アントーニーヌス・リーベラーリス

 神話編纂家(mythographer)、おそらくアントーニーヌス・ピウス〔在位138-161〕の時代の解放奴隷。『変身譚集成(Metamorfwvsewn sunagwghv)』を公刊。これはヘレニズム期の原典(例えばニーカンドロス)に依拠している。(OCD)

 邦訳は、安村典子によって(煩わしいほどの訳註付きで)講談社文芸文庫(2006.3.)から出ている。大いに利用させていただいた。

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アントーニーヌス・リーベラーリス『変身譚集成』

"c1"."t".1
アントーニーノス・リーベラーリスの/変身譚の集成
"c1".1.1

"c1".2.1
メレアグリスたち
"c1".3.1
ヒエラクス
"c1".5.1
アイギュピオイ/ポーユンクス/アイギタッロス
c"1".6.1
鷲/ペーネー
"c1".7.1
アントス/エローディオス/スコイネウス/アカントス/アカンテュッリス
"c1".9.1
エーマティスたち/コリュムビス/イユンクス/ケンクリス
"c1"."9a".1
キッサ/クローリス/アカランティス/ネーッサ/ピポー
"c1".10.1
ニュクテリス/グラウクス/ビュッサ
"c1".11.1
ハリアイエトス/アエードーン/ケリドーン/アルキュオーン/エポプス
"c1".12.1
キュクノス
"c1".14.1
トリオルケース/ピポー/オルキロス/アイテュイア
"c1".15.1
グラウクス/ビュッサ/カラドリオス/ニュクティコラクス
"c1".16.1
ゲラノス
"c1".18.1
エーエロポス
"c1".19.1
ラーイオス/ケレオス/ケルベロス/アイギオーリオス(sic)
"c1".20.1
ヒュパイエトス/コラクス
"c1"."20a".1
ピピンクス/アイギタッロス/ハルペー/アルパソス
"c1".21.1
ステュクス/ラゴース/ギュプス/イプネー
"c1".22.1
ケラムビュクス
"c1".24.1
アスカラボス(reliqua desunt; desin. f 189 r)

"c2".1.1
死後、鳩になったクテーシュッラ。
"c2".2.1
 メレアグリスたちになったメレアグロスの姉妹。
"c2".3.1
鷹になったヒエラクス。
"c2".4.1
岩になったクラガレウス。
"c2".5.1
禿鷹になったアイギュピオスとネオプローン/ポーユクスになったブゥリス、四十雀になったティマンドレー。
"c2".6.1
鷲になったペリパース、彼の妻はペーネーに。
"c2".7.1
アントス、エローディオス、スコイネウス、アカントス、アカンテュリスは同名の鳥類に、アウトノースは鷺に、ヒッポダメイアは冠雲雀に、アントスの従者は別種の鷺に。
"c2".8.1
ラミアーあるいはシュバリスは、同名の泉シュバリスに。
"c2".9.1
ピレース〔本文ではピーエロス〕の娘たちは、エーマティアの同名の鳥類に。彼女たちの名前は以下のとおり。カイツブリ、アリスイ、ホオジロ、カケス、アオカワラヒワ、ゴシキヒワ、アヒル、キツツキ、ヘビバト。
"c2".10.1
ミニュアースの娘たち、レウキッペー、アルシッペー、アルカトエーは、蝙蝠、梟、ワシミミズクに。
"c2".11.1
パンダレオスはミサゴに、アエードーンとケリドニス〔本文ではケリードーン〕は同名の鳥類に、アエードーンの母はカワセミに、アエードーンの兄はヤツガシラに、彼女の夫ポリュテクノスはキツツキに。
"c2".12.1
アポッローンの子キュクノスと、その母テュリエーは白鳥に。
"c2".13.1
アスパリスは、死後、木像に。
"c2".14.1
ムーニコスはノスリに、その妻レーランテーはキツツキに、その子どもたちのうちアルカンドロスはミソサザイに、メガレートールはイタチ鳥に、ピライオスは犬鳥に、ヒュペリッペーはカモメに。
"c2".15.1
梟になったメロピス、同名の小鳥になったビュッサ、イシチドリになったアグローン、夜烏になったエウメーロス。
"c2".16.1
鶴になったオイノエー。
"c2".17.1
女から男になったレウキッポス。
"c2".18.1
同名の鳥になったエーエロポス〔本文ではヘーロポス〕。
"c2".19.1
ラーイオス、ケレオス、ケルベロス、アイゴーリオスは同名の鳥類に。
"c2".20.1
オジロワシになったクレイニス、烏になったリュキオス、ピピンクス〔という鳥〕になったアルティミケー〔本文ではアルテミケー〕、四十雀になったオルテュギオス、ハルペーとハルパソスは同名の鳥類に。
"c2".21.1
コノハズクになったポリュポンテー、ラゴース〔兎という名の鳥〕になったオレイオス、禿鷲になったアグリオス、彼らの召し使い女はキツツキに。
"c2".22.1
ケラムビュクス〔カブト虫の雌?〕になったテラムボス〔本文ではケラムボス〕。
"c2".23.1
岩になったバットス。
"c2".24.1
同名の生き物〔蜥蜴〕になったアスカラボス。
"c2".25.1
彗星となったメーティオケーとメニッペー。
"c2".26.1
山彦になったヒュラース。
"c2".27.1
いわゆる安産の女神になったイーピゲネイア。
"c2".28.1
灼熱の金床になったテューポーン、鷹になったアポッローン、朱鷺になったヘルメース、鱗のある魚になったアレース、猫になったアルテミス、牡山羊になったディオニューソス、鷺になったヘーラクレース、牛になったヘーパイストス、トガリネズミになったレート(sic)。
"c2".29.1
イタチになったガリンティアス。
"c2".30.1
同名の樹木のニンフになったビブリス〔本文ではビュブリス〕。
"c2".31.1
樹木になったメッサピオイ人たち。
"c2".32.1
黒ポプラの樹になったドリュオペー。
"c2".33.1
死後、石になったアルクメーネー。
"c2".34.1
同名の樹木になったスミュルナー。
"c2".35.1
蛙になった牛飼いたち。
"c2".36.1
岩になったパンダレオス。
"c2".37.1
死後、鳥類となったディオメーデース麾下のドーリス人たち。
"c2".38.1
岩になった狼。
"c2".39.1
石になったアルシオネー。
"c2".40.1
アパイアーの木像になったブリトマルティス。
"c2".41.1
石になった狐と犬。


1."t".1
クテーシュッラ
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第3巻。]
1.1.1
 クテーシュッラは生まれはキオス女で、イウゥリス人アルキダマースの娘であった。これをアテーナイ人ヘルモカレースが、カルタイア市におけるピューテイア祭で、彼女がアポッローンの祭壇のまわりで合唱舞踏しているのを見て、彼女に欲心を抱き、リンゴに文字を書きつけて、アルテミスの神殿に投げ入れた。クテーシュッラは拾い上げ、読み上げた。

1.2.1
 書かれていたのは、「誓って、アテーナイ人ヘルモカレースに娶ってもらいます」という、アルテミスに対する誓いであった。クテーシュッラはといえば、恥ずかしがってリンゴを投げ捨て、腹立たしく思った。あたかも、アコンティオスがキュディッペーをたぶらかしたときのように。

1.3.1
 しかし、結婚を求めるヘルモカレースに、クテーシュッラの父親は承諾し、月桂樹に触れつつアポッローンに誓った。だがピューティア祭の時が過ぎると、アルキダマースは誓いをすっかり忘れて、娘を別の男と娶せようとした。

1.4.1
 娘子も、アルテミスの神殿で供犠した。そこで、ヘルモカレースは当て外れになったことに憤慨し、アルテミス神殿に駆け込んだ。娘子も、彼を見るや、神意により、恋に落ち、乳母を通じて申し合わせて、父の眼を逃れて、夜のうちにアテーナイへ出帆し、ヘルモカレースとの婚礼が祝われたのである。

1.5.1
 かくてクテーシュッラは子供を出産したが、産後の肥立ちが思わしくなく、命終したのが神意によるのは、彼女の父が誓いを偽ったからである。かくて、身体は運び出し、葬列をなして、運んでいったところ、その寝台から鳩が飛び立ち、クテーシュッラの身体は消失してしまった。

1.6.1
 神託をうかがったエルモカレースに神は、イウゥリスの地に同名の神殿プロディーテー・クテーシュッラ一の神殿を建立するようにと答えた。神はまた、ケオースの人々の地にも託宣した。かくして人々は今に至るも、イウゥリスの人々はアプロディーテー・クテーシュッラと名づけ、他の人々はクテーシュッラ・ヘカエルゲー〔「遠きより業をなす女神クテーシュッラ」〕と〔名づけて〕、供犠している。


2."t".1
メレアグロスの姉妹たち
2."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第3巻。]

2.1.1
 オイネウスは、アレースの子ポルテウスの息子で、リュドーンで王支配し、テスティオスの娘アルタイアーから、彼との間にもうけたのが、メレアグロス、ぺーレウス、アゲレオース、トクセウス、クリュメノス、ペリバース、娘たちとしては、ゴルゲー、エウリュメーデー、デーイアネイラ、メラニッペーであった。

2.2.1
 この地方のために初穂を供犠していた時、彼はアルテミスを失念した。女神は憤って野生の猪を送り込んだ。この猪は大地を荒らし、多くの人々を殺した。そこで、メレアグロスと、テスティオスの子どもたちは、猪成敗のために、ヘッラスから最も善勇の士たちを糾合し、彼らはやって来て、これを殺した。

2.3.1
 そこでメレアグロスは、これの肉を善勇の士たちに分配し、頭と皮を自分への褒賞として選びとった。だがアルテミスは、彼らが聖なる猪を殺したことで、なおいっそう憤り、彼らの間に諍いをひき起こした。すなわち、テスティオスの子どもたちと他のクーレーテス人たちが、懸賞の半分は自分たちのものであると主張して、毛皮に手をかけたのである。

2.4.1
 しかしメレアグロスが力ずくで奪い返し、テスティオスの子どもたちを殺してしまった。このことが原因となり、クーレーテス人たちとカリュドーンの人々との間に戦争が起こった。だがメレアグロスは戦争に進発しなかった。母親が、自分の兄弟を殺したせいで、彼を呪詛したことを咎めるためである。

2.5.1
 かくてクーレーテス人たちが都市を攻略せんとしたとき、妻クレオパトラーが、カリュドーンの人々を守るために、防衛するようメレアグロスを説得し、彼はクーレーテス勢に立ち向かったのであるが、自身は戦死した。母親が、モイラたちから彼女に授けられていた燃えさしの木に、火をつけたからであった。というのは、その木片が燃えている間だけ、彼は生きていることができると、〔モイラたちが〕紡いでいたからである。

2.6.1
 さらに、オイネウスの他の子どもたちも、戦って死んだ。だが、メレアグロスを失った悲しみは、カリュドーンの人々にとって最大のものであった。彼の姉妹たちは、墓のまわりで絶えず嘆き悲しみ、アルテミスが杖で彼女たちに触れて鳥に変えるまで、泣き止むことはなかったのである。アルテミスは彼女たちをレロス島へ送り、メレアグリデス〔メレアグロスの姉妹たち、あるいは七面鳥〕と名づけた。

2.7.1
 彼女たちは今に至るもなお、1年の中の時節になると、メレアグロスの死を悼んで嘆くと言われている。しかし姉妹たちのうち、ゴルゲーとデーイアネイラの二人は、ディオニューソスの好意により、変身しなかったと言い伝えられている。アルテミスが彼〔ディオニューソス〕に許したからであると。


3."t".1
ヒエラックス〔鷹〕
3."n".1
[記録しているのは、ボイオスが『鳥類の系譜』に。]
3.1.1
 ヒエラックスはマリアンデューノイ人たちの地に、義しく、めざましい人物として生まれた。この人物は、デーメーテールの神殿を建て、彼女の数々の収穫物を得た。

3.2.1
 しかし、テウクロイ人たちはポセイドーンには、定められた時にしか生贄を捧げることをせず、なげやりに捨て置いたので、ポセイドーンは機嫌をそこね、あの方〔デーメーテール〕の収穫物は腐敗させ、海からは、ものすごい海獣を彼らにけしかけた。

3.3.1
 テウクロイ人たちは海獣と飢えに耐えられず、ヒエラックスのもとに使いを遣って、飢えから救ってくれるようにと頼み、あの人物も、小麦も、その他の食糧も送って。

3.4.1
 するとポセイドーンが、自分の名誉を損なったとして憤り、烏に変えた。彼は今なおヒエラックス〔鷹〕と名づけられ、〔神は〕消滅させる際、その性格をも変えてしまった。というのは、人間どもに最も愛された人であったのを、鳥たちに最も嫌われる者となし、多くの人間どもが殺されることを防いだ人であったのを、最多の鳥たちを殺す者となさったのである。


4."t".1
クラガレウス
4."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第1巻、また、アタナダースが『アムブラキアー物語』に。] 4.1.1
 ドリュオプスの子クラガレウスは、ドリュオペス地方の地の、ヘーラクレースの温泉の傍に住んでいた。この泉は神話によると、ヘーラクレースが山の頂を棍棒で撲ったことで、噴出したものであるという。

4.2.1
 ところがこのクラガレウスは、すでに老齢であって、土地の人々には、義しく思慮深い人であると認められており、彼が牛を放牧しているところに、アポッローンとアルテミスとへーラクレースがやって来た。エーペイロスのアムブラキアー〔の領有〕について、裁定してもらうためである。

4.3.1
 そしてアポッローンはといえば、この都市は自分のものであるといった。その所以は、自分には息子メラネウスがいたが、ドリュオペス人たちを王支配し、戦いによってエーペイロス全土を獲得もし、他方、エウリュトスとアムブラキアースという子どもたちをもうけ、後者にちなんで都市はアムブラキアーと呼ばれるのである。また〔アポッローン〕自身も、このゆえにこの都市に最大の恩恵を与えている。

4.4.1
 例えば、自分が下知したおかげで、アムブラキア人たちとエーペイロス人たちとの間に起こった戦争に、シーシュポスの子孫〔コリントス人〕たちが前者の加勢に駆けつけたのであり、またキュプセロスの兄弟ゴルゴスが、コリントスからアムブラキアー国民を植民者として率いたのは、自分の神託によるのであり、また、この都市の僭主パライコスに、アムプラキアー人たちが反旗を翻し、これによって多数の者たちとパライコスと滅びたのは、自分の預言にしたがったからであり、総じて、この都市にきわめてしばしば内紛、反目、内乱をひき起こしはしたが、その代わり、良き秩序や掟、正義を作り込み、そのため今もなおアムプラキアー人たちのもとで、ピューティアに坐す救世主として、祝祭や厳粛な宴の際に崇められるのが自分なのであると。

4.5.1
 対してアルテミスは、アポッローンとの喧嘩はやめ、アムブラキアー領有はお互いの合意事項だと主張した。というのは、次のような理由で委託されたのだと。つまり、パライコスがこの都市を僭主支配していた時、恐れから誰ひとり彼を引きずり降ろすことができなかったが、自分が、狩りをしていたパライコスにライオンの仔を出現させ、これを手に抱きかかえたとたん、母ライオンを森から躍り出させ、襲いかかり、パライコスの胸を切り裂かせた。こうしてアムプラキア人たちは奴隷状態から逃れられたので、アルテミス・へーゲモネー〔嚮導者アルテミス〕を崇め、野山に狩りする女神の似像を作って、これに青銅の動物を添えたのだと。

4.6.1
 対してヘーラクレースは、アムブラキアーとエーベイロス全域が自分のものであることを証明しようとした。すなわち、自分に対してケライトイ人たち、カーオネス人たち、テスプロートイ人たち、並びにエーペイロスの全住民が戦争を仕掛けてきたのは、結託してゲーリュオネースの牛たちを奪いとろうとしたからだが、自分によって制覇されたが、それからしばらく後に、コリントスから移住してきた国民がアムプラキアーに住みつき、それ以前のアムブラキアーの植民者たちと共住した。

4.7.1
 だから、コリントス人たちはすべてヘーラクレースの末裔である、と。これらのことを聞き終わると、クラガレウスは、この都市はへーラクレースのものであると認めた。だがアポッローンは憤って彼〔クラガレウス〕に手を触れ、彼が立っていたその場で彼を岩に変えてしまった。そこでアムプラキア人たちは、アポッローンには救いの神として供犠し、都市はへーラクレースと、この人の子どもたちのものであると見なし、クラガレウスのためには、今日に至るまで、へーラクレースの祭りの後に、いけにえを供犠するのである。


5."t".1
アイギュピオス〔鷲〕
5."n".1
[記録しているのは、ボイオス『鳥類の系譜』の第1巻。]
5.1.1
 ノミオーンの子アンテウスには、アイギュピオスという子がいた。テッサリアー外れに住み、これを、敬神のゆえに神々が愛し、寛大で義人であったの人々も愛した。

5.2.1
 この人物が、ティマンドレーを見て恋に落ちた。彼女が夫に先立たれた身であると聞き知ると、彼は金銭で口説いて、その女の家へ通っては交わった。このことに対して、ティマンドレーの子ネオプローンは苦々しく思い(彼はアイギュピオスと同い年であったのだ)、アイギュピオスに策略を企むんだ。

5.3.1
 つまり、アイギュピオスの母ブーリスに多大な贈り物をし、口説いて、家に連れてきて、彼女と共寝したのである。しかも、アイギュピオスがティマンドレーのもとにいつも通ってくる刻限を予め調べておいて、自分の母親は口実をもうけてその刻限に家から出かけさせ、その代わりに、アイギュピオスの母親を、家に連れ込み、戻るからと彼女に〔言いおいて〕、両者〔自分の母とアイギュピオスの母と〕を欺いたのである。

5.4.1
 アイギュピオスはといえば、自分に対してネオプローンが企んだことは何ひとつ思いもよらず、ティマンドレーだと思って、〔自分の〕母と交わった。しかし、彼を眠りがとらえた時、ブーリスはそれが我が子と気付いた。そこで剣を取って、その者からは視力を奪い去り、自身は自殺することを望んだ。しかしアポッローンの配慮で、眠りがアイギュピオスを解放した。そして、ネオプローンが自分に対して企んだ為業を悟って、天を仰いで、自分もろともすべての者たちが消え失せてしまうようにと祈った。

5.5.1
 そこでゼウスは、〔彼らを〕烏類に変えることにし、アイギュピオスとネオプローンは同名の鷲類 — 色と大きさは等しくはないが、ネオプローンはより小型の鷲 — になり、またブーリスは、オサギ(pw:ugx)となり、ゼウスはこれに、大地に生えるものは何ひとつ餌として与えず、魚や鳥や蛇の眼を食することとしたのは、我が子アイギュピオスの視覚を奪おうとしたからである。他方、ティマンドレーはシジュウカラ(aijgiqallovn)にした。そしてこれらの鳥たちは、同じ場所に決して現れることはないのである。


6."t".1
ペリパース
6.1.1
 ペリパースは、ゲーの子ケクロプスが出現する以前に、アッティカの地に土地生え抜きの者として生まれた。この人物は、太古の人々を王支配し、義しく、富裕で、神法にかなった人で、きわめて数多くの犠牲式をアポッローンのために執り行い、きわめて数多くの裁きを下したため、彼を非難する者は誰ひとりなく、
6.2.1
すべての人々に自発的に選ばれてきた。そして、彼の業績があまりに卓越していたために、人間どもはゼウスに対する崇拝を変え、それをペリパースのものと認め、彼の神域や神殿を作り、〔彼のことを〕救い主ゼウスとか、すべてをみそなわすかたとか、寛大なるかたとか命名した。

6.3.1
 そこで、ゼウスは瞋恚し、ペリバースの家をすべて雷で焼き尽くそうと望んだが、アポッローンが彼を完全に破滅させることのないようにと懇願したので — 彼がアポッローンを格別に崇拝していたから — 、ゼウスはアポッローンにこれを許し、ベリバースの家に赴いて、妻と交わっていたのを取り押さえて、彼を両の手で押さえつけて、鷲という鳥類に変え、彼の妻の方は、自分もペリパースと同名の鳥にしてほしいと懇願したので、ペーネーに変えた。

6.4.1
 また、ペリパースには、人間界においての敬神に免じて、名誉を恵贈した。つまり、彼を鳥類界における王とし、聖なる錫杖を守り、自分の王座に近づくことを許したのである。またペリバースの妻には、人間界におけるあらゆる行為に対する吉兆として現れることを許したのであった。


7."t".1
アントス
7."n".1
[記録しているのは、ボイオス『鳥類の系譜』の第1巻。]
7.1.1
 メラネウスの子アウトノオスと、ヒッポダメイアとの間には、エローディオス、アントス、スコイネウス、アカントスと、娘アカンティスがいた。神々は彼女に最美の姿かたちを与えた。

7.2.1
 このアウトノオスは大群の馬を所有しており、これの妻ヒッポダメイアと、彼らの息子たちがそれらを放牧していた。

7.3.1
 アウトノオスは広大な土地も所有していたが、仕事を等閑にしていたので、何の実りもあらわれず、その土地は、イグサ(scojvnoV)スコイノス)やハアザミ(a[kanqa)をもたらし、これにちなんで子どもたちをアカントス、スコイネウス、アカンティス、そして、土地が<自分を>遠ざけるゆえに、長男をエローディオスと名づけたのであった。

7.4.1  このエローディオスは、馬たちをこよなく愛し、これらを牧場で飼育していた。ところが、アントノオスの子アントスが、馬たちを牧場から外へ追いたてたので、それらは食糧から締め出されて、アントスに襲いかかって、大声で神々に助けを求めるのを喰らい尽くしてしまった。

7.5.1  父親はといえば、悲嘆のあまり動転し、この子の従者も、馬たちを追い払うことをためらったが、母親の方は馬たちに立ち向かったが、体力の弱さゆえに、破滅から護ってやることはできなかった。

7.6.1
 このようにして死んでしまったアントスをあの者たちが嘆き悲しんでいると、ゼウスとアポッローンか憐れんで、彼ら全員を鳥類にしてやった。アウトノオスは、アントスの父親として馬たちを追い払うことをためらったので、サンカノゴイ(o[knoV)〔ギリシア語ではajsterivaVホシサギ(HA 617a5)ともいう〕に、母親は、子どものために馬たちと戦おうとして威嚇したので、カンムリヒバリ(korudovV)に。

7.7.1
 アントスその人と、エローディオス、スコイネウス、アカンティスも鳥類になり、彼らが変わる前にも名づけられていたのと同じ名で呼ばれさせた〔ajkanqivVはHA 616b31。「アザミドリ」の意〕。アントスの守り役は、この子の兄弟と同類の、しかし同種ではない鷺(ejrw/diovV)にした。というのは、暗い色のものよりもはるかに小型であり、この鷺がアントス〔セキレイ?〕と集まって住むことがないのは、アントス〔セキレイ?〕が馬とそうしないのと同じである。アントス〔人名〕が馬たちによって最大の災悪ををこうむったからである。

7.8.1
 今もなお、馬が鳴くのを聞きつけると、真似しつつ、その声と同時に逃げてゆく。


8."t".1
ラミアー、あるいは、シュパリス
8."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第4巻。]
8.1.1
 パルナッソスの峰の南側のふもと、クリーサの町の近くに、キルピスと呼ばれる山があり、ここには今でも巨大な洞窟があるが、ここに並はずれて大きな獣が棲んでいて、これをラミアーと、またある者たちはシュパリスと名づけていた。

8.2.1
 この獣は、毎日、通ってきては、田園から家畜や人間たちをひっさらっていた。そこで、デルポイ人たちはもはや移住を相談し、いずこの他に達すべきか、神託をうかがったところ、神は、この災禍からのまぬがれ方を告げた。もしとどまって、市民たちの中から一人の少年を洞窟の傍に供えるなら、と。

8.3.1
 そこであの人たちは、神が云ったとおりのことを実行することにした。そこで籤引きをしたところ、ディオモスとメガネイレーの子アルキュオネウスが当籤した。父にとってひとり息子であり、見た目にも、心ばえも美しい少年であった。

8.4.1
 かくて神官たちは、アルキュオネウスに花冠をかぶせ、シュバリスの洞窟へと連れていったが、神意によって、エウペーモスの子エウリュバトス — 生まれはアクシオス河の血を引き、若くて気高いのが、神意によってか、クーレーティスを去り、引かれゆく子どもに出くわした。

8.5.1
 <そして>恋情に撃たれ、いかなる理由で行列しているのか問いただし、力にかけて護ることもできず、子どもが惨めに亡き者にされるのを見過ごすことをむごいことと思った。

8.6.1
 そこで、アルキュオネウスから花冠を奪い取って、自分が頭に載せ、子の代わりに自分を連れてゆくようにと命じた。そこで神官たちがエウリュパトスを連れてゆくと、駈けこんで、シュバリスを寝床から引っつかんで、陽光のもとに引きずり出し、断崖から投げ落とした。

8.7.1
 彼女〔ラミアー〕は転がり落ち、てクリーサの山麓に頭をぶつけた。そして彼女はこの傷のせいで消し、その岩からは泉が湧き出し、これを土地の人々はシュバリスと呼んでいる。この由縁で、ロクロイ人たちもイタリアに都市シュバリスを建設した。


9."t".1
エーマティス〔エーマティア地方の女〕たち
9."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第4巻。]
9.1.1
 ゼウスはピーエリアーでムネーモシュネーと交わってムーサたちをもうけた。この頃、エーマティアを王支配していたのは、土地生え抜きのピーエロスで、彼には娘が9人おり、この者たちはムーサたちに対抗して、合唱舞踏隊を結成し、ヘリコーン山上で音楽の競い合いをすることになった。

9.2.1
 さて、ピーエロスの娘たちが歌った時には、すべてがはっきり聞こえず、合唱舞踊に耳を傾けるものはなかったが、ムーサたちによっては、天、星、海、川は立ちつくし、ヘリコーン山は、快さに魅せられて天まで増大し、ついに、ポセイドーンのはからいで、ペーガソスが蹄でこれを叩いて止めるまでになった。

9.3.1
 死すべき身でありながら女神たちに喧嘩をふっかけたゆえ、ムーサたちは彼女たちを変え、エーマティアの女たちを九羽の鳥となし、今日でもなお人間どもからカイツブリ(kolumbavV)、アリスイ(i[ugx)、ホオジロ(kgcrivV)、カケス(kivssa)、アオカワラヒワ(clwrivV)、ゴシキヒワ(ajkalanqivV)、アヒル(nh:ssa)、キツツキ(pipwv)、ヘビバト(drakontivV)と名づけられている。


10."t".1
ミニュアースの娘たち
10."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第4巻と、コリンナが。]
10.1.1
 オルコメノスの子ミニュアースには、レウキッペー、アルシッペー、アルカトエーという娘たちがおり、彼女たちは勤勉さにおいて並外れていた。さればこそ、他の女たちが都市を後にし、山中でパッコスの秘儀を行うことをいつも非難していた。ついにデイオニューソスが、乙女に身をやつし、神の入信儀式や秘儀をなおざりにすることのないようにと、彼女たちに忠告する仕儀となった。

10.2.1
 だが、彼女たちは耳をかさなかった。これにはディオニューソスもさすがに立腹して、乙女の代わりに牡牛となり、ライオンとなり、ヒョウとなり、機織り機の横木から彼のためにネクタルと乳が流れ出た。

10.3.1
 この徴には乙女たちも恐怖に襲われた。そこで多日を経ずして三人は容器の中に籤を入れて振った。すると籤はレウキッペーに当たったので、彼女が神に犠牲を捧げると祈り、自分の子ヒッパソスを姉妹たちといっしょに引き裂いた。

10.4.1
 かくて父の家を後にし、山中でパッコスの秘儀を行い、ツタやイチイや月桂樹を食物とし、ついには、ヘルメースが杖で彼女たちに触れ、鳥類に変え、一人はコウモリに、一人はフクロウに、一人はワシミミズクとなった。かくて、三者は太陽の光を避けるのである。


11."t".1
夜啼き鶯
11."n".1
[記録しているのは、ボイオスが『鳥類の系譜』に。]
11.1.1
 パンダレオースは、エベソスの地の、町はずれの岬に住んでいた。これにデーメーテールが贈り物として与えたのは、どれほど多く摂取しようとも、食べ物によって胃が重くなることがないというものであった。

11.2.1
 ところで、パンダレオースには、娘アエードーンがいた。これを大工ポリュテクノスが娶った。これはリューディアーのコロポーンに住んでいた男だが、彼らは久しい間、いっしょに住んでお互い喜びにみたされていた。彼らには、ひとり息子のイテュスがいた。

11.3.1
 さて、神々を敬っている間は、彼らは幸福であった。ところが、へーラーとゼウスよりもはるかに深く愛し合っていると、つまらぬ言を言い放ったばかりに、ヘーラーがこの言葉を聞きとがめ、彼らにエリス〔「争い」〕をさし遣わした。かくて彼女〔エリス〕は仕事に諍いを投げこんだ。つまり、ポリュテクノスは小型戦車の底板をもう少しで仕上げるところであり、アエードーンは織り布を織りあげるところであったが、どちらか先に仕事を終えた者に、召し使い女が相手からもらう、という申し合わせをした。

11.4.1
 そしてアエードーンの方が先に布を織りあげることができた(へーラーが彼女に加勢したから)ので、ポリュテクノスはアエードーンの勝利に腹を立て、パンダレオースのところに赴き、アエードーンに、自分の妹ケリドーンを連れてくるようにと遣わされたふりをし、パンダレオースも何も疑わず、連れてゆくことを許した。

11.5.1
 ポリュテクノスは乙女を引き取ると、林の中で彼女を凌辱し、別の衣裳を彼女にまとわせ、頭の房毛を切り落として、もしこれらのことをいつかアエードーンに口外したら殺す、と脅した。

11.6.1
 かくして彼は家に帰ると、申し合わせどおり、アエードーンに妹を侍女として引き渡し、前者は彼女を仕事でくたくたにさせ、ついに、ケリドーンが井戸の傍で水差しを抱えてしきりに嘆き悲しんでいると、その言葉をアエードーンが聞きつけた。そこで彼女らはお互いを認知しあい、抱き合い、ポリュテクノスにわざわいを策謀した。

11.7.1
 そこで彼女らは子どものイテュスを切り刻み、その肉を鍋に入れて、これは火にかけ、アエードーンは、その肉の御馳走になるようポリュテクノスに云うよう、自分の隣人に謂ったうえで、妹と共に、父パンダレオースのもとに逃げ、どれほどの禍いに遭ったかを明らかにした。他方、ポリュテクノスは、わが子の肉を御馳走になったと知るや、彼女たちを追い、その父親ところまで追いかけてきて、パンダレオースの召し使いたちがこれを捕まえて、逃げられないように鎖で縛ったのは、彼がパンダレオースの家に対して暴虐の限りを尽くしたからで、彼らは身体には蜂蜜を塗り、羊の群れの中に投げこんだ。

11.8.1
 すると、ポリュテクノスの身体に蝿たちがたかり、彼を苦しめたが、アエードーンは、かつての愛情から哀れをもよおし、ポリュテクノスのまわりから蝿を追い払ってやった。これを両親と兄が見て、憎んで、殺そうと企てた。

11.9.1
 そこでゼウスは、憐れんで、パンダレオースの家に更に大きな禍いがふりかかる前に、すべての者たちを鳥にしてやった。彼らのある者たちは、海まで飛んでゆき、またある者たちは空へと〔飛ぴ去った〕。こうしてパンダレオースはオジロワシ、アエードーンの母はカワセミとなり、かれらはすぐに海に身を投げることを望んだが、ゼウスがそれを押し止めた。

11.10.1
 これらの鳥たちは、船人たちにとって、吉兆とみられる。幸先良い前兆となった。またポリュテクノスが変身してキツツキとなったのは、ヘーパイストスが大工である彼に斧を与えていたからである。そしてこの鳥もまた、大工にとって善いものとみられるものとなった。アエードーンの兄はヤツガシラとなり、現れると、航海する者たちにとっても、陸地をゆく者たちにとっても吉兆となったが、オジロワシやカワセミといっしょに現れる時は、一層そうなった。

11.11.1
 アエードーンとケリドーンはといえば、前者は川辺や林で、わが子イテュスを悼み、ケリドーン〔燕〕は、アルテミスのはからいで、人間たちといっしょに住むものとなった所以は、やむをえず処女を棄てることになった時、しきりにアルテミスに救いを求めたからである。


12."t".1
キュクノス〔白鳥〕

12."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第3巻と、ラコーニア人のアレウスが『白鳥の歌』に。]
12.1.1
 キュクノスは、アポッローンと、アンピノモスの娘テュリエーとの子であった。この人は、見た目に恰好のよい人であったが、性格は下品で粗野であり、狩りに並々ならぬ名誉愛をもっていた。住んでいたのは、レウローンとカリュドーンの中間あたりの田舎だった。そして、多くの男たちがその美しさゆえに彼の愛者となっていた。

12.2.1
 しかしキュクノスはその倣慢さゆえに、彼らの誰とも親密になろうとしなかった。それで、たちまちのうちに他の愛者たちからは見捨てられたが、ピューリオスひとりは、彼のもとにとどまった。しかしかれはこのピューリオスに対しても、度をこえて暴慢であった。というのは、この頃、アイトーリアー人たちの間にライイオンの巨大なのが現れて、こいつが彼ら〔アイトーリアー人たち〕や家畜を荒らしまわった。

12.3.1
 するとキュクノスは、ピューリオスに、武器なしにこれを殺すようにと申しつけ、相手もまた請け合い、次のような仕掛けで亡きものにした。いかなる刻限にライオンが通ってくるかを知ると、大量の食い物とぶどう酒で胃を満たし、そして野獣が近寄ってくるや、ピューリオスは食物を吐き出した。

12.4.1
 するとライオンは、空腹のせいで、そういう食事をし、ぶどう酒のせいでぼんやりしてしまい、ピューリオスの方は、腕をからめて、自分がまとっていた衣服でライオンの口をふさいだ。こうしてこれを亡きものにすると、肩にかつぎ、キュクノスのもとに運んでゆき、この快挙に多くの人々から喝采をあびた。

12.5.1
 ところがキュクノスは、別のもっと奇態な懸賞を課した。すなわち、この地方には、バゲワン — この上もなく大きなものだった — がおり、多くの人々を殺していた。これらを、どんな工夫をしてでも、生けたまま捕らえ、そのうえ連れ帰るよういいつけたのである。

12.6.1
 このいいつけに行き詰まっていたピューリオスに、神慮によってか、鷲が兎をさらい、半死になのを、わが家に持ち帰る前に、落とした。そこで、ピューリオスはその兎を切り裂き、その血で我が身を血だらけにし、大地に横たわった。すると鳥どもは、死体だと思って襲いかかったが、ピューリオスは二羽の脚くびを押さえつけて、捕まえると、取り押さえて、キュクノスのもとに連れ帰った。

12.7.1
 ところが相手は、三番目のもっと困難な懸賞を言いつけた。つまり、田園から牡牛を素手でつかまえて、ゼウスの祭壇まで連れてくるようにと命じたのである。しかしピューリオスは、この言いつけに対してどうすべきか術なく、自分をたすけてくれるようへーラクレース祈った。すると、この祈りに応えて、二頭の牡牛が現れ、一頭の牝牛をめぐって猛り狂い、角で互いに突き合いつつ、地に倒れた。そこでピューリオスは、それらが弱ってしまったので、別の一頭の脚をとらえ、祭壇まで連れてゆき、そこでヘーラクレースの望みにより、子の言いつけは無視することに〔したのだった〕。

12.8.1
 思いがけず名誉をそこなわれたキュクノスにとっては、恐るべきことであった。彼は落胆して、絶望し、コーノーペーと言われる湖に身を投げ、姿を消してしまった。彼の死に対しては、母テュリエーも同じ湖に身を投げたが、アポッローンの望みにより、両者とも湖の鳥となった。

12.9.1
 かくて彼らが姿を消した後、その湖は変名され、白鳥の湖(Kukneivh)と呼ばれ、耕作の時節にはこの湖に多くの白鳥が現れる。さらにピューリオスの墓も近くにある。


13."t".1
アスパリス
13."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第2巻。]
13.1.
 ゼウスと、ニンフのオトレーイスとの子がメリテウスであった。これの母は、ゼウスが自分と交わったことで、ヘーラーに対する恐れから、〔この子を〕森に置き去りにした。しかし子は、ゼウスの望みにより、消え去ることなく、蜜蜂に育てられて成長した。ところが、羊を放牧していたパグロスがこれに出くわした。彼はアポッローンとニンフのオトレーイスとの子で、彼女こそ、森でわが子メリテウスを生んだ当人であった。

13.2.1
 さて〔パグロスはその子の〕身体の大きさ驚き、蜂たちになお一層驚いて、拾いあげ、家へ連れ帰り、蜜蜂たちに育てられたゆえに、これにメリテウス〔蜜蜂の男〕と名付け、大いに熱心に養育した。<というのは>、次のような神託も彼に下されていたからである。その中で神はかつて云った、彼が生まれを同じくし、蜜蜂たちによって育てられた者を救うことになろう、と。

13.3.1
 さて、その子はたちまち成人するや、高貴な男となり、大方の周住民を支配し、プティーアーに都市を建設してメリテーと命名した。〔後代になって〕このメリテーに、乱暴で倣慢な僭主がうまれ、これを土地の人たちは名を呼ぶこともしなかったが、外国人たちによってはタルタロスと呼ばれていた。こやつは、住民の中に誰か美しさで評判の処女がいると、これを連れ去り、婚礼の前に暴力で交わるのだった。

13.4.1
 そういう次第で、ある時、並みの人ならぬ身分のアルガイオスの娘アスパリスを連れてくるようにと告げた。娘子は、言葉があったと聞くや、連れ出そうとする者たちが到着する前に、自分で首をくくった。この行為がまだ評判になる前に、アスパリスの兄アステュギテースは、妹の身体を引き下ろすよりも前に、僭主に仇を討つことを誓った。

13.5.1
 そこで、アスパリスの衣服をすばやく身にまとい、剣を左の脇に隠し持ったが、子どもっぽかったので、見張りの眼に気づかれなかった。こうして館に入ると、〔武装もせず〕裸同然で、警護の者もついていない僭主を殺害した。

13.6.1
 メリテー人たちは、アステュギテースには花冠をかぶせ、パイアーンを歌いながら行列し、僭主の死体は川へ投じて沈めた。この時以来、今もなお、〔人々は〕この川をタルタロス川と呼んでいる。ところで、アスパリスの身体はといえば、丁重に埋葬すべく、八方手を尽くして探したが、見つけることができなかった。いや、これは神意によって消え去ったからで、身体の代わりには、アルテミス像の傍に木像が現れた。

13.7.1
 この木像は、土地の人々から、スパリス・アメイレーテー・ヘカエルゲー〔「遠きより業をなす女神アスパリス・アメイレーテー」の意〕と名づけられた。毎年、処女たちがこれに、交尾したことのない若い牝山羊を吊すことになっているのは、アスパリスも処女のままみずから首をくくったからである。


14."t".1
ムーニコス
14."n".1
[(記録なし)]
14.1.1
 ドリュアースの子ムーニコスはモロッソイ人たちを王支配し、善き占卜者にして義しい人であった。子どもたちは、妻レーランテーから、自分よりすぐれた占卜者アルカンドロスと、メガレートール、ピライオス、そして娘ヒュペリッペーをもうけた。

14.2.1
 これらの人たちを、すべて善にして義なる人々であったので、神々は愛していた。ある夜、彼らを盗賊たちが田園に襲い、覗彼らが野原にいた時に盗賊たちがやってきて、彼らをつかまえようとしたので、彼らは塔の上から(連中と対等に戦うことができなかったので)射出・投擲攻撃をし、盗人たちは家に火を放った。しかしゼウスは、敬虔深さ故に、彼らが悲惨な死に方で命終するを看過できず、彼ら全員を鳥類に変えてやった。

14.3.1
 ヒュペリッペーは、火を逃れるため水の中に飛び込んだので、ミズナギドリとなった。その他の者たちは、火の中から飛び立ち、ムーニコスは,ノスリとなり、アルカンドロスはミソサザイとなった。メガレートールとピライオスは、火を逃れようと地面に沿って壁にもぐりこんだので、二羽の小さな鳥となった。その中のひとり〔メガレートール〕はイタチ鳥になり、ピライオスは犬鳥と名づけられた。

14.4.1
 彼らの母親は小蟻をついばむキツツキ〔キバシリ〕になった。これは鷲や蒼鷺に敵対的である。というのは、小蟻を求めて樹木を叩く時、それらの卵を壊すからである。その他の者たちは、森や巣穴に住んで、仲が良いが、ミズナギドリは、湖や海辺にいる。


15."t".1
メロピス
15."n".1
[記録しているのは、ボイオス『鳥類の系譜』の第1巻。]
15.1.1
 メロプスの子エウメーロスには、高慢で横暴な子どもたち、ビュッサ、メロピスと、アグローンがいた。そしてコース人たちのメロピス島に住んでいたが、大地が豊かな収穫物を彼らにもたらしていたのは、神々の中でただ彼女〔大地の女神〕だけを崇拝し、これを熱心に耕していたからだった。

15.2.1
 こいつらは、人間の誰とも交際することなく、厳粛な宴や神々の祝祭であっても、町に出かけることもなく、誰かがアテーナーに犠牲式を執り行うために乙女たちを招待すると、兄が招待を断って、自分たちの乙女たちは黒い眼をしているので、緑色の眼をした女神など好きになれないし、と彼は謂った、フクロウなど大嫌いである、と。また、アルテミスの祭に招待すると、夜毎に通いくるような神を、と彼は言った、憎んでいる、と。また、ヘルメースへの献酒の儀式に〔招待される〕と、盗人の神を崇拝しない、と言ったのである。

15.3.1
 このように、彼らはできるかぎりしばしば愚弄していたのだが、ヘルメースとアテーナーとアルテミスは苦々しく思い、ある夜、彼らの家に現れたが、アテーナーとアルテミスは乙女に似せ、ヘルメースは羊飼いの衣服をまとっていた。そして〔ヘルメースは〕父エウメーロスとアグローンに語りかけ、御馳走に同席するよう促した。つまり、他の羊飼いらと共にヘルメースに犠牲を捧げるから、と。また、ビュッサとメロピスをば、アテーナーとアルテミスの杜に集まっている同輩たちのもとへと送り出すようにと説得した。

15.4.1
 これこそ、ヘルメースが云った内容である。しかるにメロピスが、聞くや、アテーナーの名前を目して侮辱した、そこで彼女〔アテーナー〕はこれを小さな鳥のフクロウにした。ビュッサの方は、同じ名前で言われる、つまり、レウコテアー〔「白い女神」の意〕の鳥である。アグローンは、聞き知るや、鉄串をつかんで走り出たが、ヘルメースはこれをチドリにした。エウメーロスは、自分の息子を変身させたことでヘルメースを詰ると、彼〔ヘルメース〕はこれをも凶事を告げる夜がらすにした。


16."t".1
オイノエー
16."n".1
[記録しているのは、ボイオス『鳥類の系譜』の第2巻。]
16.1.1
 ピュグマイオイ人と言われる人々の中に、名をオイノエーという娘子がいた、形姿は非のうちどころがなかったが、性格は卑しく、高慢であった。この女には、アルテミスに対してはもちろん、ヘーラーに対しても何ひとつ関心がなかった。

16.2.1
 しかし、市民のひとり、わきまえもあり度量もあるニーコダマースに娶られた、モプソスという子を生んだ。そして彼女には、あらゆるピュグマイオイ人たちが、誼から、子の誕生を祝って多くの贈り物を持参した。しかし、ヘーラーは、自分を崇拝しなかったことで、オイノエーを咎め、これを鶴にし、頸を長くひきのばし、空高く飛ぶ鳥であることを示し、彼女とピュグマイオイ人との間に争いを引き起こさせた。

16.3.1
 しかし、オイノエーは、わが子モプソスに対する愛慕から、家のまわりを飛びまわってやめなかったので、ピュグマイオイ人たちは皆が武装してこれを追い払おうとした。このことから、今もなお、ピュグマイオイ人たちと鶴たちとの間に戦いが続いているのである。


17."t".1
レウキッポス
17."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第2巻。]
17.1.1
 スバルトーンの子エウリュティオスの娘子ガラテイアは、クレータ島のバイストスで、パンディーオーンの子ラムプロスに娶られた。夫は、生まれの点では家柄がよかったが、生活〔の資〕には事欠いていた。

17.2.1
 この人は、ガラテイアが身ごもった時、自分に男の子が生まれることを祈願し、妻には、もし乙女を生んだら、消すよう言いつけた。そしてこの人物は、出かけて羊たちを放牧し、ガラテイアには娘が生まれた。

17.3.1
 しかし彼女は赤ん坊を不閣に思い、人家のないことを思量し、なおそのうえに、乙女を男児として育てあげるようにというお告げがあった夢や占いが味方したので、ラムプロスには男児を出産したと言って嘘をつき、レウキッポスと名付けて、男児として育てあげた。

17.4.1
 しかし、乙女は成長し、美しさはいうにいえぬほどになったので、もはや隠しとおすことができないと、ガラテイアはラムプロスを恐れて、レートーの神殿へ逃れ、何とか自分の女の子が娘に代わって少年になることはできまいかと、しきりに女神〔レートー〕に嘆願した。ちょうど、アトラックスの娘カイニスが、ポセイドーンのはからいにより、ラピタイ人カイネウスになったように、と。

17.5.1
 ところでテイレシアースが、男から女になったのは、三叉路で交尾をしていた蛇に出くわして殺したからで、今度は女から男になったのは、〔***後に別の蛇を殺した***〕ためである。さらにまた、ヒュペルメーストラーは、女性として身を売っては対価を得、男性となっては、父親アイトーンに糧を運んだという。さらにまたクレータ人シプロイテースも〔女に〕変身したが、その所以は、狩りをしていた時にアルテミスが泳浴しているのを見たためという。

17.6.1
 レートーはといえば、嘆きつづけ、嘆願しつづけ、ガラテイアを哀れと思い、子どもの自然を少年に変えた。この変身を記憶にとどめるために、パイストス人たちは今もなお、「ピューティエー・レートー」〔「生成の神レートー」の意〕 — これこそ乙女に男根を生えさせたお方 — に傾倒し、その祝祭をエクデューシア〔「脱ぎ捨ての祭り」〕と呼ぶのは、少女がペプロス〔少女の着る衣服〕を脱ぎ捨てたからである。また、婚礼の際に、真っ先にレウキッボスの像の傍にもたれるのが習わしである。


18."t".1
ヘーロポス〔ハチクイドリ〕
18."n".1
[記録しているのは、ボイオス『鳥類の系譜』の第2巻。]
18.1.1
 エウグノートスの子エウメーロスは、ボイオーティアー地方のテーパイに住み、彼にはボトレースという名の子がいた。この人物〔エウメーロス〕は、アポッローンを大いに崇拝していた。

18.2.1
 ある時、彼が供犠していると、子のボトレースがそばにやってきて、祭壇に捧げる前に、牡羊の脳味噌を御馳走になってしまった。すると、何が起こったかを知ってエウメーロスは腹立ちまぎれに、祭壇から松明を取り、彼〔息子〕の頭を打ち叩いた。すると子は、血を流して倒れ、身悶えした。

18.3.1
 母親はこれを見るや、父親も召し使いたちも、大きな悲しみに打たれた。そこで、アポッローンが憐れんで、これをエウメーロスが崇拝していたからだが、その子をハチクイドリにし、この鳥は今もなお地中に産卵し、いつもせわしなく飛びまわる。


19."t".1
ポーレス〔盗賊たち〕
19."n".1
[記録しているのは、ボイオス『鳥類の系譜』の第2巻。]
19.1.1
 クレータ島には、蜜蜂たちの棲む聖なる洞穴があると言われており、その中でレアーはゼウスを出産したと神話されており、神も死すべき者も、誰ひとり近付くことのない聖なるところである。毎年、定められた時に、大いなる火がその洞窟から輝き出すのが見られる。

19.2.1
 神話では、それが起こるのは、ゼウス誕生の際に流された血が沸き立つ時だという。洞穴を領有しているのは、聖なる蜜蜂たち、つまりゼウスの養い親たちである。大胆にもここに近づき、ラーイオス、ケレオス、ケルベロス、アイゴーリオスらは、多量の蜂蜜を採取しようとした。そして、身体中を完全に青銅を身につけ、蜜蜂たちの蜂蜜を採取しようとしたが、ゼウスの産着を目にするや、彼らの身体にまとっていた青銅が粉微塵になった。

19.3.1
 かたや、ゼウスは雷鳴を轟かせ、雷霆を投げつけようとしたが、モイラたちとテミスが押し止めた。その場で死ねば、神聖ならざる所はどこもなくなるからである。かくて連中から占いの鳥の種族が生まれた、青ツグミ、緑キツツキ()、ケルベロス、アイゴーリオスがそれである。姿を現せば吉兆であり、その他の鳥たちに比して念願成就するのは、彼らはゼウスの血を見たからである。


20."t".1
クレイニス
20."n".1
[記録しているのは、ボイオス第2巻と、ロドス人シミアースが『アポッローン』に。]
20.1.1
 いわゆるメソポタミアーの都市バビュローン近郊に、名をクレイニスという神を愛し裕福な男が住んでいた。彼は多くの牛、ロパ、羊を所有していた。この人物をこよなく愛したのが、アポッローンとアルテミスで、できるかぎりしばしば、これらの神といっしょに、ヒュペルボレオイ人たちのところにあるアポッローンの神殿に出かけてゆき、驢馬の供犠が彼〔アポッローン〕に捧げられるのを目にしたものだった。

20.2.1
 そしてバビュローンにもどってくると、自分も、ヒュペルボレオイ人たちと同様、この神に犠牲を捧げることを望み、驢馬百頭を祭壇に供えようとした。するとアポッローンが降臨して、もしその供犠をやめなければ、彼を殺すと脅し、これまでどおり、山羊や羊や牛を自分に犠牲に捧げさせたのである。

20.3.1
 というのは、驢馬たちの供犠は、ヒュペルボレオイ人のもとで執り行われる場合に限って、自分〔アポッローン〕にとって快いというのであった。クレイニスも、この威嚇を恐れて、祭壇から驢馬たちを追い払い、自分が聞いた言葉を、わが子たちに告げた。彼にはリュキオス、ハルパソスと、アルテミケーという娘がいた。ハルペーによってもうけた子どもたちであった。

20.4.1
 さて、リュキオスとハルパソスは、聞いたものの、驢馬たちを犠牲に捧げて、祝祭を愉しもうとそそのかしたが、オルテュギオスとアルテミケーは、アポッローンに聴従するよう勧め、クレイニスはむしろ後者に従ったので、ハルパソスとリュキオスは、力ずくで、驢馬を綱から解き放ち、祭壇の方へと追いたてた。

20.5.1
 そこでアポッローンが、驢馬たちに狂気を送り込んだ。すると、彼ら〔驢馬たち〕は子どもたちや彼らの召し使いたち、そしてクレイニスをも喰らいつくした。破滅しつつ彼らは神々に助けを求めた。そこで、ハルペーとハルパソスを憐れんだのがポセイドーンで、彼らを同じ名前で言われる鳥〔前者はミズナギドリ、後者は不明〕にし、レートーとアルテミスが、クレイニスとアルテミケーとオルテュギオを助けてやることに決めたのは、彼らが不敬行為に責任がなかったからである。

20.6.1
 そこでアポッローンは、レートーとアルテミスにその恩恵を認め、心変わりして、死ぬ前に全員を鳥にした。こうしてクレイニスはオジロワシとなった。これは、鳥類の中でも鷲に次ぐ第二の鳥で、判別は難しくない。というのは、一方は子鹿殺しであって、大きく、勇敢で、黒色であるが、クロワシの方は、前者よりもより黒く、より小さいからである。

20.7.1
 リュキオスはといえば、変身して色の白いカラスとなったが、アポッローンのはからいで、もう一度変わって黒色となったのは、プレギュアースの娘コローニスがアルキュオネウスに娶られたことを最初に報告したからである。

20.8.1
 アルテミケーはといえば、神々にも人にも愛される鳥、ピピンクス〔ヒバリの1種?〕となった。オルテュギオスがシジュウカラとなったのは、驢馬たちの代わりに山羊をアポッローンの犠牲に捧げるよう父クレイニスを説き伏せたからである。


21."t".1
ポリュポンテー
21."n".1
[記録しているのは、ボイオス『鳥類の系譜』の第2巻。]
21.1.1
 ストリューモーンの娘テレイネーとアレースとの間に娘トラーサがいた。これを娶ったのがトリバッロスの子ヒッポノオスで、彼らに名をポリュポンテーという娘が生まれた。彼女は、アプロディーテーの業はないがしろにし、山に赴いて、アルテミスの遊び友だち、馴染み友だちとなった。

21.2.1
 そこでアプロディーテーは、自分の業を〔ポリュポンテーが〕侮辱したので、熊に対する恋情をうえこみ、被女を狂わせた。かくて彼女は、ダイモーンにより狂い悶え、熊と交わった。すると彼女をアルテミスが見て、ひどく嫌悪し、あらゆる獣を彼女に立ち向かわせた。

21.3.1
 そこで、ポリュポンテーは、獣たちが自分を御陀仏にするのではないかと恐れて、逃れ、父の館に辿り着いた。そして、アグリオスとオレイオスという二人の、とても大きくて、はかりしれない能力を持った子を生んだ。この者たちは、神をも人をも敬わず、あらゆるものをないがしろにし、外国の人に出会っても、家に連れこんで食べてしまうのであった。

21.4.1
 そこでゼウスは彼らを憎み、ヘルメースを遣わした。思うがままの罰を与えるようにとである。そこでヘルメースは、彼らの足と手を切断してやろうと図った。しかし、アレースが、ポリュポンテーの生まれが自分に溯るものだから、この運命からは子どもたちを救い出してやった。しかし、へルメースとともに、彼らの自然本性を鳥類にに変えることにした。

21.5.1
 かくて、一方、ポリュポンテーはコノハズクになった — 夜、食べることも飲むこともせずに鳴き、頭を下、足の先を上に保って、人間たちにとって戦争や内紛の使者に。他方、オレイオスの方はラゴース〔ミミズク?〕になった。いかなる吉兆にも現れない鳥に。アグリオスの方は、禿鷲に変身した。あらゆる鳥たちの中で、神々にも人間たちにも最も嫌われる鳥に。〔神々は〕人間の肉や血に対する絶えざる渇望をこれにうえつけたのである。

21.6.1
 また、彼らの召し使い女をキツツキにしたのだが、彼女は自然本性を変える際、人間たちにとって悪い鳥にならないようにと神々に祈った。そこでヘルメースとアレースが彼女のいうことを聞いたのは、彼女は主人たちがいいつけたことをやむをえずしたのだからである。この鳥こそは、狩りや食事に出かける者にとっての吉兆である。


22."t".1
ケラムボス
22."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロスが『別物となった者たち』の第1巻に。]
22.1.1
 ポセイドーンと、オトリュス地方のニンフであるエイドテアーとのが子エウセイロスで、その子ケラムボスは、オトリュス山の麓メーリエース人たちの地に住んでいた。彼には多くの羊がおり、これを自分で放牧していた。

22.2.1
 ニンフたちが彼の手助けをしたのは、山で歌を聞かせて彼女たちを楽しませていたからである。というのは、当時の人たちの中で最高の歌い手であり、牧歌において名声を博し、山中で羊飼いの笛を組み立て、人間界で最初に竪琴を用いて、最多・最美の歌を作曲したと言われている。

22.3.1
 だから、こういったことのおかげで、ひとの言うところでは、ある時ニンフたちが彼に見えるようになり、ケラムボスの弾奏に応じて合唱舞踏し、一方、パーンは、好意から、彼にこう伝言したという。オトリュス山を去り、平野で羊を飼うべし、というのは、相当猛烈で信じ難いような冬が襲来しようから、と。

22.4.1
 しかしケラムボスは、若さに由来する自負から、神に打たれたように、オトリュス山から平野へ羊たちを追うことはすまいと決心し、他方、無礼で無思慮な言葉をニンフたちに投げつけた。つまり、〔彼女たちの〕生まれはゼウスの血を引くのではなく、デイノーがスペルケイオスに彼女らを生んだのであり、ポセイドーンは彼女らの1人ディオパトラーに対する欲情によって、〔ディオパトラーの〕姉妹に根を生えさせて、黒ポプラにしてしまった、自分が飽きて臥所から去り、彼女らにもう一度元の自然本性を授けるまで、と。

22.5.1
 ケラムボスがニンフたちに向かって嘲弄したのは、以上のようなことであった。しかし、間もなく、突然、霜が降り、谷川が凍りつき、大雪が降って、ケラムボスの牧羊も、小径や樹木もろとも消えてしまった。ニンフたちはといえば、自分たちを罵ったケラムボスに対する怒りから心変わりし、[腐れ木を食べて生きる]カミキリ虫(keravmbux)になった。

22.6.1  で、〔この虫は〕木材の上に見つけられ、かぎ型の歯をもち、両顎をしきりに動かし、体は黒く、楕円形をしていて、頑丈な羽根をもっており、大きなフンコロガシに似ている。またこの虫は「木を食べる牛」とも呼ばれており、テッサリア人たちのところではケラムピュクスと〔呼ばれている〕。子どもたちはこれを玩具にして、頭の部分を切り取って、身につける。角を含めて、亀から作られたリュラーに似ている。


23."t".1
バットス
23."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第1巻と、ヘーシオドスが『大エーホイアイ』に、また、ディデュマルコス『変身物語』の第3巻と、アンティゴノスが『様々な変化』に、また、パンピロスが第1巻の中で謂っているところでは、ロドス人アポッローニオスが『エピグラム詩』に。]
23.1.1
 プリクソスの子アルゴスと、アドメートスの娘ベリメーレーとの間に、マグネースが生まれた。この人物は、テッサリアーの近くに住んでいたが、この地を、彼に因んでマグネーシアーと人々は命名した。彼には、眉目も麗しいヒュメナイオスという子がいた。

23.2.1
 そこで、目にしたアポッローンを、この子に対する恋がとらえ、マグネースの家から立ち去れなくなり、ヘルメースは〔その隙に〕アポッローンの牛の群れに対して策謀した。それら〔牛たち〕は、アドメートスの牛たちと同じところに放牧されていた。そこで先ず、それら〔牛たち〕を見張っていた牝犬たちに眠気と喉の痛みとをうえつけ、犬たちは牛のことを忘れ、見張りをしまった。

てしまい、また吠えることもできず見張りの役を果たすことができなか.った。

23.3.1
 次いで、若い牝牛12頭と、まだ軛につながれたことのない牝牛百頭と、牝牛たちに盛るための牡牛とを追いたてていった。その際、牛たちの足跡を消すために、それぞれの牛の尾から木材を引きずらせ、これを追いたてて連れて行った。ペラスゴイ人たちの〔地を〕横切り、プティーオーティスのアカイアーを通り、ロクリス、ボイオーティアー、メガラーを通って、そこからベロポネーソスヘと、コリントス、ラーリッサを経て、テゲアーまでゆき、そこからリュカイオン山とマイナリオン山の麓を、いわゆるパットスの見晴らし岩まで進んだ。

23.4.1
 さて、見晴らし岩の頂上には、パットスその人が住んでいた。追いたてられてゆく牛たちの声を聞きつけたので、彼は家から出てきて、牛たちについて、盗品を引き連れてると判断し、ひき連れているのを見てとると、報酬を要求した。それらについて誰にも謂わないからと。そこでヘルメースは、その見返り与えると約束し、パットスは牛たちに関して誰にも口外しないと誓った。

23.5.1
 しかし、ヘルメースは、これらを、イタリアとシケリアの対岸に追い立て、コリュパシオン附近の岬の洞窟に隠しすと、変装して、再びパットスのもとに戻った。自分との誓いを守るつもりがあるかどうか、試そうとしたのである。そういうわけで、盗まれた牛が追われていったのを知らないか、報酬として外套を与えることとして、相手に問いただした。

23.6.1
 するとパットスは、半外套を受け取って、牛について暴露した。そこでヘルメースは、相手が二枚舌だったことに腹を立て、杖で彼を打って、岩に変えてしまった。かくて、凍てつく寒さも暑熱も彼を見逃すことはない。今に至るもその場所は旅人たちから「パットスの見晴らし岩」と言われている。


24."t".1
アスカラボス
24."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第4巻。]
24.1.1
 デーメーテールが娘を捜し求めて放浪者として全地をさすらっていた時、アッティカで休息しようとした。ひどい暑さのもと、彼女をミスメーが迎え入れ、メグサハッカ〔Dsc.III-36〕と麦粉を水に入れた飲み物を与えた。

24.2.1
 そしてデーメーテールは、渇きのあまり、飲み物を一気に飲みほした。するとミスメーの子アスカラボスが見て、大笑いし、今度は深鍋か貯蔵瓶で彼女に差し出すよう命じた。

24.3.1
 そこでデーメーテールは、怒りのあまり、残っていた飲み物を彼に浴びせた。すると彼は変身して、身体から多彩な色を発するトカゲ(ajskavlaboV)になり、神々にも人間にも憎まれることとなった。そして、彼の住み家は溝の中になった。だから、殺す者はデーメーテールに嘉される者となるのである。


25."t".1
メーティオケーとメニッペー
25."n".1
[記録しているのはニーカンドロス『別物となった者たち』第4巻と、コリンナ『笑話』の第1巻。]
25.1.1
 ボイオーティアのヒュリエウスの子オーリーオーンには、メ一トイオケーとメニッペーという娘たちがいた。彼女たちは、オーリーオーンをアルテミスが人間界から消滅させた後、母親のもとで育てられた。そしてアテーナーは、彼女たちに布の織り方を教え、アプロディーテーは彼女たちに美しさを与えた。

25.2.1
 しかし、疫病がアーオニアー全土を蔓延し、多くの人々が死んだので、神託をうかがう死者たちをゴルテュスのアポッローンのもとに派遣した。すると神は二柱のエリウゥニオスの神々を宥めるよう彼らに云った。更に〔神は〕謂った、もし自発的に二神に対する犠牲となる二人の処女たちがいれば、彼らは怒りをやめるだろう、と。

25.3.1
 もちろん、占いに対して、町に住む処女たちの誰ひとりとして聞き入れる者はなく、ついに、下衆女がオーリーオーンの娘たちのもとにこの神託を伝えた。すると、機織りをしていた娘たちは聴くや、流行病に罹って自分たちが消滅する前に、町衆のための死を受け容れることにした。そこで、地の精霊たちに、彼らのために自発的に犠牲のなるのだと、彼女らは三度叫びつつ、自分たちの鎖骨のあたりを竣で打って、喉を裂いた。

25.4.1
 そして彼女たちは二人とも大地に倒れ伏した。そこで、ベルセポネーとハーデースは憐れんで、処女たちの身体を消滅させたものの、その代わりに星として大地から運び上げた。こうして光るものたちが天に運び上げられ、それを人間たちは彗星と名づけた。 25.5.1
 かくて、アーオニアー人たちはみな、ボイオーティアーのオルコメノスに、この処女たちの名高い神殿を建立した。そして、彼女たちのために、年ごとに、少年少女たちが供え物を携えてやってくる。今日に至るまで、アーオーニア人たちは彼女たちを「コローニスの処女たち」と命名している。


26."t".1
ヒュラース
26."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち」の第2巻。]
26.1.1
 ヘーラクレースは、アルゴナウテースたち一行と航行した時、彼らによって将軍に指名されが、ヒュラスをも自分といっしょに伴っていた。これはケーウクスの子で、若く、美しい少年であった。

26.2.1
 さて、ポントスの海峡に到達し、アルガントーネー岬の突端を通過していた時、嵐嵐と大揺れが起こったので、そこに錨を投げ入れ、船を停泊させた。そこでへーラクレースは英雄たちに食事を出すことにした。

26.3.1
 そこで子どものヒュラースは、善勇の士たちのために水を運ほうとして、甕を持って、アスカニオス河へと出かけた。すると、この河の娘であるニンフたちが彼を見て、恋に落ち、汲んでいるところを泉の中に引きずり込んでしまった。

26.4.1
 こうしてヒュラースの姿が見えなくなり、へーラクレースは、自分のもとに戻ってこないので、英雄たちをその場に残し、林の至る所を捜しまわり、幾度となくヒュラースの名を叫んだ。そこでニンフたちは、それが自分たちのところに隠されているのを見つけはすまいかと、ヘーラクレースを恐れ、ヒュラースを変身させて山彦にしたので、へーラクレースの叫び声に応じて何度も叫び返したのだった。

26.5.1
 しかし前者は、どうしてもヒュラースを見つけることができなかったので、船にもどり、自分は善勇の士たちとともに出帆した。だが、自分のために何とかヒュラースを捜して見つけ出してくれるようにと、ポリュペーモスをその地に残した。しかし、ポリュペーモスは先に命終した。今に至るまで、その地の人々は泉の傍で、ヒュラースに供犠し、神官は三度まで彼の名を呼び、そして三度まで山彦が彼〔神官〕に叫び返すのである。


27."t".1
イーピゲネイア
27."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第4巻。]
27.1.1
 テーセウスと、ゼウスの娘ヘレネーとの間に、イーピゲネイアという娘が生まれ、これを育てたのは、ヘレネーの姉クリュタイメーストラーであったが、アガメムノーンには、自分が産んだと云っていた。というのは、ヘレネーは、兄弟たちに訊かれた時、乙女のままでテーセウスのもとを去ったのだ、と謂っていたからである。

27.2.1
 さて、アカイアー人たちの軍団が船出できずにアウリスに足止めされていた時、占い師たちは、もしアルテミスにイーピゲネイアを供犠するなら、航海できよう、と預言していた。そこでアガメムノーンは、アカイアー人たちの求めに応じて、彼女を生け贄として与えたが、祭壇に曳かれゆく彼女を善勇の士たちたちは見るに忍びず、すべての者たちが眼を他に背けていた。

27.3.1
 その時、アルテミスはイーピゲネイアの代わりに若い牡牛を祭壇の傍に出現させ、他方、彼女の方は、ギリシアから遥か遠く、いわゆるエウクセイノスと言われるポントス(黒海)の近く、ボリュステネスの子トアースのもとに運び去った。そして遊牧民たるあの部族をタウロイ〔牛の人々〕と呼んだのは、イーピゲネイアの代わりに、祭壇の傍に牡牛を出現させたからで、女神は彼女をタウロポロスという女神官としたのだった。

27.4.1
 しかるべき時が過ぎた後、イーピゲネイアをいわゆる「白い島」のアキレウスのもとに移り住まわせ、彼女を変えて、不老不死の精霊とし、名前もイーピゲネイアに変えてオルシロキアーと名づけた。こうして彼女はアキレウスの伴侶となったのである。


28."t".1
テューポーン
28."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第4巻。]
28.1.1
 テューポーンは大地の息子、力の強さにかけて並はずれていたが、見てくれは異様な姿の精霊であった。というのは、多くの頭と手と翼が生え出ており、腿から下は巨大な大蛇がとぐろを巻き、あらゆる種類の声を発し、何ものも彼の力を持ち堪えることはできなかった。

28.2.1
 これが、ゼウスの支配を得ようと欲し、これに襲いかかると、神々の誰ひとり持ち堪えることができず、みなが恐れてアイギュプトスに逃げ去ったが、アテーナーとゼウスだけが取り残された。するとテューポーンが徒歩で追いかけてきた。そこで彼らは察知して、見た目は動物に変身して逃げのびた。 また、アポッローンは鷹となり、ヘルメースはトキに、アレースは鱗を持った魚に、アルテミスは猫に、山羊にはデイオニューソスが似せ、子鹿にはへーラクレースが、牡牛にはへーパイストスが、トガリネズミにはレートーが、その他の神々もそれぞれも各様に見てくれを変えた。それからゼウスはテューポーンに雷霆を投げつけた。するとテューポーンは燃え上がり、身を投げて、その炎を海で消そうとした。

28.4.1
 しかしゼウスは攻撃の手をゆるめず、テューポーンの上に、最大の山アイトネーを積み重ね、これの番人としてヘーパイストスを山頂に立たせた。へーパイストスは金床をテューボーンの首のあたりに打ちすえ、赤く焼けた灼熱の塊を用いて鍛冶の仕事をしているのである。


29."t".1
ガリンティアス
29."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第4巻。]
29.1.1
 テーパイにプロイトスの娘ガリンティアスがいた。この処女は、エーレクトリュオーンの娘アルクメーネーの遊び友だちにして、仲間であった。しかし、ヘーラクレースの出産がアルクメーネーに差し迫ると、モイラたちとエイレイテュイアが、ヘーラーに対する恩着せの目的から、アルクメーネーを陣痛に陥らせた。

29.2.1
 かたや、彼女たち〔モイラたちとエイレイテュイア〕は自分たちの腕を固く組み合わせて座ったままであった、かたや、ガリンティアスは、〔陣痛の〕労苦が懊悩するアルクメーネーを発狂させるのではないかと恐れ、モイラたちとエイレイテュイアのもとに走り、ゼウスのはからいにより、アルクメーネーに男の子が生まれた、したがって、あの方々の栄職は無効になってしまった、と告げた。

29.3.1
 これにはさすがに驚愕がモイラたちをとらえ、すぐに腕をほどいたところ、すぐに陣痛がアルクメーネーを去って、へーラクレースが生まれた。もちろん、モイラたちは嘆いて、ガリンティアスから乙女らしさを奪ったのは、死すべき身でありながら、神々を出し抜いたからであり、さらに彼女をずる賢いイタチに変え、奥深いところで生き方を与え、生殖を異様なものにした。というのは、耳から受精し、喉から出産するのだから。

29.4.1
 ヘカテーは彼女の見てくれの変わりようを憐れみ、自分の聖なる召し使いに任命した。また、ヘーラクレースは、成長した後、ガリンティアスの好意を思い起こし、家の脇に彼女の像を作って、犠牲のを供えることにした。今もなおテーパイ人たちはこの犠牲式を守っており、ヘーラクレースの祭りの前に、先ずガリンティアスに供犠するのである。


30."t".1
ビュブリス
30."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第2巻。]
30.1.1
 アポッローンと、ミーノースの娘アカカッリスとの間に、ミーレートスという子がクレータ島に生まれた。これをアカカッリスは、ミーノースを恐れて、森に捨てたが、アポッローンのはからいにより、狼たちが通ってきてこれを守り、かわるがわる乳をやっていた。その後、午飼いたちが行き合って、拾い上げ、家で育てた。

30.2.1
 子が成長して、美しく活発な少年となり、ミーノースは我欲にかられて、強奪しようとしたので、この時、サルペードーンのはからいで、ミーレートスは、夜のうちに、小舟に乗ってカーリアーに逃げのび、そこに都市ミーレートスを建設し、カーリアー人たちの王エウリュトスの娘エイドテエーを娶った。そして彼女に双子の兄妹カウノス[とビュブリス]が生まれ、前者にちなんで都市は今もなおカーリアーおけるカウノスであり、ビュブリスも同様である。

30.3.1
 土地の者たちの多くのが、また評判を聞きつけて、周辺の都市からも、後者の求婚者となった。しかし彼女は、これらの者たちにはほとんど関心を払わなかった、彼女をば、カウノスに対する、口にできぬ恋心が狂わせていたのだった。しかし、情愛を隠せる間は、親たちに気づかれことはなかった。だが日毎に難しくなるダイモーンにとらわれて、ある夜、岩から我が身を投じてようと決心した。

30.4.1
 こうして彼女は、近くの山にたどりつき、身を投げようとしたが、ニンフたちが憐れんで押し止め、深い眠りをうえこみ、彼女を人間から精霊に変えて、樹木の妖精ビュブリスと名づけ、生活を共にする仲間にしたのだった。さらに、あの岩から流れ出す川も、今日に至るまで、土地の人々から「ビュブリスの涙」と呼ばれている。


31."t".1
メッサピオイ人たち
31."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第2巻。]
31.1.1
 土地生え抜きの者であるリュカーオーンには、イアーピュクス、ダウニオス、ベウケティオスという子どもたちがいた。この者たちは、民人を集めながら、イタリアのアドリア海に面したところにやって来た。そして、その地域に住んでいたアウソネス人たちを追い払って、自分たちが定住した。

31.2.1
 ところで、彼らの軍勢の大部分は、メッサピオス率いるイリュリア人たちから成る移民団であった。そこで、陣地が土地と同時に三分割されると、各々の指導者の名をとって、ダウニオイ人たち、ペウケティオイ人たち、メッサピオイ人たちと名づけ、タラースからイタリアの突端までの部分はメッサピオイ人たちのものとなり、ここに都市ブレンテシオンが建設された。また、この部分に接するタラースの内側はペウケティオイ人たちのものとなり、これよりさらに内側の、海沿いの大部分はダウニオイ人たちのものとなり、全部族を総称してイアーピュギアー人たちと名づけた。

31.3.1
 以上のことは、ヘーラクレースの遠征よりはるか以前に起こった出来事である。で、その当時の人々にとって生計は牧畜に依存していた。さて、神話によれば、メッサピオイ人たちの地の、いわゆる「聖なる岩」の付近に、羊の守り神のニンフたちが合唱舞踏するのが見られたが、メッサピオイの僕童たちは、羊の世話をする手をとめて、見物して、自分たちの方がもっと上手に合唱舞踏できる、と云ったという。この言葉は、ニンフたちを苦しめ、合唱舞踏をめぐる諍いは次第につのっていった。僕童たちは自分たちの競争がダイモーン相手だとは知らずに、死すべき者たる同輩たち相手のように合唱舞踏したが、彼らの合唱舞踏の仕方は、牧童たちのそれであったから、非音楽的であったのに、ニンフたちのは可能なかぎり完壁な美しさを求めるものであった。

31.5.1
 かくて、合唱舞踏で牧童たちを打ち負かし、相手に向かって次のように言った。「おお、少年たちよ、そなたらは羊を守るニンフたち相手に諍いを恋した。では、おお、無思慮な者たちよ、そなたらは負かされたのだから、罰を受けるがよい」。すると僕童たちは、ニンフたちの聖域に立っていたその場で、樹木になってしまった。今なお、夜になると、森から嘆き声のような音が聞こえてくるが、その場所は「妖精と僕童たちの場所」と名づけられている。


32."t".1
ドリュオベー
32."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第1巻。]
32.1.1
 ドリュオプスは、河神スベルケイオスと、ダナオスの娘たちのひとりポリュドーレーとの子として生まれた。この人物はオイテーで王支配し、彼にはひとり娘ドリュオペーがおり、彼女は父の羊たちを放牧していた。樹木のニンフたちはドリュオペーをことのほか愛していたので、自分たちの遊び友だちにし、神々を讃える歌や合唱舞踏の仕方を教えた。

32.2.1
 これが合唱舞踏しているところを見たアポッローンは、交わることを欲した。そこで先ずは亀になったところ、ドリュオペーはニンフたちといっしょになっておかしがり、亀を玩具にして、これを懐に入れると、亀のかわりに変身して大蛇となった。

32.3.1
 するとニンフたち仰天して、彼女を置き去りにした。そこでアポッローンはドリュオペーと交わり、彼女はとえば、恐怖にかられて父の館に逃げ帰ったものの、両親には何も謂わなかった。その後、彼女をオクシュロスの子アンドライモーンが娶り、アポッローンからアムピッソスという子を生んだ。この子は、すくすくと成人し、万人を凌ぐ男となり、オイテーの近くに山と同名の都市を建設して、その場所を王支配した。

32.4.1
 さらに、アポッローンの神殿をもドリュオピスに建設した。そしてこの神殿に近づいたドリュオベーを、樹木のニンフたちが好意をよせてさらい、彼女は森の中に隠し、その代わりに黒ポプラの木を大地から生えさせて、黒ポプラの傍に水を湧き出させ、ドリュオペーは変身して、死すべきものの代わりにニンフとなった。

32.5.1
 アムピッソスの方は、母に寄せられた好意の代わりに、ニンフたちの神域を建設し、徒競走の競技を最初に開催した人となった。今日でもなお、土地の人々はこの競技会を守り続けている。女にとって〔この競技会に〕参加するのは不敬である、それは、ドリュオペーはニンフたちによって消されたのであるからと、2人の処女たちが土地の人々に明かしたが、これに対してニンフたちは腹を立て、彼女たちを処女の代わりに樅ノ木にしてしまったのである。


33."t".1
アルクメーネー
33."n".1
[記録しているのは、ベレキューデース。]
33.1.1
 へーラクレースが人間界から姿を消した後、エウリュステウスは彼の血を引く者たちを祖国から追放し、自分が王位についた。そこでヘーラクレースの子どもたちは、テーセウスの子デーモポーンのところに避難し、アッティカの四市に住みついた。そこでエウリュステウスはアテーナイに使者を送り、もしへーラクレースの子どもたちを追放しないなら、アテーナイ人たちに戦いをしかけると通告した。

33.2.1
 ところが、アテーナイ人たちは戦争を拒まず、エウリュステウスはアッティカに侵攻したが、彼自身は戦死し、アルゴス勢の多くは敗走した。そこで、ヒュッロスその他のへーラクレースの子どもたち、および彼らの仲間たちは、エウリュステウスが死んだので、再びテーパイに居住した。

33.3.1
 この頃は、アルクメーネーも老齢のために亡くなり、へーラクレースの子どもたちは彼女を葬送しようとした。ところで彼らはエーレクトラー門の近くに住んでいたが、アゴラのそこは、へーラクレースも住んでいた所であった。そこでゼウスは、ヘルメースを遣わして、アルクメーネー〔の亡骸〕を盗み出し、「浄福者たちの島々」に運んで、ラダマンテュスに妻として与えるよう命じた。そおでヘルメースは聴従して、アルクメーネーを盗み出し、その代わりには石を骨壷に入れておいた。


33.4.1
 さて、ヘーラクレースの子どもたちが甕を運ぼうとすると、重かったので、下ろして、開けてみると、アルクメーネーの代わりに石を見つけたので、これを取り出して神域に据えた。そここそ、テーパイにあるアルクメーネーの英雄廟があるところである。


34."t".1
スミュルナー
34."n".1
[(記録なし)]
34.1.1
 ベーロスの子テイアースと、ニンフのひとりオーレイテュイアとの娘スミュルナーは、レバノンの山で生まれた。その美しさゆえに、数多くの都市からさえ、数多くの人たちがこれに求婚したが、両親を欺き、時を延ばすために、あれこれ工夫していた。父親に対する恐るべき恋情が、被女を狂わせていたからである。

34.2.1
 たしかに初めのうちは、恥ずかしさから病を隠していたが、情念が彼女を先導したので、乳母のヒッポリュテーに話を打ち明けた。すると彼女〔ヒッポリュテー〕は、言語道断の恋の救済策を彼女に約束し、テイアースのもとに話を持ちかけた、浄福な人たちの乙女が、ひそかに彼と同衾することに焦がれている、と。

34.3.1
 テイアースの方は — 自分に対していかなることが企まれているか知るはずもないから — 話を承諾した。そして彼の方は、暗闇の中、家の寝床で乙女を待ち受け、乳母の方は、スミュルナーを布で覆い隠して、連れ添っていった。嘆かわしい不法の所行は、じつに長い間、気づかれることなく行われた。

34.4.1
 かくてスミュルナーが妊娠した時、身ごもったのは誰なのか知りたいという欲望がテイアースをとらえ、そこで彼は部屋に灯火を隠しおき、スミュルナーをば、自分のところにやって来た時、突然火が突き出されたため、彼は悟った、〔スミュルナーは〕胎児を胎から投げ出し、自分は両手を天に差しのべて祈った、生者たちのもとにも、死者たちの間にも、見られることなかれかし、と。

34.5.1
 そこでゼウスは彼女を変身させて、樹木にし、彼女と同名のスミュルナー〔没薬〕と名づけた。これは、毎年樹に成る果実が涙を流すと言われている。また、スミュルナーの父テイアースは、不法な所行ゆえに自らを亡き者にし、胎児の方は、ゼウスのはからいで育ち、アドーニスと〔人々は〕名づけ、これを、その美しさゆえに、アプロディーテーが大いに愛したのである。


35."t".1
プーコロイ〔牛飼いたち〕
35."n".1
[記録してるのは、クサントス人メネクラテースが『リュキアー物語』に、またニーカンドロスも。]
35.1.1
 レートーは、アポッローンとアルテミスを、アステリアー島で出産した後、子どもたちを伴ってリュキアーなるクサントスの沐浴場に向かった。その地に着くとすぐ、先ずメリテーの泉を訪れ、クサントス川に行き着く前に、ここで子どもたちに沐浴させる気になった。

35.2.1
 ところが、牛飼いの男たちが、自分たちの牛たちが泉から飲むよう、彼女を追い払ったので、レートーはメリテーの泉を後に、立ち去ったところ、狼たちが落ち合い、尾をふりながら、道案内をし、彼女をクサントスの川まで導いたのだった。

35.3.1
 そこでレートーは水を飲み、子どもたちに沐浴させ、クサントス川をばアポッローンの聖地とし、トレミリスと言われていた地を、案内して来た狼たちにちなんで、リュキアーに改名した。

35.4.1
 また、もう一度泉に立ち帰ったのは、自分を追い払った牛飼いたちに罰を下すためであった。すると牛飼いたちは、泉のほとりでまだ牛に水浴びをさせており、レートーは全員を変身させて蛙に変えて、その背中と肩をごつごつした石で打って、すべての蛙を泉に突き落とし、沈め、連中に水中での生活を与えた、だから、今日まで、〔蛙たちは〕川や池のそばで生活しているのである。


36."t".1
パンダレオス
36."n".1
[(記録なし)]
36.1.1
 レアーがクロノスを恐れてゼウスをクレータ島の洞穴に隠した時、山羊[のニンフ]が乳房を含ませて、彼を育てた。さらに、レアーのはからいにより、黄金の犬が見張りをしたのであった。

36.2.1
 さて、ゼウスが巨人族を追い払い、クロノスを支配から放逐すると、山羊を変身させて不死にした。今もなお、彼女〔山羊〕の影像が星辰の中にある。黄金の犬の方は、クレータ島にある神殿の警護に任じた。これを、メロプスの子パンダレオスが盗み、シピュロスに連れ去り、これを、見張りをさせるべくもらい受けたのが、ゼウスとプルートーとの子タンタロスであった。

36.3.1
 しかし、しばらく後に、パンダレオスがシピュロスにやって来て、かの犬の返還を要求した際、タンタロスは、受け取っていないと誓言した。そこでゼウスは、パンダレオスをば、盗みの代わりに、彼が立っていたその場で岩にしてしまった。またタンタロスをば、誓いを偽ったゆえ、突き倒し、その頭の上にシピュロスの山をかぶせたのである。


37."t".1
ドーリス人たち
37."n".1
[(記録なし)]
37.1.1
 ディオメーデースは、イーリオン攻略後、アルゴスにもどり、自分の妻アイギアレイアをば、アプロディーテーの営みの罪で非難し、自分はアイトーリアーのカリュドーンへ赴き、アグリオスとその子らを亡き者にし、祖父オイネウスに王権を返還した。

37.2.1
 かくて再び、アルゴスに向け出帆したが、嵐のためにイーオニア海に流された。かくて、たどり着いた彼を、ダウニオイ人たちの王ダウニオスがそれと知り、領土の分け前と、自分の娘との婚礼を見返りに、メッサピオイ人たちとの戦争に自分といっしょに戦うよう、要請した。

37.3.1
 するとディオメーデースも、その話を承諾した。そこで対抗布陣してメッサピオイ人たちを敗走させ、領土を受け取り、もちろん、自分の麾下のドーリス人たちに配分した。かくて、ダウニオスの娘から二人の子、ディオメーデースとアムピノモスをもうけた。

37.4.1
 しかし、老齢となって、ダウニオイ人たちのもとで命終した彼を、ドーリス人たちはその島に葬り、これ〔島〕を「ディオメーデースの島」と名づけ、自分たちは、王からの分け与えられた土地を耕し、農作業の経験を積んだおかげで、自分たちに最多の収穫をもたらした。

37.5.1
 ところが、ダウニオスが亡くなると、異邦人イッリュリア人たちが、彼らの土地を妬んで策謀した、すなわち、島にあるドーリス人たちが犠牲をお供えしているところを、イッリュリオイ人たちが出現し、皆殺しにしたのである。しかし、ゼウスのはからいで、ヘッラス人〔ドーリス人〕たちの身体は消滅したが、魂たちは鳥類に変身した。

37.6.1
 今もなお、ヘッラスの船が停泊する時はいつも、この鳥たちが彼らの方に通ってくるが、イリュリアの船なら逃げ去り、すべて〔の鳥たち〕が島から姿を消すのである。


38."t".1

38."n".1
[記録しているのは、ニーカンドロス『別物となった者たち』の第1巻。]
38.1.1
 ゼウスと、アーソーポスの娘アイギーナとの子アイアコスには、ラモーンとペーレウス、三番目に、ネーレウスの娘プサマテーから生まれたポーコス、という子どもたちがいた。アイアコスがこの〔ポーコス〕をことのほか愛したのは、美而善なる男だったからである。

38.2.1
 そこでペーレウスとテラモーンがこれに嫉妬して、暗殺によって密かに彼を殺害した。この事のために彼らはアイアコスによって祖国を追われ、アイギーナ島を後にした。かくてラモーンはサラミース島に住みつき、ベーレウスは、イーロスの子エウリュティオーンのもとにたどり着き、嘆願して、彼から殺人の罪を浄めてもらった。しかし、またもや、狩りをしている際に、猪をめがけた一撃で、心ならずもエウリュティオーンを殺してしまった。

38.3.1
 そこで逃げて、アカストスのもとに赴いたが、アプロディーテーの業にかかわって、彼の妻によって讒言され、ひとりベーリオン山に取り残された。かくてさまよっているうち、ケンタウロスのケイローンに出会い、嘆願する彼をあの者〔ケイローン〕は洞窟に迎え入れた。

38.4.1
 かくてペーレウスは、数多くの羊や牛を集め、イーロスのもとに、殺人の贖いとして連れて行った。この贖いをイーロスが受け取らなかったので、ペーレウスは神の託宣に従い、羊や牛を連れ出して野に放った。

38.5.1
 すると、羊たちは羊飼いがいないので、狼が襲いかかって食い尽くし、この狼は、神意によって変身して、石になり、久しく、ロクリスとポーキス人たちの地の中間にとどまり続けていた。


39."t".1
アルケオポーン
39."n".1
[記録しているのは、ヘルメーシアナックスが『レオンティオン』第2巻に。]
39.1.1
 ミンニュリデースの子アルケオボーンは、生国は、キュプロス島のサラミースの人、両親は、貴顕に属さず(フェニキアの出身だったので)、財産その他では、幸福さの点ではるかに抜きん出ていた。この人物が、サラミース人たちの王ニーコクレオーンの娘を見て、恋に落ちた。

39.2.1
 だが、ニーコクレオーンの生まれは、アガメムノーンといっしょにイーリオンを陥落させたテウクロスの血を引き、それだけにますます、アルケオポーンは娘子との結婚に夢中になり、他の求婚者たちよりはるかに多くの嫁資を払うつもりだと請け合った。しかし、ニーコクレオーンは、アルケオポーンの家柄を恥じ、彼の父祖がフェニキア人であるからと、結婚を受け容れなかった。

39.3.1
 しかし、結婚を得損なったアルケオポーンにとって、恋情はよりいっそうおさえ難しくなり、夜、アルシノエーの家に通いつめ、同年輩の者たちといっしょ徹夜したりした。しかし、彼の所行に何ら得るところもなかったので、アルケオポーンは彼女の乳母を説き伏せ、莫大な贈り物を贈っうえで、何とか親たちに隠れて自分と交わることができるかどうか、娘子を誘ってみた。

39.4.1
 だが娘子は、乳母が彼女にこの話をもちかけると、親たちにつぶさに告げ口した。すると親たちは、乳母の舌先と鼻と指とを切り落とし、不具にしたうえで、無慈悲に家から追い出した。まさしくこの所行に義憤なさったのが、女神〔アプロディーテー〕であった。

39.5.1
 さて、アルケオポーンは、情念の過剰と、求婚に対する無視とで、みずから食べ物を絶って死んだ。同市民たちは、その死を憐れみ、悲しみ、三日目に、身内の者たちが亡骸を公衆の前に運び出した。

39.6.1
 そして、人々が埋葬しようとしていると、アルシノエーは、高慢さから、アルケオボーンの身体が焼かれるのを、家の中から見たいと思った。かくて、彼女が眺めていると、アプロディーテーがその性を憎み、これを変身させて、人間から石にし、両足を大地に固定したのだった。


40."t".1
ブリトマルティス
40.1.1
 アラピオスの娘カッシエベイアと、アゲーノールの子ポイニクスとの間に、カルメーがいた。これとゼウスが交わって、ブリトマルティスをもうけた。この女は、人間たちとの交際を避け、いつまでも処女であることを好んだ。

40.2.1
 そして、ポイニケーの地からアルゴスに、エラシノスの娘たちであるピュゼー、メリテー、マイラ、アンキロエーのところにやって来て、次いで、アルゴスからケパレーニアーへと向かい、ケパレーニアーの人々は彼女をラプリアーと名づけ、神に対するごとくに犠牲を捧げた。

40.3.1
 次いで、クレータ島へと赴き、これをミーノースが見て、恋に落ち、追い求めた。だが彼女は、漁師たちに庇護を求めた。彼らは彼女を網の中にもぐらせ、このことから、クレータ人たちはディクテュンナ〔網の女神〕と名づけ、犠牲を供えた。しかし、ミーノースを避けるために、ブリトマルティスは漁師アンドロメーデースとともに小舟でアイギーナ島にとどりついた。

40.4.1
 ところが、この男も、交わりたい思いに駆られて彼女を手籠めにしようとしたが、ブリトマルティスは舟から跳び降り、聖なる森に庇護を求めたが、そここそ、彼女の神域のあるところで、ここで姿が見えなくなり、彼女をアパイアー〔姿を消した女神〕と〔人々は〕名づけた。その場所はアルテミスの神域内にあり、ブリトマルティスが姿を消したその場所を、アイギナー人たちは聖地とした。そしてアパイアーと名づけ、神に対するがごとくに犠牲を捧げたのであった。


41."t".1
アローペークス〔狐〕
41.1.1
 デーイオーンの子ケパロスは、アッティカ地方のトリコスで、エレクテウスの娘プロクリスを娶った。ところで、ケパロスは若く、美しく、勇敢でもあった。だから、その美しさゆえに恋され、エーオースが彼を掠い、いっしょに住まわせた。

41.2.1
 ところが、ある時、ケパロスはプロクリスが自分を嫌にならずに待ちつづけているつもりかどうか、試みることにした。そこで自分は、狩りへ行くことを口実にし、プロクリスには、顔を知られていない召し使いの男に、数多の黄金を持たせて、使いに出し、プロクリスに向かって、外国の男性が恋に落ち、自分と同衾するなら、この黄金を与える、と言うよう教えた。

41.3.1
 しかしプロクリスは、初めのうちこそ、黄金を断ったが、二倍の額を送りつけると、承知し、申し入れを受け容れた。ケパロスの方は、彼女が家にやって来て、外国人に対するように横になったのを見るや、火のついた松明をかかげ、彼女を照らし出した。

41.4.1
 かくてプロクリスは、恥じてケパロスのもとを去り、クレータ人たちの王ミーノース王のところに逃げ去った。かくて、彼〔ミーノース〕が子宝に恵まれないのをとらえ、請け合って、どうしたら子どもたちが生まれるか、方法を彼に教えた。というのは、ミーノースは蛇やサソリやムカデを放出し、交わっている女たちは死んでしまうからだった。

41.5.1
 ところが、ヘーリオスの娘パーシパエーは不死であった。そこでプロクリスは、ミーノースの生殖器に次のような細工をした。〔すなわち〕山羊の腸脱を女の自然〔性器〕に嵌めこみ、ミーノースは先ず腸脱の中に蛇たちを排出した。次いで、パーシパエーのところにもぐり込んで交わった。かくて、彼らに子どもたちが生まれたので。ミーノースはプロクリスに投げ槍と犬とを与えた。これらこそ、いかなる獣も取り逃がすことなく、何でも仕留めるものであった。

41.6.1
 かくてプロクリスは、受け取って、アッテイカのトリコス、ケパロスが住んでいるところにやって来て、彼とともに狩りをしたのは、衣服と髪型を男性用に変え、誰が見ても彼女とわからなかったからである。さて、ケパロスは、自分に狙った獣が一匹も獲られないのに、すべてがプリクソスのものになるのを見て、自分がその槍をわがものにしたいと欲した。そこでプロクリスは、もし自分の色香に懇ろにしてくれる気が彼にあるなら、〔槍のみならず〕犬を与えようと約束した。

41.7.1
 そこでケパロスが申し出を受け入れ、横になった時、プロクリスは自分の正体を明らかにして、彼の方がはるかに醜い過ちを自分に対して犯したのだと罵った。かくて、犬と槍とはケパロスが我がものとした。獲得したのである。だが、アムピトリュオーンがその犬を欲しがり、ケパロスのところにやって来て、犬を連れて自分といっしょに狐狩りに行く気はないか、と誘った。その際アムピトリユオーンは、テーレボアイ人たちから得られるはずの分け前を、ケパロスにも分け与えると約束した。

41.8.1
 というのは、当時、カドメイアー人たちの地〔テーバイ〕に、怪物のような狐が出没していたのだ。こいつは、しきりにエウメーソス山から降りてきては、しばしばカドメイアー人たちを掠い、一ヵ月に一度、こいつに幼児を供えると、こいつは受け取って食い尽くすのだった。

41.9.1
 さて、アムピトリュオーンはテーバイに現れ、テーレボアイ人たちに対する攻撃に自分といっしょに出征するよう、テーパイ人たちに要請したところ、彼らは、自分たちといっしょに狐退治をしてくれたらと謂ったので、アムピトリュオーンはこの条件でカドメイアー人たちと合意した。そこで、彼はケパロスのところに行き、申し合わせを言って、犬を連れてテーパイに出向くよう説得し、ケパロスの方は<話を>受け入れ、出向いて、狐を狩ることになったのである。

41.10.1
ところがこの狐は、何びとであれで追う者によって捕らえられることなく、この犬は、追われている何ものをも逃さない、というのが神法であった。テーパイ人たちの平原でかかる事態となったので、ゼウスは両者を石にした。

2013.01.17. 訳了。


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