アドニスの花
「アドニス(Adonis)」神話については、point.gif反ギリシア神話のアドニスの項を参照せよ。

アネモネ(ボタンイチゲ) Anemone coronaria
キンポウゲ科イチリンソウ属
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 イスラエルの春一番に咲く赤い花はアネモネである。その意味でゾハリーはイエスのたとえ話の「野の花」はアネモネであろうとしている。エルサレム付近で見られるアネモネはほとんどが赤いアネモネである。エルサレム市内の公園や空き地に真っ赤に咲いているアネモネをよく 見かける。
anemone_coronaria2.jpg  これが北のほうに行くと、ピンク、白、ブルーなどの色もある。球茎様の根のある植物で、6枚の花びらがある。花の直径は4-8cmである。この花びらの基は黒っぽく、周りは白い。実際はこの花びらと思われているところは萼の変化したものである。花は朝開き、夕方近くなると閉じてしまう。

 ディオスコリデスの薬物誌には根の絞り汁を鼻に注入すると、頭を浄化し、根を噛めば頭の粘液を駆出させるとある。また葉と茎を一緒に麦湯で煮て食べると乳汁を分泌させ、膣座薬に用いると月経を招来し、患部につけると重い皮膚病によいなどの記載がある。アラブの民間療法としてかつて腫瘍や胃潰瘍に用いた。またレバノンでは絞り汁を鼻をきれいにするのに用い、根を噛んで結核、ハンセン病、マラリアな どに用いたという。

 このアネモネが「ゆり」の候補として挙げられるのは、たぶん雅歌5:13に「頬は香り草の花床、かぐわしく茂っている。唇はゆりの花、ミルラのしずくを滴らせる」とあることによるのであろう。

ラナンキュラス(ハナキンポウゲ)
Ranunculus asiaticus
キンポウゲ科キンポウゲ属
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 アネモネが「野のゆり」といわれるのであれば、聖地にアネモネと前後して咲き出すラナンキュラスも同様に赤い可愛らしい花である。このほかにも赤い花は、アドニス、ヒナゲシの仲間、チューリップとたくさんある。なかでもアネモネとラナンキュラスは現地のガイドたちも間違って説明するほど遠くからは区別しにくい。アネモネの花は中央が黒く、その周りが白っぽくなっていること、萼がないこと(実際は花冠と萼の区別がないのであるが)でラナンキュラスと区別できる。
 ラナンキュラスは萼があり、艶のある花冠の中央に黒のビロードのようなたくさんの雄しべがある。アネモネのように球茎様の根を持たない。根はチューブ状の塊茎で、そこからまた新 しい根をだす。花の基も白くない。アネモネのようにいろいろの色がなく、ほとんどが赤で、まれに黄色やオレンジ色のものがある。

papaver.jpgヒナゲシの仲間 Papaver spp.
Papaver subpiriforme
ケシ科ケシ属



 アネモネ、ラナンキュラスと共にイスラエルの春を彩るのがヒナゲシの仲間である。一番多くみかけるのがパパウェル・スブピリフォルメPapaver subpiriforme であるが、そのほかにも数種類のヒナゲシの仲間がある。ヒナゲシは非常に短命で、花が咲いたと思ったらすぐに散ってしまう。このヒナゲシの美しさ、はかなさはペトロの手紙(一)1:24-25を思い浮かばせる。
人は皆、草のようで、その華やかさはすべて、草の花のようだ。草は枯れ、花は散る。しかし、主の言葉は永遠に変わることがない。

 またイザヤ書40:6-8にも

肉なる者は皆、草に等しい。永らえても、すべては野の花のようなもの。草は枯れ、花はしぼむ。主の風が吹きつけたのだ。この民は草に等しい。草は枯れ、花はしぽむが、わたしたちの神の言葉はとこしえに立つ。

 きれいな赤色のヒナゲシは開花の時に萼を振り落とし、4枚の花びらは、受粉後すぐに散ってしまう。花の中央には黒い斑点がある。草丈12-35Cmの1年草で花びらは通常開ききらないので、遠くからはアネモネやラナンキュラスと間違えるような大きさに見える。

 余談になるが、ケシPapaver somniferum および近縁植物は麻薬をとるケシで、イスラエルにはない。ヒナゲシとの区別は、葉も茎もすべすべとして白っぽいこと、葉が茎を抱き込むようになっていることなどである。末期癌患者や胆石、腎臓結石の鎮痛に使用されるモルヒネはこれからつくられたものであり、そのほか咳止めの燐酸コデイン、麻薬のヘロインなどはこれからつくる。

アドニスの仲間 Adonis spp.
キンポウゲ科フクジュソウ属

Adonis annua
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Adonis palaestinaadonis_palaestina.jpg

Adonis aestivalisadonis-aestivalis.jpg



 アネモネ、ラナンキュラスよりやや遅れて咲く赤い色のやや大輪のパレスチナアドニスAdonis palaestina、小さな赤い花の咲くアドニス・ミクロカルパAdonis microcarpa、アドニス・アンヌアAdonis annua、ナツザキフクジュソウAdonis aestivalis に加えて黄色のアドニス・デンタタAdonis dentata がある。
 フクジュソウの仲間で可憐な花である。パレスチナアドニスの花の直径は3-5Cmとこの仲間では一番大きい。
出典は、廣部千恵子著/横山匡写真『新聖書植物図鑑』(教文館、1999.8.、p.19-21)


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