キュラニデス・序
ヘルメス文書
キュラニデス
第1巻
Cyranides I
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1.1."1t"
第1字母(α)。
アムペロス・レウケー(a[mpeloV leukhv)〔「白ブドウ」の意。Dsc.IV-184〕
鳥類のアエトス(ajetovV)〔ワシ〕
鉱石のアエティテース(ajetivthV)〔ワシ石〕
魚のアエトス(ajetovV)〔トビエイ(Myliobatis aquila s. bovina), HA540b18〕、これは鱗のない海の魚。
1.1.3
アムペロス・レウケーは至聖にして、第一位の最も驚嘆すべき植物で、これはブリュオーニア(bruwniva)と言われる神的な〔植物〕である。
アエトス(ajetovV)は雄のワシで、全鳥類の王である。
アエティテース(ajetivthV)は妊娠石(livqoV e[gkuoV)のことで、共鳴する〔石〕である。たとえ極小にこれを分割しても、揺すってから耳に当てると、鳴り響くのが聞こえるであろう。
1.1.8
魚のアエトス(ajetovV)は、鱗のない、〔海の〕タカ〔=トビウオ〕に類似した海の魚だが、もっと黒く、あらゆる点でアカエイ(trugwvn)に似ている。
1.1.10
この植物の根は、頸に巻きつけられると、ひきつけ患者やてんかん患者を治癒させる。葉の汁液は、血性下痢に罹った人に1キュアトスだけ与えられると、快癒させるであろう。同様に出血患者をも。
健康な人が、痛飲しても酔っぱらわないでいたいと望むなら、空腹時に、葉の汁液から1ウンキアを、汁液と等量の酢といっしょに服用するなら、飲んだことがわからないくらい酔わないでいられよう。また、この魚の頭の中にある石を、何も混ぜずに飲めば、飲酒したことを全然気づかれないであろう。また、植物を頸のまわりにつけていないときに、生の〔酒〕1壺を飲んでも、気づかれないであろう。この魚の同じ石を粉末にして、生の〔酒〕といっしょに飲めば、飲んだことを全然気づかれないであろう。
圧搾されたブドウの房から取り出した種を、前述の石少量といっしょに練って、萎えた者たちに飲酒の際に与えられると、多大な勃起をもたらすだろう。もちろん、交合を成就できない者たちにも健康を回復させる。これは神自身が発見し、死すべき身体が困らないよう教示したことである。
白ブドウ酒3コテュレーを、この植物の小枝40本、皮鞣し用蜜蝋3ウンキアといっしょに、1コテュレーになるまで煮詰め、これが服用されると、血性下痢患者や下痢患者や、そういったかぎりの症状をとめる。
腸のさまざまな症状は、葉の煎じ液が蜂蜜といっしょに少し服用されると、とめる。この石のわずかを混ぜても、病状を増すことはないか、持続するかする。
さて、女の骨が両手で打ち砕かれ、しかも、療治しているのを目にして、およそ25年間無痛であったというふうに知って、わたしは驚嘆した。これは、輝かしい、しかも最も神的な自然である。なぜなら、両手を動かすこともなく、肉は腐ってしまっていた。何らの感覚も有さなかった。しかも、残りの骨も打ち砕かれかけていたのだから。この神聖な書の中に次のようにあるのをわたしは見出した。〔つまり〕植物の葉の液汁と、白ブドウの等量のそれを混合して、7日間与えて服用させよ、そうすれば助かるであろう、と。
アエティテースという鉱石が巻きつけられ、また魚が食されても、同じ作用をする。これは神々からの与り得ない賜物だから、自分の実子にさえも伝えられない。親指の爪が剥がれ落ちて、療治しがたく、〔傷が〕いうことを聞かず過剰流出するときは、(foi:nic pathtovV)に白ブドウを浸し、噛み砕いて、ときにはそのまま単独で、ときにはバラ油といっしょに、当てよ。
身体全体にできた、あるいは部分的にできた蟻いぼ(murmhkiva)、あるいはまたいぼ(ajkrocordwvn)注1)には、ブドウの枝ないし幹を焼いて、枝の先端に出てくる水分を擦りこむか、あるいは与えて服用させよ、そうすれば、すべて〔いぼが〕落ちるであろう。このことは誰にも教えてはならない。
同様に、アエトスの糞も、擦りこまれると、快癒させるであろう。この石も巻きつけられるか、あるいは、魚の硬脂が塗りたくられると、救い通す。
歯茎や臼歯の腐蝕腫、身体全体にできる腐食性の爛れ(shvy)、あるいは病的に増殖ないし拡大する腫瘍に対しては、葉の汁液3ウンキア、明礬〔Dsc.V-123〕4ウンキア、生のミシュ〔Dsc.V-117〕4ウンキア、イッリュリアのイリス〔Dsc.I-1〕1ウンキア、緑礬水4ウンキア、乳香のマンナ〔Dsc.I-83〕4ウンキア、これらが乾燥するまで練られる。これが、たまった体液をきれいにし、満たし、制止し、要するに、これは最大の〔薬剤〕である。
われわれがある最大のものを報告したのは、舌の腐蝕により、歯茎がこごえたのを見たからである。蜂蜜とミシュといっしょに適用される葉の汁液によってきれいにされた。次いで、乾燥イリスをふりかけて、齲食された〔虫歯〕を満たした。
(o[zaina)〔鼻の中の悪臭を放つポリプ〕や結節(o[cqoV)(poluvpouV)〔鼻の中のポリプ〕や、(ajnavbrwsiV)〔?〕や(katavbrwsiV)、拡大性腫瘍(nomaiv)やしもやけ(civmeqlon)や、鼻孔関係の〔症状〕に対しては、これは神的な薬である。葉の液汁3ウンキア、乳香のマンナ、緑礬水、銅を含んだ乳香〔?〕、(ajristolociva)〔Dsc.III-4, 5, 6〕各3コッキアずつ。乾燥するまで練られる、そして、最も神的な効能〔を持ったもの〕のように用いよ。 (mandarwvseiV)や、髪を根こそぎにする負傷やふけや結節や、頭の中の病状に対しては〔次のようにする〕。この植物の液汁や、(potamogeivtwn)〔Dsc,IV-101〕の液汁、ビート(seu:tlon)の液汁を等量塗りたくれ。3日間混ぜると、これはあまりに最美である。
1.1.70
臼歯を、腐蝕されざるもの、動かざるもの、齲食されざるものとなすこと。この薬は神がかっており、汝を見過ごさせてはならない。〔ブドウの〕房の液汁2コテュレー、クロミグワ〔Dsc.I-180〕の根の樹皮6ウンキア、これらを半分の量になるまで煮て、3日なし5日ないし7日間、うがい液(diavklusma)として与えよ、そうすれば、臼歯ないし歯茎で困ることは決してない。ただし、ひとが頭から足まで、熟練者として考えをめぐらせようとすれば、ブドウは神の賜物の植物として、諸々の症状を療治する。
キュラノスとハルポクラティオーンは、ここまでは主張が一致している。しかし、ここからは、キュラノスは主張を変えて言う。
さて、この植物の初枝の若い巻きひげ〔食用枝(ajspavragoV)〕は、煮て食されると、尿通や便通を促す。葉や根や果実は、最も暖める効能、苦味の効能を有する。
他にも、ことばにしえない神的な働きを有する。例えば、乳と砂といっしょに塗りこめられると、慢性的な潰瘍、壊疽、侵蝕性潰瘍、腐敗した潰瘍を治癒させる。これの根は、調理して食されると、そばかす、破傷風、しみのついた顔、「雲」を払拭する。(i[onqoV)、あざ(fakovV)、(ajlfovV)、〔目の縁の〕暈(uJpwvpia)、指に〔できる〕(pteruvgia)、黒いおでき(flegmwvn)は、(ojrobivw/ ajleuvw/ kai; tivlh/)といっしょに混ぜられると、きれいにする。オリーヴ油といっしょに、膏薬になるまで煮詰められると、同じ〔症状〕にぴったりである。暈と、指に〔できる〕(puteruvgia)は、ブドウ酒といっしょに塗りたくられると、制止する。また炎症を散らす。
てんかん症状に対しては、1錠が、毎日、1年間、酢蜜といっしょに服用される。麻痺患者やめまい患者にも、2錠が同様に与えられれば益する。マムシに咬まれた者たちは鋭く助ける。さらに胎児を堕ろす。精神(diavnoia)をもかきまわす。服用されると、増加した後産や尿を誘発することもある。脾臓をやわらかくするには、3オボロス、30日間、酢といっしょに服用される。イチジクといっしょに塗りたくられても、同じことに有用である。煮詰められると、子宮をきれいにする座浴にも効く。健腸剤でもある。
果実は、それだけで、擦りこまれたり、塗りたくられたりすると、脳漿や癩に効く。これ全体が搾られた液汁は、粥といっしょに服用されると、乳をよく出す。中風患者には、怪我をしたあとに、オリーヴ油といっしょに服用し擦りこまれると、ぴったりである。
葉は、ブドウ酒といっしょに塗りたくられ、当てられると、同様に流出にぴったりであり、端的に云って、これを真面目に用いる人たち全員にとって一般的に有用である。
これの種類は2つ。第一は「白ブドウ」で、これを一部の人たちは(bruwniva)と呼び、ある人たちは蛇のブドウ(o[fewV stafulhv)、ある人たちは「ツバメ」(celidwvn)、ある人たちは(mevliqron)、ある人たちは「脱毛剤」(yivlwqron)、ある人たちは(ajrgizwvsth)、ある人たちは(kevcedron)と〔呼ぶ〕ところのものである。これの巻蔓、葉、巻きひげは、栽培種のブドウに類似しているが、より毛深い。そして、巻きひげで襲いかかって、そばにある藪に巻きつく。ブドウの房状の火色の果実を有するが、その皮は露出している。
第二は、「黒ブドウ」と呼ばれ、これこそ(bruwniva)と名づけ、ある人たちが(ceirwvnion)と〔呼ぶ〕ところのものである。蔦のような葉を有し、むしろスミラクス〔Dsc.II-176, IV-80〕に類似しているが、より大きく、巻きひげによって単独でも樹木に襲いかかり、房状の果実をつけ、〔この果実は〕初めは緑色であるが、熟すると黒色となる。根は、外側が黒色、内側が火色である。またこれの第一枝の幹は、香味用野菜として用いられる。さらに利尿剤、通経剤、脾臓の治癒剤となる。根は特に脾臓患者にぴったりである。そしてこの植物全体が、てんかん患者やめまい患者にぴったりである。(tou;V tw:n uJporrwgivwn lovfouV eJlkomevnoV)人たちにも効く。葉は、ブドウ酒といっしょに塗りたくられると、捻挫や発熱にも〔効き〕、総じて、これ〔?〕より前の〔?〕に類似した効能を有する。白ブドウは他にも宇宙的にして最も恩恵的働きを有するので、飲酒の際にブドウ酒と混ぜられないばかりでなく、宴楽(eujwciva)をも有するほどである〔?〕。
ここまでは、キュラノスは以上にあるとおりである。しかし、上の記述からは、両者の記述は一致せず、ハルポクラティオーンの言葉は、次のとおりである。
1.1.130
浄福なる植物、神々を導く女王(a[nassa)、あらゆる草木界の主権者(dunastriva)、大地、天、大気の支配者〔女性形〕、理性を解き、ブドウをもたらす場所に、あらゆる肢体を解明するように夢をつくるもの〔女性形〕。言葉によらず、身体によらずして癒し人となる者なく、汝に対して力或る者なし。いやむしろ、諸々の魂の内に、いかほどの隠された食べ物が神秘的な心を持つかを汝は吟味するであろう。〔その心〕を口にすることなく、ブドウの樹よ、文字あるいは薬によって生じるかぎりのこと、あるいは、剣や斧によって隠されるかぎりのそれたのことをすべて、汝は〔文字や薬〕のみで現成させる。以上で、ブドウ樹の神秘は語られたとせよ。その他この世のこととしては、食事のときに云うのはつまらぬことではなく、宴楽をもつようなものである。
ここにおいて、聖なる言葉は、キュラニス〔という書〕と同じく次のように言う。
1.1.140
神より〔生まれた〕浄福なる女神、ブドウを生む母よ、草木界におけるあらゆる神的な自然の良き導き手よ、先ず初めに、ブドウ酒に満たされた心の(ejawu ijoh)、オリュムポスにあって、宴楽を見守りたまえ(ijuahmeo)。酒杯にこう云って、万人がそこから飲む壺に投げこみ、好機嫌となって楽しむ。?????
さて、ブドウについてできるかぎりのことを話そうとすれば、わたしたちにとってこの書全体も充分でないであろう。というのは、房の液汁が服用されれば、最大の宴楽を生ずるからである。これをあらゆる場所に植えよ。なぜなら、神々の祝祭さえも、あるいは、死すべき者ら すでに人生の最期を迎えた者ら、あるいは、人生に入ったばかりの者ら、あるいは、人生の播種、耕作、植えつけ、人生において生じる別のことに突進した者ら の〔祝祭〕も、この草木なしにはできないだろうから。
さらにわたしに残っているのは、一種の悪しきダイモーンについてである。〔このダイモーンは〕四日目〔?占星術用語か〕であり、これが男たちや女たちに派遣されるのは、(uJpo; dekanou: tou: prwvtou aijgovkerw mh; tacevwV peiqomevnou)、それゆえ、見ることなく、聞くこともない、無頭だからである。
さて、4個の種を持った干し葡萄の実を取って、それ〔種=仁〕を、口ではなくて爪で掻き出せ。これを布に入れて、聖なる者として、聖なる頸に巻きつけよ、そうすれば、神の恩恵により、彼を病より解放できよう。魚の頭から採れる石も、巻きつけられると、四日熱患者を解放できよう。
好機嫌(eujfrasiva)に関するキュラノスの標柱は、以下のごとくであった。最も神的な植物、ブドウをもたらす者よ、植物の母たる白ブドウ、静穏なシンバル運びよ、大地の草木界の第一人者〔女性形〕。次の言葉を酒杯に言え。「(eujih)。ブドウ酒に満ちて、わが心を害されることなきよう見守りたまえ。(eujihe)。オリュムピアにあって、元気溌剌、最も神的、健全にして、理性よ、わが心をともに見守りたまえ。(euei euae aehiaho eawe)」。これらのことを酒杯に言い掛けて、そこから万人が飲む酒壺に投げこめ、そうすれば、友たちはみな好機嫌となって気楽になる、誰もともに探求しないからである。?????
1.1.170
さて、ワシ石(ajetivthV)をとって、ワシ(ajetvV)を彫り、石の下方にブドウの種と、ワシであれタカであれの羽の先を置き、〔石を〕締めて、携行せよ。前述のあらゆる病状から汝を守り通すからである。なおそのうえにまた、めぐりあわせによって、権勢者や大いなる人物、超絶した人たちの恵みという、語るに足る愛すべきものをもたらすであろう。その他、語る必要のない多くの別の事柄にも効くであろう。じつに、こういうふうにして、第一字母のアルファは終わったのである。
1.2."1t"
第2字母(β)。
セイヨウヒノキkuparivssoVに等しいブラテュburavquという植物〔ヒノキ科ビャクシン属の植物(Juniperus sabina)、Dsc.I-104〕、
鳥類のブリュシスbruvsiV、これはハシボソガラス(korwvnh)のことである、
白い鉱石の緑柱石bhvrulloV、
ビュッサbuvssa、これはセイヨウイセエビ(kavraboV)のことである。
1.2.3
「神の知りたもう樹(qeovgnwstoV dendrikh;)」と呼ばれるが、セイヨウヒノキに等しい。ブラテュとも、あるいはまたサビナ(sabivna)とも呼ばれる。この樹は乳香(livbanoV)の代わりとして神々のためにくべられる。
ブリュシスは普通の生き物、つまりハシボソガラスのことで、500年間生きる。
ベーリュッロスは見分けやすい白い鉱石で、非常に高価である。
ビュッサは海のカラボスkavraboV qalavssioVとも〔呼ばれる〕。ビュッサと呼ばれるのは、ビュッサロイbussavloi〔レンガ?〕に似ているからである。
さて、この植物は、ブドウ酒といっしょに服用されると、拡大性〔腫瘍〕に道を開く〔?〕。いずれにしろ、危険にさらされた〔?〕胎児を堕ろし、排尿困難者に血尿を起こさせる。
ところで、呼吸困難者や喘息患者に対しては、ブラテュ2ウンキア、バター4ウンキア、蜂蜜2ウンキアを包みにして、空腹時に与えよ。
セイヨウイセエビの眼は、身につけられていると、呼吸困難者を治癒させる。
鳥類のハシボソガラスの自然は次のごとくである。雌が亡くなると、雄はほかの〔雌〕たちに接することがない。同様に、雌も同じことをする。
だから、男が雄の心臓を身につけ、女が雌の〔心臓を身につけていると〕、自分たちの全生涯を通じて自分自身に好意的である〔?〕。これは、これにまさるものなき驚異である。
1.2.20
さて、ベーリュッロス石を取って、ハシボソガラスを彫り、その脚の下にセイヨウイセエビを〔彫り〕、短いブラテュと、鳥類の小さな心臓と、セイヨウイセエビのいわゆるアプロディーテー〔?〕で閉じ、望みどおりに身につけよ。というのは、呼吸困難者、肝臓患者、腎臓患者に効くからである。ゼウスの石だからである。だから、身につけている者に恩恵をもたらし、彼が手がけたことの成功者となす。さらには、結婚者たちに好意と、男女共通の関心事〔性愛〕に対する有り余るほどの最美な同心をもたらす。
1.3."1t"
第3字母(γ)。
植物のグリュキシデー(glukisivdh〕。ある人たちがパイオーニア(paiwniva)〔オランダシャクヤク〕〔と呼ぶもの〕。
鳥類のグラウコス(glau:koV)〔フクロウ〕。
鉱石のグラティオス(gnavqioV)。
魚のグラウコス(glau:koV)〔ハイイロハゼ〕、これは万人周知の魚である。
1.3.3
グリュクシデーという植物は、パイオーニアとも。パイオーニア(paiwniva)と呼ばれるのは、パイオーンがこれを発見したからである。アーモンドのステュラクスのような実をつける。これの種子は閉じているが、開いたのもある〔?〕。
グラウコスという鳥がいる。これはアテーナーの使者である。頭に王者の羽をもっており、ヨガラス〔ミミズアク〕の大きな眼を〔持っている〕。荒野に棲息している。
鉱石のグナティオス(gnavqioV)は臼石のように堅固で、(gnavqoV)に類似している。
1.3.10
魚のグラウコスハイイロハゼは万人周知の海魚である。
さて、この植物には2種類あり、ひとつは雄、ひとつは雌である。そこで、女の子宮が播かれたもの〔精子?〕を保持せず、しかし神的な子孫を妊娠したいなら、閉じた果実を帯にせよ、これを麻の布に包み、7色の染水で染めて、下腹部に帯びせよ。しかし妊娠を拒むなら、グリュキシデーの開いた種子を、半ロバの耳垢といっしょに、好きな期間、身につけよ。
出産する女が陣痛にあり、しかも危険なとき、この植物の開いた種子をオリーヴ油の中に入れ、腰と下腹部に塗油せよ、そうすれば無痛で出産できよう。
この根がくすべられたり服用されたりすると、ダイモーンを追い払い、身につけられると、あらゆる幻覚をも〔追い払う〕。
さて、鳥のグラウコス〔フクロウ〕と魚のグラウコス〔灰色ハゼ〕の眼を、少量の海水といっしょに練って、ガラスの容器に納めよ。両者の胆汁で洗い落として、ガラスの容器に重ねて納めるのも、より美しい。さて、自然の効能を驚嘆したいときは、上述の湿った丸薬で文字の書かれていないきれいな紙に〔何を?〕書け。すると、数日間は見えないだろうが、暗くなったとき、書かれたものが判明するであろう。壁に〔書き〕たいときは、好きな小図形を描くがよい、そうすれば、夜になったときに、影の中に見えた者たち、ダイモーンとか神々とか思われた者たちが逃げてゆくであろう。
グナティオス石にグラウコス鳥〔フクロウ〕を彫り、その足もとに魚のグラウコス〔灰色ハゼ〕、それの眼を閉じたのを〔彫って〕持ち歩き、ブタの肉やあらゆる汚れを断っていると、影になったとき、人間どもに高貴なものと見られることになろう。例えば、見る者たちは、汝が神がかっているように思うのである。その日には、何でも云うことが信じられるであろう。寝床の中まで身につけていると、真実の幻を示す。
1.4."1t"
第4字母(δ)。
植物のドラコンティオス(drakovntioV)注4)、
鳥のデンドロコラプテース(dendrokolavphV)〔キツツキ〕
魚のドラコーン(dravkwn)〔ハチミシマ注5)〕、
よく知られている鉱石のデンドリテース(dendrivthV)。
1.4.3
ドラコンティオスに2種類ある。ひとつは野生種で、ヒュペレクノス(uJpereknovV)と呼ばれるもの、他は栽培種で、オイノビケー(oijnobivkh)とも〔呼ばれる〕もので、アグリオラカノン(ajgriolavcanon)あるいはまたアルメノラカノン(ajrmenolavcanon)でもある。とにかくこの植物は、大蛇の眼に似た種子をつくる。この〔植物〕は、苦いの(colobotavnh)がまさっていると言われ、これはプラタノスに類似した広い葉をつける。この植物の種子から菜汁が搾り出されるが、これがドラコンの血と呼ばれるのは、赤いからである。
1.4.10
デンドロコラプテース〔キツツキ〕は万人周知の鳥で、大きさはウズラ〔cyran.III-35〕ぐらいである。樫やオリヴ樹や堅果のなる樹をつつくのは、〔樹の幹にある〕洞に巣をつくるためである。
海のドラコーンとは、真実鱗のない海の魚である。さて、これが巨大となり、勢力を誇ろうとすると、群雲がこれを大気中に掠って、山中に投げ棄て、これは存在しないぐらいに粉々になる。これの舌は、ウマの毛のように巨きくて二股に分かれており(didimwth)注6)、指2本の幅を有す。これをオリーヴ油の中に入れて保持せよ。というのは、子どもたちに巻きつけられると、邪視にわずらわされない、無病の状態に護る。わたしはこの調査記録を、アッシュリア人たちの地方であるシュリアの沿海岸の場所で見た。
デンドリテースという鉱石は、珊瑚に類似した石として多くの人たちに知られているもので、これはインド地方の、海の岩がちの場所に生え、6指ほどの高さを有す。
さて、植物のドラコンティオスの種子は、身につけられると、鋭い視力をもたらす。短い痛みをもたらす頭痛をも追い払う。この動物の羽はわずかの石といっしょに巻きつけられると、頭痛や半面痛を追い払う。同様に、この動物の羽とわずかの魚が切って、練られて、塗りこめられると、あらゆる頭痛を急速に治癒させる。
ところで、大きなドラコーンの得難さにわれわれが迷わないよう、手に入るのは、小さなドラコーンで、高さは2掌尺ぐらい、魚のようなものとして売られている。これをわれわれは、あれの代わりに使うことにしよう。
さて、頭の痛みや象皮病の初期、癩(kelefiva)、身体にできる皮膚病(leukasiva)、あらゆる最悪の癩(levpra)に対しては、ドラコーンの硬脂を、植物の液汁といっしょに、朝な夕なに塗りたくれ。
ところで、デンドロコラプテースの巣を、土とか石で塞ぐと、〔キツツキは〕自分が知っている植物を運んできて、適用して〔巣の入口を〕開ける注7)。すなわち、泥で遮断されていたら、泥がやはり落ちる。石でなら、石が跳び出す。戸板や釘でなら、出口が落ちるだろう。鉄板や釘でなら、破られるだろう。というのは、そこに植物を触れるだけで、それらをみなたちどころに開け、自分の雛たちを引き出すからである。だから、この植物を手に入れたら、口にすることのできない多くのことに効くだろう。その自然の効能によって、人の誰ひとり成就できないことをすることができるだろうからである。
さて、デンドリテースという石に、デンドロコラプテースを、その足もとに、海のドラコーンを彫り、デンドロコラプテースによって発見された植物で下方を締め、身につけるなら、彼にとってあらゆる門戸が開かれ、縛も閂も解け、野獣は彼に屈服し、なつくであろうし、彼は神々にとっても人間どもにとっても、あらゆる者にとって歓愛される者、言うことを聞いてもらえる者となるだろう。そして、成功したいこと、望むことは何でも実現するだろう。
ヘルメース・トリスメギストスに寄せて讃歌も言われる あらゆる知恵の唱道者、言葉の指導者、あらゆる術知の最も賢明なる供給者にして、星々の最も驚嘆すべきかたに〔寄せて〕。
神々の浄福者たるヘルメース。彼は神々の(mevroy)〔ハチクイ?〕という動物であり、その自然は知られない。なぜなら、一種の半神たる人々の種類は、賢く知解し、正気の心を持ち、神々の入信者ではあっても、決してそれを発見し得ず、むしろ自然は神を超越し得ないから、躓くであろう。だが、携行者は学ぶであろう、神々のところに鎖されているものらを御身が開き、あらゆる縛めを解くであろうから。諸天にあるもののあらゆる門戸をいつも策によっててなづけ、あらゆる鳥類を御身に対して自由にし、神のごとく海の門戸をてなづけたもう。荒れ狂う恐るべき波を止め、あらゆるダイモーンはいつも御身を避けるだろう。あらゆる人間どもにとって善きもののみが現れるであろう。
わたしは別の勧告に向けられるであろう。どうやら、この植物が、開けられる巣に発見されない場合は、彫刻される石の下方を、鳥の羽先、心臓、ドラコンティオスという植物の種子の1粒、石あるいは魚の髄で締めよ。なぜなら、これが身につけられると、鋭い視力をもたらし、頭痛を治癒させ、端的にいって、身につけた者をして、頭や眼のせいで苦しまない者とし、なおそのうえに、成功者、あらゆる人間どもから恐れられる者たることを示すからである。
1.5."1t"
第5字母(ε)。
エウゾーモス(eu[zwmoV)注7)、つまりトザンテュレー(tzantuvrh)とも言われる植物、
鳥のエウボエー(eujbohv)、これはサヨナキドリ(ajhdwvn)のことである、
魚類のハリネズミ(ejci:noV)〔=ウニ〕、 鉱石のエウアントス(eu[anqoV)。
1.5.3
エウゾーモスは、野菜のような食用植物で、万人に知られている。
エウボエーは鳥で、あらゆる人々によってサヨナキドリ〔歌姫〕とも呼ばれ、よく知られたものである。
海のハリネズミは万人に知られている。
エウアントスは金無垢の石である。これがアプロディーテーに捧げられているのは、黄金が豊かで透明であり、あるいはキュアノス石のように黄金の筋を有しているからである。
さて、エウゾーモン[ママ]は熱せよ。というのは、ひとつひとつの植物の自然を知らない多くの人たちにとっては、迷いがあるからである。そこで、エウゾーモン、ヘンルーダ、聖枝(a[gnon)を神官たちは浄めのために食するのである。なぜなら、緑色をしたエウゾーモンは冷やし、数多く性交することを許さず、何度も勃起することも、夢精することも〔許さない〕。だからこそ、神殿で暮らしている者たちによって継続的に食されるのである。
これの種子4ウンキア、胡椒1ウンキアが朝な夕なに蜂蜜といっしょに取られると、指の2本だけ〔?〕勃起させる。年齢的に成長し、麻痺した陰部を持つ場合は、次のことを実習せよ。エウゾーモスの種子16ウンキア、クミン〔Dsc.III-68, 69〕8ウンキア、胡椒4ウンキア、アンドラクネー〔Dsc.II-150, 151〕の種子2ウンキアを練って、蜂蜜で調合して、朝な夕なに与えよ。これの効き目は無比である。
ツバメの眼あるいは心臓は、敷き布団の中に結びつけられていると、横になった人たちを夢なしとする。練って、誰かにひそかに与えて飲ませると、夢なしのまま死ぬ。解決法はない。
海のハリネズミの臍は、練って、てんかんに取り憑かれた者たちに与えると、たちどころに軽快となす。たいてい、蜂蜜だけで与えよ。
金無垢のエウアントス石には、頭髪と巻き毛を包んだアプロディーテーが刻まれ、植物の根とツバメの舌とが下に置かれる。そうして閉じて身につけよ。そうすれば、あらゆる人間に愛される者、人間のみならず、神々にもダイモーンにも、よく知られた者、快い者となるであろう。逆に、獣は汝を避けるであろう。
1.6."1t"
第6字母(ζ)。
植物のズミラクス注8)(zmi:lax)、
鳥のゾーコス注9)、
海のズミュルナ(zmu:rna qalassiva)、
エメラルド色をした宝石ズマラグドス(zmavragdoV)。
1.6.3
ズミラクスは、セイヨウキヅタのように、最強の植物である。だから、難産の女にこれを冠すると、苦痛なくたちどころに出産するであろう。排泄時に苦痛で気むずかしくなり、この植物で彼女に帯をさせれば、苦痛なく排泄するであろう。葉の液汁1束、蜂蜜1ウンキアを混ぜて、水腫患者に与えれば、あぶなげなく空にされるであろう。女が味わえば、出血するであろう。
ゾーコスは鳥類である。ある人々は(zwvdi)〔?〕と呼び、ある人たちはハルペー(a[rph)と〔呼ぶ〕。白ハゲワシの一種で、死体喰いである。
1.6.11
海のズミュライナは万人周知である。
ズマラグドス石は万人周知である。
さて、ハルペーの内臓を、食事のときに食べるよう与えると、これを摂った人は粉砕されるであろう。というのは、食する人は痩せこけるからである。この鳥の結腸は、練って服用するよう与えれるか、調理して下痢患者に喰わせると、最終的に救われるであろう。硬脂は、香油といっしょに擦りこまれると、四日熱患者を恢復させる。糞は、酢といっしょに擦りこまれると、癩を止める。肝臓が好きなように与えられると、内臓すべてをだめにする。
ズマラグドスは、高価な緑色の鉱石である。
1.6.20
さて、ハルペーを刻んで、その足もとにズミュライナ、石の下をこの植物の根で閉ざせ、そうすれば混乱した夢に効き、精神異常者にもどれくらいふさわしいかに驚く。下痢患者をも止める。ズミュライナの硬脂を充当しても美しい。これは神妙不可思議なことである。
1.7."1t"
第7字母(η)。
植物のエーリュンギオス注10)(hjruvggioV)、
太陽の生き物すなわちフラミンゴ注11)(foinikovpteroV)〔「緋色の羽」の意〕、
鉱石のヘーパイストス石(hJfaistivthV)〔火打ち石?〕、
海のヘードニス(hJdoni;V qalavssioV)、一部の人たちは水陸両生〔だと云う〕。
1.7.3
エーリュンギオスという植物がある、葦のような生え方をし、棘があって、ゴルゴニオス(gorgovnioV)とも言われる。次のような効能と結びつく。すなわち、この根を携行すると、ダイモーンの試みを決して受けないであろう。大気のような霊(pneu:ma)を有する場合は、この根を自分の着物の下に置くと、〔ダイモーンは自分が〕何者か、そしてどこからきたかを白状し、余所者として逃げ出すであろう。根もろとも植物全体は、水や蜂蜜によって服用されると、下痢を止める。蜜酒といっしょに煎じられ、あなたが飲むと、滴尿性結石や腎臓患者を、苦しみから解放する。16日間、朝と就寝時に服用せよ。ザクロの樹皮〔Dsc.I-153〕もこれらといっしょにスープにすれば、よりすぐれて益することができよう。
フラミンゴの「ハリネズミ〔砂嚢〕」をスープにして、ひそかに与えれば、よりすぐれて効かすことができよう。
海のヘードニスは、アピディン(ajfivdin)とも言われるもので、続けて食されると、腎臓にできる拡大性潰瘍を快癒させる。
火打ち石(purivthV)とも言われるヘーパイスティテース〔ヘーパイストス石〕には、フラミンゴを、その足もとにはサソリを彫り、石の下方に草木の小さな根を入れれば、あらゆる有毒な動物からのお守りを持つことになるだろう。さらに、夜の心像をも退散させる。結石患者にも効く。あらゆる邪視を退散させる。
〔以下、23行未訳〕
前述したかぎりにことは充分としよう。そこで、わたしは散文で言い尽くし、前述したかぎりのことが、魂の預言として目に見えることをわたしは示そう。次に続く他のことをわたしは述べよう。こうして、予知や、そこにおける残りのそういう動物について、これから言われる詩行をわたしは述べたのである。
大気の中を飛ぶ動物がいる、ヤツガシラ(e[poy)と呼ばれ、(eJptavcrwmon)〔七方時の?〕、長さ2指尺の単純で短い冠羽を有している。四方時(tetravcrwmon)自体は、いわば、1年の四つの折り返し点(trophv)に対応している。これ〔ヤツガシラ〕が〔エジプトで〕クゥクゥポス(koukouvfaV)とかプゥポス(pou:poV)と呼ばれることは、この〔書〕以前の書『古書』と呼ばれるものの中で、これに関することを書いたとおりである。この動物は神聖である。
さて、まだ動悸をうっているこれの心臓を取って、第1時の始まるとき、あるいは、第8時に、太陽に向かって飲みくだせ。「クロノスの日」〔土曜日〕、月の昇るときとせよ。そのとき、調合による少量の蜂蜜といっしょに、黒い牛の乳をその後で飲め。健康な心臓が飲みくだされ、天や地にあることども、また、誰が魂に何を持っているか、諸々の地区や諸都市に生起するかぎりのことや、あらゆる人間どもに将来起こることを予知する者となるためである。
蜂蜜の調合は以下のごとくである。最も柔らかい生きている〔?〕天然磁石(mavgnhV)2ウンキア、植物のエーリュンギオスの心臓7個、これらを練って、蜂蜜と混ぜよ。さらに別の天然磁石をも保持せよ。これには、この鳥が彫りこまれ、蜂蜜の調合物の中に浸されねばならない。【何がたくまれているか】予知しようとするときは、1指を前もって味わい、彫刻された天然磁石をそばに置き、頸につけよ、そうすれば、望むことすべて予知できよう。もしも、別の心臓や、ヤツガシラの肝臓を調合物に入れると、よりまさっており、より記憶力の或る者となす。
〔5行、未訳〕
術者に対する問いかけ。「先ずわたしに言ってください。魂は不死ですか、それとも、死すべきものですか」。すると彼が謂う、「わが子よ、聞け。悪しき術者の多くは、不死の魂の意味を間違っている。これが自分を吟味するのは、身体が寝床で静穏にしているとき、魂もみずからの場所、そこからわたしたちがそれ〔魂〕を手に入れもしたところ(すなわち大気中で)休息する。そして、他の地区で起こったことどもを眺めるからである。さらに、住んでいる身体を愛し、善やその反対を前もって占うことしばしばで、これが夢と呼ばれるものである。次いで、固有の住処に立ち返り、目覚めてののち、同じ夢を知らせる。ここにおいて、魂は不死にして不壊であると、そなたに明らかになるとせよ」。
このようにハルポクラティオーンは云い、ここにおいて、この字母を充足させた。しかしキュラノスの方は、あることは別様に言い尽くし、あることは一致同調して〔言い尽くす〕。そして付け加えたのは、ヤツガシラからの味わい〔?〕と、この世で起こることどもを覚知によって予知して、云ったということである。ここにおいて〔その内容は〕以下のごとくであった。
1.7.90
エーリュンギオスの末端の根、あるいは頭は見つけにくいので、これを得やすくしたいときは、次のようにするがよい。エーリュンギオスの種子と、これがそこに生えている土を取って、この土と種子を胃に入れよ。稀には飲め。そして、他のエーリュンギオスのように胃の中に生え、〔花の〕季節になったら、そのとき、聖なる者にして断食者として、胃の中を適当に手探りせよ、そうすれば、「ゴルゴーンの頭」を見つけ出せよう。これを取りだして、常備薬として保持せよ。
さて、海のポーケーの、鼻と口の中間にある毛、緑色のイアスピス石、ヤツガシラの心臓と肝臓、エーリュンギオスつまりゴルゴーンの小さな細根、グリュクシデーつまりパイオーニア〔シャクヤク〕の細根、ペリステレオーン(peristerewvn)という植物〔Dsc.IV-61, cyran.I-10〕の種子、シュンギク(crusanqevmoV)〔Dsc.IV-58〕の世俗の血〔?〕、ポーケーの心臓の端、さらには、ヤツガシラの頭上の冠羽をも、手に入れればまさっている。さて、上述のものらは全部で十種で、少量の とともに、四種調合の香料に包んで、マングース(ijcneuvmwn)かポーケー〔アザラシ〕かシカかハゲワシの皮に入れ、聖なる者として携行せよ。さらに外側に金を着せるのも、より美しいだろう。というのは、そなたが手に入れたいと思っていることすべてに関して、人間ども、女たちのすべてから愛される者となろう。さらには、恐れられる者、平和な者、静かな者と見られるようにもなろう。あらゆる獣を服従させ、汝に敵対する者たちを歓愛する。オオカミの右眼を、前述のものらに投入して、携行しても、万事において征服されざる者となり、あらゆる行為に勝利し、成功者となるだろう。なぜなら、あらゆるダイモーン、あらゆる獣が汝を避け、幸福があらゆる者に来るだろうから。さらに無病も汝を守り通すであろう。
わたしは、ポーケーの凝乳も混合し、わたしのあらゆる訴訟相手に勝利し、不敗者となった。なぜなら、これを護符として携行する者は、神から前もって与えられなかったかぎりの善を得るだろうし、あらゆる点で名誉或る者となるだろう、あらゆる行動と言葉において勝利し、あらゆる危険、ダイモーンたち、魔術、あらゆる悪業から解放されて、端的いえば、あらゆる悪を退散させ、あらゆる善を客遇するからである。汝とともに神のみが知りたもうことを予知する者ともなるだろう。
ここにおいて、字母をキュラノスは成就した。
1.8."1t"
第8字母(θ)。
植物のテュルシス注13)(quvrsiV)、〔タフレシア科の植物(Cytinus hypocistis), Dsc.I-127〕
鳥のテュル(quvr)、
サンゴ(korallivon)に類似した鉱石テュルシテース(qursivthV)、
海の魚テュンノス注14)(tuvnnoV)〔マグロ〕。
1.8.3
植物のテュルシス、これはディオニューソス〔に捧げられるもの〕で、低木の、あらゆることに善い〔植物〕である。
テュルは、海洋のタカに類似した、攻撃的で、神がかった鳥である。
テュルシテースは、珊瑚に類似した鉱石である。
テュンノスは、海の魚で、食用になり、メジ(palamivV)に類似した、大きくて、よく知られた魚である。
ディオニューソスの草木とは、バッケラ(Bavkkera)のことである。テュルシオン(quvrsion)そのものは、バッコス信女たちやマイナスたちによって圧搾される。大地の草木は、人間どもの慎み深さに役立つよう生えたものである。しかし今は、ブドウ酒の中に豊富ないくつかの効能を言おう、圧搾される流れから、どれほどのものが食物のために生出ているかを。これは後にまた、後になって散文でわたしは言い尽くそう。知っておくべきである。これは大地の〔営み〕である。
さて、この草木の1ドラクマ、石1ウンキアを練って、ディオニューソスの名前を云い、これを、万人がそこから飲む酒壺、ただひとつの酒杯の中に投入し、全員が、楽しむ。酩酊し、感謝するかのように、「われわれを喜ばせたまえ、主よ」と言いながら。
テュンノスの右の眼をブドウ酒の中にあなたが投入し、ディオニューソスの名前と、寝椅子についている友たちは飲酒しているのではなく、喜ぶ者として感謝してもいるのだと云うなら。また、鳥のテュルの羽も、全体が鉄製の戦刀で切って、ディオニューソスの名前を言い掛けながら、酒壺の中に投入し、「支配者よ、横たわっている者たち、(aiJmatekcuvtouV genevsqai ajllhvlouV devrontaV)を休息させたまえ」と〔云えば〕、そのとおりになる。
鉱石のテュルシテースに、鳥のテュルと、その鳥を支配しているディオニューソスと、石の下方に、植物の根を彫り、締めて、携行せよ。そうすれば、酩酊しない者、万人に対して感謝を感じる者となるだろう。さらに、危険にさらされない者、訴訟に負けない者ともなるだろう。ディオニューソスの名前とは、次のものである。エウイ・エウイエ・バッケウイウエ・エウイエーオイオーオ・アエエーイエー(eui euie bakceuiue euih oiwo aehih)。この名前の真理は、エーオエウ(hoeu)あるいはオオーブ(owb)である。このようにハルポクラティオーンが、しかしキュラノスは次のように。エウイア・バイケウ・エウイレウ・ディオニューソスよ(euia baiceu euileu Diovnuse)。
1.9."1t"
第9字母(ι)。
樹木のイテア(ijteva)〔ヤナギ(Salix alba), Dsc.I-136〕、
黄緑色の鉱石イアスピス(i[aspiV)〔ジャスパー〕、
鳥類のイクティス(ijktivV)〔トビ〕、
魚類のイウゥリス(ijoulivV)〔ニジベラ〕。
1.9.3
イテア〔ヤナギ〕は万人周知の樹木で、実がならない。
イアスピス〔ジャスパー〕は万人周知の鉱石である。
イクティス〔トビ〕は万人周知の鳥である。
イウゥリス〔ニジベラ〕は海の魚で、小さく、多彩で、たやすく見つけられる。
さて、イテアの緑の葉は、練って、少量の塩と獣脂とともに塗りこめられると、脾臓に痛みを感じる患者を、じつにたちどころに痛みを止められよう。脾臓を溶かしたい場合は、樹皮を酢蜜といっしょに煮て、空腹時に2匙あるいは3匙与えよ、ただし、1/3までこれを煮詰めたうえで。おのおのの効能に応じて〔?〕与えよ。
鉱石のイアスピスには、ヘビを細切れにするトビと、石の下方に、ニジベラの頭から出る石を彫り、閉じて、胸につけるよう与えよ。すると、口のあらゆる労苦を止め、多くのものらをたやすく食させる。さらに他の効能も有する。これを胸につけよ、そうすれば目が見えよう。
1.10."1t"
第10字母(κ)。
植物のキナイディオス(kinaivdioV)
魚のキナイディオス(kinaivdioV)〔Plin. NH 32_146〕
鉱石のキナイディオス(kinaivdioV)〔黒曜石〕
鳥類のキナイディオス(kinaivdioV)
1.10.3
植物のキナイディオス(kinaivdioV)とは、アプロディーテーの「ハトたちの背(peristerew;n h[ptioV)」〔クマツヅラ科クマツヅラ属の植物(Verbena supina)、Dsc.IV-61〕のことである。
鳥類のキナイディオス(kinaivdioV)、これはアリスイ(i[ugx)〔Iynx torquilla〕と呼ばれるもので、テオクリトスの詩行をも手本にしたキュラノスの謂っているとおりである。
「(i[ugx)注14)よ、あの男をわたしの家に引き寄せておくれ」〔Idyll 2_17以下で繰り返される〕
ある人たちは、アッティカ地方の(ijuvggion)のことだ〔という、これは〕ウズラほどの食用になる小禽で、頸を後ろに廻すことができると、ハルポクラティオーンが謂う。頸のところに3つの石を有し、小さな舌、アプロディーテーに捧げられる。
1.10.10
海の魚キナイディオス。大きさは6指尺、ブレンノス(blevnnoV)のように頭は平たく、球形の小魚で、身体は半透明で、身体を通して、鏡を通してのようにその背骨が見えるようである。シュリア、パライスティネー、リビュエーの海沿いに繁殖する。これは石を2個有し、これらは、中程でも述べられたとおり、固有の術を有する。頭の中にある。ほかにも、尾鰭に近い背骨の第三脊椎骨のなかに石を有し、この〔石〕はすこぶる最強で、アプロディーテーの胸帯の中に探し当てられる。 鉱石のキナイディオスはよく知られているが、それにもかかわらず、あまり知られてはおらず、これは「夕暮れ石」と呼ばれるものである。クロノスの持ち物である。この石は二重である。すなわち、ひとつは暗くて黒く、ひとつは黒いが、鏡のように半透明である。これは、多くの人たちが探し求めるものであるが、これを知ってはいない。これはドラコンの石だからである。
さて、この植物の少しを、ハゲワシの糞といっしょに、桃の木の下でくすべると、落葉させるであろう。この植物が人の枕頭に置かれると、横たわっている人は勃起しないであろう。少量を練って、男に飲むよう与えると、7日間、性交の際に勃起しないであろう。挽き割り麦といっしょにオンドリに与えると、雌〔メンドリ〕にさかることをしないであろう。
魚のキナイディオスの、背骨の第三脊椎骨の中にある石について、飲酒あるいは食事のときに人に与えれば、この石を取る人は、誰でも認めているように、その日はみだらな者になる。挽き割り麦といっしょにこれをオンドリに与えると、ほかのオンドリに頻繁にさかられることになろう。雄っぽいような他の動物をも柔和にするだろう。ところが、この石を投げると、類似した動物によって雌のようにさかられるであろう。上述の石は真にこれだけのことをなす。
この鳥の舌を黄金の膜に入れて携行すると、恩恵を受け、神々であれ人間どもであれ、あらゆる者たちに愛される者となろう。
これの臀部は、人間とか別の雄の動物にひそかに与えられると、そういう者は柔和になり、雌のしぐさをするであろう。
〔この鳥の〕右の眼を、無疵のサルペイオン石 そこにはアプロディーテーが彫られている の下に携行すれば、これを携行する者は、優美であり、人間どもに聞こえた者となり、あらゆる裁判に勝利を得るだろう。左眼も、雌によって身につけられれば、同じことをする。
1.10.43
これの血は、いかなる軟膏であれ、これといっしょに混ぜて、擦りこまれると、眼に白内障を起こす。これの心臓は、月が欠けるとき、巻きつけられると、三日熱患者や四日熱患者を治癒させる。鳥の脳味噌は、食事ないし飲酒の際にひそかに与えられると、治りにくい頭痛を止める。これの肝臓は、塩と水で煮られると、肝臓患者を〔病から〕解放する。
さて、偉大な女神アプロディーテーの第1の飾り帯(kestovV)は、最も驚異的なものであり、人間どもやあらゆる動物の諸々の自然を変え、同様に、雄たち、とりわけ人間どもの意向(gnwvmh)をも〔変え〕、その結果、巻きつけた者や携行する者は、柔和にされ、女っぽくされる。
さらに、オプシアノス石〔黒曜石〕に、去勢されて、その恥部が足もとに横たわっているのを持ち、両手を下方にだらんと垂れ、下方の恥部を見やっている人間を彫れ。背後にアプロディーテー 背に背を向け、みずから視線をめぐらせて、彼の方を見ている を〔彫れ〕。そして魚のキナイディオスで石の下方を締めよ。頭の中にある〔石〕のひとつをあなたが持っていない場合は、植物の根と、鳥の左の羽先を下に置け。そして、より広い黄金の台注16)で締めよ。これを、かわいらしくなるよう、タカの腹からとった筋の飾り紐(iJmavV)の中に置き、飾り紐の中央で、見えないように縫い合わせる。これが、アプロディーテーの頭に描かれたり、巻頭布のように形作られる飾り紐(iJmavV)であり、これが飾り帯(kestovV)と呼ばれるものである。さて、この飾り紐の雄を身につけると、勃起しないであろう。知らずに携行すれば、柔弱になるだろう。(eja;n de; ejk tou: livqou tou: eijS to; katav fuvsin.)〔文意不明〕。女がこの飾り紐を携行すれば、性交の際、何びとも彼女と交わらないであろう。男が勃起しないからである。飾り紐の手頃な寸法は、幅2指尺、長さ5掌尺である。
1.10.70
さて、女王たちが携行する別の道具もあり、〔これは〕アプロディーテーの持ち物であり、他の人たちが同様に〔使用〕できるものである。筋から〔こしらえた〕飾り紐に、彫刻された石が下にあることが見えるように、この仕方でいっしょに置かれる。
第一は、飾り紐の中央に、武装したアレースの彫刻を持ったリュクニテース石(lucnivthV)あるいはケラウニテース石(keraunivthV)があるとせよ。
そこここには、2個の金剛石が縫いこめられており、〔この金剛石には〕アプロディーテーの足もとから、棘ないしバラ園〔の彫刻〕。
次いで今度は、おのおのの部分に、無疵のサッペイロス石2個。〔この鉱石には〕髪を結いあげられたアプロディーテーと、そばに立つエロース。
今度は、おのおのの部分に、他の2つの同じサルディア石、それぞれひとつずつの石に、四頭立ての馬車に乗ったヘーリオスと、二頭の牡牛に乗ったセレーネーと、両者がいっしょに彫られたもの。
他の2つは、どちらもの部分にアカテース石 〔左手に〕杖、右手に笏を持ったヘルメースの彫刻を有するもの。
他の2つは、両方の部分の直近にあるネメシス石 馬車に足で立ち笏をつかんだネメシスの彫刻を有する。
他の2つは無疵の真珠、 13この石がいっぱいになるよう、飾り帯の2つの部分に、切って形を整えることなくいっしょに横たわっている。
1.10.90
黄金の羊毛〔(lhneiva)?〕に入れられているのは、そういうふうに飾り紐の中に縫いこまれて、群集に見えないようにするためである。かくして、飾り紐は二重になる。随伴するのは、頸につけられる別の石で、これは「月の石」(selenivthV)、この中に、女神すなわち月が満ち、かつ、欠けるのが見える。胸飾り(sthqiaiva)〔?〕のような月の彫刻を有し、石の下部には、黄金の台の中に実のならぬセロリの根〔の彫刻〕。これは頸につけられる。この神秘は、身につけられると、携行者を神がかりとし、万人に跪拝され崇拝されるにあたいする者となすことである。だから王者たちの多くは、これを内懐に、あるいは、飾り帯のように巻頭布の中に携行して、誰かに見られないようにするのである。
1.10.100
「月の石」は、指にはめて身につけられると、同じことをなすと謂われている。
しかし、この書を無効にしないために、言葉は充足されたとしよう。最大の効能を有しているのだから。それゆえ、おお、わが子よ、多大な愛労と魂の労苦とともに、以上のことをわしはおまえのために翻訳したのだ。これを知るがよい、他の人は誰ひとり持っていないということを。それゆえ、この神がかった神秘を、何びとにも分け与えてはならない。
1.11."1t"
第11字母(λ)。
植物のリバノス(livbanoV)〔乳香、Dsc.I-81〕
鉱石のリュングゥロス(luvggouroV)
鳥類のローベークス(lwvbhx)〔ハゲワシ〕
海にも河にもいる魚ラブラクス(lavbrax)〔スズキ〕
1.11.3
(livbanoV)は樹木性の植物で、これの搾り汁(ojpovV)は、くすべられると、神的な霊気をめざめさせる。
(luvggouroV)は、「山猫」山に由来して名づけられた鉱石である。ある人たちはこれを「セイヨウハコヤナギ〔Dsc.I-113〕の涙(aijgeivrou davkru)」〔コハク〕と言う。だが、善きものである。
(lwvbhx)という鳥は、ハゲワシ(guvy)と言われるもので、最強の鳥類である。 (lavbrax)は万人周知の魚である。これから調整されるのは、最も神的な目薬で、あらゆる視力低下に効き、三日のうちに視力をよくする。初期の白内障(uJpocuvsiV)、表皮爪膜(ptevrugion)、雲(nefevlh)、かすみ(ajcluvV)、近視〔?〕(muvwy)、トラコーマ(tracwvma)、瞳孔拡張症(mudriavsiV)、昼盲症(nuktavlwy)、小胞(uJdativV)、疥癬からくる乾燥眼(ywrofqalmiva)、乾燥眼瞼炎(xhrofqalmiva)、逆睫(mivlfoV)、眼角の糜爛(bebrwmevnoV kanqovV)にも効く。擦りこまれると、以上すべてに著しく有益である。調整法は以下のごとくである。雄の乳香9ウンキア、琥珀2ウンキア、ハゲワシの胆汁6ウンキア、スズキの胆汁全部、胡椒3ウンキア、最美の蜂蜜6ウンキア、これは古くなったものほどすぐれている。
キュラノスによる目薬は以下のごとくである。雄の乳香と琥珀とを2ウンキアずつ、ハゲワシの胆汁6ウンキア、スズキの胆汁6ウンキア、胡椒3ウンキア、煙を使わない蜂蜜3ウンキアである。
1.11.20
リュングゥロス石の中に、ハゲワシを彫れ、下に少量の乳香とこの鳥の羽の先を置き、身につけよ。視力低下や眼の白内障に有益だからである。
1.12."1t"
第12字母(μ)。
草木のモレア(moreva)〔クロミグワ(Morus nigra)、Dsc.I-180〕
鳥類のミュゲロス(mugerovV)〔ゴイサギ(Ardea nycticorax)〕
鉱石のメディア石(mhdiko;V livqoV)
海の魚のモルミュロス(movrmuroV)〔ヤリダイ(Pagellus mormyrus), HA570b20〕
1.12.3
モレア(moreva)は、万人周知の樹木性の草木で、(sukamineva)とも言われるものである。
ミュゲロス(mugerovV)は、万人周知のヨガラス(nuktikovrax)という鳥類である。
メーディア石、これはアプロディーテーに捧げられる。
モルミュロスは、食用になる小さな海の魚である。
さて、モレアの根の搾り汁は、食事の時あるいは飲酒の時にひそかに与えられれば、〔胃腸を〕きれいにして、下痢をもたらす。根の樹皮をわずかに噛み砕いて脂肪(siveloV)を飲みくだし、それ〔樹皮〕の方は捨てると、こういう人は下痢のせいで危険におちいる。
臼歯や歯茎の激痛に益する。さらに、臼歯が齲食されることを拒み、すでに齲食された〔歯〕を無痛となす。
調合物としてこれから調製されるのは以下である。根の樹皮2ウンキア(他の〔書〕では3ウンキア)、刺激のないショウガ〔Dsc.II-190〕3ウンキア、最美の酢2コテュレー、これらを刻んで、1コテュレーになるまで煮詰めよ。これによって朝な夕なに口がすすがれるようにせよ。わたしたちがこれを報告したのは、神的な効能による。
ところで、モレアの小枝(klavdoV)は、あるものは上を向き、あるものは、その心臓形の二重になった先端を下向けに持っている。1.12.20
さて、足で立って、南西の方向を見つめ、左手の2本の指で、日の出の方に上向きの細枝(kardivdion)に差しのべ、真実の紫貝といっしょに、子宮からにせよ指からにせよ出血している女の腰に巻きつければ、3日の間に、血の動き(farav)を制止する。下向きの細枝の場合は、述べられたとおり、立って差しのべて、吐血患者に巻きつければ、同様に、3日の内に、動き(forav)を制止する。こちらは(ajnakavrdia)と呼ばれるものである。上向きのものは、同じ日数で下向きの出血を治癒させ、下向きのものは、上向きの〔出血〕を〔治癒させる〕。これが上枝(ajnakavrdion)とか下枝(katakavrdion)と呼ばれるものである。しかるに、偽知者たちの多くは混乱している。1.12.31
痔、つまり、エゾーカス(ejzwcavV)と呼ばれるエンテリス(ejnterivV)に対しては、これは比類なき薬である。モレアのまだ熟さない果実2ウンキア、銅鉱石2ウンキア、メーディア石4ウンキア、ワタリガラスの焼かれた羽の先、膠状になるよう、同じワタリガラスの羽で、ブドウ酒少量に適用せよ〔?〕。この洗浄剤(kluvsma)は、内出血に、外出血患者には、軟膏(katacrivsma)が包帯〔?〕に用いられる。
メーディア石には、魚のモルミュロスが彫られ、鉄製の小箱の中に締めこまれ、下方に、モレアの上向きの細枝が加えられ、痔や、ヘドラの病状に対して身につけられる。 下向きの細枝で下方を締めた場合は、吐血や、鼻血、上方の出血症状に対する護符となるだろう。モレアの根からは洗浄剤も調整される。
おお、モレア、聖なる草木よ、少なからざる者たちに嫌われたものよ。
それは。御身の根の菜汁が、(stratiwvthV)〔Dsc.IV-102〕、(perseva)〔Dsc.I-187〕の根の等量の液汁と混ぜられ、同様に、(murtivthV)、(tiqumavllon)〔Dsc.IV-165〕、(skamwniva)〔Dsc.IV-171〕の等量の菜汁を、それらすべてと三倍の蜂蜜の中に等しく混ぜて、湿った膏薬の濃度になるまで煮て、抽出してガラスの器の中に保持し、食事療法でしっかり準備した者に、空腹時に、これを1ウンキア与えよ。ただし、パスゥロス(favsouloV)の大きさよりも多くを与えられると、これを摂った者は、コレラに罹ると、1日と生きられないだろう。飲酒ないし食事のおりに超過量を与えてはならない、効能に応じて各人に与えよ。
1.13."1t"
第13字母(ν)。
植物のネキュア(nekuva)
魚のナウクラテース(naukravthV)〔「海の主人」の意。〕
鳥類のネーッサ(nh:ssa)〔アヒルあるいはカモ〕
鉱石のネメシテース(nemesivthV)
1.13.3
ネキュア(nekuva)という植物は、いわゆるプロモス(flovmoV)〔ゴマノハグサ科の植物。Dsc.IV-104〕のことである。この植物の種類は7種である。これについて言われるのは、地上1ペーキュスに伸びた葉は、燭台の灯芯の代わりに燃えるということである。皿によって行われる死霊占いの際に、こういったことを実習する者たちはこれを所持するので、それゆえまた、こういった葉をネキュディア(nekuvdia)と人々は呼びもする。
ネーッサは、波のまにまに泳ぐ鳥で、メンドリ〔cyran.III-34〕くらいの大きさをしている。
ナウクラテースは海の魚で、エケネーイス(ejcenhivV)〔「舟留め」の意。HA505b19〕のことである。これが帆走する舟にひっつくと、その竜骨から引きはなさいかぎり、これをまったく動かなくさせる。この魚は、蜜蝋状態になるまでオリーヴ油の中で丸々煮られると、オリーヴ油がしみこみ、たっぷりの蜜蝋を取ると、膏薬として貼られると、通風を療治する。
ネメシテースは、ネメシスの祭壇から採取される石である。
さて、この石の上に、戦車の上に足で立ったネメシスが彫られる。彼女の姿は処女のごとく、左手に腕尺、右手に王笏をもっている。石の下方は、ネーッサの羽先とわずかの植物で閉じる。
さて、この指輪をダイモーンに憑かれた者に近づけると、ダイモーンはたちどころに正体を白状して逃げ出すであろう。頸のまわりにつけていると、精神錯乱者をも健全にする。夢の中のダイモーンの幻も、幼児の吃驚も、夢魔をも退散させる。ただし、身につけた者は、あらゆる愚行から離れていなければならない。
ところで、この指輪は、身につけられていると、人生の期間が何年になるか、どのような死に方をするか、どこで〔死ぬ〕かを暴露する。ただし、身につける者は、あらゆる邪悪なことから離れていなければならない。
1.13.30
エケネーイスの骨の中から、短いのを馬の皮に縫い合わせて、汝の内に持して、船に乗って隠していると、隠されているものが持ち去られるか、汝が船から降りないかぎり、その船はもう帆走しないであろう。
生と死に関する予知のためには、少し前に云ったことだが、汝はタカの賞味を用いなければならない。
1.14."1t"
第14字母(ξ)。
植物のクシピオス(xivfioV)〔アヤメ科グラジオス属の植物(Gladiolus communis)、Dsc.IV-20〕
鉱石のクシピオス(xivfioV)
鳥類のクシピオス(xivfioV)〔キルコス(kivrkoV), HA620a18〕
海の魚のクシピオス(xivfioV)〔メカジキ〕
1.14.3
〔植物の〕クシピオスは、どこの土地にでも繁茂する植物である。穀類に等しい葉を有するが、それより長くはない。野原に穀類といっしょに生える。これを一部の人たちは(macairiva)と呼び、ある人たちは(favsganon)と〔呼ぶ〕。大地からおよそ1ペーキュス、まっすぐ伸びる。一本茎である。青黒い、香りのよい、紫がかった花をつける。春になると、これを羊飼いたちは編んで、花冠をつくる。
鉱石のクシピオスは万人周知である。これは臼石のようにどこの地にもふんだんにあるが、カッパドキアとナジアンゾスで採取される。色は黒ずんでいるかのようである。アッシュリア人たちの土地では、これを砕いてくすべ、自分たちの山間に育つ動物を追い出し、獣に傷つけられないよう守る。
鳥類のクシピオスとは、タカ、いわゆるキルコス(kivrkoV)のことである。
魚のクシピオスは、ニジベラ〔Coris iulis, HA. 610b6〕に等しく、多彩だが、もっと小さく、平たい。
さて、この植物の花と根を、たっぷりのオリーヴ油の中に置き、かなりの間そのままにし、濾過して、聖なる書物の中に探し当てられる香油、黒い大地〔アフリカ〕地方で(souvsinon)〔百合油〕と呼ばれるもの(これについて古代の大祭司たちは混乱している) アッシュリア地方ではこの植物は(sousanovn)と呼ばれる の中に入れよ。この植物は、2つの根を持ち、ひとつの根はもうひとつの根のうえに座っている。そこで、上の根を練って、ブドウ酒といっしょに与えて服用させると、交情欲を亢進させる。下方の根は、服用すると、反対のものを生じさせない。
さて、この鉱石の中にタカを彫り、その足もとに魚を〔彫れ〕。そして、この植物の根を石の中で閉じて、保持せよ。この指輪が神聖であること、これより前のもの〔指輪〕のごとくである。そこで、汝自身のもとにこれを保持すれば、望むことについて託宣されるであろう。これを動物の中、ないし奉仕される〔神々〕の中のある神の像の中に置けば、それから知りたいと望むことを何でも託宣されるであろう。
この魚の頭は、くすべられると、嗅いだ者たちをミルラで神来状態になった者となす。汝は汝の鼻孔に効能あるミルラを塗れ、そうすれば神来状態になることはまったくないであろう。
1.15."1t"
第15字母(ο)。
植物のオノテュルシス(ojnovqursiV)〔セイヨウキョウチクトウ(Nerium Oleander)、Dsc.IV-82〕
鳥類のオルテュクス(o[rtux)〔ウズラ〕
魚類のオルポス(ojrfovV)〔ハタ科の魚, HA543b1〕
万人周知の鉱石オニュキテース(ojnucivthV)
1.15.3
オノテュルシスという植物がある。ある人たちはオノトゥリス(ojnovqouriV)と呼び、ある人たちはオノマラケー(ojnomalavch)と〔呼ぶ〕。これは薔薇で、ヘッラス人たちは、神々の節会の時、これで花冠を編む。栽培種のウスベニアオイ〔Malva sylvestris, Dsc. II-144〕に似た葉をつける。これをヘッラス人たちはアルタイア(ajlqaiva)〔Althea officinalis, Dsc.III-163〕と呼ぶ。
オルテュクス〔ウズラ〕は、万人周知の鳥である。しかし、オルテュクスの自然本性、あるいは、これの誕生がどこからかは、よくは知られていない。だが、それは次のごとくである。リュビエーの部分である沙漠地帯で大嵐が起こると、海が最大のマグロを海岸地帯に打ち上げる。これは14日後に蛆を発生させ、成長するとネズミのようになり、次いで、バッタのようになる。これが大きくなるとオルテュクスになる。次いで、南風ないし南南西の風が吹くと、大きくなって海を渡って、パムピュリア、キリキア、カリア、リュキアへと赴き、北風が吹くと、今度はこれが、アッシュリア地方の海岸地帯や、黒土〔アフリカ〕地方の他の地帯へと飛び立つのである。偽ソフィストの罰当たりたちは、これが神聖だというのだが、それは彼らが無知なため、これの自然本性や起源を知らないからである。
オルポス(ojrfovV)は海の魚で、食用になり、万人周知である。
1.15.20
オニュキテース(ojnucivthV)あるいはサルドニュクス(sardovnux)は万人に知られている。
さて、この植物の根は、オリーブ油とオルテュクス〔ウズラ〕の硬脂といっしょに煮られて、次いで、蜜蝋が混ぜられて凝固すると、子宮のしこりや炎症、腫瘍、女の腔〔=膣〕に関する限りの〔症状〕に効く。薔薇によっては緩和される。悪性潰瘍にも効く。
オルテュクス〔ウズラ〕の眼は、この植物の根といっしょに括りつけられると、日々の悪寒と、〔月が〕欠けるときに括りつけられると、四日熱を消散させる。
ウズラあるいはハタの眼は、少量の水といっしょに練って、7日間、ガラスの容器に保持せよ。次いで、オリーヴ油を少し加え、これを灯火に入れるか、灯火の芯にだけ塗油するかせよ。点火して、食事の席に就いている人たちのところに運べ、そうすれば、自分たちを炎の悪霊のように見て、全員が立ち上がって逃げ出すことになる。
オニュキテース石にウズラと、その足もとに魚の(ojrfovV)を彫り、石の下方に、灯火に入れた調合物を入れよ、そうすれば何人もあなたを目にすることなく、何か有るものを運び去っても〔目にすることはないだろう〕。また、あなたの顔に、調合物を塗って、指輪を身につけよ、そうすれば誰もあなたを、あなたが何者か、あるいは、いったい何をしているのか、目にすることはないであろう。
1.16."1t"
第16字母(π)。
植物のポリュゴノス(poluvgonoV)〔ミチヤナギ(Polygonum aviculare)、Dsc.IV-4〕
鳥類のポルピュリオーン(porfurivwn)〔ヨーロッパセイケイ(Porphyrio porphyrio〕
海のポルピュラ(porfuvra)〔ムラサキガイ(アクキガイ)Murex trunculus〕
万人周知の鉱石ポルピュリテース(porfurivthV)
1.16.3
植物のポリュゴノス(poluvgonoV)、ある人たちはカマイメーロン(camaivmhlon)と呼ぶ。
鳥類のポルピュリオーン(porfurivwn)は、河川に繁殖する川の鳥である。
海のポルピュラ(porfuvra)は、ある人たちはケーリュキオン(khruvkion)と〔呼び〕、コクリア(kocliva)に等しい。
ポルピュリテース(porfurivthV)は、黒土〔アフリカ〕地方で周知の鉱石である。
さて、この植物の根は、〔月の〕欠ける時に採取され、身につけられると、眼が病気に罹ることを許さない。これの液汁は、指示どおりに調合されると、眼の多くの謎めいた病状に効く。{というのは、人間の眼は、以下に見るとおり、数多くの病状で不具になるからである}。そこで、言葉を長引かせないために〔まとめて言えば〕、目蓋に現れるのは、(knivfh)、(konidismovV)、(fqeirivasiV)、(ajtriciva)、(tricivasiV)、(falavggwsiV)、(xavlaza)、(kriqhv)、(ajkrocordwvn)、(mivlfwsiV)、(pacublefariva)といった、11の病状が生じる。眉〔の皮膚〕には、(travcwma)、(uJdativV)、(e{lkoV)、(trivcwsiV)といった、4つ〔の病状〕が生じる。目尻には、(ywrofqalmiva)、(xhrofqalmiva)、(a[rgeqmon)、(e[gkausiV)、(aijgilwpiva)、(ajgcuvlwy)、(suvrigx)、(nomhv)、(ajnavbrwsiV)といった、9つ〔の病状〕が生じる。眼球〔?〕全体には、(pteruvgion)、(leuvkwma)、(rJh:xiV)、(muokefavlion)、(stafulivV)、(busmo;V stafulw:n)、(tavraxiV)、(ajmavlwy)、(strabismovV)といった、9つ〔の病状〕が生じる。瞳には、(nefevlion)、(ajcluvV)、視力低下(ajmbluwpiva)、(platukopiva)、(suvgcusiV)、(ajtoniva)、(ajtrofiva)、(fqivsiV)、(glauvkwsiV)、(mudrivasiV)、(dikopiva)、(iJppavrion)、(nuktavlwy)、(muvwy)、(skotismovV)といった、15〔の病状〕が生じる。眼全体には、(flegmonhv)、(fivmwsiV)、(cuvmwsiV)、(suvgkausiV)、(apovsthma)、(brw:siV)、(e{lkoV)、(periwduniva)、(yudravkion)といった10〔の病状〕が生じる。
流出(rJeumavta)の種類〔は以下のとおり〕である。(lavbron)、(ajqrovon)、(qermovn)、(glukuv)、(yucrovn)、(cliarovn)、(leptovn)、(drimuv)、(palaiovn)、(ajmmw:deV)、(nitrw:deV)といった、11の流出が生じる。全体では60の病状が生じる〔全体では69になるはずだが……?〕。上述全体に対する薬の調合は、以下のとおりである。この植物の液汁6ウンキア、インド産リュキウム〔クロウメモドキ科の植物、Dsc.I-132〕6ウンキア、インド産アロエ〔Dsc.III-25〕6ウンキア、ミルラ〔Dsc.I-77〕4ウンキア、サフラン〔Dsc.I-25〕4ウンキア、乳香〔Dsc.I-81〕4ウンキア、ケシの汁4ウンキア、黒アカシア〔Dsc.I-133〕12ウンキア、雨水5ウンキア。練って、ガラスの容器に収めよ。望むなら、水の代わりに白ブドウ酒の方がまさっている。これはさまざまな流出や、眼のあらゆる病状に効く。視力低下には無比である。さまざまな流出を抑える。あらゆる激痛には、塗りこめて、風呂で洗うがよい。これは最大の薬である。
ムラサキガイの生の肉は、眉間に塗りつけると、半面痛を消散させる。
鉱石のポルピュリテース(porfurivthV)に、この鳥を彫り、足もとにムラサキガイ(khruvkion)を〔彫れ〕。石の下方には、この鳥の羽の先を〔彫れ〕。そうして、閉じて、身につけよ。頭の激痛や半面痛のために。また眼の流出に効く。この指輪も洗顔薬も、月の欠ける時に調合せよ。
1.17."1t"
第17字母(ρ)。
植物(樹木)のラムノス(rJavmnoV)〔Waegemanは、クロウメモドキ属の植物(Rhamnus catharticus)と同定〕
鳥類のロムパイア(rJamfaiva)〔コウモリ〕
魚類のラピス(rJafiV)
鉱石のリノケロース(rJinovkerwV)
1.17.3
植物のラムノスは、傾斜地に生え、よく知られた、棘のある植物である。
鳥類のラムパイア、これはコウモリのことで、万人に知られている。
鉱物のリノケロース、これは、鼻角獣の鼻の先端にちなんだもので、角のような形をしている。
さて、この植物の小枝を、家の中に置くと、あらゆる幽霊(puneuvmata)〔複数形〕を追い払う。
1.17.10
このような植物の実の液汁は、蜂蜜といっしょに擦りこまれると、鋭い視力をもたらす。若枝は、白斑を追い散らすであろう。ただし、これを組成(suvstasiV)をもつまで煮なければならない。
コウモリの胆汁は、植物の液汁と蜂蜜といっしょに眼に擦りこむと、鋭い視力をもたらし、白内障を追い散らすであろう。
さて、この石の上にコウモリが、その足もとにラピス(rJafivV)が、石の下方に植物の細根が彫られる。これは、身につけられると、ダイモーンたちを追い払う。これを気づかれないよう人の枕頭に置くと、眠ることができないだろう。同様に、コウモリの頭を生きたまま切って、黒い毛皮に包み、ひとの左肘に括りつけると、これをそこから外すまで、全然眠れなくなろう。いや、そればかりか、コウモリが頸のところに有する毛も、外衣や寝椅子に括りつけると、身につけた者、あるいは、寝椅子に横たわった者は、全然眠れなくなるだろう。
1.18."1t"
第18字母(σ)。
植物のサテュリオス(satuvrioV)〔ラン科の植物(Acera anthropophora), Dsc.III-128〕
鳥類のストルゥトカメーロス(strouqokavmhloV)〔ダチョウ(Struthio camelus)〕
魚のサルペー(savlph)〔ヒラダイ(Boops salpa、HA543a8〕
鉱石のサッペイロス(savpfeiroV)
1.18.3
サテュリオス(satuvrioV)は、棘だらけのような植物で、茎全体は大地から伸び、長さ2掌尺、種子に満ちている。色は紅花のようだが、種子の中央はより青い。
ストルゥトカメーロス(strouqokavmhloV)は、万人によく知られた鳥である。
サルペー(savlph)は海の魚で、華やかな、よく知られた、食用魚である。
サッペイロス(savpfeiroV)、あるいはキュアネオス(kuavneoV)は鉱石である。アプロディーテーに捧げられ、無疵で、黄金の条をも持っている。それゆえ、一部の人たちの間では黄金サファイア(crusosavpfeiroV)とも名づけられる。画家たちは、これから最善の青色剤(lazou:rin)注16)をつくり、これをピュシコン(fusikovn)〔自然=恥部〕と呼ぶ。
さて、この植物の調合は次のようになり、性交の際に労苦から弱ってこのうえなく水っぽくなった女たちや、妊娠できない女たちにとって有用で、彼女らを、酸っぱくて、乾燥した自然を有するようにさせる。〔?〕乾燥剤は、快楽促進剤であり、受精促進剤だからである。したがって、性交の寸前に、この植物から造られた乾燥剤を、自分の恥部にふりかけ、次いでそういうふうに女と交わると、彼女に妊娠させられるだろう。ただし、前もって恥部にふりかけるかわりに、蜂蜜をこれに塗るのは有益である。塗ることをしなければ、乾燥剤によってはなはだ亢進し、言語を絶した快楽のせいで、女にふさわしからぬ大きさまで逸脱するからである。同様に女も、これを(krokivdion)に塗り、恥部のところに置けば、妊娠促進剤となり、大いなる勃起と快楽が生じるであろう。というのは、女たちの自然を乾燥させ、子ども作りをさせ、その結果、子孫なしの女も不妊の女も妊娠するからである。
この乾燥剤の調合法は以下のとおりである。サテュリオス(satuvrioV)の種子2+1/2ないし1+1/2ウンキア、コショウ1ウンキア、丸い明礬2ウンキア、そして割れた明礬2ウンキア、乾燥香油1+1/2ウンキア、バルサムの実4ウンキア、バルサムの汁1+1/2ウンキア、これらをつぶして、ガラスの容器に収めよ。
1.18.30
乾燥香油の調合法は以下のとおりである。モッコウ〔Saussurea lappa, Dsc.I-15〕3ウンキア、カンショウコウ(navrdou stavcuV)〔Dsc.I-6〕1/2ウンキア、バルサム〔Dsc.I-18〕の種子3ウンキア、アモーモン〔Dsc.I-14〕1/2ウンキア、丁子の干した蕾(karuofullon)2ウンキア、カッシア2+1/2ウンキア、蘇合香5ウンキア、クロッカス4ウンキア、バルサムの汁1ウンキア、花托をとったバラ〔の花弁〕4ウンキア、美しい子牛2グラムマリオン〔?〕。これらを乾燥させて、切り、美しく篩にかけよ。バラは、乳鉢ですって、クロッカスといっしょに練り、練られたものを少量を塗油せよ、この少量に蘇合香を加え、これを注意深く、蘇合香も粉末になるまで切って、残りのバラといっしょに乾燥したものを加え、〔?〕美しく調合して、トローチをつくる、これにアヤメ〔Dsc.I-1〕とマスチックの木〔Dsc.I-177〕、蘇合香、ビーバーの爪をいぶしながら。そして乾燥させたうえで、壺(bikivon)に収めよ、そして、必要になった時、切って、乾燥香油をつくり、妊娠できない女たちに2ウンキア与えよ。
ダチョウの砂嚢、いわゆる(sifouvkion)は、乾燥させて練られ、ひそかに与えられると、これを飲んだ乙女を恋情へと仕向ける快楽のお守りとなる。
砂嚢からとれる石は、サテュリオス(satuvrioV)の実(kovkkoV)1個とともに砕いて、飲酒時ないし食事の時に与えられると、最大の勃起を生ずる、性交できない者や、魂の代わりに魂を得られない者にとっては特にそうである。〔?〕しかし、石そのものは、自分で身につけられると、最大の消化と、性交できない者たちに勃起をもたらす。
1.18.50
サルペー(savlph)という魚の頭蓋の〔中にある〕右の石は、身につけられると、勃起をなすが、左の〔石〕は、不能をなす。この魚の硬脂は、蜂蜜といっしょに練って、両方の恥部に擦りこまれると、最大の快楽をつくる。
さて、サッペイロス石の中に、口に(savlph)をくわえたダチョウが彫られ、石の下方にサテュリオス(saturivoV)の実(kovkkoV)と、ダチョウの腹の中にわずかな砂嚢が置かれ、締めて、身につけると、あらゆる消化に効く。また勃起も性愛に対する共感性も生起する。とくに、すでに老齢でありながら、多くの性交を望む者たちに勃起をもたらす。身につけた者に優美さをもつくる。
1.19."1t"
第19字母(τ)。
植物のトリピュッリオス(trifuvllioV)〔マメ科オランダビエ属の植物(Psoralea bituminosa), Dsc.III-123〕
鳥類のタオース(tawvV)〔クジャク〕
海のトリュゴーン(trugwvn)〔アカエイ, HA498b31〕
華やかな鉱石タイテース(tai<thV)
1.19.3
トリピュッリオス(trifuvllioV)は、万人周知の善い植物である。
タオース(tawvV)は、優美で、美しい(wJrai:on)鳥類である。
トリュゴーン(trugwvn)は、善い点も悪い点ももった海の魚である。
タイテース(tai<thV)は、多彩な鉱石で、華やかで、クジャクに似ており、これは万色鳥(pavncrouV)とも呼ばれるものである。これがクジャクに帰せられるのは、クジャクのように、多色だからである。
さて、この石の上に、海のアカエイを踏みつけたクジャクと、石の下方に、クジャクのアイオー(aiw)という〔鳴き〕声が彫られる。そして、この植物の細根が置かれ、閉じて身につけよ。これは、身につけられると、あらゆる男、あらゆる女に対する勝利と愛と結合の、大きな驚くべき〔お守り〕となり、万人を聴従する者とできる。さらに、ひとが何でも望むことについて夢の中で明らかにしてくれる。じっさい、夢見る者が聖なる者でなくても、枕元に置かれると、誰かがあなたに対して、あるいは、あなたのために、何かを望んだら、それを夢の中で知ることができよう。また、てんかん患者にもすぐれて有効で、頸に括りつけられると、爬虫類の毒にも〔有効で〕、患者はたちどころに健康となる。この指輪を他の誰にも渡さないのは、最大の〔お守り〕だからだが、このような〔お守り〕は他によくは見つけられないからでもある。
1.20."1t"
第20字母(υ)。
植物のヒュペレイコン(uJpevreikon)〔Hypericum crispum, Dsc.III-171〕
鳥類のヒュペローニス(uJperwnivV)〔ワシの雌〕
海の魚ヒュッロス(u{lloV)〔タコ?〕
鉱石のヒュエティオス(uJevtioV)〔「雨石」の意〕
1.20.3
ヒュペレイコン(uJpevreikon)は善い、低木状の植物で、ある人たちはディオニュシア(dionusiva)と呼ぶ。夏の植物である。
ヒュペローニス(uJperwnivV)は鳥類で、これは雌のワシのことで、本質は雄と同じである。
海のヒュッロス(u{lloV)は、よく知られた、食用になる、邪悪な〔魚〕である。
ヒュエティオス(uJevtioV)石は、川に産し、色はむしろ血のような小石である。
1.20.10
さて、この石を加工し、その中に、魚を引き裂いているワシを彫れ、石の下方には、この植物の小さな細根と、鳥の羽の先を〔彫れ〕。ヒュペローニス(uJperwnivV)の〔羽〕がない時は、タカの〔羽〕を置き、〔石を〕締めて、男にとっても女にとっても、偉大なお守り、万人にとって有用な〔お守り〕として保持せよ。じっさい、効くのは、子宮の逆流(ajnadromhv)、ひずみ(paregklivsiV)、(skotismovV)、出血(aiJmorragiva)、ぐらつき(ajkatastasiva)、炎症(flegmonav)、流出(rJeiavV)、端的に言って、(ptwvsiV)と(ajnabrwvsiV)と(katabrwvsiV)は除外して、あらゆる〔病状〕に効くのである。それゆえ、子宮の逆流、ひずみ、その他諸々に苦しんでいる女たちに、身につけるよう与えよ。すぐれて偉大な秘儀、安全な助けとして。
1.21."1t"
第21字母(φ)。
植物のプリュネー(fruvnh)〔キンポウゲ科キンポウゲ属の植物(Astragalus poterium)、Dsc.II-206〕
鳥類のプリュノス(fru:noV)〔Oriolus galbula〕
海のポーケー(fw:kh)〔アザラシ(Phoca monachus)〕
鉱石のプリュノス(fru:noV)
1.21.3
プリュネー(fruvnh)という植物がある、これはバトラキオン(batravcion)〔野生セロリ(Ranunculus, Dsc.II-206〕とかバトラキテース(batracivthV)とも呼ぶところのものである。邪悪な草木で、外見はセリノン(sevlinon)〔Dsc.III-74〕のようである。しかし、水の中に生える。効能は、高熱にし発熱させる。
鳥類のプリュノス(fru:noV)、ある人たちはイクテロス(i[kteroV)〔黄疸患者〕、ある人たちはクローロス(clwrovV)〔黄緑鳥〕と言う。大きさは、スズメくらいである。
海のポーケー〔アザラシ〕は、最美でよく知られた動物で、人間のような手、しかし顔は小牛のそれを有している。
1.21.10
鉱石のプリュノス(fru:noV)は、ある人たちはバトラキテース(batracivthV)〔カエル石〕と呼ぶ。
さて、この植物の効能は、次のように最強である。〔すなわち〕鉄を使わずに膿瘍を切除し、疔(ねぶと)や瘰癧や、炎症のあるかぎりのものを侵食する。そこで、当てられる小さな膏薬、幅2指尺、切除しようとする長さになるよう長さおよそ半指尺を作る。そして、膏薬を薬として当て、3時間ないし6時間そのままにした後、切除されているのを見つけられるだろう。こうして、切り傷や潰瘍をきれいにできる膏薬、次には麻痺させる〔膏薬〕、胸の上なら、蝋膏薬(parakollw:siV)として用いよ。〔外科用〕メスすなわち膏薬は次のものである。〔すなわち〕植物の液汁4ウンキア(他の〔書〕では1ウンキア)、雄黄、鶏冠石、各4ウンキア、深紅の銅[金+燐]〔Dsc.V-89〕4ウンキア、ホルトソウ(laqurivV)〔(Euphorbia lathyris)、Dsc.IV-167〕4ウンキア、ハンミョウの胴6ウンキア、生石灰〔Dsc.V-133〕8ウンキア、シダーの露滴〔Dsc.I-105〕ないしバラ油〔Dsc.I-53〕たっぷり。練って、ガラスの容器に収めよ。ただし、腱や血管の上に当たらぬよう見張れ。痙攣を起こさせないためである。涙管瘻(aijgivlwy)や、生えすぎによる逆睫(triciavsiV)にも効く。ハンミョウを切断して、その脚や羽を棄てよ。胴のみを投入せよ。石鹸4ウンキアをも、生きた生石灰をも投入せよ。切り、柔らかくし、練って、膏薬状に作り、当てよ。
さてポーケー〔アザラシ〕の、鼻と口の中間に見出される大きくてごわごわした毛はポーケー〔アザラシ〕の心臓の中央部、ヤツガシラの心臓の端、ポーケー〔アザラシ〕の少量の肝臓、植物のシュンギク((murmhvkion)、スズメの〔羽の〕一房、ダチョウの舌、少量の若枝とともに、オオカミの右眼とともに、鹿皮に包んで、あらゆる友愛、結合、勝利に効く最大の護符として保持せよ。なぜなら、あらゆる戦いを解き、友愛へと方向転換させる。あらゆる必然的な困難、雷霆、危険、あらゆる突風、海の危険な状況、大地や海における、またダイモーンあらゆる病の試練から救われる。そして、健康、幸い(eujpraxiva)、好天、あらゆる種類の善の裕福さをもたらし、勝利と親愛の護符として真に偉大にして、神の賜物である、とりわけ、アルパイオーニア(ajlpaiwniva)〔シャクヤク〕という植物の根ないし実をあなたが持っている場合には。
ポーケー〔アザラシ〕の手の爪は、持ち歩かれたり身につけられたりすると、あらゆる邪視、あらゆる病と悪を追い払う。だから、手の右の爪をお守りに投入しても、何ら奇妙なことではない。じっさい、むしろまさっている。
これの毛は、眠れない者たちの頭上に置かれると、夢を招来し、難産の女たちの左の太腿に巻きつけられると、最大の善を〔招来する〕。
1.21.50
皮は、帯のように腰の上につけられると、腎臓のあらゆる病を治癒させ、脚には、サンダルを作れば、痛風や排尿困難を治癒させる。同様に、ポーケー〔アザラシ〕の硬脂も、松やにの膏薬に混ぜられると、痛風や関節炎に益する。
これの心臓を舟の帆柱に巻きつけると、決して海難に遭うことがないだろう。同様に、獣皮も、舳先に釘付けにすれば、その舟が雷雨の試練にさらされることは決してないだろう。
1.21.57
この鳥は、喰われると、黄疸症状を追い払う。これの爪は、巻きつけられると、三日熱や毎日熱の悪寒をちゆさせる、布に入れて巻きつけるのだが。これの心臓は、布に包んで巻きつけ、腕につけられると、三日熱、四日熱、毎日熱の悪寒を治癒させる。
バトラキテース石には、タカと、その足もとにカエル(bavtracoV)を彫り、カエルの舌と植物の細根と鳥の舌の先を締めよ、そして、締めたうえで、身につけるよう与えよ。身につけられると、あらゆる出血と痔疾を制止し、黄疸患者を助ける。血を吐く者たちや、子宮から出血する女たちにも効く。敵たちの怒りの原因たる気性を宥めるお守りにもなる、とくにポーケー〔アザラシ〕の毛で下を締めている場合には。じっさい、有毒な獣たちからも守り通す。他にも、諸々の作用をこの石は有するが、最も神的な〔作用〕をわたしは述べよう。
1.21.70
〔以下、18行未訳〕
さて、タカ石(iJerakivthV)を取って、これにタカと、その足もとにカエルを彫れ、そして石の下方に次の〔文字〕を刻め。ΜΑΛΛΕΝΚΑΑ(他の〔書〕ではΜΑΑΘΑΛΑ)」、また、生きている天然磁石にも同じ彫刻をし、その石の下方に、次の〔文字〕を刻む。「ΜΑΜΑΛΑΙΝΑ(ある人たちはΜΑΛΑΛΑ)」、そして、下方にあるように包んでおく。
以上のことを、ハルポクラティオーンは何度も繰り返す。キュラノスの方は、石の彫刻について次のように説明した。〔いわく〕タカ石にタカを彫り、その足もとにカエルを、そして、石の下方にこう書け、「ΜΑΛΑΑ」。天然磁石にも同じ彫刻を。この石の下方には、「ΜΑΛΛΕΝΑ」。
さて、普通のタカ これをキルコス(kivrkoV)と呼ぶ を取って、泉水およそ2コテュレーに、神格化されるまで沈めよ、すなわち、タカを水の中で、死ぬまで窒息させよ。次いで、取り出して、およそ6時間、放置せよ。ただしキュラノスは、7日間塩漬けにされると云った。その後で、これの眼と、舌と、心臓を、生きているカエルの舌、天然磁石とタカ石という2つの石、少量の鉄の鑢屑(天然磁石は生きているからである)といっしょに包みこみ、結び合わせて、大いなる護符として保持せよ。これらすべては、タカの皮に包みこまれてあれ。護符の結び紐を、紐のようなタカの腱 紡がれて、細くて、長めのもの から作るのは、頸につけられたとき、口や心臓の真ん中に届かないようにするためである。こうして、汝はあらゆることを予知できよう。これは自分の子にも、伝えたり教えたりしてはならない。
この護符の随伴する試みは以下である。前もって飲まれたことのある陶器の容器に、それによってタカが神格化される水、蜂蜜1コテュレー、リバノーティス(libanwtivV)という植物〔Dsc.III-87, 89〕の根4ウンキア、(leivaV kriqa;V bebregmevnaV u{dati potamivw/, e{wV an] blasthvswsi kai; e[xw ta;V glw:ssaV e[cwsin, kh')、バトラキオンという植物1ウンキア(他の〔書〕では4ウンキア)、乳香1ウンキア(他の〔書〕では4ウンキア)、カメライア(camelaiva)という植物〔ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の植物(Daphne oleoibes)、Dsc.IV-172〕の油3、これらを練って、調合物といっしょに、包みの成分ができるまで煮よ、そして、ガラスの容器に収めよ、よくよく口を噤んで。ただし、これを収めるとき、これに、まだ温かく動悸をうっているクゥクゥポス〔ヤツガシラ〕の心臓と、これの血を少量を投入せよ。次いで、別のクゥクゥポス〔ヤツガシラ〕の、まだ動悸をうっている心臓を飲みくだせ、その後で水蜜を飲め、そうすれば、汝の永遠の生を成就した者となろう。〔?〕
さて、この世で、あるいは天上で、あるいは地区で、あるいは都市で、あるいは人間界で、あるいは汝の家で、あるいは他人の家で、女たちや男たち、あるいは盗人たちについて、生起するかぎりのことを知りたかったら、この調合物から1指味見し、その後で牛の乳と水蜜を飲め。汝の心臓や口に触れないためである。そうすれば、望みのこと、思いつくすべてのことを予知できよう。なぜなら、上述のすべてのこと、男たちのも女たちのも、諸々の人生と諸々の運命を知解する者となろうから。盗人どもや逃亡者どもについても、どこで、どのように、端的に〔云えば〕あらゆることを〔知解する者となろう〕。
以上が、両者が等しく書いたことである。ただし、ハルポクラティオーンは次のことも〔書いている〕。
わが子よ、おまえにお願いする。天、大気、大地、海淵、泉と河川、おまえに霊気を吹きこんだ神、この神秘を何びとにも手渡してはならない、自分の子どもにさえも、この自然を知るにあたいする者でないかぎりは。神々、つまり跪拝されるべき方々はみな、この能力を持っておられる。しかし、何びとにも語らずして、賢明な魂のように用いよ。〔?〕
1.22."1t"
第22字母(χ)。 植物のクリュサンテモス(crusavnqemoV)〔シュンギク(Chrysanthemum coronarium), Dsc.IV-58〕
鳥類のクリュソプテロス(crusovpteron)〔Oriolus galbula〕
魚のクリュソポス(crusofovV)〔ヘダイ(Sparus aurata), HA.598a10〕
鉱石のクリュシテース(crusivthV)
1.22.3
クリュサンテモス(crusavnqemoV)は、万人に知られた植物である。
クリュソプテロス(crusovpteroV)は、大きさがウズラぐらいの鳥である。
クリュソポス(crusofovV)は、食用、海の、周知の魚である。
クリュシテース(crusivthV)は、クリュシゾーン(crusivzwn)のように多彩な鉱石である。
さて、シュンギク(crusanqevmoV)の花は、杯型をして黄金色で、花の真ん中に、蟻のような、小さな、黒い、薄い羽を有している。これは「地上の血(ai|ma kosmikovn)」と呼ばれる。さて、太陽が昇る前、太陽が子午線にある時、これは抜かれて、バラ油と、この植物の花少量といっしょに、ガラスの容器に収められる。次いで、早朝になったら、聖なる者として、そこから少量を取って、視覚〔目〕に塗油し、勇んで進め。あらゆる男やあらゆる女に対して、汝を愛される者、喜ばれる者、親愛なる者となすからである。太陽が昇ったときにそういうふうにすれば、もっとすぐれた働きをするであろう。また、漸増する失敗や無用な行動やそういったことどもに有効である。
さて、この植物の根は、この魚の頭からとれる石といっしょに、布に〔包んで〕、歯の生えかけた子どもたちに巻きつけよ。クリュソプテロスという鳥の眼は、巻きつけられると、三日熱患者を救い通す。これの心臓は、巻きつけられると、発熱患者を解放する。魚の頭の中にある石は、喉に巻きつけられると、肺癆患者を治癒させる。
クリュシテースという鉱石に、輪型の王冠をもった鳥、足もとに魚を彫り、この植物の細根を下方で閉じ、身につけるよう与えよ。というのは、胃の痛みや、子宮や腎臓の捻転に効くからである。さらに、身につけた者を、あらゆることにおいて喜ばれる者、愛される者となす。日没時に、オリーヴ油の中に入れ、オリーヴ油といっしょに擦りこむと、炎症を起こした者たちにも効く。ほかにも、ブドウ酒に浸して飲みくだされると、性的魅力を増す護符の働きももっている。魚の頭の石も、言われたものらといっしょに持っていれば、肺癆患者にすこぶる益する。
1.23."1t"
第23字母(ψ)。
植物のプシュッリオス(yuvllioV)〔エダウチオオバコ(Plantago psyllium, Dsc.IV-70)〕
海のプシュッロス(yuvlloV)〔海のノミ(Cyclops vulgaris)〕
鳥類のプサロス(yavroV)〔ムクドリ(Sturnus vulgaris), HA617b26〕
鉱石のプソーリテース(ywrivthV)、これはポーロス(pw:roV)とも言われるものである。
1.23.3
プシュッリオス(yuvllioV)は、万人周知の植物である。
海のプシュッロス(yuvlloV)は、漁師たちが海岸で用いる小さな小動物である。
プサロス(yavroV)は、万人周知の鳥である。
鉱石のプソーリテース(ywrivthV)、これはポーロスとも呼ばれるものである。
さて、この植物の種子3ウンキアを、2コテュレーの水といっしょに、鳥もち状になるまで煮よ、そうして、布切れに詰めこんで、圧搾された滓は棄て、液汁の水液には蜜蝋6ウンキア、オリーヴ油6ウンキアを加え、次いで、蜜蝋が溶けるまで煮よ。そして、(qusiva)〔?〕の中に注ぎ込んで、練れ。ひじょうにすぐれた状態で保持せよ。というのは、これは痛風患者や、疫病的な熱病患者にとっての神がかった湿布剤だからである。
この鳥の血に石をあてがい、眉間に塗りつければ、三日熱患者や四日熱患者を救いとおせよう。前述の植物の液汁に石をあてがい、発熱している患者とか頭痛患者の眉間に塗りつければ、苦痛なしに守れよう。
「海のノミ」を、オウシュッリオスの果実の種子28(他の〔書〕では8コテュレー)を布に〔包んで〕巻きつけると、三日熱の悪寒や発熱を追い払えよう。 「海のノミ」多数を、海水で煮て、ノミが多数いるところにふりかけよ、そうすれば、以後はいなくなるであろう。
プソーリテース石の中に、「海のノミ」3匹を、緑色の葦の下に立つ「海のノミ」3匹を彫り、植物の細根を閉じて、夜間や、歯が軋るときに跳びあがる幼児に、与えて身につけさせよ。不眠の漁師がこれを身につけていると、昼間、河や湖で漁をするとき、大いなる漁に与るであろう。
1.24."1t"
第24字母(ω)。
植物のオーキモス(w[kimoV)〔メボウキ(Ocymum basilicum), Dsc.II-171〕
鳥類のオーキュプテロス(wjkuvpteroV)〔ツバメ〕
海のオーミス(wjmivV)〔マイニス(Maena vulgaris, HA569a19〕
鉱石のオーキュトキオス(wjkutovkioV)〔小安石〕
1.24.3
オーキモン(w[kimon)という木草は、食用になる、野菜類で、万人周知で、よい香りがする。これはバシリコン(basilikovn)と言われるものである。
鳥類のオーキュプテロス(wjkuvpteroV)は、神厳な動物で、一般にはツバメ(celidwvn)と言われるものである。
海のオーミス(wjmivV)、これは(bembravV)のことで、ほかには、(luvhmbroV)、ほっそりした動物で、食用になり、(mainivV)〔HA 607b10〕と呼ぶところのものである。
子安石(wjkutovkioV)という鉱石があり、ワシ石(ajetivthV)に似ているが、それよりも小さく、耳もとで動かされると、それのように音がするということがない。見た目にすべすべしている。
(w[kimoV)の芽生えについてわれわれは調査記録したが、〔これは〕大きな効力を持っている。
例えば、この草木を、これが洗われないうちに、空腹時に噛み、7夜の間、これが日々を短縮し、夜間は晴天にするために、太陽が見えない間、戸外に置くと、これが〔尾が〕7節の緑色のサソリになるのを見出すであろう。これがひとを刺せば、第三日に膨張して、死にいたる。
これを水ないしブドウ酒に漬けて、ひとに与えて呑ませると、呑んだ者は、身体中に発疹ができる。この発疹によって潰瘍は不治となる。
同じサソリを、サソリの尾をした植物(skorpiouroV botavnh)〔Dsc.IV-195, Calendula officinalis。しかし、サソリ状の花序はもたないという〕の種子といっしょに擂りつぶして、小丸薬をつくり、乾燥させて、ガラスの容器に収め、てんかん症状に襲われた者に与えれば、もはや害されることはなかろう。また、7日にわたって、小丸薬を3粒ずつ、空腹時に〔(eijV eu[kraton)?〕与えよ。しかし、健康者に与えれば、精神異常に罹って、もはや助かることはなかろう。
また、植物の(w[kimoV)の液汁と燕の糞とをいっしょに擦りこむと、三日熱を取り除けるだろう。
ツバメの羽と(w[kimoV)の根を、難産の女に与えてつかませると、たちどころに、苦痛なく出産するだろう。
1.24.30
この動物の羽を、香油の中に(香油なら何でも)投げこむと、あらゆる男、あらゆる女から、最大の分け前と仲裁を得ることができよう。
ツバメの心臓を、鹿皮に入れて身に括りつけていると、精神異常を取り除けるだろう。
普通のサソリについては、多くの人たちの間における無知、愚者たちの迷妄によって調査研究されたことを、わたしは包み隠さない。迷妄は〔?〕空気に存するからである。
例えば、普通のサソリを、月の欠ける時、1コテュレーのオリーブ油に入れ、保存・保持し、ひとの背骨、足や手の先端に擦りこみ、背骨には、上方の脊椎骨から下方まで、また、眉間、頭に、発作が起こる寸前に塗れば、三日熱、四日熱、毎日熱の型を治癒できよう。これは驚くべきことである。さらに、精神異常者やダイモーンに取り憑かれた者たちをも軽快にする。今度は、この鳥の羽を別のオリーヴ油に入れて、快癒した者に擦りこむと、病状が彼に再発し、助かることはないであろう。
普通のサソリは、調理して、結石患者たちに食されると、彼らに、苦しむことなく結石を排尿させる。
サソリの針、植物の(w[kimoV)の種子の入っている先端、ツバメの心臓を、鹿皮に入れて括りつけよ、そうすれば、精神異常者たちを狂気から解放できよう。この護符は、出て行くことを聞き入れないダイモーンたちをも追い払う。
先ほど説明された石〔と(wjmivV)の頭ひとつ〕を、植物の液汁、鳥の血、(wjmivV)の頭ひとつ、少量の水とともに練って、ガラスの容器に保存・保持し、演示したい時に、左手ないし右手の指を染めて、最強の石であれ材木であれ骨であれ、何でも好きなものに触れよ、そうすれば、たちどころに粉々になって、居合わせた者たちに、あなたがマゴス僧〔魔術師〕であると思われることになろう。 ハルポクラティオーンは、バビュローニア地方の母市で行われた神的きわまりない演示的施術を謂い、わたしたちはそれを知った。例えば、無煙の炭の上にある(ujmivV)の頭を、清浄な大気の夜、屋根の上に置くと、現れる星々の固有の組み合わせをつくることができよう。また、満月の時に、この動物の頭を干し無花果の中に入れて火にかければ、夜、戸外が静かな時は、天の半分にかかったような月輪を目にできよう。これといっしょにヒトデの小片を混ぜれば、この要素〔?〕が全大となって、あなたの足もとに立つのを目撃できよう。火打ち石を粉末にしていっしょに当てれば、雷や稲光が発生するだろう。倒壊した家から人間どもの上に土といっしょにふりかければ、その場所に地震が起こるだろう。
1.24.70
(wjmivV)のことを(mainivV)と呼んだのは、これがなまの時に最大の効能を発揮するからである。というのは、膏薬の調製法は次のとおりである。
なまのマイニスの中にある骨1ウンキア、(mandragovraV)〔ナス科の植物(Atropa mandragora), Dsc.IV-76〕の実(mh:la)〔?〕1ウンキア、ヒヨス(uJoskiavmoV)〔Hyoscyamus niger, Dsc.IV-69〕の種子1ウンキア、ケシの汁液1ウンキア、乾燥したバラ1ウンキア、(aJlikavkabon)〔セイヨウホオズキ(Physalis alkekengi), Dsc.IV-72〕の根の樹皮3ウンキア、(Kolofwniva (rJhtivnh))〔松ヤニ〕1ムナ、硫黄1ウンキア、硝石1ウンキアを塗り薬のように調製し、好きなところに貼れ、そうすればすぐに病気から解放されよう。
しかし、膏薬をつくって1日置き、しかる後に他の人が患者を助けようとしても、何の益にもならぬ。{7日を超えないからである。これは急激な病気の治療薬だからである。}〔?〕
1.24.80
マイニス(mainvV)と呼ばれたのは、狂気(maniva)に対する次のような調製を有するからである。つまり、マイニスの眼を取って、ブドウ酒(他の〔書〕では百合油(souvsinon)〔Dsc.I-62〕)1コテュレーの中に入れ、7日間つけておけ。次いで、ブドウ酒にマンドラゴロスの睾丸〔=実〕の種子14ウンキア、普通の(bavtoV)〔キイチゴ(Rubus ulmifolius), Dsc.IV-37〕の睾丸〔=実〕4ウンキア、「サソリの尾」という植物4ウンキア、これらを半分になるまで煮よ、そして保管して次のように用いよ。ひとが狂気に陥ったのを見たら、これにブドウ酒によって温水といっしょに1ウンキアだけ与えよ、そうすれば助かるであろう。(他の〔書〕では1コテュレーを保持して与えている)。倒れた者や、発狂していない者にブドウ酒とともに与えて飲ませると、発狂するであろう。まったく効き目のないようなひとに、膏薬にして擦りこむよう与えると、目に滴下すると、7日以内に発狂するだろう。<7日を超えることはないからである。これは急激な病気の治療薬である。>
耳痛には、これを耳に擦りこむと、痛みを止め、軽快となるだろう。
マイニスの頭の中にある石は、黒(ajlavbhV)〔ナイルの魚〕の胆汁といっしょに練って、擦りこまれると、暗闇の中のものを出現させたり見えさせる。
生きたマグネテース石わずかと少量の雨水を混ぜ合わせて眼に擦りこむと、天や大気中にあるものを7日間眺めることができるだろう。
1.24.100
この石の中にツバメを、その足もとに、マイニスの上に立つサソリを彫り、石の下方で、サソリとマイニスの眼と、「サソリの尾」の細根を閉じ、締めて、携行せよ。爬虫類であれ四足獣であれ、あらゆる有毒動物を退散させ、あらゆる敵や策謀者を低くするからである。
ひとがサソリに刺され、この印鑑〔護符〕でその刺し傷をあなたが封印すれば、刺された人をその危険から解放できるであろう。
ひとが狂ったイヌに噛まれ、恐水症になって飲水をとることができなくなったら、この指輪をとって、水の中に入れ、飲むよう与えよ。飲む者は救われるであろう。発狂する前に飲むよう与えると、発狂することはないであろう。
新しいマイニスの舌を、水で練って人に与えれば、しかし、指輪を下に投げて、発狂した者に飲むよう与えれば、救われるであろう。素面の者に〔与える〕と、発狂するであろう。これの解決法。調理されたマイニスを与えて喰わせよ。言われたことすべてに無知な人間は、発狂するであろうと、神的なキュラニスが死すべき者たちにいっている。
このように、ハルポクラティオーンはこの書をここで終えている。これらのいわゆるキュラニデース以外に、彼の書をわれわれは見つけられず、この〔書〕の中では、ハルポクラティオーンがキュラノスと一致しない点、あるいはそれぞれがそれぞれに〔言っている〕点を、述べられたとおりに両者から言葉どおりにすべて書きあげ、どの言葉も無視することなく、この書を編んだ。今は、キュラノスの別の書に移るとしよう。それらからもわたしたちが益されるように。
万物に崇められ万物を支配する人(pansevptoV kai; pantavrcoV)の書は、終わった。
第1の書の終わり。
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