よ、大いなる驚異として宣明しよう。
まさに炎の原因となった当のものを、いと速やかに
火から取り出すならば、触っても冷たくなっているのだ。
なおまた腎臓のあたりに結びつけられると、病人を救うだろう。

191t

[ガラクティテース]

第二に、祈る者に加護を与える石をそなたの供としよう、
神法にかなえる乳に満ちた石、初めて子を産んだ若妻や、
メーメー鳴く多産の雌山羊の乳房のように。
はたせるかな、古の代の人々はこれを不壊のアナクティテースと
呼んだ、浄福なるものたちの心を曲げ、かくして
供犠に遠慮して、地上の者たちを憐れんでくださるからである。
されば、ある人々は、この石を忘却の石と謂いあらわした、その所以は、いつも、
痛ましい禍いの記憶を、死すべき者らと神々に
妨げるゆえに。この石は、心を慈悲深くするよう魔法をかける。
心がやさしいことを考えるように駆り立てることによって。
また他の人々は、ガラクティスと呼ぶほうが良いと考えた。この石を擦り潰すならば、
白い乳と全く同じ液が、中から流れ出るゆえに。
もしお望みとあらは、あなたもこのことを試してみることができる。
雌山羊たちの乳房がしほんだのを見たとき、
いとしい息子よ、あなたはどうしますか。
かつてあなたが恐ろしい野獣から逃れて助けを求めた子山羊たちが苦しんでいるのを
救うときには。小匡の中のやせた子山羊たちは、あなたの回りで、悲しい声で泣くだろう。
そんなときには、悲しむ母山羊たちを、すぐに 泉の暗い渦の中で洗うことを命じなさい。
そして、昇る太陽の真向かいに立ってから
すべての雌山羊のところへ行って、清めなさい。
そして、混j酉器の中に塩水とこの石の細かい粉を注いで、
羊や山羊の群れの中を通って行きなさい。
実のなったオリーブの技で、各々の毛深い背中にそれを降り注ぎながら。すると、突然すべての雌山羊は元気になって、小屋の回りで
乳を与えようとする子山羊たちを求めて列をなす。
乳房の下で満たされた若い元気な子山羊たちは、
再び、跳ねることを取り戻す。
甘い蜜j酉に溶かしたこの石を
あなたの若妻に欽ませなさい。幼い息子を尽きることのない乳房で酔わせるために。 この石を、子供の首の回りに掛ける乳母は、
禍いをもたらすメガイラのまなざしを防ぐだろう。
さらには、秀でた王たちも、人間たちの数知れぬ種族も、この石を手に持つあなたを畏れるだろう。
ことに不死なる神々は、あなたの心のままに、
あなたの祈りを聞き入れ、すべてを成就なさるだろう。

四色に光る石エウペタロス(eujpevtaloV)を持つ者たちでさえも、
屠られた百頭牛祭の祭壇の前では祈らねばならない。

132t

[アカテース]

もしあなたが、木模様の石のかけらを手に持っているならば、
いつでも御臨在される神々の御心は、喜びに満ちるであろう。
あなたはたくさんの樹木を目にするであろう。まるで庭にいるかのように。
そこには花が咲き、木々は技中に葉を茂らせる。
それゆえ人々は、「木のアカテスjと
名をつけた。その石はアカテスのようでもあり、棄の茂った木々の姿にも見えるから。
あなたの牛が畑を緋すときに、その石を
二本の角のあいだに付けなさい。あるいは強靭で、 緋す疲れを知らない農夫の肩のまわりに付けなさい。
すると天空から、麦穂、の髪のデメテルが
実りを十分につけた胸をもって、畑のうねに降りて来るだろう。

244t

[鹿の角について]

さあ、ご覧なさい。そして鹿のすばらしい角をもって不死なる神々のもとへ
245赴きなさい。というのも、天にまします神々の御心は、 自然の精巧な技をご覧になると微笑まれるからだ。
たしかにそれは角である。のびやかな足の鹿の頭から生えた角である。しかし、(鹿の)額は決して石を生み出すことはない。
いずれにしても、堅い石が角になるのである。
あなたは、それが本当の角なのか石なのかわからないであろう。
触ってみてはじめて、まぎれもない石であることがわかる。
それは、いつもあなたの頭にふさふさとした髪をもたらすであろう。
あなたの頭がとんなにはげていても。これをオリーブ油に入れて擦り潰し、毎日あなたのこめかみに塗るようにすれば、
頭のてっぺんに、すぐにもあっい髪の毛が盛んに生える。
花嫁を寝所に連れていく若者は、
愛の喜びの証としてこの石を持っていくとよし、。これは二人を一緒に、老いて死ぬまで
そしてとんなときにも、永遠に一心同体にしてくれる。

野生の牛の牧者、よろいを身にまとったゼウスの、
木蔦の衣を着た息子(ディオニュソス=葡萄〉のために、望みを叶えてくれるその石は、
外国からもたらされると私は伝えよう。シリアに源を発する披音響く
エウフラテス河の流れにザミランピスは洗われている。
葡萄のために犠牲を俸げるあなたのために、
その石は、すぐにあなたの葡萄畑を実につけた枝で、覆われるようにし、
いくらでも葡萄酒用の汁をしぼりとることができるであろう。

(267t)

[イアスピス]

よく磨かれた、春の緑のようなイアスピスを
誰かが犠牲に捧げるために携えてくると、至福なる神々の御心は癒される。
神々は乾いた畑を雨で満たすであろう。
この石は、干からぴた畑に大雨を恵んでくれるのである。

リュクニスよ、おまえはわれわれの畑から、激しく降る災いを、
畑に一群となって押し寄せる災いをとおざけてくれる。
なぜなら不死なる神々の御心が、おまえをいとしく想っているからである。それゆえ水晶のように、祭壇から火もないのに炎を昇らせる。
おまえの中には相反する力が宿っている。たしかに、火が 水を満たした釜の腹を取り囲んでも、
釜の水は、火がいくら盛んに燃えていても、冷たいままである。反対に、釜を冷たい灰の中に置いておくと、
頑丈な青銅の中の水は沸勝して沸き立つ。

(280t)

[トパジオス]

280これらの石に加えて、高貴でガラスのように透明なものは、
犠牲を捧げる人々のあいだで、トパゾスと呼ばれている。

(282t)

[オパッリオス]

わたしがたしかに謂えるのは、オパッリオスも、きらめき、魅力的な子のぽっちゃりした色したのは、
天界の女神たちを喜ばせるということ。
それはまた、眼にも助力者たることを狙っているということ。

そうして松の涙〔松脂〕に、オプシアーノス石〔黒曜石〕(livqoV ojyianoV)の 威力と
芳香のある没薬と、白銀の麟のように輝くレピドートス(lepidwtovV)を混ぜるよう命じよう。
実際、それらをひとたび火の上から撒いた者に、
不死なる神々は、未来の善事や悲惨事の神託を
与えるであろう。また、そなたが望んでいたことを知るであろう。
レピドートスは神経の受苦を防ぐ。

エーエリオスの黄金の毛髪〔をもつ〕双つの鉱石こそは、
どちらも神々しい。たしかに、目にする者にとっての驚嘆である。
どちら〔の鉱石〕にも純正の光線が植えこまれていて、
まっすぐに、輝き出ている。毛髪のように見えることこそが、
他の鉱石〔とは違う〕それらの形相である。一方をば、
白い水晶とそなたは考えたであろう、もしも中に毛髪を持っていなければ、
水晶でありえた。もう一方は、外観はクリュソリトス〔黄王〕に
似てみえる。もし毛髪さえもっていなければ、
クリュソリトスでありえたろう。どちらもすぐれものだとわたしは謂おう。
というのは、それらに大いなる息吹を吹きこんだものこそ、生命を育む
エーエリオス、人間をすぐにも誉れも高いもの、
見た目にも厳かなるものたらしめんと。その尊さたるや確かであろう。
というのは、突如、英雄たちの輝かしい姿が彼らに現れて、
彼らは神の賜物をうまく運用するであろうから。

(306t)

[マグネーティス]

勇気をもって不死なる神々をすわ7の石によってなだめるようにせよ。
乱暴な軍神アレスは、とりわけこの石を好んだ。
(その石が〉光り輝く鉄に近づくと、乳白色の肌をした乙女がその腕で
若者を愛らしい胸に抱擁するときのように、
マグネティスは、好戦的な鉄を自分のほうに引きつけてもはやそれを放そうとしない。
いかにも、この石はへリオスの娘(キルケ)のしもべとも言われる。
それは魔法をかけるからである。
アイエテスの娘、自分の子供を殺した倣慢な女、
投智にたけた女メディアもこれを称えた。だが私としては
あなたに次のことを確かめるようすすめよう。
あなたの妻の寝所と身体が、ほかの男から貞潔に守られているかどうかを。その石を持っていき、こっそりと寝所の下に置きなさい。
死すべき者を魅了する歌をやさしく口ずさみながら。
あなたの妻は、どんなに甘美な眠りについていてもあなたに腕を伸ばし、抱きつくことを切に望む。
が、もし神の身のアプロディテが妻を情欲で駆り立てているなら彼女はまっさかさまに落ちて床に横たわるだろう。
また、二人の兄弟はマグネティスを持っていくように。
留まるところを知らない争いの激情を避けようと思うならば。
さらに、集会に集まる人々を、甘美な声で魅了するだろう。人々の胸に蜜のように甘い想いを残しながら。
私は、この石の驚くべき効果をほかにもたくさん数え上げることが
できるが、どうして天におられる神々に対して、次のこと以上の
驚異を称、えることができょうか。すなわち神々がどんなに天高き所におられても、
この石はすぐに神々の御心を曲げ、引きつける。
そして、あなたの両親のように、即座に望みをかなえてくださるだろう。いかにも、
今言ったことをすぐにでも確かめられよう。
私があなたに語ったことすべてを、われわれが祭壇に着いたときに。
私のうしろに従う男が力強い肩に数々の石の荷を背負っているから。

今まだ、(歩ってきた)道よりももっと残っているし、蛇の威力ある目があなたの心をかき乱しているので、
長い蛇の毒を恐れないように、
蛇岩(ojfih:tiV pevtrh)を細かく砕くようにしなさし、。
もしいつか、力強い牙に岐まれた人がいたら
砕いた石を傷口に塗りなさい。それはまさしく癒しとなるであろう。

(344t)

[オストリテース]

さらにねトリ刊を生のブドウ酒に入れて擦りつぶしたものを飲むよう
私は勧める。それが苦痛を鎮めることを知っているから。
次に、神聖なる石よ、私はすぐにもあなたのことを思い出そう。
白い毒蛇(エキドナ)の姉妹であり、石の名(エキテス)はこれに由来する。
おまえはかつて、ピロクテテスが苦しんだ9年にわたる傷を@
マカオンの術(医術)によって癒した。
利TJ.の息子(印7TTλ)は、あの忌わしい病気から逃れることを心から信じてはいなかった。
たとえ、それを望んではし、fことしても。
だが、不幸を防ぐ父の助力で、治療に役立つ石を学んでいたマカオンは、脚の上に薬を置いて、
トロイアへと、アレクサンドロスの殺人者ピロクテテスを送り込んだ。
彼が、健康になった脚で戦闘に戻ってきたことを
プリアモスの息子パリス自身は、まさに死に瀕しても信じなかった。

ポイアスの勇敢な息子(ピロクテテス〉は、悪党パリスを殺した.
へレノスがダナオス(ギリシア人)たちに、彼を連れ戻すよう命じたので、
兄弟のやっかいな殺人者(ピロクテテス〉を、レムノス島からトロイアへ連れ戻すようにと。
というのも、光輝くアポロンは、彼に言葉を話す石を持つよう与えた。
シデリテスを。他の死すべき者たちにとっては、
命のあるオレイテスと呼ぶのがふさわしいであろう、
丸く、でこぼこで、どっしりとして、黒く、綴密なこの石を。そのまわりには、丸〈ぐるりと、あらゆる方面に、
365しわに似た筋が表面に伸びている。
私が知るところでは、七日間とさらに三日間、へレノスの力(予言の術)のために、女性との寝床と公衆浴場を避け、
生命ある食物によって汚されないようにしておかなければならない。永遠に湧き出る泉で、賢い石を洗い、
つややかな布の中で、赤子のように育てる。
御利益のために犠牲で、神を喜ばせようとする者は、次のようにして力強い歌で、命ある石を神に捧げる。
美しい王宮の中に、蝋燭で光をかけ
手で神聖な石を持ち上げていつくしむ。
それはちょうど、幼子を覆い包む母親に似ている。
そして、ダイモン(神〉の言葉を聞きたいと思うときには、
自分の胸に不思議なものを学び取るために、次のようにしなければならなし、。すなわち、手の中に石をいれて握りながら握ると、
突然、生まれたばかりの赤子の声を出す。
母親の胸の乳房のあたりで、けたたましい声を上げる赤子の。
あなたはつねに心をしっかりもって、
ともかく、とるにたらぬ恐怖によって手を開き、手から石を放して
地面に落としてしまい、そのために神々の恐ろしい怒りをおこさないようにしなさい。勇気を出して神託を聞きなさい。
石はすべて確かなことを探り出す。そしてそれを
眼の近くへと、止まるまで近づけると、はっきり見える。
それゆえ、あなたはへレノスが言葉にできぬほど取り乱したことに合点がゆくだろう。
そのようにして、アトレウスの息子たちによってラオメドンの祖国は征服されると、 おそるべき力の石を信頼していた彼は言ったのだ。
だが、あなたにはシデリテスの何か別の力を明らかにしよう。
というのは実際、あなたは蛇をとても恐れているように見えるから。
だが、ピロクテテスはあなたよりもずっと、心が休む問もないほどに恐怖感を抱き、常に毒蛇のことを思い出しているのである。
そのために、賢明なプリアモスの息子(へレノス)がし、なければ、ピロクテテスは
トロイアへ戻って行く気にならなかっただろう。伺か慰めを教えてくれるまでは もし野性動物(蛇)の母なる大地に戻ったとしたら、
いかにしてまだら色の種族を逃れるか、ということを。
だがこのようにして、ともかくへノレスはレトの息子ポイボス(アポロン)を証人として呼び出し、話す。実際すぐあなたに詳しく語ろう。

まだ子供であった私に長髪の神(アポロン)が予言の術を教えたG
そのときアポロンは先ず、人間たちに決して嘘を語らないと大いなる誓いを立てるよう、私に命じたのだ。
それゆえ私はあなたに諸々の事柄をひとつずつ、まさに真実として語るであろう。い
さ、遠矢を射る神(アポロン)よ、私がこれからする話を吟味してください。

哀れな人間たちのために、病悪と病悪の苦しみの一つ一つに対する備えを産み出すのは
この同じ黒い大地である。大地が蛇を産んだ、そしてしかる後に大地が〈蛇の毒に対する)治療薬を産んだ。大地からすべての石の類が生じ、かっそれらの石からは
計り知れない多彩な諸々の力が生じる。
植物にもできるだけのことが鉱物にもできる。
植物にも大いなる力が存在するが、鉱物にはもっと大きな力が存在する。
不滅にして、かっ老いることのない力で、大地は常にその息子(鉱物)を満足させているのである。
しかるに植物は、短い生を霊歌して死に絶えるし、植物の子である果実も植物が生きている問ならばこそである。それが死んでしまったとしたら、
その骸からし、かなる希望が産まれることであろうか?
あなたは諸々の植物のうちに悪いものも良いものも沢山見い出すであろう。
しかし鉱物のうちに不幸をもたらすものを見い出すことは容易なことではないだろう。そして植物と同じ数だけ鉱物がある。
さて、勇敢な男であるあなたは、ありとあらゆる蛇ともが東になって襲ってきても 勇気をもってそれらに立ち向かい、それらの真ん中を通って
忌まわしい攻撃も気にかけず、シデリテスを携え慎重に歩いてゆく。歩いてゆくあなたの足が蛇どもに触れない限り、
噛みつこうなど蛇どもには決して許されぬことだからである。
いつまでも姿を現していることは、蛇ともにはできないことなのだ。
(隠れている)彼らの聞に恐怖心が生じるやいなや、駆り立てられたもののごとく 飛散してしまう。しかし、たとえ反対に逃げて行っても
執念深い彼らのこと、また再び向き直って襲し、かかろうというのである。やがて突然彼らのたてる音が止む。
だが決して速くに去るのではなく、彼らは近くで長い首をのばし、430小犬がじゃれつくように舌を使おうとする。
狩のお供の者と一緒にイデ山の薮の中にいるときのこと、
狩人の州バまこの御守りを信じて、血なまぐさい蛇どもの傍らで眠ることさえもした。なぜなら、嘆願するその男に、私がその神聖な石を与えたからである。
あまた沢山の蛇のうちからその男に向かつてくる
勇気のある蛇は一匹もいなかった。
この非常に立派なエウポルボスに気に入られ好かれていたのが、
男たちのなかの男、徳高きわが従兄弟、槍使いのメラニッポスであった。
槍で名をはせた立派な髪房の男となったあかつきには、
全き美貌に加えてアレスの武勇をと求めてやまぬ男であった。
それゆえヒケタオンの息子(メラニッポス)には、
獣のあとを追って俳個するエウポボスから離れて、じっと待っていることができなかった。彼はいつも、薮深い山々に神のごとき若者(エウポルボス〉の足跡を追って、
猟犬たちゃ仲間たちと共に大声で笑いながら随行したものであった。
また彼は独りでエウポルホ、スのお供をしたこともあった。
はたしてその父親は愛する息子(メラニッポス)が獣どもと戦うことが心配だったので、
何度も引き止めようとした。
そしてプリアモスが力ずくで彼を引き止めようとした。が、彼は納得しなかった。
一体誰がエウポルボスに置いていかれることを欲したので、あろうか。
黒い(毒を持った)水蛇が、いやがる男を引き止めることは容易であった。
その男のくるぶしに人殺しの矢を射たのである。
有害な毒が彼をとらえた。そのため彼はまさにその場に置いてゆかれんとしていた。
このこと(置いてゆかれること)がまた取り分けこの男の心を参らせた。
両手を私の膝に伸ばして嘆願するその男を哀れに思って、
この私はその同じ石(シデリテス)の細かい粒を
そのただれた傷口に自分でふりかけるようにと命じた。
そのようにするや立ち所にその堅田な病はその男のもとを去ったのである。
大地はそのような助けとしてオレイテスを産んで、
傷を負った男たちには治療をもたらし、
石女の女たちには愛しい子宝を与える。
死すべき人間たちのために鉱物が様々な働きをするということを私は語っているのだ。

人々の病を癒す術を非常に良く知っていた
母親のアパルバレエスからも聞き教わって、
ブコロスの子エウポルボスは、かの有名なオピテスが
ただ蛇に対する薬としてのみ効くのではなく、
視力を回復させたり重い頭痛を癒したりすることさえもできるのだと言った。
もし耳の遠い人がし、たならば、
この石が直ちにこれを清め癒し、
そのうえさらに、微かな声にも敏感になるようにする。また、黄金のアプロディテの不機嫌のおかげで
結婚の愛の事に関して弱々しい男がL、たならば、
これも直ちに癒し、昔の愛情を思い出させるのだ。
もしこの石を火に投げ入れるならば、その匂いに蛇どもは逃げ出すだろう。そしてどこか近くにも、巣穴の中にもいなくなるのである。 (474t)

[ガガテース]

これも発散する香気のためだが、蛇どもはガガテスからも退散する。
この石はその刺すような匂いであらゆる生き物を参らせるのである。
この石は、表面が黒く、なめらかで、見たところ大きくはないのだが、乾燥したモミの木の類に神のごとき炎をおこす。
ところでこの石は嘆覚に破壊的な影響を与える。だからあなたが、?
誰か人々lニ神聖な病のあることを証明しようとするならば、彼らは伺事も隠し得ないであろう。
なぜなら、たちまちこの石が、その人たちの身体を曲げて地面に引きょせ、 その人たちがもしその病による歯ぎしりに汚れていたならば、
彼らはそこら中地面をのたうちまわるのだから。
こういう人々に対して心を怒らせながらも、
角のかたちの足早い月は、彼らが苦しむのを見て興じている。
もし誰か女性が、薬を沢山含んでわきたつ煙をくぐって、 これを体内に吸い込むならば、
すぐにも、黒い液体がどっと排出される。
それは腹の下腹部にたまりf女殺しJと呼ばれているものである。そのとき自分の腹から黒い液が
その石の煙によって噴き出ていくのを見て
女は喜ぶ。かくして、無数の病を免れるのである。
私はこのガガテスがもっと他に沢山の奇跡をおこすことを知っている。しかし、あなたを喜ばすのは、匂いによって蛇を駆逐することである。 (494t)

[スコルピオス]

サソリよ、光輝く英雄オリオンは、おまえと同じ名の石(スコルピオス〉が
あったことを知らなかった。というのも、私が思うには、
彼が手足に激しい痛みを受けていたとき、自分が死んで星座になることよりもその石を得ることを欲したであろうから。 (498t)

[コリュポーデース]

オリオンはまた、コルセエイスも知らない。というのはその石を
ニンニクのとがった頭と一緒に混ぜると、麻揮させる剣の射手である
サソリを、あっという間に退けるからである。
私は語ろう。死すべき人間たちの毛髪にとても似ている
この石は、非常に酸っぱいパッコス(葡萄酒)と混ぜて擦り潰されると、死のしもべである黒いコブラの刃(毒)を止める。
同量のパラの油と混ぜ、
火であぶったものを砕くと、首(喉)の痛みの
手当てとなる。また、甘い蜂蜜と混ぜると腹部から、・有害な水のおり(膿)を除く。
そのおりは、すごい勢いで、人の下腹部の下へと下がって、鼠けい部に、不自然な物体(腫物)をつくる。

(510t)

[クゥラリオン]

知るがよい、次のものはサソリの針を弱めることができる。
ペルセゥ弐こ由来する瑚瑚(クラリオンすの大きなカは、
人殺しのコブラを骨抜きにしてしまうこともできる。
この世に生まれ出るもののなかで、途方もない性質が
瑚瑚にはあると、光輝く長髪の神(アポロン)は私に語った。
しかも瑚瑚は別の形から別の形へと変化しつづけている。
たしかに誰か、それは嘘だというかもしれない。が、私は真実であると知っている。
すなわち、それは初めは緑色の植物として生じるが、大地に生えるのではなし、。
大地が植物の堅い乳母であることをわれわれは知っている。しかし、それは波打つ海の中に弱々しい海草や海藻のように生えているのである。
さらに、それは年をとって衰えていくと、
葉は海水によって枯れてしまい、
それ自身は、轟く海の下の深みの中で泳ぐ。波がそれを浜辺へと押し出すまでは。 そして、突然それが空気で一杯になると、
みるみる硬くなっていくのだと、実際に自にした者たちは言う。
その後すぐに、氷のように凝結して
石になる。あなたは自分の手で、ぎざぎさした石を
さわる。珊瑚はかつて液体の形をしていたものなのだ。それは実際、かつての植物の姿を今なお留めており、
小枝のようであり、木の実をつけるほどで またそれには芽が生じ、海の中で棋を育て、
樹皮もそのままである。それなのに樹皮は石のように堅い。
瑚瑚を身につけたあなたの心には、快い楽しみがやってくるだろう。私には、それを見る自分にいつもどんな魔力が心へと
注ぎ込んでいるのかわからなL、。またそれは、見る者の眼を
すなわち黄金から生まれたペルセウスに、その殺人女を見るようにと。しかし彼は、その女の野獣(蛇)の首を奪い取った。
ゆっくりと背後から、気がつかない彼女の首に
へルメスからもらった内側に反った鎌をあてて。
彼女が死ぬと、その見る力はすっかりなくなっていた。
忌まわしいクロノスの息子(ハデス)の暗い住みかへと下っていくことが、死んだゴルゴンによって殺された多くの人間にとって宿命のことであった。ところでその後、死体で汚れた英雄ペルセウスは、海岸へ行き、
汚れた血を海水で洗い清める問、
戦いの喧騒から未だに生温かく震えているゴルゴンの頭を、 緑の植物の上に置いておいた。
彼は海の流れに身を浸し、ほっとしていた。
危険な企てを終え、長い道のりを歩いてきたところであったから。さてその問、そのしげみは湧き出る血にぬれ満ちていた。
まさにその頭から、血は地面へと流れ広がっていたのである。
海の素速い流れの娘たちは、そのしげみの周りを汚れた血を流し払おうとして、取り囲んだ。
すると血は固まった。確かにあなたが固い石だと疑ったように。たしかに固い石であるから、疑うべきことではなかったのだが。
その植物のうち、濡れた部分は枯れてしまったが、しかし 植物が完全に枯れてもなお、その形は失われなかった。
それは血の赤い色をしていた。
勇敢な英雄は言葉も出なかった。まるで突然
大きな驚きに気がついたかのように。そしてまた、すぐそばにやってきた、
ゼウスから生まれ、とても賢く、強い父の娘である女神(アテナ)もこれに驚いた。
彼女は、同族の不死の名誉を贈った。まるで生まれながらのように、珊瑚がつねに昔の性質を変えることを。
獲物を集めるアテナは、それの中に永遠の力を与えた。
その力とは、氷のように残酷な戦いにおもむく種族を守ることである。
もし誰かがそれを持っていれば、長い人生へと導かれ、
あるいは立派な船で、神の海を越える。
というのは、怒り狂う戦争好きの神(アレス)の速い槍を避け、人殺しの盗賊による待ち伏せを避け、
また白髪の荒れ狂うネレウスからまぬがれることを、
珊瑚のすぐれた力は、死すべき人間たちに与えたのである。
グラウケを、戦いをかきたて恐れを知らない女神(アテナ)を、
自分たちの苦難の主護神となるよう呼んでくれる。
不敬なものとして生じた毒薬や、呪縛や
呪いの祈りは、不屈のエリニュスたちに解いてもらう。
そしてもし人が、家をほろほす隠れた汚れに気がつかない場合や、 またすでに身の上に、呪文の不幸といったものを、
憎しみあう残忍な者たちが達成してしまった場合には、
瑚瑚がすべてのなかで最も効力のある身代わり石であることをあなたは知るであろう。珊瑚を細かく砕いて黄金色のデメテル(小麦)に混ぜて撒くのがよい。
珊瑚はあなたのために、あなたの畑からあらゆる災害を
また汚れを違ざける。麦穂、の汁を干し、
有害な電も遠さける。置は、無数の矢をもって
畑に手のほどこしょうもないほどの傷をもたらす。
これらのほかに、あらゆる種類の食欲なものどもを滅ぼしてくれる。
600毛虫や青虫を、そして空中にただよう赤カビを。
赤カビは、空中を作物に向かつて飛んでいる赤い色のもので、麦の穂のまわりを焼きつくしながら居すわる。
また珊瑚は、ネズミの群れや数えきれないイナゴの大群を
打ち砕く。またクロノスの息子(ゼウス〉の雷は急いで走り去る。
というのも、彼の息子(へルメス)は自分の名声が価値なきものとなるのを恐れているから。
天界の果てから戻ってきたアルゴスの殺害者(ヘルメス)は、
這に至高なるものとして、珊瑚を死すべき人間たちのために持ってきて授けたのだから。あなたは、生の葡萄酒とともに瑚瑚を飲むことを、いつも
忘れてはならなし、。前にも言ったように、危険なコブラのためには。 (610t)

[アカテース]

生の葡萄酒とともに飲むがよい、さまざまな形の、
あなたは人々を、言葉で魔法にかけるであろう。どんなことでも願ったことはすべて手に入れ、喜んで家に帰るだろう。
アカテスは、病気で衰弱した人を救う力をもっている。
その人が、自分の手のなかにアカテスを握って持っているならば。
630が、もしゼウスがどうしても、彼が生き続けることを拒んだなら、 あなたは自分の心の中でそれに気付く。運命の女神クロトが
車麻糸を引きちぎるから。そうして最後の日がやってくる。 (633t)

[さらにアカテースについて]

もし発熱が一日おきにやってくるなら、
あるいは悪寒におそわれ長引くならば、
あるいはまた、四日熱の苦しみがゆっくりやってくるならば、
熱病は決して終わろうとしないで、かかり始めたときのように、ずっとそのままの状態が続く。
だがあなたはこの熱病をなおすことができる。非のうちどころのないアカテスのおかげで。というのも、熱病のうちではこれがずっとましなものだから。
私はすぐにその兆候を探る。それはまさに石の力を即座に示すものである。
アカテスを角のなかに入れ、中で煮ると、
それはほとんど耐えることができず、中ですべて溶けてしまうのである。

しかし、この石(7折かも蛇に対して効力があると私は言わない。
けれども、あなたが望むならば、別の医者である
天から生まれた石を与えよう。次の物語をよく聞きなさし、
すなわち、かつて胸幅広い神(ウラノス)は、 野蛮なクロノスの手によって切り取られて、
彼の輝く体を果てしない大地の上へと曲げた。聖なるアイテールから大地へと倒れようとして。彼の背中を幾重にも広げて、すべてを見えなく
650するために。星に輝くウラノスの心を
悩ませながら、もはやクロノスが天に住むことがないようにと。するとそのとき、神聖な血のしずくが、
傷口から地面へと滴り落ちた。
不死なる体から出た血のしずくは、滅びる運命にはなかった。
モイラたちは、豊かな大地の中で、
神々の祖ウラノスの血が、無事なままであることを命じた。
実際それは無事であった。へリオスの火のような目をした馬たちが、それを乾かし固めたのだ。そしてそれに触れる者は、
その石、すなわち固まった血を、争って手に入れようとした。
というのも、その石は、本当に血の色そのものをしていた。
水の中に入れるとすぐに溶けて、本物の血になった。
昔の人は、この石の名前をハイマトエイスと呼んだ。
純粋なハイマトエイスには、薬効があるために、
誤ることのない歌い手たちは、天の流出物であるこの石が、
人間たちのもとに至ることを祝福している。
というのも、この石は人間たちの眼に、新たな痛みをもたらすことなく、白い乳とともに飲むならば、
古い痛みを遠ざける。ウラノスの霊液であるこの石に、甘い蜜を混ぜて溶かすならば、
あなたは、まぶたからあらゆる病気を取り除くことができる。なぜならば、死すべき人間たちが
ウラ/スの愛しい顔を見ることを妨げられているのを、この石は悲しむのだから。ウラノスは、至福なる神々の中の最年長者、星の目を持つ王で‘ある。
あなたの瞳に、杯に混ぜた、-
崇めるべき者のうち、それを飲んだ者は治るであろう。
私は、喧嘩好きのアイアスに何度も命じた。
完全無欠のアキレウスの武具をめぐって、争いに駆り立てられていた彼に、勝利をもたらすこの石を手に持つことを。
もしそうしたならば、辛抱強いオデュッセウスの代わりに、国を滅ぼすアテナは、彼に名誉を与えただろうに。
しかし、彼は私の言うことをきかなかったのだ。
それゆえに、彼は神聖な素晴らしいこの石を軽んじて、
破滅の剣をつかんだのだ。しかしあなたは、彼の運命を畏れなさし、。あなたは、すべる蛇の黒い種族に対して、
血の色をしたこの石の力を学んで、いつも仲間たちに、?
この石を、ナイアスのニュンぺたちが住む泉の水に溶かして飲むことを、命じなさい。
そしてまた私は、私の仲間のすばやいドロンが
私の兄のヘクトルに愛されることを願って、
求める彼に、喜んでこのオリュンポスの石を与えた。すると彼は、すぐにすべてのトロイア人たちの前で、
ヘクトルと私の父のお気に入りの友となった。
それゆえ彼は、お返しに、私を喜ばせようとして、
彼の裕福な父から手に入れた、リパライオスという名の
石をくれた。彼の父は、かつて、
力強いメムノ久の使者として、トロイア械にしたときに、
695私の与えた指示によって、この石を見つけて、アッシリアから 貴重な黄金よりも素晴らしい石を、この地に持ち帰った。
かの地では、博識な魔術師たちにたくさんの贈り物を与えて。さあ、話を聴きなさい。私が学んだことを語ろう。

さてまずは、血の付いていない祭壇の上に、御神酒を注いで、700-ーというのも、生き物の供犠は禁じられているから一一
かなた見るへリオスと、あらゆるものを養う乳房である豊かな大地を祝福する歌を歌いなさい。
次には、燃えるへパイストス(竃)の上に、この石を置きなさい。その甘い香りで、蛇たちを魔法にかけるために。
蛇たちは、立ちのぼる香りを見ると、
祭壇へと駆り立てられ、みんな穴からはし、出して、あらゆる蛇がはし、寄ってくる。
それから、洗いたての亜麻の服を着た
三人の若者は、各々、二股の鋭い剣を持って、
のたくる蛇を取り上げなさい。とくに、
火の香気の近くに、とぐろを巻こうとする蛇を。
そしてそれを、九つの部分に、ぱらぱらに切り分けなさい。そのうちの三つは、すべてを見る太陽を称えるために、
他の三つは、人々を養う豊かな大地を称えるために、
あとの三つは、偽りのない賢い神託を称えるために。
そしてそれらを、血の色の枯圭で作られた鍋に入れなさし、。
そして、倦むことのない女神アテナの贈り物であるオリーブ油と、歌舞へと誘うブロミオス(葡萄)の酒を注ぎなさい。
その中に、食卓の友である白い塩を入れなさい。
それらの中に、辛い外国産の実も混ぜなさい。
皮のしなびた黒い貴重な実を。その他、一緒に混ぜたならば、
人間たちの食欲をそそるものは、すべてその中に入れなさい。鼎の腹の中で肉が溶けるまでの問、
その問、あらゆる至福なる神々の不滅の名前を唱えなさい。
なぜならば、密儀において、天の神々の
神秘なる名前を歌うならば、神々は喜ぶからである。また、禍をもたらすメガイラを、沸き立つ鼎から、遠ざけるために祈りなさい。それらの中に、
聖なる分け前に向かった、天の息吹きを導きなさい。
煮えた肉にそれが至ったならば、
その時には、その鼎の中から、好きなものを満足するまで食べなさい。残ったものには、土をかぶせなさい。
そしてそれらに、白い乳と甘い酒と
おいしい脂と、蜜蜂の食べ物である花を搬きなさい。
そして、実の成った処女神のオリーブの木から折った技を編んで、冠にしなさL、。家に帰るときに、
彼らの頭の回りに、布をとめるために。
立ち去るときには、決して振り返ってはし、けなし、。
常に、前方の小道に目を向けて、 家に帰りなさい。家に着くまでは、
道行く人に出会っても、決して話しかけてはL、けない。家に着いたならば、不死なる神々に、再び
犠牲の捧げて、様々な香をたきなさい。

745これらのことを終えたならば、未来に起こるであろうこと、軽やかな 鳥たちがさえずりながら話すこと、四つ足の里子獣たちが 互いにほえながら話すことすべてを、私は知ることができる。

それから私は、バ?IJAの贈り物であるt1リテス石の効力も学んだ。
ブロミオスに大切にされているこの石を手に入れたならば、
あなたたちよ、犠牲を捧げなさい。あなたたちが祈れば、
ウラノスの子孫の神々はそれを聞き入れてくれる。もしも、鋭い蛇の背を、裸足で踏んだ者が、刺で肉を切ったならば、
ネウリテスは、彼の痛みを鎮めるだろう。
またこの石は、妻に夫への欲情を駆り立てる。

755それから私は、黒い子蛇に対して、
あなたの強力な薬となる、人を救う素晴らしい石を知っている。
その石の名前と色は、緑の葱の名前と色と同じである。

それから私は、聖なるカラジオスよ、おまえを試すことを
心の中で考えた。そして私は、おまえの力は最高であることが分かった。
おまえは火のような熱病も冷やしてくれるし、
サソリに刺された私を助けてくれる。

ボイアスの息子の英雄(ビnクテテス)よ、これらすベての不思議なことは、
レトの息子(アポロン)が、熱心に私に語ることを命じた、彼の神託なのだ0 私の姉の賢いカッサンドラ 1こ対しては、銀の弓持つ神(アポロン)は、
それを聞く卜ロイア人たちには、信じられないような 真実を予言することを命じたのだが0 しかし私は、かつて固い誓いをした。
人々に偽りの話は、決して語らないと。
そして今も、私たちがあなたに語ったことは、どれも全く本当なのだから、
遠矢射る英雄(アポロン)よ、この物語を信じて下さい。

ブリアモスの息子、ゼウスに愛される友は、このように語った。
恐れを知らぬヘラクレスの仲間に、敬意を表して。
私たち二人は、草の繁った山の頂きに行くところ。
これらの物語は、険しい道のりをすっかり楽なも_のにしてくれた。

2010.06.26.

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