『自然の諸問題(Quaestiones physicae)』

[シモカッテス家のテオピュラクトス略伝]
 580頃-628以降。
 ビザンティンの歴史家。おそらくはアレクサンドリアのシモカッテス家に生まれる。610年頃にコンスタンティノポリスに来て総主教セルギオス1世、皇帝ヘラクリウスのもとで活躍したらしい。主著に、皇帝マウリキウス(Haberius Mauricius, 在位582-602)の治世に叙述した『歴史(Historiae)』がある。
(『新カトリック事典』III、研究社、2002.8.より)


[底本]
TLG 3130
THEOPHYLACTUS SIMOCATTA Epist. et Hist.
vel Theophylactus Simocattes
(A.D. 7: Aegyptius, Constantinopolitanus)

3130 007
Quaestiones physicae, ed. L. Massa Positano, Teofilatto Simocata.
Questioni naturali, 2nd edn. Naples: Libreria Scientifica Editrice, 1965:
7-38.
5
(Cod: 4,293: Dialog., Nat. Hist.)





『自然の諸問題(Quaestiones physicae)』

8.15.7."1t"
州総督シモカッテス家のテオピュラクトス
8.15.7."2t"
対話
8.15.7."3t"
自然のさまざまな問題とその解(epilysis)について
8.15.7."4t"
表現形式は対話による

8.15.7.5
 ツバメたちは、その母親たちによって、その持てる聴覚を歌によって音楽的に教えこまれるということ。それは、無教育な生まれ子の鳴き声を聞くことを、母ツバメは堪えられないからである。そういうわけで、彼女たちは生子に教えるのである — 巣づくりは諸都市にして、人間たちに唱和し、奥の院で調子のよい歌をさえずることを。されば、いざやいざ、至芸の集会よ、能弁を子どもに与えよ、そうして、劇場でわたしに唱和することを、今すぐアッティカの歌のさえずり方を学んで、音楽的な奥の院に足を踏み入れることを教えよ。
8.15.8.
しかし、歌の律動でわたしが何か外したら、わたしに欠けるところを競って反響させよ、あたかも、ロクリス人エウノモスのところで、歌の協力者となった蝉のように。〔また〕テウクロスにも、〔トロイアに〕遠征して勝利牌を恋し、敵陣を攻め立てるのがよいと思われた。そこで、〔異母兄の〕アイアスは楯を前に立てて囲い、そのおかげで射手テウクロスは百発百中であった。すなわち、アイアスは武勲賞の前提であったのだ。〔だから〕教師諸君、あなたがたの好意を、楯のようにわたしのために掲げに掲げよ、そうすれば、今日、拍手喝采がわたしにとっての武器となろう。そうすれば、たとえ異邦人の土地に攻めのぼったとしても、わたしにはわかっているが、わたしは勝利をもたらす者となろう。たとえ、〔議論の〕技術を母親としていまだ相続していないとしても、わたしの血統はあなたがたと同じである。つまり、わたしは議論(logoi)を祖国として、ヘッラスの事柄をわれわれのものとして持っているのである。

8.15.9."1t"
この対話の主題
1。いかなる道理(logos)によって、金剛石は燃えず、火の自然に与らないのか。
2。いかなる道理(logos)によって、ワシたちの羽がその他の生き物の羽の上に置かれると、これをだめにするのか。
3。いかなる道理(logos)によって、ゾウたちは、水を濁らせない前に飲むことはないのか。
4。いかなる道理(logos)によって、シビレエイは、間に木材があるのに、同じ名称の情態を分与し、漁師たちの手がしびれるのか。
5。いかなる道理(logos)によって、シカ(elaphos)たちは慣れ親しんだ場所に角を振り捨てて逃げ去るのか。
6。いかなる道理(logos)によって、ペーガノンはヘビたちにとって敵なのか。
7。いかなる道理(logos)によって、油が海に流されると凪になるのか。
8。いかなる道理(logos)によって、ハゲワシたちは3年おきに妊娠するのか?
9。いかなる道理(logos)によって、多足(タコ)はポントス海から離れ去るのか。
10。いかなる道理(logos)によって、雄山羊の血は金剛石をやわらかくさせるのか。
11。いかなる道理(logos)によって、ウサギたちには異期複妊娠(epikyesis)がおこるのか。
12。いかなる道理(logos)によって、オオガラスたちは夏の期間、水を飲まないのか。
13。いかなる道理(logos)によって、胃の流失がオオガラスたちに起こるのか。
14。いかなる道理(logos)によって、雌のセミは歌の才を持たぬものとして生まれついているのか。
15。いかなる道理(logos)によって、トキの卵はひどく冷たいとバシリスコンを産むのか。
16。いかなる道理(logos)によって、イシチドリは鳥刺したちを退散させるのか。
17。いかなる道理(logos)によって、アーモンド(amygdale)は豊穣で、そのほかの果実の豊穣をも予兆するのか。
18。いかなる道理(logos)によって、火によって煮沸された水は、他の水よりも安定的であるが、雷雨から得られた〔水〕は、すみやかに消滅するのか。
19。いかなる道理(logos)によって、セリポスのカエルたちは無音ときめられているのか。
20。いかなる道理(logos)によって、アッティカの蜂蜜にハエたちはたからないのか。

8.15.10."10t"
この対話の登場人物は
8.15.10."11t"
アンティステネースとポリュクラテース。
8.15.10."12t"
アンティステネース、対、ひねくれた質問者役。


8.15.10.13

ANT. ティモクレースの子アリスタゴラスを、ポリュクラテース、もう久しい間見かけません。いったい、どこに行ったのか? まさか、シケリアなんぞに、火を噴く火口群を見に出かけたとか、あるいは、インドスの湾を泳いで、哲学の知識のようなものを獲得しようとしているとかじゃあるまいね?

8.15.11.
POL. どこにも行ってませんよ、アンティステネース、コリントス人アポッロゲネースが、昨日だったか、アテーナイからわたしたちのところにやってきて、ストア・ポイキレーでアリスタゴラスに会ったと謂っていましたから。また、自然学者のアリストーンや、ヘルモゲネースの子ソーシストラトスも、レオス祭の当日、到着したのを見かけたと知らせてくれました。

ANT. いったいどこからですか、ポリュクラテース。

POL. 黒海を航海し、すこぶる多くの大いなる労苦をなめて、あたかも、金毛羊皮か何ぞのように、いくつものすてきな観照(theoria)を積み荷としてわたしたちのために持ち帰ってくれたのです。というのは、知識(episteme)に対する一種の恋情(eros)が、彼らをひっくるめて、ほとんど両方ともに狂気に陥らせ、調査研究(historia)の理会(katalepsis)に向けて狂乱させたのです。すなわち、彼らは双方ともに、何とかマイオーティス湖を観察しようと、努めに努め、励みに励んでいたのです、形状は円いのかどうか、また、地理学者たちが、信じる価値のある証明をわたしたちに提起して告げているところでは、9000スタディオンの周囲がこれを取りまいているのかどうか。
12.
そして噂では、コリントス人のペリクレースは、ボスポロスまで彼らに会いに出かけていったが、いくつかの自然究理に窮したといいます。ここにおいて、この町のまわりに議論や観照がわきおこり、何かを明確に言うため万人が哲学し、各人が各様の教説の素敵さによって名声に固執しました。ペリパトス派はストア派と競い合い、ストア派はピュタゴラス学徒ととっくみあい、アカデーメイア派によってはエピクゥロス学徒の言葉(logos)が潅酒され、武器を持たぬ一種の戦いがヘッラス中に勃興したのです。

ANT. それでは、いざ、おお最善の人よ、それについてわたしたちに謂ってください。というのは、ごらんのとおり、わたしは観照に向けて理性を唆され、観察するために知識の血脈をたどるのです、あたかも、抗夫たちが、高価きわまりない一種の物質の通路を観察するときのように。

POL. もろもろの舌や議論(logoi)やもろもろの観照が投げかけ、投げかけられているのは、それほど小さなことではありません。というのは、金剛不壊のごとき敵が完全武装しているのに、自然の秘儀をひもとこうというのですから。例えば、話では、ペリクレースが云ったといいます、いったい、金剛石を自然は不燃物として、何でも食い尽くす火よりも高貴なものとして制作したのはなぜか、と。
13.
これが、友よ、哲学者たちの合唱隊を混乱させ、解けぬ謎を探求する神来情態へと仕立てたのです。すなわち、こういった呪縛によって、かのコリントス人はわたしたちを絡め取って、あたかも、歩きまわることの難しい一種の神話的迷宮に〔閉じこめる〕ように、観照の〔迷宮〕に閉じこめて立ち去ったのです。

ANT. 自然の働きのようなものをあなたに云いましょう、ポリュクラテース、あなたが学問的議論に対する名誉を愛する愛者であるのを感じますから。というのは、キュレーネー人に聴従しながら、友の知らぬことを、何ら美しいこととしては持ちませんから。

POL. それなら、さぁさぁ、アンティステネース、言葉をして先導せしめてください、わたしたちはお互いに考えを共有しあうのがつねなのですから。

ANT. 〔物体にはいくつもの通路があるが〕金剛石には、あまりの硬さゆえに、その通路は微細きわまりないものとして自然にそなわっています。それゆえ、鉄でさえも、金剛石にくらべれば脆弱なのです。すなわち、あまりに密度が高いために、刻むことも切ることも受けつけないのです。炎を感受しない所以は、いわば、通路が狭いからにほかならず、要は、この石は火の自然を受け入れることを拒むのです。ところで、純粋無雑なものは独立しているのであって、亀裂のある情態は内在せず、だから金剛石が火と結びつくことはありません。したがって、燃えることなく、密度ゆえに火の自然によって変化することがありません。ところが、鉄や金は、火の自然を受け入れ、それゆえ、こういったものらは熔解したり、やわらかくなったりするのです。
14.
もちろん、金剛石は〔鉄や金〕よりも湿り気がないため、不燃性が自然にそなわっていることはいうまでもありません。すなわち、熔解するものはすべて、たぶんに液体性を分有しているのが必然です。

POL. この言葉はすばらしい。金剛不壊のごとき言辞によって、金剛石に関する諸々の観照をあなたは刺繍しました。金剛石よりも高貴なものがあったとしたら、それに誓っても、そのとおりでしょう。なぜなら、わたしたちにとっては真理は金剛石よりも強力なのですから。
 しかし、それでは、さぁ、コリントス人のあのよく知られた有名な問題を鏡に映してみよう。彼はこの問題でも得意の鼻を高くしていたのですから。

ANT. 何でも望みのことを訊きなさい。

POL. 彼は主張しました、ワシたちの羽は、ほかの生き物の羽にあてられると、これと取っ組み合ってだめにしてしまう、あたかも、ここにおいてもワシは他の鳥類の僭主たらんとするかのように、また、髪の毛のない禿げちゃびんになっても、王位に劣らず権職にのぼろうとするかのごとくに、それはどうしてか、と。どういう道理(logos)がありますか、アンティステネース。自然の働きをわたしに説明してください。

ANT. 何というコリントス人であることか、一種学問的な価値ある知識をもったソフィストだとは。とにかく、わたしが言おうとすることは、あなたにとってはちょっとしたことです、ポリュクラテース。
15.
あなたは、おとなしくわたしに耳を傾け、セイレーンの声を聞いてくれるでしょうね、ひとりのイタケー人〔オデュッセウス〕が、いつか、白鳥にまさる旋律そのものに〔耳を〕傾けたように。

POL. むろんです、言ってください、おお最善の人よ。

ANT. ワシは悪臭きわまりない鳥です。だからこそ、自分の狩りの残り物にさえ、二度と再び襲いかかることはなく、まして、おお友よ、昨日の狩りに手を出すこともないのです。さらにまた、他の生き物たちの食べ物となることもありません。その日のうちに消滅するからです、ちょうど、ピネウスとハルピュイアとの間に、食事の残り物が生ずるように。だからして、ワシの羽はどういうわけか破壊的なのです。一種腐りやすい自然を分有しているために。そして、ワシの羽が羽毛に近づくと、ほかのものは助からないのです。すぐに破滅するからです。

POL.  すこぶる賢明に、おお愛友よ。
 しかし、アンティステネースよ、アペッレースの絵画をわたしのために見てください。わたしはね、あなた、その絵の奇麗さに驚嘆したことがあります。インドスのあの生き物を、この絵の制作者は最善に刺繍したようにわたしには見えました。ゾウは流水を鼻でかきまぜないうちは、飲まないという言葉があります。

16.
ANT. 言われていることは作り話ではありません。ゾウは水に映った自分の影を観るとびっくりするのです。だからしてインドス人たちも、月のない夜をうかがっていて、このときにこの生き物に河を渡らせると謂われています。神話のナルキッソスに、自分の影から眼をそらし、自然の見知らぬ恋人たちから離れているよう、ゾウをして教えさせよう。

POL. 観照の力に満足しました、自然の言説を厳密に追求することにかけて、あなたは恐るべき人です。
 しかし、では、さぁ、シビレエイに関する言葉をわたしのために愛知してください。コリントス人の傲慢な舌も、シビレエイに関する問題を自慢して、しびれさせるのです。漁夫たちは、と彼は謂いました、シビレエイが籠で捕まえられたとき、籠をたぐりよせると、すぐに籠材によって両手がひどいめにあうと。いったいどうやって、君よ、その生き物は籠材によって漁師たちから自衛するのですか。

ANT. 驚異の海に、ペリクレースは舌をつっこんでしまいました。あなたのアトラス的な精神を、知(gnosis)の限界内に保持しなさい、あたかも、観照の海洋の調査研究に努め励む者のごとくに。そこでわたしは、ポリュクラテースよ、少しばかりの言辞であなたの恋情の霊魂導師となりましょう。

17.
POL. あなたは言ってくれますね、おお気高い人よ。議論(logoi)は都(みや)びやかで利民的なものとして立っているようにわたしに思われますから。今日は、あなたを放しませんよ、わが最善の恋情にかけて、決して。

ANT. 空気は敏感このうえない自然を籤運によって割り当てられています。すなわち、伝導的で、透明で、臭いを伝えるものとしても生まれついているのです。というのは、神的な配慮のようなものが、そういうふうにそれを最善に創造したのです、何とか諸々の共感(sumpatheiai)と諸々の作用(energeiai)とが、その〔空気〕を通して、この地をめぐる地表じゅうに行き渡るように。こうして、これが数々の情態や作用(energeia)の原因になるのです。例えば、見るからに病気である者たちが、これを見る者たちをしばしば病状の共有者たらしめるのは、いかにしてか? いうまでもなく、取りまいている空気が中間にあって、体力と病弱がわれわれに内在するからです。だから、内在する空気によって、シビレエイも自分に接近する者たちにある情態をつくりだす方法を知っているのです、たとえ〔接近する者たちが直接〕これに触れなくても。さらに次のことも証拠としてあなたに述べましょう。
18.
磁石は — これをヘーラクレースの石ともひとびとは謂いますが — 、鉄から離れている、にもかかわらず、中間の空気を介して、この石が作用を放射するのをわたしたちは眼にします。さらにまた、植物のナツメヤシにも生ずる共感は、どのような精神をか喚起するのではありませんか? 驚異に対する聞き耳をそばだてさせるのではありませんか? 植物のナツメヤシにおいては、メスの種とオスの種とは別々に区別されます。そうして、オスとメスとがお互いに近づくと、メスが小枝を垂れるのをあなたは見ることができよう、あたかも、恋する葉(kome)をオスに〔垂れ〕、交接の衝動につきうごかされているように。しかし、これの小枝がオスに届かない時がある、その時は植木屋たちは恋〔を成就する〕ために、これにある知恵をほどこす。すなわち、これを木材でオスに巻きつけ、こうしてメスは享楽を感受するようになり、膨張をすすめ、みずからの姿に加えて小枝を芽生えさせる、あたかも、木材を介してオスとの結合を射止めたように。だから、シビレエイも、中間の籠材を介して漁師たちに苦痛(pathos)をつくったとて、何ら奇妙なことではないのです。

19.
POL. 何とまぁ、この言葉は! あなたは、アンティステネース、十二分に自然の兄弟だとわたしに思えます。
 しかし、海上から陸上に移ることを言葉が恋し、観照を大陸に方向転換することに焦がれています。シカたちは、これはコリントス人が嘘をついたわけではありません、角を振り捨てて、住み慣れた土地から逃げ去ります、あたかも、それまですごしてきた自分たちの無秩序(akosmia)を恥じるかのように。

ANT. ひとは、おそらく、ペリクレースは冗談をいっているのだと思うことでしょう、ポリュクラテース、あるいは、コリュバースたちのように神がかっているとか、気がふれているとか〔思うことでしょう〕、こんな悩ましい問題をたわごととして提起しているのですから。しかしわたしはあの人に驚嘆し、知の美を愛する点を顕彰します。いや、このプラタノスについて小さなことを置くのがあなたによいと思われるかどうか。プラタノスは高さと影濃き全美さにおいて、アグノスよりも枝の広がりが大きいのですから。

POL. それなら、前進してください。

20.
ANT. では、さぁ、おおソッシオスの子よ、あなたは思いますか、シカが角を振り捨てると、本当にあなたは思うのですか。

POL. そのとおりです。何度となくそれをわたしは見てきました、年齢的に子どもで、理性がまだもっと粗野なときにも、狩猟狂いがわたしにおこり、峡谷や丘陵に驚嘆し、高山の村をわたしの住居とした、そのときも。

ANT. とにかく、わたしも言いましょう、シカたちが慣れ親しんだ生活習慣を、角を切り捨てるように捨てるのはいったいどうしてかを。他の生き物たちにも感覚(aisthesis)があります、ポリュクラテース、その〔感覚〕にもとづいて、彼らは自分の救済の判断を得ます。コウイカはみずからの墨の策を知っていて、きっと、漁師たちに獲物を見えなくさせることしばしばです。曲爪類は爪による防御を知っています。ウサギは、逃げ足と俊足によって狩人のたくらみをかわすことを知っています。シカは角を振り捨てて、自然本性が弱くなることで、悩ます連中から自衛することを知っているのです。だから、姿を隠すのです、武器を持たぬ将兵が対戦することを恐れて、どこか遠く戦闘の場から離れていようとするように。かてて加えて、どういうわけか、
21.
この生き物は頭を恐ろしく苦手とするのです。これを自然は知っていて、愛知を伝授しておいたのです。

POL. 善き狩人のように、おお友よ、あなたはこの逍遙〔議論〕によって最大の理会のようなものを狩りだしました。今は、美しいプラタノスの下なるわたしたちのまわりに、学問的微風が吹いています、ここから輝かしい論(logion)を汲み上げることができるのですが。
 では、こちらへ、リビュエーの驚異へとわたしを招いてください。というのは、そこには、コリントス人が謂ったのですが、ある常識外れのことが観察されるというのです、ヘビたちはペーガノンから逃げ出す、一種の力が彼らを退散させるように、と。これはどういう意味(nous)ですか。あなたのポリュクラテースに答えてください、あたかも、一種のピュティアの鼎から答えをなすように。

ANT. こんなにも好奇心旺盛なひとだったとは、おおポリュクラテース。わたしには、分別心にかけて、気づけませんでした。とはいえ、これも女神「観照」に対するあなたの愛にほかならないからには、この言葉(logos)に対してもわたしたちを無考えな者として持つことはないでしょう。ところで、ヘビはその自然本性をさらにひどく冷たく、乾いた、丈夫なものとして生まれついています。また次のことも、真理の証拠としてあなたのために立てられているとしなさい。〔すなわち〕冬の季節には、ヘビは住処の穴のように洞穴を恋し、大地の深みへと旅します、冬の季節は、より暖かくなって、温さの点で適当な住処を有するためにほかなりません。
22.
しかし熱くなると今度は再び、地上に現れ、地表への出現を喜びます。そして、ヘビは冬至の時期を知っているのです、天文学やカルダイオスたちの策を教育されたわけではないけれど。ところで、リビュエーのペーガノンはひどく乾燥しきったもので、ヘビたちをすぐに気絶させてしまうのです、あたかも、極端に乾燥したものによって発作やめまいをもたらされるように。

POL. その言葉はわたしにとってまったく完璧です、真理の形態をとっていますから。
 しかし再びわたしの恋は海上に旅だつ〔ように思われます〕。というのは、わたしの理性(nous)が陸地の驚異に注目したとき、海上に走り出そうとするからです。そこでふたたび、海の制作に向けて旅すると、驚異の深みから登ってくることを恋し、陸上の観照に取って代わるのです。

ANT. またもや議論(logoi)を必要とするからは、ポリュクラテース、謂ってください、あなたにとって観照の事柄がいったいどのように旅するのか謂ってください。

POL. わたしは耳にするのですが、船乗りたちは、油を海に流して凪を案出するというのです、
23.
あたかも、波立つそれ〔海〕が穏やかになるよう工夫するかのよう。これこそは漁夫たちが魚たちを漁するためにいつもすることです。この観照〔の海〕を、釣り船のように言葉(logos)に乗せて、アンティステネース、わたしを渡らせてください。

ANT. 風(pneuma)は微細きわまりないもの生まれついています、ポリュクラテース。これに反して油は、滑らかさゆえにねばねばの状態にあります。とにかく、風はその平滑さゆえに滑って、水に波浪を起こすことができません。ここからして、海は凪を現出する、あたかも、人間愛にみちた油によって怒りを眠らせるように。

POL. まだあなたをつかまえたまま、放しませんよ、アンティステネース。わたしは快楽愛のせいで倦怠を追い払うのですから。
 ハゲワシたちは3年に〔1度〕妊娠すると、くだんのコリントス人が大風呂敷を広げていますが、自然の法にそぐわないことのようにわたしには思えます。こんな作り事はまだ聞いたことがありませんから。

ANT. 鳥たちの多くの種類は、ポリュクラテース、妊娠するためにオスたちとの交尾を必要とするわけではありません。
24.
むしろ、他の鳥たちの場合には、風卵が無精卵となりましたが、ハゲワシたちは交尾せずに産むことが自然の法と定められているのです。だから、ハゲワシはオスを見かけることはなく、メスの自然本性が彼らの全種族にそなわっているのです。このことを知り、子のないことを恐れるがゆえに、ハゲワシたちは、全種族が子孫のために出征するのです、ちょうど、レムノス島の女たちが、英雄たちの軍隊が出動したのを見たように。そのうえで、ハゲワシたちは多彩な策を弄します。南風には面と向かって飛ぶ。しかし南風のないときは、同族の子宮口に翼を広げます。しかる後に大口を開けておいて、吹きこむ風に満たされ、卵を産みますが、これは風卵ではありません。だから、生物の成熟に自然は多大な時間を要するのです、ポリュクラテース。というのも、自然本性に困難であまりに難儀なことだからです、風を実体化し、微細きわまりないもの〔=風〕を生物の成熟へと造形することは。

POL. コリントス人は大風呂敷を広げているのだと、アンティステネース、わたしは思っていましたよ。しかし、わたしたちはとらえられ、真理の籠にとびかかっているのです。いったい、これほどの哲学の思案所がわたしにあるでしょうか。むろん、ない、ありませんよ。知識を入手しながら、未完成のままわたしが立ち去ることはありませんから。
25.
噂では、魚たちはポントスに定住しているのに、タコは北の湾にいないといいます。

ANT. たしかに、当然なのです、ポリュクラテース。ポントスはタコのやもめなのですから。というのは、魚たちのあるものらは、冷たさを必要としますが、それはきっと新鮮な流れを求めるものたちでしょう。ところが、あるものたちは、熱さを恋し、海へと向きを変えるのです。なぜなら、それ〔海〕はその他の水よりも熱いからです。とにかくタコは、ポントス海に憎まれています。というのは、北方の海洋はより冷たく生まれついているばかりか、自余の海より甘いからです。というのは、数多くの大きな河川によって流れ込まれているのですから。しかしタコにとっては、冷と甘は反対のものです。証明するに充分なものをあなたに述べよう。タコは岩と交尾し、引き離しがたい状態にあります。それゆえ、漁にかけて恐るべき者たちは、岩に甘い水を注ぎかけます。こうして彼らは求める獲物を手にし、他方〔のタコ〕は心ならずも自分の足場から離れるのです。


26."1t"
第二の対話のはじめ

26.2
 セメレーの子、むしろゼウスの子ディオニュソス — というのは、ディオニュソスにとってその誕生はゼウスから2度であったから — 、そういう次第でゼウスの子ディオニュソスを、あるとき人間の女が未熟児として流産し、神話のこの神が未完成であったとき、その父親〔ゼウス〕は太股によってこの胎児を成熟させた。こうしてセメレーの子ディオニュソスはもう一度胎児となった。半分語られた言葉をわたしのために成熟させよ、教師諸君、仕上げはあなたがたにかかっている。未完成の論の陣痛をあなたがたは我慢しないであろうから。
 パンは恋におちた。しかしパンが恋したのは自分自身で、恋い焦がれる声の響き〔のみ〕があった、その仕掛け(sophisma)がパンに気づかれなかったにしろ。彼が発声すると、恋される声を感知したが、歌をやめると、恋い焦がれるものは消えた。そういう次第で、わたしも歌おう。なぜなら、わたしはわかっているが、この討論会は反響して、わたしは恋される籠を感知する、たとえ称賛が言われていることの価値以上だとしても。

POL. 好奇心旺盛な魂たちに、知の倦怠はありません。ところで、言葉は折り返し点に達しました、アンティステネース。わたしの耳は眼よりも飽くことがないのですから。
27.
 金剛石はヤギの血によって軟らかくなるとくだんのコリントス人が謂いました。これこそは神的で解けぬ謎のようにわたしに思えます。では、さぁ、この会合の初めにして終わりです。金剛石に関する議論が立ちました。

ANT. たしか、すでにあなたのために、ポリュクラテース、金剛石の自然本性は乾、冷、そして無湿だとわたしたちは前提しました。ここから、当然、金剛石は反対のものらには従順なのです。ところで、血には熱と湿の自然が内在します。それゆえ、湿には乾と無湿が服従するのです。これに反して冷は熱によって軟化します。

POL. いったい全体、金剛石が、血であればどんな血にでも服従するわけではないのは、どうしてですか?

ANT. ヤギの血は最も熱いものなのです。ここからして、どういうふうにか、金剛石さえも支配するのです。しかし、一部にはすでにライオンの血で金剛石を軟らかくした人たちがいます、極端な熱さによって、それ〔金剛石〕の軟らかくなさを克服して。

POL. とにかく、血にもさまざまなものがあります。

ANT. たしかに。シカの血を独自のものとして持つものあり、ウシの血を固有の作用(energeia)として持つものあり。

28.
POL. この言葉は真理の招来者です、アンティステネース。
 しかし、アリストーンの子ども〔の絵〕がわたしに見えます。あの若者は、どんなに一生懸命に騎乗していることか。ご覧のとおり、猟師たちの〔乗った〕二頭立て〔戦車〕邪魔ものあつかいしていることは、いうまでもありません。彼のウマは項(うなじ)高いたてがみを黄金の首飾りのようなもので飾られ、どんなに意気揚々と跳ね、歩様(ほよう)でいななき、あたかも、尊大に勝ち誇っているかのよう。子どもの方は、右手に手綱をしっかり握って騎座し、両の脚でウマを駆り立て、町めざして駈けさせています。そして、若者はどんなにか嬉々としている。というのは、猟の経験不足は彼の場合には当てはまらないからです。どんなにか大きなウサギが彼にぶらさがっているのがわたしに見えます。そして、ここからして、ひとつの観照がわたしに思いつきました。
 ある人 — この人には神話的なこしらえものの法螺話はありません — その人から聞いたのですが、ウサギたちは、産児のあるものは陣痛の最中、あるものは出産しおわり、またいくつかは未熟児としてまだ子宮にかかえている、と。

ANT. ウサギたちの自然は多産きわまりないものです、ポリュクラテース。言われていることは正確に立証するに充分です。
29.
ウサギの初乳(pytia)は、子のない女に服用されると、すみやかに妊娠させ、乳飲み子を石女に恵みます。そういうわけで、ウサギたちの受胎は間隔を置くことなく、子が完全に産まれるとさらに次なる受胎をします、あたかも、それ〔先に生まれた子ら〕続いて生まれるかのように。だから、ウサギはあるものらを生み終わり、あるものらは陣痛の最中にあり、あるものらは未熟児としてまだ子宮にあらかじめかかえているのです。アイギュプトス注1)とダナオス注2)は多産の者だと詩人たちは歌っていますが、しかしウサギは彼らを圧倒しています、かのアブデーラ人がどこかで謂っていたとおり、信じることに罰は当たりません。

POL. 自然的な必然性によって、アンティステネース、あなたはわたしたちを説得しました、ウサギたちについてしっかりした〔根拠〕をもってわたしに説明して。
 しかし、オオガラスたちの種族については、どのように言葉が飛び立ち、空に舞うようになるのか、わたしはわかりません。というのも、あたかも、〔オオガラスたちは〕夏の間、水汲みを禁止されているかのようであるのをわたしは感知します。

30.
ANT. オオガラスたちは、夏の間、ある情態を被っています。その情態とは、胃の流失です、おおポリュクラテース。ここからして、河川も泉も池も、夏の期間、オオガラスたちには何の用もなさないのです、胃の流失のせいで、湿の減少をけっしてもたらさないために。こういう次第で、オオガラスたちも生活の術を知っているのです、ヒッポクラテースを学ばず、マカオーンの〔薬〕とかケイローンの薬とか〔学んでいないけれど〕。とにかく、夏の間、オオガラスたちはアレトゥーサ河を見、イストロス河の流れを見、さらには、アイギュプトスを水浸しにするネイロス河を〔見ることは〕いうまでもありません。しかし、それにもかかわらず、それを飲むことができず、タンタロスたちのように、その過酷きわまりない罰をはたしているのです。

POL. いいですねぇ、あなたの知識(episteme)は。このプラタノスはすばらしい、まるで、セミたちが新しい枝の先に乗っかって、わたしのために快く鼻歌を歌っているかのようです。
 はたして、ここで、セミたちについてひとつの言葉がわたしの中に押し入ってきました。自然の働きを取り出すことがわたしに思い至ったのです。雌のセミはまったく無音に生まれついています、あたかも、慎み深さゆえに饒舌を恥じるかのように。
31.
あなたはご覧になるのではありませんか、この〔雌〕セミがまったく沈黙して枝に端正にとまっているのを、あたかも、ピュタゴラスの教えを教えこまれたかのように。

ANT. セミたちは、自然本性的に冷たいものたちです。それゆえ、夏至のあと歌を始め、太陽が出ている間、自分たちの鳴き声を放ち続け、正午の刻限にはなおいっそうよく歌います。ところが雌のセミは、たいてい、雄よりも冷たく、自然が、冷たさの減少を増すために、彼女に沈黙を命ずるのです。それゆえ、雌のセミはおしゃべりではなく、口がきけぬテアノーのように沈黙しているのです、あたかも、「物語(mythos)は男たちの心がけること」〔Od.I_358〕というホメーロスの教えに聴従しているとわたしに思われるかのように。

POL. この言葉は気に入りました。
32.
 しかし、それではさぁ、話題を転換せよ、と言葉がいっています。というのは、わたしの観賞が、無教養ならざる言葉をたずさえてアイギュプトスからたった今到着したところですから。噂では、アイギュプトス人たちはトキたちの卵に相談するといいます、それから産まれるものが、何か悪いものを成熟させないように。というのは、これから何か恐るべきものが、どういうふうにかその誕生を持つとアイギュプトス人たちは口やかましくいうのです。はたして、言われていることはくだらないことなのか、それとも、おとぎ話なのですか?

ANT. わたしにはそうは思えません。というのは、この発明は真実至極に賢明であり、アイギュプトスらしいものなのですから。で、言葉を聞くことをきっとあなたは恋されるでしょうが、そうであれば、あなたに言うべきことをわたしは持っています。この鳥は、悪臭のするものを餌にすることを快とします。とりわけ、有毒動物の獲物をよろこび、がつがつむさぼります。ところがしかし、ヘビたちにとってトキは、バシリスコスがそうであるように、敵なのです。それゆえ、トキたちの羽もまたヘビたちにとっては敵です。さて、〔トキは〕ヘビやサソリの肉を飽くことなく求め、この狩りに興じてきました。
33.
こうして、あたかも腐りやすい生成物からある恐るべき悪しきものが〔誕生する〕ように、バシリスコスが発生するのです。それゆえ、アイギュプトス人たちは、どこかでトキたちの卵を見つけたときには〔これを〕潰すのです、あたかも、将来自分たちに降りかかる危害を前もって刈り取るかのように。なるほど、アイギュプトス人たちをプリアモスが妬んでいたなら、あるいは、オイディプゥスをライオスが殺害していたなら、トロイアの陥落はなかったであろうし、母子相姦という交接はテーバイに起こらなかったであろう。

POL. わたしはペリクレースに大いに感謝していますよ、アンティステネース。だって、わたしたちにとって最大の知の契機となってくれたのですから。ところで、言葉がアイギュプトス人をプローテウスとしてわたしたちに演出したからには — 少し前には、オオガラスたちに関する観照を、ほかの箇所では、金剛石の〔観照〕を、その次には、トキたちの〔観照〕へと移ったのですから、今度は、イシチドリたちの飼育へと潜入します。
 それでは、いざ、会話を転換してください。噂では、黄疸患者たちをその病状からすぐに快癒させるといいます、もしもイシチドリが彼らの方を見返したなら。そうすると、邪眼を持ったイシチドリは、眼球の瞳を閉ざすことになります、あたかも、たくらみを持って健康に対する妬みを分け与えるかのように。

ANT. 引っ返しなさい、ポリュクラテース、馬鹿げたことから引き返しなさい。というのは、言葉なきものらが邪眼に与ることはないのですから。プロメーテウスでさえ、彼らのもとでは、火という善きものを人間たちに与えたから罰せられているわけではありません。
34.
イシチドリが眼を閉じるのは、病状を転換し、この鳥に病気がまっすぐ襲いかかるからなのです。

POL. 端的に言って、人間の自然本性の中には、最も多く知慮が内在しています。
 では、こちらへ、このアーモンドについて、少しく時を過ごしましょう、友よ、何か快きことをわたしにささやき、程よい微風がこれにそよいでいるのですから。

ANT. アーモンドが見えます、果実もたわわに、頭花の実にもう少しで地面に届くほどたわみ、頭を下げているのが。じっさい、ポリュクラテース、〔アーモンドは〕豊栄(eueteria)の最大の証拠です。

POL. いったい、何ゆえですか、おお最善の人よ。

ANT. この植物は、空気の穏和(eukrasia)を歓迎し、花咲いて豊穣(eukarpeia)をもたらすのです、この地上の住処が平和な季節を導くときにかぎって。だからこそ、アーモンドは豊栄の予告者となるのです、冬の接近、雷雨の到来を告げることがないので。

POL. しかし、あなたによいと思われるなら、この柱廊さっさとひっこみましょう。ごらんのとおり、雨が降り始め、風の動きから察して、雨宿りをするのがよさそうですから。
35.
 さらにまた、気象学を思い起こすという利得がわたしに生じました。

ANT. その議論の企ては、どれくらいのものですか。

POL. 火で煮沸された流水は、自然本性に腐りにくいこと、あたかも、これの地上的な要素は消費されつくしたかのように。とにかく、雷雨からわたしたちの手に入る水は、太陽が微細きわまりないものを濾過し、運び来たったものだから、他の水よりもどんなにか腐りにくいはずなのに、まったくとんでもない。事実は正反対なのを見ることができます。すなわち、雷雨からできた水は、すみやかに腐るのです。

ANT. 雨の自然本性はごったまぜなのです、おお君よ。太陽は湿りけのあるものなら何でも運び来たるのですから。そういう次第で、不揃いさ(anomalia)は変質しやすく、一種の腐敗に対しても急であるのを見ます。そのうえさらに、運びもたらされたものの最も重い部分は、今度は底に沈みます、重さが均衡を下方に割り当てるからです。というのは、微細きわまるものは蒸発によって風の自然本性を得るからです。

POL. まったくみごとです。
 しかし、わたしを行き詰まりの非難から自由にしてください、自然に関する議論をわたしのために完成させて、アンティステネース。
36.
セリポスのカエルたちは、パラリスのリュシマコスが謂ったのですが、無音なのが観察されるというのです。

ANT. 水の自然本性が連中の無音の原因です、おおポリュクラテース、あまりに冷たすぎるので。ここから、その生き物を別の地に移住させるひとがいたら、すぐに饒舌にならせ、本来の自然本性へと方向転換させられます、あたかも、キルケーの呪縛から解き放たれたように。これに反して、キュレーネーのカエルたちを、水の苦さが饒舌でないものに仕立てあげているのです。

POL. すこぶる科学的です、愛友よ。
 次のことがわたしたちの身に起こったのは、どうしてでしょうか。思えば、かつてアッティカにいたとき、寄り合いで御馳走になり、テアゲネースの酒宴をどんなにか繰り返したことがあります — サラミス人テアゲネースが、わたしと、クレイニアスの子ドシテオスとをもてなしてくれたからです。さて、おかずと蜂蜜パンを彼はわたしたちに供しました。そこでわたしは、飲み物に感謝のことばを謂って、どうやら、気前よく、ある議論の上を転げまわってたらしい、 — まさにそのとき、テアゲネースがわたしに云ったのです。
37.
『あなたはご覧になるのではありませんか、おおポリュクラテース、ハエたちはアッティカの蜂蜜の労作にたかることができないのを』。じっさい、言われたことにわたしは驚いてしまいました。わたしたちにとってその理会はあまりに踏破困難だったからです。

ANT. タチジャコウソウに、ポリュクラテース、アッティカの野が波打っているのを観ることができます、この花にアッティカの蜜蜂たちはいつもとまるのです。まさにそこからして、蜂蜜は嗅覚により鋭くうったえます。それゆえ、あたかもアッティカの聖なる蜂蜜にと同様、ハエはたかることがないのです。たしかにぶんぶん飛びまわりはしますが、やはり、アッティカの蜜蜂の労作を掠めとるために近づきはしないのです。対ヘッラス戦に武装したダレイオスはどこにいますか? クセルクセスの傲慢をハエをして教育せしめよ、アッティスの人々に攻めかかるという法(themis)はなかったのだと。

POL. すこぶる気前よくわたしをもてなしてくださいました、アンティステネース、わたしの観照に一種のデザートとして、アッティカの養蜂の説明をして。ところで、いったい、これらの事柄の理会(katalepsis)は、勝手にあなたにそなわったのですか?

ANT. とんでもありません、ポリュクラテース。今までにもすでに昔の人たちによって、数多くの世に知られた議論や労苦があまねくゆきわたらせられています、これにわたしたちは理性をもって、まるで蜜蜂たちのようにとまり、ひとつの包括的な仮定(hypothesis)へとまとめたのです、
38.
できるかぎりより詳細に言葉(logos)によって究明して。すなわち、わたしはデーモクリトスの労苦をわがものとすることなく、アリストテレースの名声さえも身にまとうことなく、プラトーン〔の教説〕から何事かを着物剥ぎすることもしません。また、イアムブリコスを無冠のまま置き去りにすることもなく、プロクロスを、ガレーノスを、知識において怜悧な人たち〔すなわち〕プローティノスを、ソーティオーンを、アレクサンドロスを、知(gnosis)の海テオプラストスを、ボーロスを、アイリアノスを、知識の富者プルゥタルコスを、アムブローンを、イムブラシオスとかダマスキオスとかティマゲネースの子ヒエロクレアスを〔置き去りにすることがない〕。いったいぜんたい、その他の人たちの名簿をあなたのために付け加える必要があろうか、その人たちから、もろもろの前提や原理といったものを採集して、あたかも、好奇心旺盛なあなたに何事かを〔嫁がせることが〕できたように、わたしたちが綜観(synopsis)を嫁がせたところの人たちを。というのは、ポリュクラテース、ちょうど、寓話のコクマルガラスのように、他人の飾りで威張るのは法(themis)ではないからです。昔の人たちによって正されなかったようなことは、何もないのですから。しかし、〔昔の人たちに〕ごく身近に出会うことは、まったく容易なことではありません。

POL. わたしはあなたの知識から益を得ました、アンティステネース、しかし、わたしはさよならをして去ります。得難い議論から知識を、ヘルメスからわたしへのすばらしい僥倖として手に入れ終わったのですから。

//END
2004.09.14. 訳了。
この翻訳は苦労したぜぃ!


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