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back.gif21章-30章


歴史叢書

第14巻(4/12)





第31章

[1]そこからさらにコテュオ――ヘラスの都市でシノペ人たちの植民市――にたどりついた。この都市では50日間を過ごした。パプラゴニアの周住民やその他の蕃族を荒らすためである。さらに、ヘラクレイア人たちとシノペ人たちとが彼らのもとに輸送船を派遣したが、これに乗って〔ヘラクレイア、シノペ〕両軍と輜重隊とが輸送されてきた。ところで、シノペは、ミレトス人たちの植民市であったが、パプラゴニアの領内にあり、その地域の諸都市中最大の地位を有していた。われわれの同時代に、ローマと戦争を続けたミトリダテスが、最大の王国を保有したのも、じつにこの都市においてであった。[3]さて、三段櫂船を求めて急派されていたケイリソポスも、何の成すところもなくここに到着した。しかしながら、シノペ人たちは親愛の情を持って彼らを客遇し、海路、これをヘラクレイア――メガラの植民市――に遣わした。かくて、全艦隊がアケロン半島の近くに停泊した。ここはヘラクレスが冥府からケルベロスを引きずり出したと伝えられているところである。[4]ここからさらに徒歩でビテュニアを通って前進しているときに、危難に見舞われた。行軍中、現地人たちがまといついたのである。やっとのことで、カルケドニアのクリュソポリスまで無事のがれたが、生き残ったのは、1万人中、8300人であった。[5]ここから先は、もはや容易で、ある者たちは祖国まで無事のがれ、残りの者たちは、ケルソネソスの近くに集結し、トラキア近辺の領土を破壊した。とにもかくにも、アルタクセルクセス攻撃に向かったキュロス遠征隊は、こういう終わり方をしたのであった。


第32章

 [1]他方、アテナイで専制した「三十人」僭主は、日々、ある者たちは亡命させ、ある者たちは抹殺して、やめようとしなかった。そこで、テバイ人たちがこのことに憤慨して、ステイリア区民トラシュブウロスと名づけられた者――アテナイ人であるが、「三十人」によって亡命させられていた――は、テバイ人たちがひそかに彼に協力したので、アッティカのピュレと名づけられた堡塁を占拠した。それは甚だ堅固な要塞であると同時に、アテナイから100スタディオン離れていたので、攻撃のための多くの物資がもたらされることになった。[2]対して、「三十人」僭主は、事件を伝え聞いて、初めは堡塁を攻囲しようと思って彼らに向けて軍を繰り出した。しかし、ピュレの近くで自分たちが陣を構えているとき、大吹雪になった。[3]そこで一部の者たちが幕営を移動しようとしたとき、彼らは敗走しようとしているのだ、敵勢はすぐ近くにいると、大勢が勘違いした。このため、軍陣に騒ぎ――いわゆるパニック――が突発したため、別の場所に陣を移動した。[4]しかし、「三十人」は、アテナイの市民たち――3000人の国制に与っていないかぎりの――が、専制の解体に胸を膨らませているのを目の当たりにして、これをペイライエウスに移住させ、外国人の大楯〔重装歩兵〕で都市を確保しようとした。さらには、エレウシス人たちやサラミス人たちを、亡命者たちに心を寄せたという責めを帰せて、全員を殲滅した。[5]しかし、こういった事が起こっている間に、亡命者たちの多くはトラシュブウロス派の人たちと合流した〔……が、「三十人」はトラシュブウロスのもとに使節団を送り〕表向きは、何人かの捕虜について協議しながら、内密に彼に忠告した、――亡命者組織を解体するよう、そして、テラメネスの代わりに追加選任されて、自分たちといっしょに国を専制するよう、さらには、亡命者たちのうち、誰であろうと彼の目論見どおりの者10人を祖国に帰還させる権限を受けるように、と。[6]トラシュブウロスはといえば、主張した――自分の亡命生活の方が、「三十人」僭主制よりもましだ、そして戦争をやめることはない、市民たち全員が帰還して、父祖伝来の国制を民衆がとりまどさないかぎりは、と。対して「三十人」は、多衆が憎悪をもって自分たちから離反し、亡命者たちが次第次第に多数になるのを目の当たりにして、救援〔要請〕の使節団をスパルタに急派し、自分たちはできるかぎり多数を集めて、アカルナイと名づけられた近辺の開豁地に陣をしいた。


第33章

[1]そこでトラシュブウロスは、堡塁の守備兵を十分残置して、亡命者たち――1200人になっていた――を繰り出した。そして、夜陰に乗じて、思いもよらぬ仕方で相手勢の陣屋に攻めかかり、おびただしい人数を殺害し、その他は、思いがけなかったために、驚倒させて、アテナイに敗走せざるを得なくさせた。[2]この闘いの後、トラシュブウロスはすぐにペイライエウス向けて進発し、ムウニキア――人気のない難攻の丘――を占拠し、対して「三十人」は全軍でペイライエウス向けて攻め下り、ムウニキアに突撃した。嚮導権をとったのはクリティアスである。かくして、長時間にわたって激戦が起こり、「三十人」は数の上でまさっていたが、亡命者たちは地の利で〔まさっていた〕。[3]しかしついにクリティアスが斃れるや、「三十人」麾下は驚倒して平坦地へと逃げ込んだ。亡命者たちはそこまでは敢えて攻め下ってこなかったのである。その後、おびただしい離反者たちが亡命者たちの側についたとき、トラシュブウロス派は、突如、相手勢に攻めかかり、戦闘を制してペイライエウスをわがものにした。[4]すると、ただちに市内派の多衆は僭主制を棄てることを欲し、ペイライエウスに押し寄せ、諸都市に散り散りになっていた亡命者たちも全員が、トラシュブウロス派の優勢を耳にして、ペイライエウスに赴き、これ以降は、軍勢の点ではるかにまさったのはもはや亡命者たちの方であった。[5]そこで、アテナイの市内派は、「三十人」は職を辞めさせて都市から追い出し、10人の人士を全権者に任命した。可能ならば、できるかぎり友好的に戦争を解体するためである。[6]ところがこの〔「十人」〕は、権職を引き継ぐと、そのことはゆるがせにして、自分たちが僭主になりあがって、ラケダイモンから艦船40艘と、将兵1000人――この指揮を執ったのがリュサンドロス――とを呼び寄せた。[6]しかし、ラケダイモンの王パウサニアスは、一方ではリュサンドロスを羨望し、他方では、スパルタがヘラス人たちに不評なのを目の当たりにして、大軍を帯同して転進し、アテナイに到着すると、市内派を亡命者たちと和解させた。かくしてアテナイ人たちは祖国に帰り、これ以降は、固有の法習によって為政し、おのれの過去の間断なき不正事が原因で何か被るのではないかと憂慮する者たちには、エレウシスに居住することを認めたのである。


第34章

 [1]他方、エリス人たちは、ラケダイモン人たちの優勢さに恐れをなして、彼らとの戦争をやめにしたが、その条件は、三段櫂船はラケダイモン人たちに与え、周辺諸都市は自治独立を認めるというものであった。ところが、ラケダイモン人たちは、戦争をやめにしてしまって暇ができると、メッセニア人たちに向けて出征した。彼ら〔メッセニア人たち〕のある者たちは、ケパレニアのとある砦に居住し、ある者たちは、いわゆる西ロクリスのナウパクトスに〔住んでいた〕。アテナイ人たちが与えたためである〔第11巻84_7参照〕。こうして、彼らをそれらの場所から追い出して、砦を取り戻してやった。前者はケパレニアの住民たちに、後者はロクリス人たちに。[3]こうしてメッセニア人たちは、スパルタ人たちに対する昔年の憎しみが原因で、ありとあらゆるところから追い立てられ、武器とともにヘラスを退去し、その一部はシケリアに航行して、ディオニュシオスの傭兵となり、その一部――およそ3000人いた――はキュレネに航行し、その地の亡命者たちの指揮下に配属された。というのは、キュレネ人たちは、その時期、内紛状態にあった。アリストンほか何人かの者たちが都市を占領していたのである。最近は、キュレネ人たちのうち最も権勢のあった500人が殲滅され、その他の人たちの中で最も優美な人たちは亡命してしまっていた。しかしながら、この亡命者たちはメッセニア人たちを味方に加えて、都市を占領していた者たちと戦闘態勢に入り、キュレネ人たちの多衆は両派によって斃れ、メッセニア人たちもほとんど全員が殲滅された。そこで、この抗争の後、キュレネ人たちはお互いに使節団を交わして和解し、即座に、遺恨を残さずとの誓約を成して、共同で都市を統治したのである。

 [7]同じころ、ローマ人たちはウウエリトライと名づけられた都市に居住民を投入した。


第35章

 [1]この年が終わると、アテナイではラケスが執政官となり、ローマでは執政の職に就いて統治したのは千人指揮官――マニオス・クロディオス、カルコス・コインティオス、レウキオス・イウウリオス、マルコス・プウリオス、レウキオス・ウウアレリオスである。さらにまた、90に加える第5回オリュムピア祭が開催され、これにおいて徒競走で優勝したのはアテナイ人ミノスであった。[2]このころ、アジアの王アルタクセルクセスは、キュロスに戦勝した後、ティッサペルネスに海浜の太守職すべてを引き継がせるために派遣した。このため、キュロスと共闘した太守たちと諸都市とは、大王に向かって過ちを犯したゆえをもって報復を受けるのではないかと、大いなる不安に陥った。そこで、他の太守たちはティッサペルネスのもとにそれぞれ使節派遣をして、自分たちに可能なかぎりの仕方で、阿諛追従し、わが身のことを彼に委ねた。しかし、タモスのみは、彼ら太守のうちで最大の人物で、イオニアの嚮導の任についていたが、三段櫂船に金品と息子全員――ただし、グロスと呼ばれる一人は別で、これは、しばらく後に、大王の軍勢の嚮導役になった――を積み込んだ。[4]こうしてタモスは、ティッサペルネスを用心して、艦隊を帯同してアイギュプトスに去り、アイギュプトスの王プサムメティコス――あのプサムメティコス〔在位、前660-609年〕の子孫である――の庇護を求めた。しかし、彼にはかつて王に対して善行があったので、この王を、〔ペルシア〕大王からの危難のいわば避難港のようなものにできると独り合点した。[5]ところがプサムメティコスは、善行にも、嘆願者たちに対する敬虔さにも、何らの意味も見ず、この嘆願者にして友を、その生子もろとも殺戮した。金品と艦隊とをわがものにするためである。

 [6]ところで、〔小〕アジアにあるヘラス諸都市は、ティッサペルネスの下向を伝え聞いて、自分たちの身を案じ、ラケダイモンに使節団を派遣して、自分たちが蕃族によって亡国の民となるのを座視することのないよう懇請した。そこでラケダイモン人たちは救援を公約し、ティッサペルネスに対して使節団を派遣し、ヘラス諸都市に軍事行動を起こすことのないよう言わせた。[7]しかし、ティッサペルネスは、軍を帯同して、真っ先にキュメ人たちの都市に出向き、領土全体を破壊するとともに、多数の捕虜を手中に収めた。その後、彼らを攻囲するため封鎖したものの、冬が近づいたのに、都市を攻略することができなかったために、捕虜たちを多額の身代金を取って解放し、攻囲を解いた。


第36章

[1]対して、ラケダイモン人たちは、大王との戦争のために、ティブロンを嚮導に任命し、市民のうち1000人を与え、同盟者たちからは、明らかに寄与すると自分に思われるかぎりを兵籍登録するよう命じた。こうしてティブロンは、コリントスに前進し、ここでも同盟者たちから将兵を呼び寄せ、5000人を多くは越えない人数を率いて、エペソスに出航した。さらにそこでも、配下の諸都市ならびにその他の諸都市から、およそ2000人を兵籍登録し、全部で7000人以上を率いて転進した。こうして、およそ120スタディオンを踏破してマグネシアに至った。ティッサペルネスの支配地である。しかし、これを一撃で奪取し、すぐさまイオニアのトラッレイスに進撃、この都市の攻囲にとりかかった。しかし、堅固なために何の成すところもなく、再びマグネシアに退却した。[3]しかし、この都市は城壁がなく、それゆえ、自分が離れている隙にこの都市をティッサペルネスがわがものにするのではないかと恐れて、この都市を近くの丘――トラクスと呼ばれている――に移住させた。こうして、自分は敵の領土に侵入し、将兵たちをありとあらゆる種類の戦利品で満足させた。しかし、ティッサペルネスが多数の騎兵を帯同してたどりついたので、用心してエペソスに引き返した。


第37章

 [1]同じころ、キュロス麾下出征し、無事ヘラスにもどってきた人たちのうち、一部は自分の祖国に立ち去ったが、大多数――ほとんど5000人いた――は、出征生活をし慣れて、自分たちの将軍にクセノポンを選んだ。[2]この男は、軍を引き連れて進発し、トラキア人たち――サルミュデッソス地域の住民――と戦争をしようとした。この〔サルミュデッソス〕があるのは、ポントスの右岸であるが、〔浅瀬が〕広く張り出していて、きわめて多数の難破船を引き起こした〔『アナバシス』7_5_12参照〕。そのため、トラキア人たちはこの地帯に待ち伏せして、打ち上げられる貿易商人たちを捕虜にすることを常としていた。そこでクセノポンは、集結した将兵たちを帯同して、彼らの領土に侵入し、戦闘で勝利して村落の大多数に火を放った。しかし、その後、ティブロンが自分たちを呼び寄せ、報酬を与えることを申し出たので、そのもとに退却し、ラケダイモン勢といっしょになってペルシアと戦争した。

 [5]こういったことが起こっている間に、ディオニュシオスはシケリアのアイトネ山のすぐ下に都市を建設し、とある有名な〔アドラノス〕神殿にちなんでこれをアドラノンと命名した。[6]他方、マケドニアでは、王のアルケラオス〔在位、前413-399年〕が狩猟中に心ならずも恋人クラテロスに撃ち倒されて往生した。7年間の王支配の後である。そして支配を継承したのはまだ子どものオレステスで、これを抹殺したのが後見人のアエロポスで、7年間王位に就いた。[7]他方、アテナイでは哲学者ソクラテスが、アニュトスやメレトスによって、涜神と若者たちを堕落させた容疑で告発され、死刑の有罪判決を受け、毒人参を飲んで最期を遂げた。しかし、この告発は不正なものであったので、民衆は後悔した。これほどの人物が抹殺されるのを目の当たりにしたからである。そのため、怒りから告発者たちを取り押さえ、最後には裁判もせずに殺した。

 [6] Athena.JPG
以下、工事中


 ソクラテス処刑をもって、一時中断させていただきます。
 全巻翻訳の意欲がわいたら、再び挑戦してみたいと思います (^^ゞ


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