ペイサンドロス

[解説]
 テオクリトスは、ペイサンドロスの銅像に寄せて作詩したエピグラム詩の中で、ヘーラクレースとその功業の物語を語った最初の詩人として彼を称賛している。その詩の諸断片は、エウリュステウスの言いつけで遂行された功業のみならず、ヘーラクレースとアンタイオスとの対決、彼のトロイア攻めのような他の冒険をも扱っている。それは2巻だったという『スーダ』の主張が正しいなら、それは非常にこぢんまりした作品であった。

 同じ典拠がわれわれに告げているのは、ある人たちはペイサンドロスをヘーシオドスよりも前の年代とし(おそらくは、ヘーラクレースの神話にヘーシオドスが言及しているためであろう)、他方、他の人たちは彼を5世紀中頃に置く。唯一の実際の手掛かりは、彼がヘーラクレースを、ライオンの皮をまとい、弓と棍棒を武器に持っているとして表現したことである。芸術作品の中で、彼がこの身なりで表されたのは、およそ600年頃からにすぎない。それ以前は、彼は楯と槍と剣を持った普通の重装歩兵のようにして示されている。




ペイサンドロス『ヘーラクレイア(+Hravkleia)

TESTIMONIA

Theocritus, Epigr. 22

この人は、往古の神話作家たちの最初の人、
カミロスのペイサンドロスなり。
あなたがたのために、ゼウスの息子たる武士、
師子と戦う者、手の早き者を著せり。
そして、労苦せしかぎりの懸賞を述べたり。

Strab 14.2.13
 ペイサンドロスもまた『ヘーラクレイア』を書いた詩人で、ロドス人。

Steph. Byz. s.v. KavmiroV
 そして最も著名な詩人ペイサンドロスはカミロス人であった。

Quintil. Inst. or. 10.1.56
 いかん? ペイサンドロスはヘーラクレイトスの為業をうまく扱ったのではないか?

Clem. Strom. 6.25.1
  〔ギリシア人たちは〕他人の作品を勝手気ままに剽窃して、自分のもののように差し出した。まるで、エウガムモーンのように……また、リンドスのペイシノスの子カミロス人のペイサンドロスが『ヘーラクレイア』を〔剽窃した〕ように。

Anon. frag. de musica, Gramm. Lat. vi.607 Keil (ex Aristoxeno, fr. 92 Wehrli)
 音楽の発明は、拍子の発明によって先導された。というのは、そこから最も往古の詩人たち、ホメーロス、ヘーシオドス、ペイサンドロスが出、そして彼らに続くのがエレゲイア詩人たちである……。

Proclus, Vita Homeri 1
 叙事詩の詩人たちは数が多かった。その中で最も力があったのが、ホメーロス、ヘーシオドス、ペイサンドロス、パニュアッシス、アンティマコスである。[註]

Cf. eiusdem Chrestomathiam ap. Phot. Bibl. 319a.
[註]5人の詩人のこの規準的なリストは、Tzetzesによって数箇所で繰り返されている。

Suda π 1465 (ex Hesychio Milesio)
 ペイソーンの子ペイサンドロスとアリスタイクマースとは、ロドス出身のカミロス人である。カミロスはロドスの都市だったからである。そして一部の人たちは、彼は詩人エウモルポス(エウメーロス?)の同時代人であり、彼に恋された者だと記録しているが、また一部の人たちは、ヘーシオドスより年長だといい、ある人たちは、第33オリュムピック紀年〔648/645 BC〕に配置する。妹ディオクレイアを有する。彼の作品は『ヘーラクレイア』2巻。〔内容は〕ヘーラクレースの為業である。この中で初めて、ヘーラクレースに棍棒を持たせた[1]。彼の詩作品のその他はまがいもので、他の詩人や、詩人アリステウスによるものである[2]。

[1] fr. 1と比較せよ。メガクリデースによれば、ヘーラクレースにライオンの毛皮を着せ、弓と棍棒を持たせたのはステイシコロス(PMGF 229, compare S16)が最初だという。
[2] プロコンネソスのアリステアースが意味されているかも知れない。


断片集

1 [Eratosth.] Catast. 12
 獅子〔座〕。これはといえば、明るい星座の1つである。この獣帯がゼウスによって尊ばれた[註]と思われるのは、四足獣を嚮導するゆえである。ある人たちの謂うには、これがヘーラクレースの記念さるべき最初の功業だという。なぜなら、これが、名声愛から、武器によって亡き者にしたのではなく、取っ組み合いで絞め殺した唯一の〔獣〕だからである。これについて言っているのは、ロドスのペイサンドロス。彼が毛皮を身につける所以もここにある。つまり、有名な仕事をはたしたからである。

Cf. Hygin. Astr. 2.24; schol. German. Arat. pp. 71 et 131 Breysig.
[註]つまり、星座の間に配置されているのは。

Strabo 15.1.8
 シバイ人たち〔インドの部族〕は、彼〔アレクサンドロス〕の征軍に協働した人たちの子孫で、一族の割り符を相伝している。つまり、ヘーラクレースのように毛皮をまとい、棍棒を携え、牛群や半驢馬〔騾馬〕に棍棒の焼き印を捺している……(9)さらにヘーラクレースのこの種の身ごしらえも、トロイアの記憶よりはるかに新しい時代のもので、『ヘーラクレイア』を詩作した人たち(それがペイサンドロスであれ他の誰かであれ)の作り事である。古式の木像神像はそういう身ごしらえはしていなかった。

hydra.jpg
HERAKLES & THE HYDRA
ca 500 - 480 BC

2 Paus. 2.37.4
 わたしに思われるところでは、〔ヒュドラーは〕頭は1つで、それ以上ではなかったが、カミロス人ペイサンドロスが、この獣をより恐ろしく思われるよう、この詩が自分により衆目を集めるよう、その代わりにヒュドラーの頭を多頭にしたのだ。

Schol. Pind. Ol. 3.50b
 彼〔ピンダロス〕は、歴史に従って、〔タユゲタを〕雌鹿で、黄金の角と云った。なぜなら、『テーセーイス』を書いた人は、彼女をそのようなものと<言っている>からであり、カミロス人ペイサンドロスもペレキュデース(fr. 71 Fowler)もそうであるから。

4 Paus. 8.22.4
 カミロスのペイサンドロスが謂うには、彼〔ヘーラクレース〕は鳥たち〔ステュムパーリデス〕を殺したのではなく、ガラガラの音でそれを追い払ったという。

5 Ath. 469c
 ペイサンドロスは『ヘーラクレイア』第2巻の中で、ヘーラクレースがオーケアノスを渡るのに使った杯は、ヘーリオスのもので、ヘーラクレースはこれをオーケアノスからもらったと謂う。

6 Schol. Pind. Pyth. 9.185a
 彼女〔アンタイオスの娘〕の名はアルケーイスだと、カミロス人ペイサンドロスは謂う。

7 Schol. Ar. Nub. 1051a
 ある人たちが謂うには、数々の苦労をしたヘーラクレースのために、アテーナーは、テルモピュライの畔に温かい浴場を現した、とペイサンドロスが謂う。

彼のために、テルモピュライに、梟の眼をした女神アテーネーは、
熱い浴場をこしらえた。海の波打ち際に。

Cf. Zenob. vulg. 6.49; Diogenian. 5.7; Harpocr. Θ 11.

8* Stob. 3.12.6
 ペイサンドロスの〔作〕。

いのちのために嘘をつくも、咎めなし。

9* Hesych. ν 683

ケンタウロスたちに理性なし。

諺。ペイサンドロスの韻文。不可能な状況に適用される。

Cf. Diogenian. 6.84; Macar. 6.12; Apostol. 12.12; Phot. s.v. Suda ν 525.

10 Ath. 783c
 ペイサンドロスが謂うには、ヘーラクレースはテラモーンに、イーリオン攻めにおける功労ゆえに、アレイソン〔という酒杯〕を与えたという。

11 Epimerismi Homerici A 52B Dyck
 さらに〔次のような語形〕もある。

ajev

カミロス人ペイサンドロス〔の作品〕中に。

12 Plut. De herodoti malignitate 857f
 しかも古の物書きたちは、ホメーロスにしろ、ヘーシオドスにしろ、アルキロコスも、ペイサンドロスも、ステーシコロスも、アルクマーンも、ピンダロスも、アイギュプトスのヘーラクレース、あるいはポイニクスのヘーラクレースについてロゴスを持っ〔言及し〕たことはなく、皆が知っているのは、この、ボイオーティアであると同時にアルゴス人でもあるヘーラクレース1人なのである。

上の議論は、ヘーロドトス第2巻145章を見よ。エジプトでは、ヘーラクレースは12神の1人とされる。


forward.GIFパニュアッシス『ヘーラクレイア』