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グノーシス文書

真珠の歌
(生命の歌)


[解説]
 ここに、グノーシスの思想的特徴を見事に表現していると言われる1編の歌がある。それは「真珠の歌」と呼ばれていて、『トマス行伝』(第9行伝108ー113)の中で、使徒トマスが囚人たちに歌うという形で採り入れられている。『トマス行伝』は、最初期のキリスト教とインドとの関わりを示唆している興味深い偽典である。『トマス行伝』には、『トマス福音書』やヨハネ福音書、それに共観福音書からの影響が読みとれるから、これは紀元250年頃の作ではないかと推定されている〔『トマス行伝』226〕。ただし、「真珠の歌」は、ここに採り入れられる以前から伝わる伝承と考えられている。歌のあらましは次のようである〔ヨナス161-64〕。
          (KOINONIA「真珠の歌」


[底本]
TLG 2038
ACTA THOMAE Acta, Apocryph., Hagiogr.
A.D. 3
Acta, Apocryph., Hagiogr.

TLG 2038 002
Carmen animae (De margarita) (cod. Rom. vallicellanus B 35) Acta, Apocryph., Hymn.
P.-H. Poirier, L'hymne de la perle des actes de Thomas [Homo religiosus 8. Louvain: Université de Louvain, 1981]: 352-356.
Breakdown

 左欄がG本(底本は上掲)、右欄は、「本来の形に近いと思われる」というS本(出典:『聖書外典偽典7:新訳外典 II』柴田善家訳「トマス行伝」108-113)。




E codice Bibliothecae vallicellanae romanae B 35

G本 S本

1 わたしがまだ口も利けない幼児として、わが父の王国にいた間は、
108
1 わたしが幼な子で
わが王国に、わが父の家に住み、
2 養育者たちの富裕と贅沢のうちに安んじていたが、 2 わが養育者たちの
富と奢侈とを楽しんでいたころ、
3 わたしたちの祖国である東方から、両親はわたしの旅支度を調えさせて、わたしを使いに出した。 3 東のかた、わが故里から、
わが両親がわたしに旅仕度させて、わたしを送り出した。
4 つまり、その宝庫の富から大きくて軽い荷を拵え、 4 そして彼らは、われらの宝庫の富から、
わたしのために荷を拵えた、
5 これをわたしがひとりで携えられるようにしてくださった。 5 大いなる、しかし軽い荷を。
わたしはそれをひとりで背負うことができた。
6 その荷は、上なる者らの金と、大いなる宝庫のアセーモスと、 6 上なるものの家の金、
大いなるガツァクの銀、
7 インド産のカルケドーン石〔瑪瑙〕と、コサノイ〔クーシャン〕産の真珠である。 7 インドの玉髄石、
クーシャンの瑪瑙。
8 それから〔両親は〕わたしを金剛石で武装させたもうた。 8 そして、彼らはわたしを、鉄をも砕く
ダイヤモンドで武装した。
9 それから、わたしに<お脱がせになった>のは、宝石を散りばめ金糸の刺繍を施した衣裳*で、
これはわたしを慈しんで、わたしの年齢に合わせておつくりになった黄色い上衣であった。
9 そして彼らはわたしから、わたしを愛して造らせた光り輝く衣服と、
10 それからわたしと約束をなさり、わたしがけっして忘れることが<ないよう>わたしの心に刻みこまれ、かつはおっしゃった。 10 わたしの背丈に合わせて織らせた
深紅の上衣(トーガ)を脱がせた。
11 しかし彼らはわたしと契約をして、
わたしが忘れることの<ないよう>わがこころに刻みこんだ。いわく。
11 しかし彼らは、わたしと契約をして、
忘れさせないように、それをわが魂に書き込んだ、
12 「そなたがアイギュプトスに下り、そこから1個の真珠を持ち帰るなら — 12 「もしお前がエジプトに下り、
一箇の真珠を持ち帰るならば、
13 だが、それはかの地の呑み下す龍の側にあるのだが —、 13 それは海のただ中にあり、
荒々しく息を吐く竜に巻かれているのだが、
14 そうすれば、宝石を散りばめた衣裳をまとい、あの上衣に再び安らげよう。 14 お前は(自分の脱いだ)光り輝く衣服と、
その上に重ねる上衣とを(ふたたび)纏うことができるであろう。
15 〔そして〕そなたの心を離れぬ者、つまり、そなたの兄弟とともに、われらの王国の布告者となるであろう」。 15 そしてお前の兄弟、われらの第二子と共に、
われらの王国にて世嗣ぎとなるであろう」。

16a わたしは東方から出立した、
16b ふたりの案内人とともに、
109
16 わたしは東方を発ち、下っていった、
ふたりの護衛に伴われて。
17a 艱難辛苦の恐怖の旅へと。
17b わたしはこの旅をすることに無経験だったのだ。
17 道が恐しく険しくて、
道を迎るのに若すぎたので、
18 わたしはモサノイ人たちの境界地域 — そこには東方の交易商人たちの
宿場があった — を通り過ぎ、
18 わたしは、東方の商人たちの集合地
マイシャンの境域を通り過ぎ、
19 バビュローニア人たちの地に到着した。 19 バベルの地にはいり、
サルブークの城壁に到着した。
20 わたしがアイギュプトスに入って行くと、
わたしに同道していた案内人たちは離れて行った。
20 わたしがエジプトに下って行くと、
わたしの随行はわたしから離れた。
21 そこでわたしは龍をめざして最短距離の道を急ぎ、
その巣穴のそばに宿営した。
21 わたしは竜のもとに真直に進み、
その棲みかの近くに宿をとった。
22 わたしの真珠を奪い取らんと、これ〔龍〕がまどろみ、眠るのを待ちもうけて。 22 竜がまどろみ、眠りこみ、
わたしが竜から真珠を奪いとることができるまで。
23しかし、わたしは独りぼっちで風体も風変わりで、わたしの〔同宿者たち〕にも余所者に見えた。 23 わたしは独り寂しく、
わたしの同宿人にとって異邦人であったが、
24 そういうおりにわたしが出会ったのが、東方出身のわが同族、自由人、 24 東方の高貴の人、生れながらの自由人、
25
優雅な美少年たる、貴族の息子である。
25 美しく品のよい、
油注がれた子を。
26 これがわたしに接近し、交際し、 26 彼はやって来て、
わたしに与した。
27 わたしは彼を話し相手とし友とした、わたしの旅の友とも仲間ともして。 27 わたしは彼を話相手とし、仲間として、
彼にわたしの業を伝えた。
28 そこでわたしは彼にアイギュプトス人たちに気をつけるよう、
またこの不浄な連中との交わりに〔気をつけるよう〕警告した。
28 わたしは彼に、エジプト人と、
不浄な人々に与しないように警告した。
29 しかるにわたしが連中の衣服をまとったのは、怪しまれないためであった、あたかも他所から〔やって来たのは〕 29 しかしわたしは、彼らと同じような衣服を着た。
わたしが真珠を得るために、
30 真珠を獲得するためだとして、
アイギュプトス人たちがわたしに敵対して龍を目覚めさせないために。
30 よそからやって来たという疑いを抱かせないために、
彼らがわたしを防ぐため竜を目ざめさせないために。
31 しかし、いかなるわけがわからないが、わたしが彼らの地方の出でないことが知れてしまった。 31 しかし、何かの機会から、
彼らは、わたしが彼らの同国人でないことに気づいた。
32 そこで彼らは奸計をもってわたしを罠にかけ、
わたしは彼らの食物を口にしてしまった。
32 彼らは謀をもってわたしに近づき、
わたしに彼らの食物を与えた。
33 わたしは白分が王の子息であることに無知であった。そこで彼らの王に仕えたのだ。 33 わたしは、王子であったことを忘れ、
彼らの王に仕えた。
34 あまつさえ、真珠のために来ていたことも、
そのためにわが父たちがわたしを遣わしてくださったことも(忘れて)。
34 しかもわたしは、真珠のことを忘れた。
そのためにわが両親がわたしを送り出したのに。
34 しかし、彼らの食物の重さに、
わたしは深い眠りに陥ってしまったのだのである。
35 そして、彼らの食物の重さのゆえに、
わたしは深い眠りに落ちこんだ。

36 他方、わたしがこんな苦難に遭っていることをわたしの父たちも
知って、わたしのためにお苦しみになった。
110
36 しかし、わたしの身に起こったすべてのことに、
わが両親が気づき、わたしのために嘆き悲しんだ。
37 そこでわたしたちの王国に布令が発せられた、
すべての者われらの城門に相集うべし、と。
37 そこで、われらの王国に布告が出された。
すべての者われらの城門に相集うべし、と。
38 この時まさに、パルテニアの諸王と高官たち、
東方の首座を占める者たちは
38 — パルティアの諸王と将軍たち、
また、東方のすべての諸侯。
39 わたしの件で結論に達した。
わたしをエジプトに<放っておいては>ならぬ、 と。
39 そして彼らは、わたしのゆえに決議をした、
わたしをエジブトにとどまらせてはならぬ、と。
40 そこで彼らは、列侯も署名したうえで、わたしにこう書いてよこした。 40 そこで、彼らはわたしに手紙を書き、
おのおのの諸侯がそれに署名した。
41 「王中の王たる父と、
東方を領する母と、
41 「汝の父、諸王の王から、
汝の母、東方の主から、
42 その<第二子なる><兄弟から>、
エジプトに居るわれら子に。平安あれ。
42 われらの第二子、汝の兄弟から、
汝に、エジプトにあるわれらの息子に安否を問う。
43 立て。眠りより覚めよ。
この手紙の言辞に耳を傾けよ。
43 立て、汝の眠りから醒めよ。
われらの手紙のことばに耳を傾けよ。
44 そして諸王の子であることを想起せよ。
おまえは奴隷の軛にはまっている。
44 汝、王子たることを想起せよ。
奴隸の様を見よ、汝だれに仕えるかを。
46 汝の金糸の刺繍を施した衣裳を想起せよ。 45 真珠を思い起こせ、
そのために汝エジプトに遣わされた。
45 真珠を想起せよ、
そのために汝はアイギュプトスに遣わされたのだ。
46 汝の光り輝く衣服を想起せよ、
汝の華やかな上衣を思い起こせ。
47b 汝の名は生命の書に挙げられているのだ。 47 汝それを着、それを飾り、
汝の名、勇者の書に読みあげられ、
48 われらの王国においておまえの仲がよかった
兄弟の〔名〕も〔挙げられているのだ〕。
48 汝、われらの兄弟、われらの代行とともに、
われらの国にて世継ぎとなるために」。

49 さて、王は(神の)代理として(手紙に)封印してくださった。
111
49 わたしの手紙は、
王が自らの右手で封印した一通の手紙、
50 邪悪なるバビュローンの子らと
>ラビュリントスの>僭主的ダイモーンたち〔から護る〕ために。
50 悪しき輩、ハべルの子ら、
サルブークの悲情な悪霊から(守るために)。
51 (欠) 51 それはすべての鳥の王者、
鷲の形で飛んだ。
52 (欠) 52 それは、飛んで来て、わたしの傍に降り立ち
悉くがことばとなった。
53 そこでわたしはこの〔手紙の〕音と感じによって
<跳びあがった>。
53 その声とサラサラという音で、
わたしは目をさまし、眠りから立ち上がった。
54 そして手に取り、接吻してから
読みだした。
54 わたしはそれを取り上げて接吻し、
その封印を解いて読んだ。
55 〔そこには〕わたしの心に刻みこまれているあのことについて
したためられていた。
55 わが魂に書き込まれていたことと全く同じように、
わたしの手紙の言葉は書かれていた。
56 かくしてたちまちわたしは想起した、自分が王たちの息子であること、
わたしの自由がわたしの生まれの求めるところであること、を。
56 わたしは、わたしが王子であることを、
また、わたしの自由がその本来の姿を求めていることを思い起した。
57 また真珠のことも思い起こした。
これのためにアイギュプトスまで遣わされていたのだ。
57 わたしは真珠のことを思い起した。
そのためにわたしがエジプトに送り出された。
58 そこでわたしは恐るべき龍に<呪文を>かけ、 58 そこでわたしは、荒々しく息を吐く恐ろしい竜に、
呪文をかけはじめた。
59 わが父の名号を唱えつつこれを呑みこんだ。 59 わたしはそれをまどろませ、眠りこませた。
龍に向かって、わが父の名と、
60 (欠) 60 われらの第二子の名と、
わが母、東方の主の名とを唱えて。
61 そしてわたしは真珠を奪い、
わが父たちのもとへと引き返したのである。
61 そして、わたしは真珠を奪い、
わが父の家に帰るべく、向きを変えた。
62 わたしは汚れた着物を脱ぎ、
彼らの地方に捨てた。
62 そこで、わたしは穢れた不浄の衣服を脱ぎ、
それを彼らの国に残した。
63 それからすぐに、東方なる故国の光をめざして
道をまっすぐに取ったのである。
63 そして、わたしは道をとり
わが故里、東方の光へ(と道を急いだ)。
64 道すがら、〔手紙が〕わたしを<奮いたたせること>を見出した。 64 そして、わたしはその途上に、
わたしの目を醒した手紙をわたしの前に見出した。
65 それは〔かつて〕声を使うがごとくして、眠っているわたしを目覚めさせたが、
〔今は〕それから発する光でわたしを導くのだった。
65 それは、その音でわたしの目をさましたように、
今やその光でわたしを導いた。
66 例えば、絹でできた王風の衣地が、
わたしの眼前に現われことがあった。
66 中国製の布に赤チョークで(書かれ)、
わたしの前にその形輝き
67 (欠) 67 その音により、その導きによって、
わたしの歩みを励まし、
68 また、親愛(storghv)がわたしを導き、
引きずりゆくこともあった。
68 その愛によりわたしを曳いて。
69 〔こうして〕わたしはラビュリントスを通り過ぎた。
そうしてバビュローンを左に残して、
69 わたしは、さらに進んで、サルブークを通り抜け、
70 メソポタミアに到着した、 70 左手にバベルを残し、
商人たちの港、大いなるマイシャン、
71 大いなる海辺の〔町〕に。 71 海岸にある(町)に到着した。
72
(欠〕
72 そして、わたしが脱いだわが光り輝く衣服と、
それとともに巻きつけていた上衣とを、
73
(欠)
73 わが両親が、
ヴァルカンの高原から、
74
(欠)
74 彼らの調度係官の手を通して、送り届けた。
その誠実さのゆえにこれを委託されて。

75 しかしわたしは、わたしのものである光輝を思い出せなかった。
なぜなら、まだ少年でまったく稚いころに、これを父の宮殿に
置き去りにしてきたからである。
112
75 しかし、わたしはもはやその価値を思い出さなかった。
わが幼時にそれを父の家に残して来たので。
76 だが突然、わたしはその衣服を見たのだ。
鏡の中に映し出されているかのように。
76 (ところが)突然、わたしがそれをわたしの眼前に見たとき、
光輝く衣服が、わが鏡のごとく、わたしと同じになった。
77 また、その〔鏡〕の上にわたし自身の全体を観、
わたしは覚知し、かつ、それによってわたし自身を見たのだった。
77 わたしはそれを悉くわたしの中に見た。
そしてわたしは、その中にわたしを、わたしの眼前に見た。
78 すなわち、わたしたちは同じ(一つ)から出て、(二つの) 部分に分割されていたが、
再び一つの像(morfhv)によって一つである、ということを。
78 われらは同じものから二つに分かれていたが、
再び同一の形で一つである。
79 いや、それどころか、衣服を携えて来てくれた
当の調度掛官たちまでもが、
79 しかも、それをわたしにもたらした
調度係官たちも
80 〔わたしは〕2人と見ていたが、両者において一つの像(morfhv)が、
両者において王の一つのしるし(suvmbolon)としてあるのだった。
80 二つであるが、同一の形であることを見出した。
王の一つのしるしが彼らの上に記されてあったから。
81 そこでわたしは財と富とを両手に取り、
わたしに栄誉を返した。
81 その王がわたしに、わが宝とわが富とを、
彼らの手を通して返した。
82 すなわちうるわしい衣服を
— それは色も輝くばかりに、
82 また、わが光輝く衣服とを。
それは、華やかな色と、
83 金や宝石や
真珠が
83 黄金と、緑柱石と、
玉髄石と瑪瑙と、
84 調和した地色に縫い取られていた。
これらの物は浮き上がるばかりに縫いつけられていたのである。
84 種々の色調に輝く赤縞瑪瑙とで飾られていた。
そして、それらは高く浮き上がるようにとりつけられていた。
85
(欠)
85 そしてダイヤモンドの留め金で、
すべての縫い目が編まれていた。
86 また諸王中の<王の似象も
残る隈無く高みに<置かれていたとせよ>。
86 そして、諸王の王の像が、
すべての上にあまねく描かれていた。
87 瑠璃の石が調和的に
高みに縫いつけられていた。
87 サファイアの石のように、
その色調が効果を及ぼしていた。

88 さらにわたしは至る所、
認識(gnwvsiV)の動きが派遣され、
113
88 さらにわたしは、その(衣服の)上に隈なく認識(グノーシス)の
運動が働いているのを見出した。
89 またそれ(衣服)が
ことば(ロゴス)を発しようとしているのを見た。
89 それがロゴスを発しようとしているのを眼にした。
90 わたしはそれ〔認識〕が語りかけるのを聞いた。 90 わたしはその歌の調べを聞いた。
それは降りつつ囁いたのである。
91 「わたしはあの、すべての人間の中でもっとも勇敢なかたの子、
このゆえに、わたしはその父のみもとで刻みこまれた。
91 「わたしは最も勇敢なおかたのもの、
この方のために彼らはわたしをわが父の前で養育した。;
92 そしてみずからも自分の稚さを知った」。 92 そしてわたしは、自らの中に確認した、
わたしのかたちがその業に応じて成長することを」。
93 そしてそれ〔衣服〕がその衝動へと成長すると、
王者の動きが悉くわたしに留まった。
93 そして、王者のごとくに動いて、
それはわたしの上に悉く注がれた。
94 〔衣服は〕<彼ら〔調度係官〕の>手から、
これを受け取る者〔わたし〕の方へと懸命に身を伸ばした。
94 そして、わたしの愛情がわたしをも駆りたてた。
95 すると憧れがわたしを覚醒させ、<彼ら〔調度係官たち〕を>迎え入れ、
それ〔衣服〕を受け取るよう、身を伸ばして駆りたてた。
95 それを迎え、それを受けいれるように。
96 そこでわたしは、色とりどりの花に<飾られ>、 96 そして、わたしは身を延ばし、それを受けいれた。
その色調の美しさで、わたしは自らを飾った。
97 わたしの抜きん出た上衣で
すっかり身を包んだ。
97 そして、わたしはわが輝く色の上衣を、
悉く着用した。
98 着終わると、わたしは拝すべきかたの平和の国へと出向いた。 98 わたしはそれを着て、
挨拶の門、礼拝の門に登った。
99 そして頭を垂れて、わたしにこれ〔衣服〕を遣わしてくださった
父の光輝を跪拝した。
99 わたしは頭を下げ、
わたしにそれ(衣服)を送った父の輝きを拝した。
100 わたしは命令を果たし、
あの方もやはり約束なさった事を果たしてくださいました。
100 わたしは、父の命令を果した。
父もまたみずからの約束を果したように。
101 また、わたしは王宮の門で、
あの方の古くからの<諸侯と>合体した。
101 父の太守たちの門で、
わたしは父の諸侯(に加わっ)た。
102 〔父は〕わたしをお喜びになり、
ご自分といっしょにわたしを宮殿に迎え入れてくださった。
102 父がわたしを喜んで受けいれたから。
そして、わたしは父と共に父の国にいた。
103 するとその家臣たちがこぞって、
祝福された声で讃美した。
103 父の従者たちは悉く、
オルガンの響きに合わせて、父をほめたたえた。
104 そして〔父は〕わたしに約束してくださった。あの方とともに、
王の門へも派遣されるであろう、と。
104 そして、父はわたしに約束した、わたしが父と共に、
ふたたび諸王の王の門に旅し、
105 それは、わたしの贈り物と真珠とを携えて、
王その人とともにわたしたちが〔人々の前に〕立ち現れるためなのだ。
105 わたしの贈り物とわたしの真珠を持って、
父と共に、われらの王の前に登場することを。

2018.05.03. 訳了


 ハンス・ヨナスの解説〔ヨナス164-76〕を参照しながら、この歌に表われたグノーシスの特徴を以下にあげてみよう。まずこの歌には、グノーシスの象徴的な表現、より正確に言えば寓意的な手法が用いられていることに気が付く。「蛇」は、大地を取り巻く原初の混沌で、この世の支配者であり悪の原理を意味する。これの原型はバビロニア神話に出てくるティアマトであろう。この原初の竜は、欲情によって天使をも堕落させた。「大海」あるいは「海」は、死すべき多様な種族の人間が沈み込んだ闇の世界である。「エジプト」は、死者崇拝の地として、魂が沈み込んだ無知と物質の「この世」を表わす。「エジプトの衣服」は、「王子」すなわち救済者キリストが、この世の支配者に気づかれぬようにまとう肉体の衣である。それは、救済者自身が犠牲になり世界の苦悩を着ることをも意味している。「手紙」は、ソロモンの頌歌23篇に出てくる「手紙」と同じで、この世界に送られた主の御心であり、下界に眠る魂に向かって呼びかける声である。ここでは、呼びかける者と呼ばれる魂とが一体となる。すなわち、ほかならぬキリスト自身が、これによって救済されるから、キリストは「救済される救済者」ということになる。「蛇」に対する勝利は、闇に勝つ光であり、救済者自らが、怪物に飲まれて内側から闇を滅ぼす。これは、太陽神話と英雄神話の結合した形であり、キリストが冥府に降ってこれを滅ぼしたというのも、この主題に属する。「天の衣服」とは、「認識(グノーシス)の衣服」であり、これによって、人間はその原型的なイディアを回復する。それは、人間が下界にいる間でも、天上には、これの原型である「原人」がいぜんとして存在していることを示している。最後に「真珠」は、超自然の「魂」それ自体を指す。それは、王子の派遣に先立って闇の中に落ちていたのであり、すべての人間に内在する魂、すなわち「真の自己」の表象なのである。

 ここに描かれている諸表象は、それらの意味を少しずらせば、そのままキリスト教的な表象として用いることができる。例えば、「蛇」はそのままでサタンを意味するし、「海」は、混沌の世界であり、同時にモーセが渡った紅海の「海」ともなる。王子のエジプト降りはキリストの「受難」を意味し、天の衣服は、キリスト教徒がまとうキリストのみ霊の働きとも解釈できる。しかしながら、読者は、人間の本質を成す「魂」が、天から降る知的な認識によって自己の救いを達成するという図式が、新約聖書の救済論とかなり違ったものであることに気がつくのであろう。

 荒井献氏と柴田有氏によるトマス行伝の概説によれば〔トマス行伝 218〕、グノーシス主義は、次のような特徴をそなえている。
1)究極的存在と人間の本来的自己は本質において一つであるという救済認識。
2)その前提としての反宇宙的二元論(すなわちこの宇宙は不完全であり、したがってこれを創造した神自体も、究極の存在としての知・グノーシスから見れば不完全な神、デミウールゴスである)。
3)その結果として、人間に「真の自己」を啓示し、そうすることで人間の魂を救済する者が、人間救済のためにに要請される。
 両氏は、この基準に照らして、トマス行伝に表われるグノーシス思想をユダヤ的キリスト教の系列に置いているが、「真珠の歌」は、このようなグノーシス性をみごとに表現していると言うべきであろう。
          (KOINONIA「真珠の歌」

forward.gifソロモーンの遺訓
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