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129
 このとき、彼の友人がひとりやって来て、番人たちに頼みこんで、彼のところに入ってきて、泣きながら言った、「わたしたちのことは、どうなったのか?」。そこで彼は彼に言葉〔物語〕を云った、「ある女が、夫を葬って、座ってその墓標にすがって泣いていた。するとひとりの耕作していた者が、彼女を見て、これと交わりたいと欲し、ウシたちを畑に置いたままにして、彼女のところに行って、泣くふりをした。すると彼女が〔泣くのを〕やめて、『どうして泣くのさ』と聴いた。耕作者が言った、『かしこくて善い妻を葬った、でも泣いていると、苦痛が軽くなる』。すると彼女が、『あたいも善い夫をなくしちまった、でも、こんなことをしていたら、苦痛の重みを引き延ばすだけ』。そこで彼が彼女に云った、『それなら、同じ災禍と運命に見舞われたのなら、ほかの人たちと知り合いになれないなんてことがあろうか。おらはあんたを前の女房のように愛そう、おまえもおらを〔前の〕夫のように愛してくれ』。こう言って女を口説いた。ところが、彼女といっしょになっている最中に、誰かが彼のウシたちを解いて、追っていってしまった。耕作者はこれを知って、自分のウシたちが見つからないので、心の底から嘆いて泣き声をあげた。すると女が、『なぜ泣くのさ』。そこで耕作者が、『おお、女よ、今こそ慟哭するわけがあるのだ』。だから、君も、なぜ悲嘆慷慨しているのかとわたしに質問する、自分の眼でわたしをとらえた運命(tyche)を見ているのに」。
129
 このとき、彼のひとりの友人、名はデーメアスが、番人たちに頼みこんで、彼のところに入ってきて、彼が泣いているのを見て言った、「どうしてそんなに嘆いているのか?」。するとアイソーポスは彼に言葉〔物語〕を云った、「ある女が、夫を埋葬して、その墓標のほとりに座って泣いていた。すると近くで耕作していた者が、彼女といっしょになりたいとおもった。そこで、ウシたちを残して、行って、彼女といっしょに泣きだした。そこで彼女が、どうして彼まで泣くのかと、彼に聴くと、相手が云った、『それは、わしも美しい妻を葬った、そして、泣いていると、苦痛が軽くなるのだ』。すると彼女が謂った、『あたいも同じ目にあったのよ』。するとくだんの男が謂う、『そんなら、同じ苦痛に見舞われたのなら、お知り合いどうしになれないなんてことがどうしてあろうか。すなわち、おらはあんたを前の女房のように愛そう、あんたもおらを、あんたの夫のように愛してくれ』。こう言って女を口説いて、いっしょになって、彼女をもてあそんだ。その間に、誰かがやってきて、ウシたちを解いて、追っていってしまった。くだんの男がやってきて、何も見つからないので、嘆き、慟哭して、胸を叩きはじめた。すると女が、彼が悲嘆しているのをみて謂った、『また泣いているの?』。男が、『今こそ、厳密な意味で本当に悲しんでいるのだ』。この男の場合は、そのとおりだ。しかし君は、たくらみでわたしをとらえた運命をみながら、なぜに慟哭するのかと尋ねるのか?」。
130
すると友人は心を痛めながら彼に向かって謂った、「いったい、彼ら自身の祖国や都市で、それも、君は彼らの権力の下にありながら、彼らに無礼を働くのがよいと君に思われたのは、どうしてなのか。君の教育はどこへ。君の愛言〔哲学〕はどこへ。君は諸都市や民衆に、意見を与えてきたのに、自分自身に対しては無思慮なのか」。すると彼は、別の言葉〔物語〕を彼にあてがった。
130
すると相手は彼のために心を痛めながら謂った、「いったい、デルポイ人たちに無礼を働くのがよいと君に思われたのは、どうしてなのか。君のこれまでの知恵は、市民たちを、それもとりわけその人自身の祖国で、無礼を働く前に終わってしまったのか?」。するとアイソーポスは、ふたたび別の言葉〔物語〕を彼に云った。
131
「愚かな娘を持った女がいた。彼女は、万の神々に、娘が分別(nous)をつけられますようにと祈り、彼女が祈るのを、その処女はしばしば聞いていた。そしてある日のこと、〔母娘は〕畠に行った。すると彼女〔娘〕は母親を残して、小屋の外に出て、雌ロバが男に強姦されているのを見、その男に尋ねた、『何をしているの』。すると相手が、『こいつに分別を仕込んでやっているのだ』。愚か娘は〔母親の〕祈りを思い出して、謂った、『あたいにも分別を仕込んでよ』。ところが相手は、悦楽の最中とて、断って言う、『女ほど恩知らずな者はおらんからな』。すると彼女が、『道理(logos)に合ってないわ、おじさん、あたしの母だって、あんたに感謝するでしょうし、ほしいだけ報酬をくれるわ。だって、あたいが分別をつけますようにと祈っているんですもの』。そこで男は彼女の処女を散らせてやった。すると彼女は大喜びで、母親のもとに駈けていって云った、『あたし、分別をつけたわよ、お母さん』。彼女が、『どうやって分別をつけたのだい、わが子よ』。そこで愚かな娘が詳しく説明した。『ひとりのおじさんが、長い真っ赤な筋肉のような、出たり入ったりするものを、わたしのために中に突っこんでくれたの』。そこで母親は、娘が自分で説明するのを聞いて謂った、『おお、わが子よ、初めに持っていた分別までなくしちまったんだね』。わたしにも同様のことが結果したのだよ、友よ。すなわち、デルポイ人たちの中に入って、初めに持っていた知恵までなくしてしまったのだ」。かくして、彼の友人はさめざめと泣きながら、離れていった。
131
「ある女が、愚かな処女の娘を持っていた。だから彼女はいつも、娘が分別(nous)を持ちますようにと祈っていた。また、彼女が心から祈るのを、その処女は聞いて、その言葉を心に留めた。さて、何日かたって、母親と連れだって田舎に出かけ、前庭の門を覗いて、雌ロバが男に強姦されているのを眼にした。そこで近づいていって、その男に云った、『何をしているの』。すると相手が謂う、『こいつに分別を仕込んでやっているのだ』。そこで愚かな娘は、自分の母親が毎日、自分が分別を持ちますようにと祈っていることを思い出し、こう言って頼んだ、『おじさん、あたいにも、分別を仕込んでよ。というのも、そうしてくれたら、あたいのおっ母さんも、あんたに大いに感謝するだろうし』。そこで男は引き受けて、雌ロバは放置して、彼女の処女を散らせてやった。すると彼女は母親のところにもどって云った、『見て、お母さん、あんたのお祈りどおり、分別をつけたわよ』。すると彼女の母親が謂う、『神様方は、わたしのおいのりを聞き届けてくださった』。愚かな〔娘〕が謂った、『そうよ、お母さん』。『いったい、どうやって』と〔母親が〕謂う、『知ったのだい、わが子よ』。そこで彼女が云った、『おじさんがそれをあたいに仕込んでくれて、長くて赤くて筋張っていて、出たり入ったりするものを、あたいに突っこんだの、あたいも気持ちよかったわ』。すると、これを聞いて母親が謂った、『おお、わが子よ、初めに持っていた分別までもなくしちまったのだね』」。
132
 やがてデルポイ人たちが入ってきて、アイソーポスに向かって謂った、「今日、崖からおまえを投げ落とすことになっている。そういうふうにしておまえを亡き者にすることをわれわれは票決したのだ、神殿荒らしと冒涜者にふさわしくな、そうすれば埋葬してもらうこともできない。覚悟することだ」。アイソーポスは、彼らが脅しつけるのを見ながら、謂った、「話(logos)を聞いてくれ」。すると彼らは彼が言うことを許可した。そこでアイソーポスは謂う。
132
 すると友人が、彼に向かって謂った、「君のことを、デルポイ人たちは票決して帰ってきた、冒涜者、法螺吹き、神殿荒らしとして、崖から突き落とすと、墓にも与れないようにと」。こういうことを彼〔友人〕が番所でアイソーポスにしゃべっていると、デルポイ人たちがやってきて、アイソーポスを番所から追い出し、力ずくで彼を崖の方に引きずっていった。そこでアイソーポスは、自分に耳をかすよう彼らに頼んだ。すると彼らが許可したので、彼は謂った。
133
動物たちが同じ言葉をしゃべっていたとき、ネズミがカエルと友だちになり、これを食事に呼び、すこぶる裕福な蔵にこれを案内した、そこには、パン、肉、チーズ、オリーブの実、乾したイチジクがあった。そうして〔ネズミが〕謂う、『召し上がれ』。美しい気分になったカエルが謂う、『君も、食事するために、おいらのところに来いよ、君を美しい気分にしてあげるから』。こうして彼を池に連れて行き、謂う、『泳ぎな』。するとネズミが、『ぼくは泳ぎ方を知らない』。カエルが、『おいらが君に教えてやろう』。そして、ネズミの脚を自分の脚に紐で結びつけて、池の中につかり、ネズミを引きずった。ところがネズミは溺れそうになって云った、『屍体になるぼくだけど、生きている君に復讐してやる』。彼がこう云ったとき、カエルは彼を溺れさせてしまった。こうして、彼が水面に横たわり、漂っていたので、カラスがネズミを、カエルといっしょに結ばれていたのを引っさらい、ネズミをむしゃむしゃ喰い、カエルをもつかまえた。こうして、ネズミはカエルに復讐した。同様にわたしも、諸君、死んだらあなたがたにとって運(moros)となってやる。というのも、リュディア人たち、バビュローン人たち、そしてほとんどヘッラス全土が、わたしの死の果実を〔あなた方から〕刈り取るであろうから」。
133
動物たちが同じ言葉をしゃべっていたとき、ネズミがカエルと友だちになり、これを食事に呼び、富裕者の蔵にこれを案内した、そこには、パン、チーズ、蜂蜜、乾したイチジクなど、善いものがいっぱいあって、そうして〔ネズミが〕謂う、『召し上がれ、カエル君、ほしいだけ』。そして彼らが満腹すると、カエルがネズミに向かって謂った、『今度は君もぼくのところへ来たまえ、そうしたら、ぼくの善いものをたっぷり味わってくれたまえ。いや、君が臆することがないよう、君の脚をぼくの脚に結びつけよう。そういう次第で、ネズミの脚を自分の脚に結びつけて、池の中につかり、縛られたネズミを引きずった。ところがネズミは溺れそうになって言った、『ぼくはおまえのせいで死んでゆくけど、生きている者によって復讐してもらおう』。さて、ネズミが漂っているのをカラスが見つけて、舞い降りてきてさらった。ところが、それといっしょにカエルまで引っ張りあげられ、じつにそういうふうにして、両方とも食べられてしまった。さて、こういうふうに、ほかならぬわたしも、思いがけずあなたがたから死をたまわれば、法によって復讐してもらえよう。つまり、バビュローンならびに全ヘッラスが、わたしの死に血讐を求めることであろう」。
134
しかし、彼がこう云っても、それでもデルポイ人たちは聞き入れず、崖の方に彼を連行していこうとしたので、アイソーポスはムーサたちの神殿に庇護を求めた。しかし、彼らはそれでも彼を憐れむことなく、アイソーポスは心ならずも引きずられながら云った、「デルポイ人たちの諸君、この神殿を蔑ろにしてはいけない。
134
これを聞いても、デルポイ人たちは彼を放免せず、崖の方に連れていった。そこでアイソーポスは逃走し、アポッローンの神殿に庇護を求めたが、〔デルポイ人たちは〕憐れみをかけることなく、むしろ怒りをこめて彼を引きずっていった。しかしアイソーポスは連行されながらも謂った、「聞くがよい、おお、デルポイ人たちよ、次の言葉〔寓話〕を。
135
ウサギがワシに追われて、〔わたしと〕同様に、クソムシのところに庇護を求め、自分を助けてくれるようお願いした。そこでクソムシは、これの頼みを無視しないようワシに嘆願し、自分の小ささを蔑ろにしないよう、ゼウスにかけて彼〔ワシ〕に誓わせようとした。ところがワシは、クソムシを翼で殴って、ウサギをさらい、ずたずたにして食いつくした。
135
ウサギがワシに追われて、クソムシの寝室に逃げこみ、助けてくれるよう懇願した。そこでクソムシは、嘆願者を亡き者にすることのないよう、ワシに嘆願し、自分の小ささを蔑ろにするこのないよう、偉大なゼウスにかけて、彼に誓わせようとした。しかしワシは怒って、翼でクソムシを殴って、ウサギをさらい、食いつくした。
136
クソムシは怒って、ワシの跡をつけて行き、その巣 — 中にワシは4個の卵を集めていた — を偵察し、〔ワシが〕いない隙にそれを粉々にした。ワシは、帰ってきて、怒鳴り散らした、こんなことをしたやつを捜し出して、ずたずたにしてやると。しかし時期が来たので、ワシはもっと高い場所に卵を産んだ。またもやクソムシがこれを知って、同じことをして引き上げた。ワシは、ワシの種族をもっと少なくしようとての、ゼウスの憤怒だと言って、わが子の死を嘆いた。
136
そこでクソムシは心に傷ついて、ワシの跡をつけて行き、その巣を偵察し、卵を壊してしまった。ワシはといえば、自分の卵の壊滅に怒鳴り散らし、こんなことをしたやつを捜し出そうとした。しかしふたたび時節が来たので、ワシはもっと高い場所に産卵した。しかしクソムシが同じことをして、またもや卵を壊滅させた。ワシはもどって来るや、結末を見て嘆いた、ワシの種族をもっと少なくしようとての、神々の憤怒だと言って。
137
また時節が来ると、ワシが我慢できず、巣の卵を護ることはせず、オリュムポスに昇って、ゼウスの膝の上に卵を捧げ、そして云った、『わたしの卵は2度は消えてなくなりましたが、3度目はこれをあなたに預けます、これを助けてくださるように』。クソムシはこれを知って、わが身を多量の糞でいっぱいにすると、ゼウスのところに昇って、その眼前を飛びまわった。ゼウスは、卵を見守っていたが、クソムシを怖れて、立ちあがった、ところが、懐に卵を入れているのを忘れていたので、これを壊してしまった。
137
そしてまた時節が開始すると、ワシは我慢できず、もはや卵は巣に置かず、ゼウスの膝の上にのぼって、嘆願して謂った、『すでに2度は、なくしましたが、3度目は卵をあなたに預けます、わたしのためにこれを助けてくださるように』。そしてゼウスの膝の上にこれを置いた。一方、クソムシはこれを知って、わが身を多量の糞だらけにし、ゼウスのところに登って、ぐるぐる回りながら、ゼウスの顔めがけて糞を振りまわした。そこで彼〔ゼウス〕は、立ちあがったが、ふところにワシの卵を入れていることを忘れていたので、それを落として粉々にしてしまった。
138
さて、こういうことがあったので、ゼウスはクソムシが不正されたのだろうと察知して、ワシが自分のところに現れたとき、言う、『クソムシに不正したのだから、子どもを失うのは義しい』。クソムシが言う、『わたしに不正したばかりではありません、あなたに対しても大いに不敬を働きました。というのは、あなたにかけて誓いを求めたのに、怖れることもせず、わたしの嘆願者を殺すことまでしたのですから。だから、やめません、最大限やつを懲らしめないうちは』。
138
さてゼウスは、クソムシの不正(adikia)と(paraponesis)から判断して、これ〔クソムシ〕がワシから受けた害(blabe)を察知した。だからこそ、それ〔ワシ〕が現れたとき、謂った、『おまえの子どもを失ったのは義しい。クソムシはおまえに不正〔復讐?〕したのだ』。しかしクソムシが謂った、『わたしに不正したばかりではありません、あなたに対しても不敬を働きました。というのは、誓いを求められたのに、聞き入れなかったばかりか、嘆願者を殺すことまでしたのですから。だから、やめません、最終的にやつに報復しないうちは』。
139
ゼウスは、ワシの種族が少なくなってゆくことを望まなかったので、クソムシに和解を受け容れるよう説得したが、これが説得されなかったので、ワシたちの時節を、クソムシが地上に現れないときに変えた。同様に、あなたがたも、デルポイ人たちの諸君、わたしが庇護を求めたこの神殿を、たとえこの神殿は小さくとも、侮辱してはならん、むしろ、クソムシのことに想いをいたし、ゼウス・クセニオス〔客遇のゼウス〕ならびにゼウス・オリュムピオスを畏敬せよ」。
139
しかしゼウスは、ワシの種族が少なくなってゆくことを望まなかったので、クソムシに和解するよう忠告した。しかしそれが聴従しようとしなかったので、ゼウスはワシの子づくり〔の時期〕を変え、クソムシが現れず、したがってまた害することもできぬ時にした。われわれも、デルポイ人諸君、この神を侮辱してはならぬのだ、これの神殿はかくも小さいからといって。そして、クソムシのことに思いを致し、アポッローンを畏敬せよ、わたしは彼のところに庇護を求めたのだから」。
140
 デルポイ人たちは容赦なく、彼を引きずって行き、崖の上に立たせた。アイソーポスは自分の運命(moros)を見て謂った、「あなたがたにいかように話しかけても、わたしに説得されなかったからには、わたしの次の話(logos)を聞くがよい。百姓が年老いたが、田舎のこととて、いまだかつて町を見たことがなかったので、生きているうちに、自分が出かけていって、町を見られるよう、自分の子どもたちに頼んだ。そこで家人たちは、彼のために荷車にロバをつなぎ、彼に云う、『追いたてさえすればいい、そうしたら、こいつらがあんたを町の中に立たせてくれる』。ところが、道の途中で嵐で暗くなり、ロバたちが迷って、道を逸れて、とある崖のところにやってきた。彼はその危うさを見て謂った、『おお、ゼウスさま、あなたにどんな不正をしましたでしょうか、こういうふうに破滅するとは、それも、馬たちによってではなく、やくざなロバどものせいで』。そういう次第で、わたしも堪えがたい、語るに値する人士によってではなく、やくざな奴隷どもの手にかかって破滅するとは」。
140
 しかし彼らは、彼によって言われたことに説き伏せられることなく、彼を崖の上に引っ張って行き、その突端に彼を立たせた。そこでアイソーポスは、自分の宿命(moros)を眼にして云った、「聞き分けのない者どもめ、いかようにもあなたがたを説得できないからは、わたしの次の話(logos)を聞け。ひとりの百姓が年老いたが、田舎のこととて、いまだかつて町に入ったことがなかったので、自分の家の者たちに、見物したいと頼んだ。そこで彼の家人は、荷車にロバをつなぎ、云う、『追いたてさえすればいい、そうしたら、こいつらがあんたを町の中に立たせてくれる』。ところが、道中、嵐で闇のようになり、ロバたちが迷って、とある崖のところに入りこんでしまった。そこで彼は、自分の身の危うさを見て謂った、『おお、ゼウスさま、あなたにどんな不正をしましたでしょうか、こういうふうに破滅するとは、それも、高価な馬たちによってでないのはもちろん、血筋よろしき半ロバたちによってでもなくな、最も卑小なロバどものせいで』。だから、わたしも同様に絶えがたいのだ、誉れある人たちとか、世に知られた人たちとかによってではなく、最悪の、無用な奴僕どものせいで破滅するのが」。
141
さて、崖から突き落とされかかって、なおもうひとつ言葉(logos)を云った、「…〔欠損〕…デルポイ人の諸君、あなた方の手にかかってこの地で非道に死ぬよりは、むしろ、シュリア、ポイニクス、イウウダイアをめぐっていたかった」。しかし彼らは思いなおそうとしなかった。
141
さて、崖から突き落とされかかって、もうひとつの寓話(logos)を謂った、「ひとりの男が、自分の娘に恋をして、恋の痛みに耐えかねて、自分の妻を田舎にやり、そして娘をおさえつけて強姦した。すると彼女が言った、「お父さん、神法に悖ること(aosia)をしでかしたわね。あたしは、あんたによりは、100人の男に身を任せた方がましだった」。これをわたしもあなたがたに向かって〔言おう〕、おお、デルポイ人諸君。あなた方の手にかかってこの地で非道に死ぬよりは、むしろ、辛酸をなめつつ、シケリア全土を巡りめぐることを選んだものを。
142
アイソーポスは彼らを呪詛し、不正に破滅させられる自分に耳を傾けてくれるよう、ムーサたちの監督を証人として勧請し、みずからの身を崖から下に突き落とした。そして、そういうふうにして往生を遂げた。しかしデルポイ人たちはといえば、疫病に見舞われ、ゼウスから、アイソーポスの宿命(moros)の罪滅ぼしをすべしとの神託を受けた。その後、ヘッラスからの人たち、バビュローンからの人たち、サモス人たちが聞いて、アイソーポスの死に復讐した。
 アイソーポスの出生、育ち、出世、往生。
 機嫌よく見つけ出される事どもは、侮られるのも容易だと、多くの人たちに思われている。
142
そういう次第で、あなたがたの祖国を呪詛しよう、そうして、神々を証人にお呼びしよう、〔神々は〕わたしが不正に破滅させられるのに耳を傾け、わたしの復讐をしてくださるでろう」。しかし彼らは、彼を崖の下に突いて落とした。ところが、疫病と強烈な内憂外患(synoche)に見舞われたので、デルポイ人たちはアイソーポスの宿命(moros)の罪滅ぼしをすべしとの神託を受けた。というのか、あいそーぽすを謀殺したので、彼らは良心が咎めたのである。そこで、神殿の造営を行い、彼のために標柱を建てた。しかしその後、ヘッラスの指導者たち(exarchoi)や自余の教育者たちが、アイソーポスに対する仕打ちを聞いて、デルポイに現れ、討論(syzetesis)をして、アイソーポスの宿命(moros)に復讐したのであった。

2003.09.23. 訳了

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