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ハトホル/ハトル

hathor.jpg エジプトの「神々の母」で、「天界の女王」。当初は「天上の家(あるいは、天上の子宮)」の意のへ卜・ヘル卜だったが、のちに「ホルスの家 (あるいは、ホルスの子宮)」の意のハト・ホルになった。ハトルは、「あらゆる男神や女神の母」であり、 彼女は「原初において自分で自分を生み出したのであって、別の誰かによって生み出されたのではなかった」。エジプトにおける最も初期の王朝では、彼女の名はすベてのファラオの名にその一部として組み込まれており、このことは、古代エジプトの場合、代々の支配者がハトルの霊魂の体現者になるという方式で、母系女王制が維持されていたことを示している[1]

 紀元前11世紀のイスラエルにおいて、ハトルは、彼女自身の聖なる都市ハゾルで崇 拝されていた。この都市は、旧約聖書では、ヨシュアによって滅ぼされたと言われている(『ヨシュア記』11:13、21)。「シナイ粘土板」からは、シナイ半島にあったエジプ卜の鉱山のへブライ人労働者たちが、紀元前1500年頃にハトルを崇めていて、ハトルを「ビブロスの女神」アス夕ルテAstarteと同一視していたことがわかる[2]

 一部の資料によると、7柱のハトルがいたという。彼女らは7つの天球層と闔連を持つ「聖なる産婆たち」だった。7柱のハトルは、エジプト人1人1人に、誕生に際して7つの霊魂を与えた。この「7体のハトル」は中世の神話に入っていき、「太陽の母」、「湖の女神」、「女狩人」と言われただけでなく、「代母になった妖精(たち)」やマザーグースとなって登場した。

 上エジプトでは、ハトルはサティあるいはサティス(「両岸の女」)に相当し、ナイル川の水源だった[3]。ハトルの「破壊者」としての相は、ライオンの頭を持った女狩人、すなわちスフィンクスで、セクメ卜またはサクミス(「力強き者」)と呼ばれることがあった。女神カーリーと同じく、ハトルも、 神々や人間たちの血を飲んだ。


[1]Badge, G. E. 1, 92-93.
[2]Albright, 96, 196.
[3]Erman, 4..

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)