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ヘルメス文書

キュラニデス

Cyranides




[解説]
 5巻本のギリシア語冊子。鉱石、植物、動物の魔術的・薬剤的効力を列挙している。著者、成立時期、標題は不確かである。キュラニデスはヘルメス・トリスメギストスによる作品と親和性を持ち、原本は後1世紀ないし2世紀のエジプト語(おそらくはコプト語)を示唆している。この論文は、一部はペルシアの王キュラノスにより、一部はハルポクラティオーン(医術・占星術の作者)によると言う。第5巻はディオスコーリデスとの多数の並行記事を有しており、『キュラニデス』とディオスコーリデスの両者が通常の、あるいはむしろ古代の伝統に淵源していることを示唆している。(OCD)。



[底本]
TLG 1482
CYRANIDES
fort. auctoribus Cyrano et Harpocratione, vel Coiranides
(a. A.D. 1/2)
5
Cf. et HARPOCRATIONIS EPISTULA (0691).
1 1
1482 001
Cyranides, ed. D. Kaimakis, Die Kyraniden. Meisenheim am Glan:
Hain, 1976: 14-18, 21-28, 30-37, 39-42, 44-47, 49-50, 52-58, 60-90, 92-96,
98-267, 269-310.
5
(Cod: 36,514: Magica, Nat. Hist.)



1."pro"."t"

序文

1."pro".1
 キュラノスのこの書、つまり、ヘルメス文書が、「三巻本」という副題を持っているのは、共感性を持つものらと反発性を持つものらという両方の自然の力から成る書と、2巻本 — ペルシア人たちの王キュラノスの『キュラニデス』の第1書と、アレクサンドリア人ハルポクラティオーンが家の娘に宛てた〔書〕とから成る — から編集されているからである。

 キュラノスの第1書は、わたしたちが想像してきたとおりのものとせよ。

 〔つまり〕三倍偉大な神ヘルメース〔ヘルメス・トリスメギストス〕が、神の最大の賜物として天使たちから受け取り、受け取るにふさわしい人間たちの全員に手渡したのが、秘儀のこの書である。したがって、無知な連中に手渡すことなく、最大の所有物として自身の内に保持せよ。ただし、可能なら、子どもたちだけには、父親たる汝は、高価な黄金の代わりに、活動(ejnevrgeia)のための大いなる所有物として手渡してよいが、そのさい、彼らだけ、神聖な子どもを安全にもうけると誓わせなければならない。

 この書は、鉄製の標柱にシュリア語で刻され、シュリアの湖に埋蔵されていたことは、これ以前の「古書」 — これはわたしによって翻訳された — の中に述べられているとおりである。キュラニスと呼ばれるこの書に書かれているのは、鉱石24,鳥類24,植物24,魚類24についてである。ところで、これらのおのおのの力は、死すべき身体の治療のため、そればかりでなく喜びと自然のためにも、自余の諸力と組み合わされ混合されることで、万物の支配者たる全能の神のもとに、その〔全能の神の〕知恵を通して、植物類・鉱物類・魚類・鳥類の活動力、鉱物類の諸力と、動物類と獣類の自然、なおそのうえに、相互に対する混合と逆と特性を発見した。〔これらのおのおのの力は〕神から人類にやってきた覚知(gnw:siV)と多くの経験(polupeiriva)である。

 さて、この著書全体を3つのキュラニデスに分割して、字母ごとに明瞭にさせたのは、事柄が言及されているとおりである。

 キュラニデスが述べられた所以は、これらがその他の書き手たちの書物の女王だからである。しかし、ペルシア人たちの王キュラノスによって発見されたのは、そのうちのこの第1巻である。

 以上がこの人物の前書きである。しかし、ハルポクラティオーンのそれは、以下のごとくであった。

1."pro".30
 書はシュリア起源の療治法であって、家の娘に宛ててハルポクラティオーンはこう書いている。 — バビュローニア地方を旅することが余にあったが、かの地にセレウケイアと呼ばれる都市があり、その全体を記録してのち、余はかの地から奪取せり、と。しかしわたしたちは、かの都市に関する事柄を、彼が長広舌をふるったようには、書き連ねる必要がない。それは、わたしたちがいつも序論に熱中することのないため、狙いの目標に立ち返るためである。しかし、彼は他にも、セレウケイア〔尺〕の17スコイケイオン〔1スコイケイオンは100キュービット〕以上ある都市を見たと謂う。この都市は、マケドニア人たちの王アレクサンドロスが帰還してから破壊したうえで、別のセレウケイアを、もともとペルシア人のものであるかのように、ペルシア人たちのもとにあるものとして建造したものである。バビュローンにあるアレクサンドレイアという意味で、第1アレクサンドレイアと呼ばれる。こういった事柄を、おおわが子よ、記録していたところ、ヘッラス語においてもすこぶる教育された老人に、外地で3度出会った。彼が言うには、自分は生まれはシュリア人であるが、捕虜となって、かの地で過ごしたという。さて、この人物が、この都市の全体をわたしといっしょにめぐり、おのおののことを示してくれた。そして、都市からおよそ4ミリオン〔ローマのマイル〕離れたある場所に行き、そこでわたしは、いくつかの塔を持った最大の標柱を見た。土地の者たちが言うには、これはシュリアから運ばれ、その都市に住む人々の治療のために建てられたという。さて、これをよく見て、外国語で刻されていることをわたしは発見した。そこですぐにその老人にお願いして、説明してくれるよう頼んだ。そして、彼が標柱に関することを解説しているのを聞きながら、急いで、非ヘッラス語をヘッラス語に翻訳した。「汝の目にするは」と彼は謂った、「おお、わが子よ、全部で横たわる3つの塔ならん。このうちのひとつは5ミリオンまで伸び、ひとつは2.5ミリオンまで、ひとつは4ミリオンまで〔伸びている〕」。これらは、天界にまで昇り行かんとしたギガンテースたちによって建設されたものだと彼は言った。しかし、その不敬なる狂気のゆえに、或る者らは雷霆に撃たれ、或る者らは、神の謀により、未来永劫に自分がわからなくなり、また残りのすべての者は、クレータ島全域に墜落した。連中に怒った神は、連中をその島に投げ落としたのである。さて、そのあとで、老人は、日の出の方角にある最大の石を測り縄で測るよう命じた。そこでわたしは測って、高さ622ペーキュス、幅78〔ペーキュス〕あることを発見した。壇も8壇が積みあがっていた。さらに神殿をもわたしは見た。神殿の中央にある内陣には、365の銀の梯子と、他にも60の黄金の梯子があり、これに登ってわたしたちは神に祈った。彼はまた、神の無量の力について、数え上げてはならないと言った。わたしは残りの事柄についても問いただすことを選び、その他の事柄は省略し、標柱についてだけは聞くに値すると思った。すると老人は、その標柱を隠していた麻布を取り除けて、土地の言葉で刻されたそれを示した。わたしはその言葉に無経験だったので、それぞれを喜んで学ぶことを求めた。標柱に記された内容は以下のごとくであることがわかった。

 話は錯綜している。不死の望みをいだいて多くのものらを見て、{それは、キュラニスという第二の書 — 河の神エウプラテースの流れが注ぐところで、古代シュリア語〔で書かれた〕第一の〔書〕からみて第二の書 — が、神のその名を言うことができるようにするためである}。今度は効能ごとに鉱石を、これとともに大地の草木、深淵の魚類、大気中の鳥類をばらばらにし、効能を効能に四つずつ組み合わせた。<それは、キュラニスという第二の書 — 河の神エウプラテースの流れが注ぐところで、古代シュリア語〔で書かれた〕第一の〔書〕からみて第二の書 — が、神のその名を言うことができるようにするためである。これが、わたしが刻し、これから〔刻そうと〕する前に、鉄の標柱に刻されていた文である>。これは、過去・未来の人間どもにとって大事なことである。おお、死すべき身体をまとえる不死なる魂よ、悪しき束縛の必然によって天空から引き下ろされるのは、汝が欠陥のある死すべき身体によって、さらにはまたモイラたちの必然の紡ぎ糸が、汝の航路を導くことを望むと神自身が謂ったからである。なぜなら、牢獄と束縛のうちにある人のように、汝も必然によってより支配的な束縛に支配されているのだから。だから、死すべき悲惨な身体から抜け出た〔魂〕は、神が気圏や群雲の中に主宰すのを本当に見ることができよう。雷電、いつもの大地の地震、稲妻、雷霆をもたらし、大地の土台を揺るがせ、海の波浪を〔動かせる〕神を。これらは万物の母たる神の永遠の業である。神ははかなき者らに万事を、すべて逆のことどもをも闡明する」。

 しかるに、この書は、これより以前のいわゆる「古書」の中であらかじめ述べられているように、純鋼鉄の標柱に刻されて、シュリアの湖に埋蔵されていたのである。このいわゆるキュラニス書に書かれているのは、24の鉱石と,24の鳥類と,24の魚類と,24の植物とについてである。これらのおのおのの力が、混ぜ合わされ、残りの諸力と混合されて、われわれが死すべき身体を今後慰めて、永遠に至るまでわれわれが健康を享受するためである。なぜなら、人間に気息を与えるのは神よりほかにないからである。万事は主の指図により書かれたが、その初めはこうである。


 さて、以上のように、両書の始まりあるいは序言は調和しない。しかし、ここから、あたかも調和しているかのように、初穂は字母第1から次のように始まるのである。

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