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魔術書

ソロモーンの聖約(遺訓)


[解説]
 登場する悪魔の数の多さで群を抜いているのは、 「ソロモンの聖約(遺訓)」という書物である。
 偉大なる英知の持ち主ソロモン王が悪霊を支配し、思いのままに操ったという考えは、ヘレニズム期のユダヤ人たちの間にひろく言い伝えられていた。
 グノーシス文書「真理の証言」には、ソロモンが悪霊の力でエルサレムを建てたとあり、やはりグノーシス的な旧約偽典「アダムの黙示録」にも「ソロモンもまたこ女を求めるために彼の悪霊の軍勢を遣わした」云々の記述がある。「世界の起源について」という文書には、「ソロモンの書」という悪霊祓いの書物が存在したことが記されている。ソロモンが鉢の中に悪霊たちを閉じ込めたという話は有名だが、彼と悪霊たちにまつわる物語はほかにも無数にある。
 フラゥィウス・ヨセフスの『ユダヤ古代誌』(8の2の5)には、こんな逸話が載っている。
 エレアザヌという人がウェスパシアヌス皇帝の御前で、悪霊に憑かれた男を癒した。エレアザヌは印章の下にソロモンの処方による草の根を仕込んだ指輪を、男の鼻に押しつける。男が匂いをかぐと、悪霊は鼻の穴から逃げて行く。悪霊の去ったとたん、男は倒れ、エレアザヌは悪霊が二度と帰って来ないようにソロモンの呪文を唱える。
 エレアザヌは悪霊が本当に出て行ったことを証明するため、少し離れたところに水を満たした杯か水盤を置いて、出て行くとき、それをひつくりかえせと悪霊に命じた。果たしてそれはひっくりかえったので、人々は皆ソロモンの呪文の効き目あらたかなことを信じたという。
 かくしてソロモンは偉大なる賢者・大魔術師ということになり、中世、科学や魔術に関する諸々の書物の作者に仮託された。そうしたものの中で特に有名なのは『ソロモンの鍵』という書物で、ギリシア語、へブライ語、ラテン語で伝わっている。
 「ソロモンの遺訓」は、1世紀から3世紀くらいの間にギリシア語で書かれたといわれる偽典だが、こうした伝説の上に成り立つ魔術書というべき本だ。
 エルサレムの神殿を建てていたとき、大工の息子にオルニアスという悪魔がとりつく。ソロモンは神に祈り、悪魔を思いのままにする指輪を授けられ、オルニアスをはじめ魔界のさまざまな悪魔たちを支配して、神殿の建設を手伝わせる一方、色々な事柄を聞き出す。
 ……この本の眼目は物語そのものよりも、悪霊たちの名前や星座、そのはたらき、これに対抗する聖者や呪文といった魔術的知識だ。後世の悪魔学において問題とされる事柄が、すでにこの時代から重要視されていたことを物語っている。
          (南條竹則『悪魔学入門』p.59-60)



[底本]
TLG 2679
TESTAMENTUM SALOMONIS Hagiogr.
A.D. 3?
Hagiogr.

TLG 2679 001
Testamentum Salomonis (recensiones A et B) (mss. HILPQ) Hagiogr.
C.C. McCown, The testament of Solomon, Leipzig: Hinrichs, 1922: 8-75.

[参照]
The Testament of Solomon, translated by F. C. Conybeare




〔かつてソロモーン王がヒエルゥサレームの神殿を建てていたとき、オルニアースという名前の悪魔が夕暮れになるとやって来て、大工の棟梁の小さい息子の手間賃と食べ物を半分盗っていった。この精霊は毎日、子どもの右手の親指を吸ったので、ソロモーン王のお気に入りだった子どもは痩せ細っていった。〕

(8) HILPQ 3. そこで余ソロモーンは、或る日、幼児に問い質して、これに云った。「神の神殿で働くいずれの術知者たちにもまして、余はそなたを愛し、報酬と食べ物も、2倍をそなたに授けたのではないか。(9) いったいどうして、日々そなたは痩せてゆくのか?」。4. すると幼児が云った。「あなたにお願いいたします、王よ、ぼくに降りかかったことをぼくに聞いてください。ぼくたちが神の神殿の仕事を終え、日没後、ぼくが休もうとしていると、邪悪なダイモーンがやって来て、ぼくの報酬の半分と、ぼくの食べ物の半分とをぼくから奪い取り、さらにぼくの右手を取って、ぼくの親指をちゅうちゅう吸うのです。すると見よ、ぼくの魂は潰れて、ぼくの身体は日々痩せ細ってゆくのです」。

5. これを聞いて、余は王ソロモーンとして神の神殿に参詣し、(10) わが全霊をこめて、これを夜も昼も讃美しつつ、ダイモーンが余の手に引き渡され、これを意のままにできるよう要請した。6. かくて、天地の神に対する余の祈りによって、主なるサバオートから、大天使ミカエールを通して、宝石に彫刻された印章のついた指輪が授けられるということが起こった。7. その際、〔ミカエールが〕余に云った。「受け取るがよい、ダウエイドの子ソロモーンよ、主なる神である至高のサバオートがそなたに遣わしたもうた贈り物を、これによってそなたは、女のダイモーンどもも男のダイモーンどももみな召喚し、連中の助けでそなたは神のヒエルゥサレームを建設できるであろう、神のこの印章を携えていればな」。

 (11)8. そこで〔余は〕歓喜し、天地の神を栄化した。そして翌朝、余のもとに来るよう幼児に命じ、これに印章を渡し、9. これに云った。「ダイモーンがそなたのところに現れる刻に、この指輪をダイモーンの胸に投げつけよ、やつにこう言いながら、”さあ、ソロモーンがそなたを呼んでおられる”と、そうして余のもとに走って来るがよい、そなたにいかなる恐るべきことが起こるかは何も気にせずにな」。

 10.そして見よ、いつもの刻限に手に負えないダイモーン的な精霊オルニアースが (12) 火のように燃えながらやって来て、いつものように幼児の報酬を取ろうとした。11.そこで幼児は、ソロモーンから自分にいわれたとおり、指輪をダイモーンの胸に投げつけた、やつにこう言いながら、「さあ、ソロモーンがおまえを呼んでおられる」、そうしてソロモーンのところに駈け去った。12.するとダイモーンは悲鳴をあげた、幼児にこう言って、「何でこんなことをするのか? この指輪を受け取り、これをソロモーンに返せ、そうすればわしも全地の銀と金とをおまえに与えよう。ただ、おれをソロモーンのところに連行するのだけはやめてくれ」。13. そこで幼児がやつに云った。「イスラエールの主なる神は活きておられるから、おまえをソロモーンのもとに連行しないかぎりは、おまえをお許しにならないだろう」。14. かくて幼児は出かけて、ソロモーンに云った、「ソロモーン王よ、ぼくへのいいつけどおり、(13) ダイモーンを殿下のところに連れてきました、そして見よ、外の城門の前に立っております、縛られ、ぼくがやつを陛下のもとに連行しない代わりに、全地の銀と金とをぼくにやると、大声で泣きながら」。

 これを聞いて、余ソロモーンはわが王座より立ちあがり、おののき震えているダイモーンを見、これに云った。「そなたは何者か、そなたの用とはいったい何か」。ダイモーンが云った。「おれはオルニアースと呼ばれる」。2. そこで余は彼に云った。「いかなる宮がそなたの掌中にあるか余に言え」。するとダイモーンが答えて言う。「宝瓶宮が。[そして、(14) 宝瓶宮に属する連中を、その誕生宮が処女宮である女たちに対する欲望ゆえに]おれが窒息させてやるのだ。3. しかし眠る間もない場合には、おれは3つの形態へ変身し、ひとが〔女への〕欲望を持つ場合は、愛らしい女の像に変身し、おれが接すると、彼はひどく苦しむ。時には天界の場所へと飛翔する。時には獅子の背に現れる。4. おれこそは神の力なる大天使の裔、大天使ウゥリエールに滅ぼされたるもの」。5. 余ソロモーンは、大天使の名を聞くや、祈り、そして天と地の神 (15) を栄化し、彼に十字の印を切ったうえで、石の切り出しの仕事を命じた。おかげで、彼は神殿の石を切り出せたのである — この石は、アラビア海を通って海岸に揚陸されて置かれていたものだった。6. しかし、彼〔ダイモーン〕は鉄に触れることを恐れて、余に謂った。「お願いだ、王ソロモーンよ、おれを自由にしてくれ、そうすれば、おれがダイモーンたちをみんな連れて来よう」。7. 余に従うことを彼が拒んだので、大天使ウゥリエールに、余を助けに来たりたまえと祈った。するとすぐ、大天使ウゥリエールが天上より余のもとに降りたもうのを目にした。8. そして海獣[001]に、海から上がるよう命じ、(16) 彼らに役割を割り当て、地上のそこここにおのれの持ち分を課し、大いなるダイモーンであるオルニアースに従って、石を切り出し、余ソロモーンが建造する神殿の建造を完成するよう下命した。9. そこで再び、余は天地の神を栄化し、オルニアースに、自分の役割に従事するよう命じ、彼に印形を与えた、曰く。「行け、そしてダイモーン的なものらの支配者をここ、余のもとに連れて参れ」。

 そこで、オルニアースは指輪を取って、ベエルゼブゥルのところに行き、これに云った。「さあ、おまえをソロモーンが呼んでいる」。2. そこでベエルゼブゥルが彼に言う。「わしに言ってくれ、おまえさんの言うそのソロモーンとは何者や?」。3. そこでオルニアースは指輪をベエルゼブゥルの胸に投げつけた、曰く。「ソロモーン王がおまえを (17) 呼んでんだよ」。4. するとベエルゼブゥルは、烈々たる火焔に当たったかのように悲鳴をあげ、立ち上がって、しぶしぶ彼に付き従って、余のもとにやって来た。5. かくて、ダイモーン的なものらの頭がやって来るのを余は見たので、神を栄化して云った。「讃美さるべきかな、主よ、万能の神、御身の子ソロモーンに御身の玉座の知恵を伝え、ダイモーンたちのあらゆる力を余に服従させたもうたとは」。6. そこで余は彼に問うて云った。「余に言うがよい、そなたは何者か」。ダイモーンが云った。「わしはベエルゼブゥル、ダイモーン的なものらの長官だ」。7. そこで、〔ダイモーンたちを〕残らず余のもとに馳せ参じさせ、ダイモーンとは違った姿を余に見せるようこれに要望した。すると彼は余に、縛られた不浄の霊をことごとく (18) 余のもとに連れて来ようと余に申し出た。そこで余は天地の神を、何時もこれに感謝するのだが、またもや栄化した。

 さて、ダイモーンたちに女〔のダイモーン〕がいるのかどうか、余はそのダイモーンに尋ねてみた。相手が、いると謂ったので、余は見ることを望んだ。2. するとベエルゼブゥルは退出して、オノスケリス〔「驢馬の膝」〕— 絶世の美形を有し、色美しい女の肌をしていたが、脚は半驢馬のそれであった — を余に示した。3. で、それが余のもとにやって来たので、これに云った。「云ってくれ、そなたは何者か」。4. すると彼女が謂った。「わたしはオノスケリスと呼ばれます、身体化された霊で、地上の巣穴に〔……〕。洞穴に住み処を持ってはおりますが、(19) 多彩な場所を持っています。5. ある時は人間を窒息させ、ある時は彼らを歪めます。しかしたいていわたしの住処は崖、洞穴、渓谷です。6. 時々は、人間どもと、わたしが女だと、何よりも黒い肌のせいで、連中はわたしの同じ星のもとに生まれたものと思い込むものですから、交合します。

 (20)8. そこで、彼女がどこで生まれたか余は尋ねた。すると相手は云った。「時ならぬ音声 — いわゆる黒鉛の天の響きの音声 — から物質の中に生まれました[002]」。9. そこで彼女に云った。「いかなる星を通過してきたのか?」。すると彼女が云った。「満月を、というのは、満月こそわたしが大部分旅するところだからです」。10. そこで余が云った。「そなたを挫くのはいかなる天使か?」。すると彼女が云った。「御身の内にもあるものがです、王よ」。そこで余はこれを巫山戯ていると推測して、彼女をぶつよう将兵に命じた。すると彼女は悲鳴をあげて云った。「御身に申します、わたしは、神から御身に授けられた知恵にかけて」。12. そこで余は聖イスラエールの名を云い、神の神殿の仕事に使われる綱を (21) 綯うよう彼女に命じた。かく封印され緊縛されたため、夜も昼も麻〔縄〕を綯いつづけたのである。

 さらに余は、別のダイモーンが余のもとに連れ来られるべしと命じた。すると、邪悪なダイモーン、縛られたアスモダイオス[003]を余のもとに連れて来た。2. そこでこれに問い質した。「そなたは何者か?」。しかし相手は威嚇的な視線を投げかけながら言う。「おまえこそ何者だ?」。3. そこで余は彼に云った。「ひどく罰せられたら答えるのか?」。すると相手は同じ視線を注ぎながら余に云った。「どうしておまえに答えられよう。おまえは人の子、おれは天使の子にして、人の娘によって生まれた、だから天の種族の地上の〔種族〕に対してはいかなる言葉も傲慢ではないのだ。4. おれの星は (22) 天に照り、人間どもはおれを荷車〔北斗七星〕と呼び、或る者らはドラコーンの足と〔呼ぶ〕。それゆえ、より小さい星々をもおれの星に付け加える、というのも、おれの父の名誉と玉座は今日まで天にあるからだ。5. だが、多くをおれに尋ねるな、というのも、おまえの王国はそのうち倒壊し、おまえのこの栄光もかりそめ、おまえがわれわれを吟味できるのも暫時、われわれが再び人類に対する 神々のごとくわれわれを崇拝するまでに、われわれに配置された天使たちの名前を人間どもが知らないかぎりな」。

 6. しかし、余ソロモーンはこれを聞いて、もっと注意深く彼を緊縛したうえで、杖で撃つよう、何と呼ばれ、彼の働きが何か白状するよう命じた。7. ダイモーンが云った。「おれは周知の(23) アスモダイオスと呼ばれる。全宇宙に人間どもへの悪行を振りまく。おれは新婚者を謀るもの。処女たちの美しさを消し去り、心変わりさせる」。8. そこで彼に謂った。「そなたの仕事はそれだけか」。すると相手が再び言う。「星々を介して女狂いを第3波まで広げ、第7波で殺人を犯すまで」。9. まさにそういう次第で、主サバオートの名にかけて彼に厳命した。「神を畏れよ、アスモダイオス、そうしていかなる天使によって挫かれるか余に云え」。ダイモーンが言う。「神の御前に立つラパエールが。しかし魚の肝臓も、胆汁とともにクロコスでつくった〔?〕炭火の上で燻されたやつは、おれを追い払う」。10. 再び彼に問い質した、曰く。「余に包み隠さずいえ、余はダウエイドの子ソロモーンである、(24) さあ、そなたが拝むその魚の名を余に云うがよい」。すると相手が言う。「その名はグラニス[004]と呼ばれている。アッシュリアの河川に見出される。そこでだけ産するからで、そういうわけで、わしもその地方で見出されるのだ」。11. そこで彼に言う。「そなたについてほかには何もないのか、アスモダイオスよ」。すると余に云った。「ご自身の封印により、解き得ぬ縛めでおれを緊縛なさった神の力が、おれがおまえに云ったことはみな真実だということを知っておられる。そこでおまえにお願いだ、王ソロモーンよ、おれを水責めの有罪判決にしてくれるな」。12. しかし余は微笑しながら云った。「余の父たちの主たる神は活きておられる、鉄を身にまとうがよい、そして神殿のすべての設備用に、泥をつくれ、〔そなたの脚で踏みしだいて(意味不明なので、Conybeareの訳にしたがった)〕」。そうして水瓶10個が与えられ、彼のまわりに土が積みあげられるよう命じた。(25) すると恐ろしいほど嘆息して、ダイモーンは自分に命じられたことを遂行した。しかしこれをさせた所以は、アスモダイオスが予知能力さえもっていたからである。13. そうして余ソロモーンは、この権力を余に与えてくださった神を栄化した。魚の肝臓と胆汁の方は、彼が強力であったので、白い蘇合香の欠片でアスモダイオスの下から焚いた[005]、彼の声は挫かれ、歯が苦さに満たされたのである。

 そして再び、余の前に出仕するようベエルゼブゥルに命じ、傍に座らせて彼に問い質すのがよいと余に思われた。「何ゆえそなたひとりがダイモーンらの支配者なのか?」。2. すると相手が余に言う。「天から〔降りてきた〕天使たちのうち、残っているのはわし独りだからだ。というのは、わしは第一天においてベエルゼブゥルと称される天界の天使だった。3. そしておれの後に、神ならぬ第二位の〔種族〕を神は飛翔させておられた、今も、こういうふうにタルタロスに縛めで監禁されながら、おれの種族を (26) 支配しているのだ。そして〔神は〕紅海に現れたまう。ご自身の好機に凱歌をあげられるのだ」。4. そこで彼に云った。「そなたの所行とは何なのか?」。すると余に云った。「おれも僭主たちによって引きずり下ろし、人間どもの間でダイモーン的な事が拝まれるようにさせ、聖者たちも選ばれた神官たちをも欲望に駆りたてる。また諸都市に破滅と殺人を実現させ、戦争をそそのかすのだ」。5. そこで彼に云った。「紅海で育つとそなたが云うものを余のところに連れて来よ」。すると相手が言う。「おまえのところに誰も連れては来ない。だが、名をエピッパースというやつ〔(68)を見よ〕が来るだろう、やつを縛り、深淵から引き上げるなら」。6. そこで彼に云った。「余に言ってくれ、そやつは紅海の深淵でどうしているのか、そやつの名はいかなる意味か?」。すると相手が謂った。「おれに訊くな。おれから学ぶことはできない、というのは、おまえのところに自分で来るだろうよ、おれでさえおまえのところにいるのだから」。

(27) 7. そこで彼に云った。「余に言ってくれ、そなたはいかなる星に定住しているのか?」。すると相手が言う。「人間界でいわゆるヘスペリアだ」。8. そこで余が言う。「余に告げよ、いかなる天使によって挫かれるのか?」。すると相手が謂った。「万能の神によって。ヘブライオイ人たちのもとではパティケーと呼ばれ、高みから降りてくる方だ。ヘッラス人たちのもとでは、身震いするほどに恐ろしいエムマヌゥエール[032]。ひとあってその力の大いなる名エローイ[033]にかけておれに厳命するなら、おれは消え失せるだろう」。9. さて、余ソロモーンはこれを聞いて、〔エジプトの〕テーバイ産大理石を切り出すよう彼に命じた。そこで彼が切り出し始めると、ダイモーンたちがこぞって大声で悲鳴をあげた、ベエルゼブゥルが王だからである。10. そこで余ソロモーンは彼に訊いた、曰く。「赦しを得たければ、天に在るものらについて余に説明するがよい」。するとベエルゼブゥルが謂った。「聞け、王よ。もし没薬や乳香や「海の球根」[006]を、(28) ナルドスやクロコス〔とともに〕燻し、7つの灯火を次々と点けるなら、家系を支えるだろう。しかし、清浄にして、昼の太陽の早朝に点けるなら、天上のドラコーンたちがどのように身をくねらせ、太陽の戦車を牽くかを目撃するだろう」。11. そこで余ソロモーンはこれを聞いて、彼を叱りつけて云った。「口を慎め、そしてそなたにいいつけたとおり、大理石を切り出せ」。

 そうして神を祝福したうえで余ソロモーンは、別のダイモーンが余のもとに出頭するよう命じた。すると余の面前にやって来た。それも、顔は上空高くついているが、身体の残りは蝸牛のように巻いたやつが。2. そうして少なからぬ将兵たちを粉砕し、猛烈な塵埃まで地上に立て、巻き上げ、余を驚かせるため多くを投げつけ、そして云った。「どいつが質問できるというのか?」。3. そこで余は (29) 立ち上がって、その場の地面に唾を吐いて、神の指輪で封印すると、たちまち微風となった。すかさず相手に質問した、曰く。「そなたは何者か?」。するともう一度塵埃を震わせてから余に答えた。「どういうつもりだ、ソロモーン王よ」。4. そこで相手に答えた。「何を言っているのか云ってくれ、さすれば余もそなたに質問しよう」。だが、やつらの謀に対してこう答えるよう、余を賢明にしてくださった神にどれほど感謝していることか。すると余にそのダイモーンが謂った。「おれはアイクス・テトラクスと呼ばれる」。5. そこで相手に云った。「そなたの所行は何か?」。すると謂った。「人間どもを散らし、つむじ風を起こし、火を点け、畑を燃やし、家々を滅ぼす。しかしたいていの所行は夏にもつ。しかし好機を見つければ、昼夜を問わず市壁の隅にもぐりこむ。大いなるものの子孫だからだ」。6. そこで相手に云った。(30)「いかなる星にいるのか?」。すると相手が云った。「月の角の先端そのものが南に見出されるが、そこにおれの星がある。その所以は、三日半熱の発作を引かすよう下命されているからだ。それゆえ、人間どもの多くは見て、次の名号において三日熱に祈る。”boultalav' qallavl' melxavl'”そこでやつらを治癒させるのだ」。7. そこで相手に余ソロモーンが云った。「されば、悪行せんとするとき、何において挫かれるのか?」。すると相手が云った。「三日半熱さえ終熄させられる天使の名号においてだ」。そこで相手に問い質した。「いかなる名号において挫かれるのか?」。すると相手が云った。「大天使アザエールの名号において[007]だ」。8. そこで (31) このダイモーンを封印して、これに命じた、石を引っつかんで、神殿の高みにいる術知者たち命中させるよう。そうして、強制されて、このダイモーン的なものは自分に下命されたことを実行したのである。

 そこで余は再び、この権力を余に授けたもうた神を栄化したうえで、他のダイモーンが余のもとに出頭するよう命じた。すると7柱の精霊 — 器量よく格好の良いの — [008]が、繋ぎ合わされ縺れ合いながらやって来た。2. そこで余ソロモーンは彼女らを見て怪しみ、彼女らに問い質した。「そなたたちは何者か?」。相手が云った。「われらは影の世界の主権者[009]たる元素なり」。3. そうして先頭のものが謂う。「われはアパテー〔「欺瞞」〕なり」。2番目のものが。「われはエリス〔「争い」〕なり」。(32) 三番目のものが。「われはクロートー〔「紡ぎ手〕[010]なり」。四番目のものが。「われはザレー〔「豪雨」〕なり」。五番目のものが。「われはプラネー〔「彷徨う女」〕なり」。六番目のものが。「われはデュナミス〔「力」〕なり」。七番目のものが。「われはカキステー〔「最悪の女」〕なり。4. そしてわれらの星々は天界に小さく見えるが、神々のごとくに呼ばれる。われらはいっしょに移動し、いっしょに住む、時にはリュディアに、時にはオリュムポスに、時には大山に」。5. そこで彼女らに余ソロモーンは問い質した、一人目から始めて〔一人ずつ〕。「余に言え、そなたの仕事は何かを」。すると言う。「われはアパテー。欺瞞を織りこみ、最悪の異端邪説を思いつかせる。されど、われを挫く天使ラメキエールを有す」。6. 二番目のものが言う。「われはエリス。わが武器としてその場の樹木、石、剣を携えて争う。されど、われを挫く天使として (33) バルゥキエールを有す」。7. 同様に三番目のものも謂った。「われはクロートー。丸くなって〔?〕万物を争わせ、格好良く平和にならないよう取り囲む。されど、われを挫く天使として大バルティウゥルを有す」。8. 四番目のものも謂った。「われは人間どもが慎み深くすることをさせない。分裂させる。離れ離れにさせる。エリスもわれに付き添うので、兄弟たちを仲違いさせ、他の多くの事柄も彼らと等しくさせる。いったい多くを言うことがあろうか。されど、われを挫く天使として大バルティウゥルを有す」。9. 五番目のものが謂った。「おれはプラネー。ソロモーン王よ、おまえをも惑わせてやろう、実際おまえを惑わせ、兄弟たちを殺させたことがある[034]。われはおまえたちを惑わせて墓を探し求めさせ、(34) 掘ることを教え、魂たちを全き敬神から逸脱させ、別の数多くの劣悪事を行う。しかし、われを挫く天使としてウゥリエールを有す」。10. 同様に六番目のものが謂った。「われはデュナミス。僭主たちを興し、王たちを打倒し、あらゆる反逆者たちに力を提供する。われを挫く天使としてアステラオート>[011]を有す」。11. 同様に七番目のものも謂った。「われはカキステー[012]、おまえにも、王よ、われは悪行せん、アルテミスの縛めに命ぜられるときには。なぜなら、そなたが知恵の最高に愛する者として、その欲望を達成できるのは、わがためにわが欲望に従うことによってこそなのだから。なぜなら、ひとあって知者なら、われへの歩みを方向転換することはないのだから」。12. そこで余ソロモーンはこれを聞いて、神の指輪で彼らを封印し、神殿の基礎を掘るよう彼らに命じた。そうして250ペーキュスの長さになるよう(35) 定めた。かくて命じられたことがすべて彼らによって仕上げられた。

 さらにまた、別のダイモーンが現れるよう要請し、ダイモーン的なものが余にもたらされた、〔それは〕その四肢はすべて人間であったが、無頭であった。2. そこで相手に謂った。「余に言ってくれ、そなたは何者か、またどう呼ばれるのか?」。するとそのダイモーンが云った。「ポノス〔「人殺し」〕と呼ばれる。というのは、おれが頭を貪り喰らうのは、自分に頭ができてほしいからだが、飽食するということがない。王よ、おまえと同じような頭が出来てほしい」。3. これを聞いて余は、余の手を相手の胸に延ばして、相手に封印してやった。するとダイモーンは跳びあがって、身を投げだし、ぶつぶついった、曰く。「やれやれ。嘘つきのオルニアースにどこで会えるのか。見当たらぬが」。4. そこで余は相手に云った。「いったいどこで見ているのか?」。(36) すると相手が謂った。「おれの胸でだ」。5. 余ソロモーンは相手の声の甘美さを耳にして、知りたくて相手に問い質した。「どこでしゃべっているのか?」。すると相手が謂った。「おれの声は、多くの人間どもの声を受け継いだものだ。なぜなら、人間どものうち唖と呼ばれるかぎりの者は、おれがその頭を封鎖してやった連中だ。嬰児が10日になったとき、夜間にその嬰児が泣いたら、おれは霊となってその声を通してもぐりこむ。6. 真夜中では、おれとの遭遇の弊害はもっと多い。だが、おれの力はおれの両手にそなわっており、おれの両手を剣のようにして、頭を切り離して、おれ自身にひっつけ、じつにそういうふうに首を通して、おれの内なる火によって消化するのだ。肢体に火を点け、脚に送り?、潰瘍を植えつけるのがおれだ。(37)7. そうして、燃える稲妻によって挫かれるのである」。8. そこで余は、この者の友も現れるまで、ベエルゼブゥルといっしょにいるようこれに命じたのである。

 そうして、別のダイモーン的なものが余のもとに出頭するよう命じた。すると大きな犬のような恰好をしたものが余の面前にやって来て、大きな声で余に話しかけた。「ご機嫌よう、おお、ソロモーン王よ」。2. そこで驚倒して、相手に云った。「そなたは何者か、犬よ」。すると相手が言う。「おれが犬に思われるらしい。というのは、おまえの前にいるおれは、王よ、人間なのだ。ただし、この宇宙に数多くの神法に悖る仕事を成し遂げ、諸天の星々をも掴むぐらいに卓越して強力で、(38) 悪しき所行を数々用意している。3. されば、おれはおれの星に追随する人間どもを傷つけ、谺へと向かわせ、人間どもの心を喉を通して捕まえて、かくして亡き者にするのだ」。4. そこで相手に云った。「そなたの名号は何か?」。すると相手が謂った。「ラブドス〔「笏杖」の意〕」。

 5. そこで余は相手に云った。「そなたの働きは何か、また、そなたが建てるのは、どうやら、何がよさそうなのか?」。そのダイモーンが謂った。「おれにおまえのひと〔従者〕をくれ、そうすればそいつを山の場に連れて行き、転がっている緑の石をそいつに示そう、これで神の神殿を飾るがよい」。6. そこで余はこれを聞いて、余の家僕に、神の印章の指輪を携え持って、やつといっしょに行くよういいつけ、これに云った。「奴といっしょに出かけよ、そうして、緑の石をそなたに示したら、その場所をはっきり観察し、指輪を奴に封印せよ、そうしてこの指輪を余に持って帰れ」。7. やつは出かけ、緑の石をこれに示し、〔家僕は〕神の指輪をやつに封印し、そうして緑の石を余のもとに持ち帰ってきた。8. そこで決定したのは、(39) 無頭のものと犬との2柱のダイモーン的なものが縛られ、従事する術知者たちによって件の石は灯火のように昼夜回転するようにすることであった。9. また余は、その移転した石から祭壇の支え台用に200シケルスを採った。この石は玉葱の形に似ていた。10. そうして余ソロモーンは主なる神を栄化したうえで、宝庫を石で封鎖し、神殿の建設用に大理石を切り出すようダイモーンたちに命じた。 11. そうして当の犬に問い質した。「いかなる天使によって挫かれるのか?」。すると相手が謂った。「大いなるブリアトスによって」。

 さらにまた、別のダイモーンが余に現れるよう命じた。すると正真正銘のライオンのように歯がみしながらやって来て、立ち上がって人語で余に答えた。「ソロモーン王よ、おれはこんなものの恰好をしているが、断じて捕縛されることのできない精霊だ。2. おれは、病に伏しているあらゆる (40) 人間どもに入りこんで襲いかかり、そいつの病因が癒やしようがないくらいに人間を処置なしにさせる。3. 別の行いももっている。おれの配下のダイモーンどもを軍団として — なぜなら、日没時に諸々の場所におれはいるからだ、おれの配下なる全ダイモーンたちの名前こそ軍団である — 送りこむのだ」。4. そこで相手に問い質した。「そなたの名号は何か?」。すると相手が謂った。「レオントポロス〔「獅子をもたらすもの」〕、生まれはアラビア人」。5. そこで相手に云った。「いかにすれば、そなたの軍団ともども挫かれるのか、あるいは、いかなる天使をもっているのか?」。そのダイモーンが云った。「もしその名号をおまえに云ったら、おればかりか、おれの配下のダイモーンたちの軍団も捕縛されるだろうよ」。6. そこで余は相手に云った。「余は至高の偉大な神の名号においてそなたに厳命する。いかなる名号によって、そなたの軍団もろともに挫かれるのか?」。ダイモーンが云った。「人間どものもとで、数々の受難を (41) 耐え忍んだ方の名号によって、その名号はエムマヌゥエール、今もわれわれを緊縛し、われわれを崖下で水責めの拷問にかけるべく来臨されるであろう[013]。3文字においてこそ周知の方が挫くのだ」。7. そこで余は、彼の軍団に、森から材木を運ぶよう、レオントポロスには、これを爪で細く挽き、アスベストスの炉の下にくべるよう判決をくだしたのである。

 さらに余は、イスラエールの神に跪拝したうえで、別のダイモーンが来訪するよう命じた。すると余の前にやって来たのは、恐ろしい色をした3つ頭のドラコーンであった。2. そこでそやつに問い質した。「そなたは何者か?」。相手が謂った。「3つの棘に仕上げられた撒き菱[014]の精霊とはおれのことだ。女どもの胎の嬰児を盲目にし、耳をぐらぐらさせ、唖の聾にさせ、人間どもの身体を打ちのめし、転倒させて泡をふかせ、(42) その歯をぎしぎしいわせる。3. だが、髑髏と徴づけられた場所[015]によって挫かれるという性格を持っている、というのは、そこには大いなるはかりごとという天使がおれを苦しめるためにあらかじめ定められていて、今もはっきり〔十字架の〕木の上に住んでいるからだ。やつはおれを挫き、おれはやつに服従するのだ。4. ところで、占領されたその場所には、ソロモーン王よ、内アラビアの紅海から、エピッパースが引っ張ってきて、贈り物として形づくられる紫の円柱を空中に立てることであろう。しかしそなたが建造を始めた神殿の基礎には、ソロモーン王よ、おびただしい黄金が保管されている。これを掘り出して我がものとするがいい」。5. そこで余ソロモーンは、余の幼児を遣わして、そのダイモーン的なものが余に云ったとおり見出して、指輪で封印して、神を讃美した。6. そこで相手に云った。「余に言ってくれ、いかように呼ばれているのか」。するとそのダイモーンが謂った。「ドラコーンたちの頭領と」。そこで、神の神殿のために焼成煉瓦を焼くようそれに命じたのである。

ⅩⅢ

 (43) また、余のところに出頭するよう別のダイモーンに命じた。すると余の前にやって来たのは、形は女ながら、肢体もろとももじゃもじゃの髪をの恰好をしたものだった〔メドゥーサの表象か?〕。2. そこでこれに向かって云った。「そなたは何者か?」。すると相手が謂った。「あんたこそ何者か、いったい、わたしの事をどうであるか知るどんな必要があっていうの? いや、知りたければ、王室の倉庫へ行って、おまえの両手を洗い、もう一度おまえの玉座に坐って、わたしに尋ねるがいい、そうすればその時、王よ、わたしが何者か知るだろう」。3. そこで、余ソロモーンはそうしたうえで、余の玉座に坐して彼女に問うて云った。「そなたは何者か?」。すると相手が謂った。「オビュズゥト、夜間眠ることなく、全宇宙の〔産褥にある〕女たちのもとを巡り、刻限を狙って探し求めて、(44) 嬰児を絞め殺し、夜毎に無為に終わるということがない。ところがおまえはわたしに命令することはできない。癒やしがたい部分こそわたしが巡るところ。4. 嬰児殺し、眼球への不正、口への有罪判決、心に対する破壊、身体に対する苦痛にあらざれば、わたしの仕業ではないのだ」。5. そこで、これを聞いて、余ソロモーンは驚いた、実際彼女の姿は見えず、彼女の身体は闇であり、彼女の髪はおどろに乱れきっていた。6. しかし余ソロモーンは相手に言う。「余に言ってくれ、邪悪な霊よ、いかなる天使によって挫かれるのか?」。すると相手が余に云った。「天使ラパエールによって。そうして、女たちが〔この天使の名号を〕知り、わたしの名前を紙に書く時こそ、わたしもその場から逃げ出すことだろう」。7. そこで余はこれを聞いて下命し、彼女がその髪の毛で緊縛され、神殿の前に吊され、(45) かくしてイスラエールの息子たちが通り過ぎる時に目にして、この権力を余に授けられた神を栄化するようにさせたのである。

ⅩⅣ

 さらにまた、別のダイモーンが余のところに出頭するよう命じた。すると余のもとにやって来たのは、姿はどぐろを巻くドラコーンだが、人間の顔と足をもち、その諸部分はドラコーンで、背に翼をもったものだった。2. そしてこれを見るや吃驚して、これに云った。「そなたは何者か、どこからやって来たのか?」。するとその霊が余に云った。「初めはおまえの、ソロモーン王よ、人間界の神として作られて援助していたが、今はおまえに授けられた神の封印によって挫かれた精霊だ。3. 今もおれはプテロドラコーン〔「有翼のドラコーン」の意〕と言われ、多くの女たちと交わることはないが、わずかな、それも器量よしと交わるが、この女たちはクシュロンというこの星の名を保持している。4. そうして有翼の精霊として彼女らのもとに出かけて行き、尻を通して交わり、おれが盛った女は身重となって、彼女から生まれるものとして、エロースが産まれる。しかし人間どもによって堪えられることではないので、当の女は屁をこく。これが (46) おれの所行だ。5. されば、おれにとって満足なだけだと想定せよ、だがダイモーン的なものらの自余の所業 — おまえに邪魔されて粉砕された事柄は、すべて真理を云っているのだが、火によるそれらは、神殿建設のためにおまえによって集められるはずの材木の質料を破滅させるだろうよ」。6. そうしてダイモーンがこう告げるや、見よ、精霊はその口から気息が出て行き、乳香木を焼却し、神の神殿に置かれた材木をことごとく燃えあがらせた。7. そこで余ソロモーンは、精霊がしでかしたことを見て驚嘆し、神を栄化したうえで、ドラコーンの姿をしたダイモーンに尋ねた、曰く。「余に云ってくれ、いかなる天使に挫かれるのがそなたなのか?」。すると相手が余に謂った。「第二天に坐する大いなる天使、ヘブライ語でバザザトと言われるものにだ」。8. そこで余ソロモーンはこれを聞いて、その天使を勧請したうえで、神の神殿の建造用に大理石を切り出すよう判決をくだしたのである。

ⅩⅤ

 そうして、神を祝福したうえで、別のダイモーンが余のところに出頭するよう命じた。すると余の前にやって来た別の精霊は、姿は女のようだが、両肩に2つの頭と両手とをもっていた。2. そこで彼女に尋ねた。「余に言え、そなたは何者か?」。すると余に謂った。「わたしはエネープシゴス、また無量の名号でも呼ばれるもの」。3. そこで相手に云った。「いかなる天使に挫かれるのが汝か?」。すると相手が余に謂った。「何を求めているのか? 何を必要とするのか? わたしは、いわゆる女神のように変身し、再び変身して、別の姿を持った者にもなる。4. だから、わたしに関する事すべてを知ろうとするのはやめにして、むしろ、わたしの傍にいるのだから、これに聞くがいい。わたしは月に住んでいて、それゆえ3つの形を保有している。5. 知者たちに魔法をかけられると、木星のようになる。しかし今度は、わたしを引き下ろそうとする者たちにかかわるときには、下向して、他の形に見える。〔天体の位置と大きさという〕要素の尺度は言表され得ず、窮まりなく、挫かれない。とにかく、わたしは3つの形に変身して引き下ろされ、おまえが目にしているとおりの者になる。6. だが、(47) 第三天に坐する天使ラタナエールには挫かれる。そこで、そういうわけで、おまえに言おう。この神殿がわたしを受け容れることはできないのだ」。

 7. そういうわけで余ソロモーンは余の神に祈り、そうしてやつが余に云った天使ラタナエールを勧請し、印象をつくり、三重の枷をこれで封印し、枷の鎖の下にも神の印章をつくった。8. するとこの精霊が余に〔次の〕神託を予言した。「汝が、ソロモーン王よ、われらに為すは、以上のことである。しかし暫時の後、汝の王国は汝によって砕かれ、好機に再び、この神殿は引き裂かれ、全ヒエルゥサレームはペルサイ人たち、メーデイア人たち、カルダイオイ人たちの王から共働で掠奪されるだろう。そうして、汝が作ったこの神殿の備品は〔偶像神という〕神々に奴隷奉公するであろう。9. それとととに、われわれを監禁された容器すべても、人間どもの手によって打ち砕かれ、その時こそ、われらはわれらは数多の力を持って、そこかしこに跳梁し、宇宙に飛び散らおう。10. そうして、ひとの住まいする全〔世界〕を彷徨うだろう、多くの時間の後、神の子が〔十字架の〕木の上で磔になるまで。というのも、われわれをみな挫くがごときこのかたに等しい王が生まれることはもはやなく、その母が男と交わることはないだろうからだ。11. いったい誰が、諸々の精霊に対するこのような権力を手にされようか、あの方以外に? 最初の悪魔が試みようとしたが、あの方 — その名号の数価は644の方[016] — に比するほどには強くなかった。それはエムマヌゥエールである。12. それゆえ、ソロモーン王よ、汝の好機は邪悪であり、汝の歳は小さく邪悪で、汝の王国は奴隷に与えられるであろう」。

 13. さて、余ソロモーンはこれを聞いて神を栄化し、ダイモーンたちの申し開きに驚いたが、結末に至るまで連中を信じず、連中によって言われている事柄に信を置かなかったのである。14. しかし、〔事実が〕出来したとき、はじめて成約し、余の死に際し、イスラエールの息子たちにこの成約を書き、これに与え、ダイモーンたちの力とその姿を知り、(48) ダイモーンたちが挫かれる当の天使たちの名号をも書いたのである。15. そうして、イスラエールの主なる神を栄化したうえで、精霊が鎖の枷で緊縛されるよう命じたのである。

ⅩⅥ

 そうして、神を栄化したうえで、別の精霊が出頭するよう命じた。すると、余の前にやって来た別のダイモーン的なものは、前半は馬の、後半は魚の形をしたものだった。そうして大きな声で言う。「ソロモーン王よ、おれは手に負えない海の精霊だ。だから、目覚めると、海の大海へと赴き、そこを航行する人間どもを邪魔する。15. で、自分自身をも大浪のように盛りあがらせて船たちに襲いかかる[017]。これこそが、財宝と人間ども歓待するというおれの働きだ。つまり、獲得し、目覚め、人間どもを海にぶちまける、それほどまでに身体の欲求者なのだ、いや、これほどまでにそれを海の外へ放り出す。3. だがベエルゼブゥル — 空中・地上・地下界の精霊たちの主人 — は、われわれ各1柱ずつの行為に忠告するので、それ故おれも、やつのもとで何らかの考察を得るべく、海から上がってきたのだ。(49)4. だが〔おれは〕、別の想いと行いをも持っている。大浪に変身して海から上がって来、人間どもに己を示すと、〔人間どもは〕おれをキュノペーゴス[018]と呼ぶ、人間に変身したからだ。〔それは〕おれの真実の名だ。が、人間界へのおれの上昇の際に派遣するのは、一種の船酔いだ。4. そこで、支配者ベエルゼブゥルと相談し、〔ベエルゼブゥルは〕おれを縛っておまえの手に〔引き渡した〕。そこで今はおまえを援助しているが、2つの水を持たないゆえか、3日を残して、おまえに話しかけているおれの霊はいなくなる」。6. そこで余は相手に云った。「余に言ってくれ、いかなる天使に挫かれるのか?」。すると相手が言う。「それはイアメトによってだ」。7. そこで余は、それが酒盃に投げこまれるよう、そして10ドカスの海水が注入さるべしと命じ、その上を大理石で塞ぎ、容器の口をアスファルトと瀝青と漆喰で均し、指輪で封印したうえで、神の神殿に安置さるべしと命じた。

ⅩⅦ

 さらに、別の精霊が余のもとに出頭するよう命じた。するとやって来たのは、影のような人間の姿をし、ぎらぎらした (50) 眼をした精霊だった。そこで相手に問い質した、曰く。「そなたは何者か?」。すると相手が謂った。「おれは、ギガンテースたちの御代に大虐殺で果てた巨人の霊だ」。2 そこで相手に云った。「余に言ってくれ、地上で何をして暮らしているのか、住処はどこにあるのか?」。すると相手が余に謂った。「わが住処は人跡未踏の場。わが仕事はこうだ。墓場に安置された人間どもの傍に坐し、真夜中に死人たちのふりをして、もし誰かを得たら、これを剣ですぐに亡き者にする。3. だが、亡き者にすることがもしできなければ、それがダイモーンに憑かれるようにさせ、そいつの肉を貪り喰らい、そいつの顎から脂身が削げ落ちるようにさせるのだ」。4. そこで相手に謂った。「天地の神を畏れるがよい、ところで余に云ってくれ、いかなる天使に挫かれるのか?」、すると相手が余に謂った。「おれを挫くのは救い主として降りてくるやつ、そいつの字母を、もしひとあって額に書くやつ[019]がいたら、〔そいつは〕おれを挫き、〔おれは〕罰せられて、やつからすぐに退散するだろうよ。してその徴とは十字架なのだが」。5. そこで、これを聞いて余ソロモーンは、自余のダイモーンたち同様、このダイモーンを監禁したのである。

ⅩⅧ

 (51) さらに、別のダイモーンが余のもとに出頭するよう命じた。すると36柱の精霊が余のところにやって来たが、その頭は犬のように不恰好であった。その中には、人頭、牡牛の頭、獣の顔、ドラコーンの恰好のもの、スフィンクスの顔をしたもの、鳥の顔をしたものらがいた。3. そしてこれらを見て余ソロモーンは連中に問い質した、曰く。「いったいそなたらは何者か?」。すると相手はいっせいに1つの声で云った>[020]。「われらは36柱の精霊、この世の闇の宇宙支配者[021]3. しかしながら、王よ、われらに不正することはもとより、監禁することもできぬ。が、空のも地上のも地下のも、あらゆる精霊に対する主権を神が御身に与えたもうたので、見よ、われらは自余の精霊同様、御身の前に伺候したのである」。

 4. そこで余ソロモーンはひとりの精を指名して、(52) これに云った。「そなたは何者か?」。相手が余に謂った。「おれは獣帯軌道の第1デカン、リュアクスと呼ばれる。5. 人間どもの頭に苦痛を植えこみ、こめかみを揺すぶる。ただ、”ミカエールよ、リュアクスを封じこめよ”を耳にするや、すぐさま退散するのだが」。6. 二番目のものが謂った。「おれは獣帯軌道の第1デカン、リュアクスと呼ばれる。5. 人間どもの頭に苦痛を植えこみ、こめかみを揺すぶる。ただ、”ミカエールよ、リュアクスを封じこめよ”を耳にするや、すぐさま退散するのだが」。 6. 二番目のものが謂った。「おれはバルサパエールと呼ばれる。おれの刻限の支配下にある人間どもに、偏頭痛をもたらす。ただし、”ガブリエールよ、バルサパエールを封じこめよ”を耳にするや、すぐさま退散するのだが」。7. 三番目のものが謂った。「おれはアルトサエールと呼ばれる。眼球にひどく不正する。だが、”ウゥリエールよ、アルトサエールを封じこめよ”を耳にするや、すぐさま退散するのだが」。

 8. 四番目のものが謂った。「おれはホロペルと呼ばれる。貪食と咽喉痛と壊疽を派遣する。だが、”ラパエールよ、オロペルを封じこめよ”を耳にするや、すぐさま退散するのだが」。9. 五番目のものが謂った。「おれはカイロークサノンダロンと呼ばれる。耳の閉塞を植えこむ。だが、(53) ”ウゥルゥエールよ、カイロークサノンダロンを封じこめよ”を耳にするや、すぐさま退散するのだが」。10. 六番目のものが謂った。「おれはスペンドナエールと呼ばれる。耳下腺炎と反弓緊張[022]を植えこむ。”サバエールよ、スペンドナエールを封じこめよ”を耳にすると、すぐさま退散するのだが」。11. 七番目のものが謂った。「おれはスパンドールと呼ばれる。両肩の力を弱め、両手の筋を弛め、四肢を疲弊させる。もし、”アラエールよ、スパンドールを封じこめよ”を耳にしたら、すぐさま退散するのだが」。12. 八番目のものが謂った。「おれはベルベルと呼ばれる。人間どもの心臓と心を歪める……もし、”カラエールよ、ベルベルを封じこめよ”を耳にしたら、すぐさま退散するのだが」。

 13. 九番目のものが謂った。「おれはクゥルタエールと呼ばれる。腸の疝痛を派遣する。もし、”イアオートよ、クゥルタエールを封じこめよ”を耳にするや、すぐさま退散するのだが」。14. 十番目のものが謂った。「おれはメタティアクスと呼ばれる。腎臓の症状を植えこむ。もし、”アドーナエールよ、メタティアクスを封じこめよ”を耳にしたら、すぐさま退散するのだが」。15. 十一番目のものが謂った。「おれカタニコタエールと呼ばれる。家々に争いと我が儘を派遣する。ひとあって平和たらんとするなら、月桂樹の7枚の葉に、おれを挫く名号を書くがよい。(54)”アンゲレ、エアエ、イエオー、サバオート。カタニコタエールを封じこめよ”、そうして月桂樹の葉を洗って、自分の家に水をふりかけよ、そうすればおれはすぐさま退散するだろう」。16. 十二番目のものが謂った。「おれはサプトラエールと呼ばれる。人間どもに軋轢を投げこみ、連中を躓かせると好機嫌だ。ひとあってもし以下のこと — ”イアエ、イエオー。サバオートの子たちよ”— を書き、そして自分の喉に携行するなら、おれはすぐさま退散する」。

 17. 十三番目のものが謂った。「おれはポボテールと呼ばれる。筋の弛緩を植えつける。もし、”アドーナイ”を耳にしたら、すぐさま退散するのだが」。18. 十四番目のものが謂った。「おれはレローエールと呼ばれる。寒気と冷気と胃痛を招来する。もし、”イアズよ、留まるなかれ、温めるなかれ、ソロモーンは十人の父親たちより美しいがゆえに”を耳にするや、すぐさま退散するのだが」。19. 十五番目のものが謂った。「おれはスゥベルティと呼ばれる。悪寒戦慄と麻痺を派遣する。もし、”リゾーエールよ、スゥベルティを封じこめよ”を (55) 耳にしさえすれば、すぐさま退散するのだが」。20. 十六番目のものが謂った。「おれはカトラクスと呼ばれる。人間どものに不治の熱病をもたらす。健康になりたい者をして、コエンドロ[023]を潰し、次のように言いつつ塗布せしめよ、曰く。”ダンにかけて汝に誓う、神の塑造から立ち去れ”、そうすればすぐさま退散するのだが」。

 21. 十七番目のものが謂った。「おれはイエロパと呼ばれる。人間の胃に居座って、浴槽に痙攣を惹起する。また途上に人間を見つけて、倒れさせる。しかしひとあって、患者の右耳に3回、”ijou:da zizabou:”と云うなら、見よ、おれを退散させられるのだが」。22. 十八番目のものが謂った。「おれはモデベールと呼ばれる。女どもを夫から (56) 引き離す。ひとあってもし8人の父親の名号を書き、これを玄関に置くなら、すぐさま退散するのだが」。23. 十九番目のものが謂った。「おれはマルデローと呼ばれる。おれが不治の熱病を招来するだろうか? しかしいかなる家であれ、おれの名号を書くなら、すぐに退散するのだが」。24. 二十番目のものが謂った。「おれはリュクス・ナトートーと呼ばれる。人間どもの膝に居座る。ひとあってもし紙に、”プヌゥネービエール”と書けば、すぐさま退散するのだが」。25. 二十一番目のものが謂った。「おれはリュクス・アラトと呼ばれる。幼児たちを呼吸困難にさせる。ひとあってもし”ラリデリス”と書いて携行すれば、すぐさま退散するのだが」。

 26. 二十二番目のものが謂った。「おれはリュクス・アウダメオートと呼ばれる。ひとあってもし”ライウゥオート”とかけば、すぐさま退散するのだが」。27. 二十三番目のものが謂った。「おれは (57) リュクス・マンタドーと呼ばれる。腎臓を痛くさせる。ひとあってもし”イアオート、ウゥリエール”と書けば、すぐさま退散するのだが」。28. 二十四番目のものが謂った。「おれはリュクス・アクトンメと呼ばれる。脇腹を痛くさせる。ひとあってもし、失敗した船から採った材木に”大気のマルマラオート”と書けば、すぐさま退散するのだが」。29. 二十五番目のものが謂った。「おれはリュクス・アナトレトと呼ばれる。内臓に沸騰と発熱を引き起こす。もし、”ajrara; ajrarhv”と聞いたら、すぐさま退散するのだが」。30. 二十六番目のものが謂った。「おれはリュクス・ホ・エナウタと呼ばれる。心を盗み取り、心臓を変える。ひとあってもし”カラザエール”と書けば、すぐさま退散するのだが」。31. 二十七番目のものが謂った。「おれはリュクス・アクセースビュト人間どもを疲弊困憊にして出血多量にさせる。ひとあってもし生の葡萄酒にかけておれに厳命し、患者に与えれば、すぐさま退散するのだが」。

 32. 二十八番目のものが謂った。「おれはリュクス・アパクスと呼ばれる。不眠を派遣する。ひとあってもし、”kovk' fnhdismovV”と書いてこめかみに巻くと、すぐさま退散するのだが」。33. 二十九番目のものが謂った。「おれはリュクス・アノステールと呼ばれる。母親の狂気を派遣し、眼の下の隈に痛みを引き起こす。ひとあってもし、清浄なオリーブ油に、(58) 月桂樹の実3粒を練ったうえ、”マルマラオートにかけて汝に厳命せん”と言いつつ塗布すれば、すぐさま退散するのだが」。34. 三十番目のものが謂った。「おれはリュクス・ピュシコレトと呼ばれる。長患いさせる。ひとあってもしオリーブ油に塩を投入し、”ケルゥビムよ、セラピムよ、助けたまえ”と言いつつ患部に塗布すれば、すぐさま退散するのだが」。35. 三十一番目のものが謂った。「おれはリュクス・アレウレートと呼ばれる。魚の歯を呑みくだして、ひとあってもし同じ魚の骨を病人の???に当てれば、すぐさま退散するのだが」。36. 三十二番目のものが謂った。「おれはリュクス・イクテュオン筋を弛緩させる。だが、”アドーナイよ、和らげよ”と聞けば、すぐさま退散するのだが」。37. 三十三番目のものが謂った。「おれはリュクス・アコーネオートと呼ばれる。喉や扁桃腺に痛みを引き起こす。ひとあってもしキヅタの葉に”leikourgovV(大理石工)”とばらばらに〔?〕書けば、すぐさま退散するのだが」。

 38. 三十四番目のものが謂った。「おれはリュクス・アウトートと呼ばれる。友たちに対する妬みと争いを引き起こす。おれを挫くのは、書かれた第一字母〔アルファ〕と第二字母〔ベータ〕である」。39. 三十五番目のものが謂った。「おれはリュクス・プテーネオートと呼ばれる。あらゆる人間を邪視する。おれを挫くのは、彫刻された多感な眼である」。40.(59) 三十六番目のものが謂った。「おれはリュクス・ミアネトとも呼ばれる。身体を妬む。家々を荒廃させる。肉を消滅させる。ひとあってもし家の玄関に次のように、”mevlpw ajrda;d ajnaavq”と書けば、おれはその場から逃げ出す」。41. さて、以上のことどもを聞いて余ソロモーンは、天地の神を栄化したうえで、水を運んで来るよう彼らに命じた。42. そうして、人間性の邪魔をするこれら36柱のダイモーンたちが、神の神殿に投降するよう神に祈った。

ⅩⅨ

 かくして、余ソロモーンは、天が下なるあらゆる人間どもに尊ばれる者となった。そうして神の神殿を建造し、余の王国は真っ直ぐになった。2. するとあらゆる王たちが余のもとに、余が建造した神の神殿を見学すべく来訪し、金や銀を余のもとに運び、銅・(60) 鉄・鉛・材木を、神殿の設備用に寄進した。3. 中でも、ノトス〔「南」〕の女魔術師たる女王サバは、多大な関心を寄せて来訪し、余の前に跪拝した。

ⅩⅩ

 そして見よ、年老いたひとりの術知者が、余の前に身を投げだした、いわく。「ダウイドの子ソロモーン王よ、年老いたるこのわたしを憐れみたまえ」。そこで彼に云った。「言え、老人よ、何が望みか?」。2. すると相手が謂った。「御身にお願いです、王よ。わたしには独り息子がおりますが、これが毎日、わたしにひどい暴行をはたらくのです、というのは、わたしの顔や頭を叩き、辛い死をみまってやるとわたしに公言する始末ですから。そのため、わたしのために仕返していただこうとやって参りました」。3. そこで、余はこれを聞いて、その息子を連れて来るよう命じた。さて、それがやって来たので、これに云った。「そのとおりか?」。4. すると相手が謂った。「そこまで狂気に満たされているわけではありません、王よ、わたしの生みの親を掌で叩くほどまでに。どうかわたしにお慈悲を賜りますよ、おお、王よ。このような話や悲惨さに耳を傾けることは (61) 神法に悖ることですから」。5. そういう次第で、余ソロモーンは若者のいうことを聞いて、その長老によく考えるよう勧告した。ところが相手は拒んで云った。「自殺するがいい」。

 6. ところが、ダイモーンのオリニアースが笑っているのを見て、やつが余の面前で笑うことにいたく立腹し、これ〔〕を撤回して、オリニアースに出頭を命じ、これに云った。「呪われたやつめ、余のことを笑ったのか?」。7. すると相手が謂った。「どうぞお願いです、王よ。おれが笑ったのは御身のせいではなく、哀れな年寄りと、その息子の惨めな若者のせいです。だって、3日後には死ぬのに、見よ、老人は彼が悪く亡き者になることを望んでいるのだから」。8. そこで余は云った。「はたして、まことそのとおりなのか?」。ダイモーンが云った。「然り、王よ」。9. そこでダイモーンに下がるよう、老人とその息子に出頭するよう命じ、これらに仲良くするよう命じた。10. そうして年寄りに云った。「3日後に、そなたのこの息子を余のもとに連れて来よ」。かくて、彼らは拝跪しつつ立ち去った。

 (62)11. そこで、オルニアースをもう一度余のもとに連れて来るよう命じ、これに云った。「3日後に若者が死ぬということを、どこで知ったのか?」。12. すると相手が謂った。「われわれダイモーンは、天の蒼穹に昇って行き、星々の間を飛びまわって、神から人間どもの魂たちに出てくる予言を聞くのだ。13. そしてそれから出かけて行って、権力にであれ、火にであれ、剣にであれ、事故にであれ、すがたを変えて亡き者にするのだ」。14. そこで相手に尋ねた。「されば余に言ってくれ、汝らはいかにして天に昇ることができるのか、ダイモーンであるのに」。15. すると相手が余に謂った。「天において成就する事柄は、地上においても同様である[024]、なぜなら、諸々の支配力や諸々の権力や諸力は[025]上へと飛翔し、天上への入場を要請する。16. しかしわれわれダイモーンは疲れ果て、登高とか安息の (63) 歩みを持たず、木の葉のように樹から落ち、これを観る人どもは想うのだ、星が天上から落ちるのだ、と。17. 実はそうではなく、王よ、われわれの弱さゆえに落下し、どこにも助けを得られないことで、星のように地上に落下し[026]、諸都市を焼き尽くし、田畑を燃えあがらせるのだ。で、天上の星々とは、蒼穹に土台を持つものらである」。18. これを聞いて余ソロモーンは、このダイモーンが5日間見張らるべしと命じたのであった。

 19. そして5日後に、その老人を呼び寄せたが、来ることを拒んだ。その後やって来たが、相手が押しひしがれ、悲嘆にくれているのを見た。20. そこで相手に云った。「そなたの息子はどこか、老人よ」。すると相手が謂った。「子はおりません、おお、王よ、絶望して、息子の墓を傍で見守っておりました」。21. そこで余ソロモーンはこれを聞いて、ダイモーンから余に話されたことが真実であることを知り、天地の神を栄化したのである。

ⅩⅪ

 (64) また、ノトス〔「南」〕の女王サバも驚いて、〔余の〕建てた神殿を見て、青銅1万シクロス〔重量単位。ヘブル語「シェケル」〕をくれた。2. そうして神殿に参内し、祭壇とケルゥブたちと、櫃の覆いに影さすセラピムと、燭台のさまざまな色の光を発する燭台の200の宝石(燭台は緑玉からも風信子石からも青玉からもできていた)を目にした。3. また目にした、銀製の銅製の金製の用具と、鎖状の銅によって鍛造された円柱の土台を。見た、装飾に36頭の牡牛を付けた青銅の海をも。4. そうして神の聖所にあったのは、すべてが労作され、ダイモーンたちなくしては黄金1タラントンの報酬の……。

ⅩⅫ

 (65) ところで、アラビアの王アダルケースが、書簡を寄越した、<次のように言って。「アラビアの王アダルケースより、>王ソロモーン殿に、ご機嫌よう。
 見よ、御身に授けられた知恵を、そして、人間の分際でありながら、天空・地上・地下界のありとあらゆる精霊に関する分別が、主から御身に授けられたとわれわれは聞いております。2. ところで、アラビアに精霊がおります。すなわち、通常、早朝に風が吹き始め、第3刻限に及ぶのですが、この風は恐ろしく、人間どもをも家畜類をも殺し、このダイモーンに抗していかなる気息も生きながらえられないのです。3. そこで御身にお願いです、この精霊は風のようなものですから、御身の主なる神によって御身に授けられた知恵によって何らか知恵を凝らしたまえ、そうして、これを捕獲できるひとを遣わしたまえ。4. そうすれば、見よ、王ソロモーンよ、われらは御身のものです、わたしも、わが民も、わが領地全土も、そうして全アラビアが平和でしょう、われらのためにこの復讐を (66) してくださいますならば。5. それゆえ御身にお願いです、われらの嘆願を見過ごしにしてくださいますな、われらの種族の主はいつも奇形なのです。わが主がいついつまでも健勝ならんことを」。

 6. そこで余ソロモーンはこの書簡を読み、巻いたうえで、余の奴隷に手渡した、これにこう云いながら。「7日後、この書簡を余に想起させよ」。7. かくてヒエルゥサレームは建造され、神殿が完成した。ところで、大きな隅石があった[027]、これは神の神殿の完成の隅の頭に置くことを余が望んでいたものだった。8. そうしてすべての術知者たち、加勢したすべてのダイモーンたちが、その石を引っ張っていって神殿の橋に置くべく同所にやって来たが、これを揺るがすことができなかった。9. しかし7日後、アラビア人たちの王の書簡を思い出した余は、余の少年奴隷を呼び、これに云った。「そなたの駱駝に乗れ、皮袋とこの印章を受け取れ、10. そして、アラビアの、邪悪な精霊が吹いている場所に出かけ、皮袋と、皮袋の口の前にこの指輪をしっかり保て。(67) そして、この皮袋が息を吹きこまれたら、ダイモーンがそこに吹き込んだのだとわかるだろう。そのとき、皮袋を力いっぱい縛り、指輪を捺印し、駱駝に乗って、それをここに運んで来よ、されば健勝に行け」。

 12. この時、少年奴隷は言いつけられたとおりに実行し、アラビアへと進んだ。しかし彼の地の人々は、はたして邪悪な精霊が逮捕されようかと信じなかった。13. さて、明け方、この家僕は精霊の気息の下手に立って、皮袋を地面に据え、さらに指輪も〔袋の口に〕当てた。すると〔気息が〕皮袋に入り、これを膨らませた。14. そこで少年奴隷は立って、主サバオートの名号をもって皮袋の口を締め、ダイモーンは (68) 皮袋の中にとどまった。15. さらに少年も、確認のために3日間留まり、気息はもはや吹かず、アラビア人たちは、〔少年奴隷が〕精霊を安全に監禁したと認知した。16. このとき、皮袋を駱駝に載せ、アラビア人たちは、贈り物と謝礼を付け、紙を祝福しつつ、少年奴隷を歓送した、平和がもどったからである。<他方>少年奴隷は精霊を運びこみ、これを神殿の頭に置いた。

 17. その翌日、余ソロモーンは神殿に入っていった。そうして、隅石のあたりに心痛のうちにいた。すると皮袋が立ち上がって、入口の方へ7歩歩いて、余に拝跪した。18. そこで余は、皮袋をもってしても力を持ち、歩きまわれることに驚いて、これに立ち上がるよう命じた。すると皮袋が立ち上がり、膨らんだまま両脚で立っていた。19. そこでこれに問い質した。曰く。「そなたは何者か?」。中から精霊が言う。「おれはエピッパースと言われるダイモーン、アラビアに住むものだ」。(69)20. そこで相手に云った。「いかなる天使に挫かれるのか?」。すると相手が言う。「処女によって生まれてくるはずの者に(これを拝跪するのが天使たちだからだが)、つまりイウゥダイオイ人たちのせいで十字架にかけられはずの者に」。

ⅩⅩⅢ

 そこで余は相手に向かって言う。「余のために何をすることができるか?」。すると相手が謂った。「おれができるのは、山々を置き換えること、家々を移すこと、王たちを打ち倒すことだ」。2. そこでやつに云った。「もし力ある者なら、この石を神殿の隅の初めに持ち上げよ」。すると相手が謂った。「この石だけでなく、王よ、紅海にいるダイモーンといっしょになって、紅海にある空気の円柱を引き上げてやる、そうしておまえが望むところにこれを据えるがいい」。3. そしてこう云うと、石の下にもぐりこんで、これを押し上げ、この石を運んで梯子で引き上げ、(70) そうしてこれを神殿の入口の先に置いた。4. それで余ソロモーンは得意になって云った。「まことに今〔聖なる〕書は成就した、曰く。”大工たちが失格審査した石が、隅の頭〔礎石〕にできた”云々」[028[

ⅩⅩⅣ

 さらにまた、これに云った。「出かけよ、紅海にあると云った円柱を余に持って来よ」。するとエピッパースは出かけて行き、そのダイモーンを引き上げた、両人してアラビアから円柱を運んでくるためである。2. そこで余は、これら2柱の精霊は、ひとの住まいする全世界を一瞬のうちに揺るがせることができると奸智をはたらかせ、そこらじゅう指輪で封印したうえで云った。「厳しく見張らるべし」。3. かくて、今日まで (71) 円柱を担いだままでいる、余に授けられた知を証して。4. 実際、巨大な円柱が精霊たちに担がれて、空中に吊り下がっており、その下には精霊たちが空気のように担いでいるのが見える。5. そうしてわれわれが見つめると、円柱の土台は<ぼんやり>していて、今日に至っているのである。

ⅩⅩⅤ

 そこで余は、円柱を携えて海から上がってきた別のダイモーンに尋ねた。「そなたは何者で何と呼ばれるか、そなたの仕事は何か。そなたについて多くのことを聞いている故」。2. するとそのダイモーンが謂った。「おれは、ソロモーン王よ、アベゼティブゥと呼ばれる。かつては第1天 — その名をアメルゥトという — に鎮座していた。3. だから、おれは厄介にして有翼つまり1つ翼の精霊で、天下のあらゆる気息の策謀だ。おれは、ムーウセースがアイギュプトスのパラオー王のともに参上したとき、その〔パラオーの〕心臓を頑なにした。4. おれは、アイギュプトスでモーウセースと争った[029]イアンネースとイアムブレースと呼ばれたものだ。おれは、奇跡と徴でモーウセースと格闘したものだ」。

 (72)5. そこで相手に云った。「されば、いかにして紅海で見つけられたのか?」。すると相手が謂った。「イスラエールの息子たちの脱出に際し、おれはパラオーの心臓を頑なにし、彼とその従者たちの心臓を高ぶらせた。6. そうして彼らを、イスラエールの息子たちの後を追跡するようにさせ、パラオーとアイギュプトス人たちのすべてが同伴した。その時、おれはそこに臨在し、われわれは同伴し、全員が紅海に達した。7. そうして起こったのだ、イスラエールの息子たちが渡海しようとしたとき、〔海〕水が引きもどってきて、アイギュプトス人の全戦列を隠した。その時、おれはそこにいて、水中にいっしょに隠され、円柱の下に捕まったまま、エピッパースがやって来るまで、海中に留まっていたのだ」。8. そこで余ソロモーンも、完成するまで円柱を支えているようやつに厳命したのである。

9. そうして神の助けで、その神殿を全く荘厳に飾り立てた。そうして歓喜し、これを栄化したのである

ⅩⅩⅥ

 (73) ところで、あらゆる地方と王国から女たち — その数は無数 — を得た。しかし、イエブゥサイオイ人たち〔「エブス人」出エジプト3章8。ノアの子孫。フルリ人と考えられる〕の王国に進軍中、彼らの王国に女を見、甚だこれを愛し、余の女たちのなかにこれを交えることを望んだ。2. そこで彼らの神官たちに云った。「余にこのスゥマニテーを得さしめよ、これを甚だ愛するがゆえに」。すると彼らが余に向かって云った。「もしわれらの娘を愛されるなら、われらの神々、大いなるラパンとモロク[030]を跪拝されよ、さすれば彼女を得さしめん」。3. しかし余は跪拝することを拒み、連中に云った。「余が他所の神を跪拝することはない」。4. すると連中はその処女に強要して曰く —「もしソロモーンの王国に入るようなことが汝に出来したなら、彼に云え。”わたしの民と等しくなりたまわぬかぎり、御身と寝ることはありません、そこで、5匹のバッタを取り、これらを (74) ラパンとモロクの名号にかけて撒いてください”と」。5. そこで余は、この乙女がきわめて美しく、つまりは愚かであるのを愛したがゆえに、バッタの血には何も気づかず、これを余の手に取って、ラパンとモロクの名のもと偶像に捧げ、その処女を余の王国の家に得たのであった。

 6. そうして神の霊が余から奪い去られ、その日以来、余の言辞は駄法螺のごとくになった。そうして余は偶像の神殿を管理せざるをえなくなった。7. かくして余は惨めな者として彼女の企みを実行し、最終的に神の栄光は余から離れ、余の霊は暗くされ、偶像とダイモーンたちの笑いとなったのである。

 8. それゆえ、余の契約を書き記したのは、(75) 耳にした者たちが祈り、最後の業(最初の業にではなく)[031]に心を傾注するため、最終的に永遠に恩寵を見出すため、である。アメーン。

2018.07.01. 訳了

forward.gifソロモーンの遺訓 02
forward.gif「ギリシア語ヘルメス文書」集成