神代地誌

アルゴスのアクーシラーオス



[略伝]

 アルゴスの出身。「ペルシア戦争の前に」存命した(Joseph. Ap. 1-13)。系譜論を編集し、ヘーシオドスを解釈・修正した。推測は器用あるが、文学的価値はない。(OCD)





生涯と作品

T1
SUID.「アクーシラーオス」の項。
 カバスの子。アウリス近郊のケルカスという都市出身のアルゴス人。最古の歴史家。青銅の銘板をもとに『系譜論』を書いた。その銘板は、彼の父親がその家の或る場所を掘り起こして見つけたという話である。

T2
DIONYS. HAL. De Thuc. 5:
 ペロポンネーソス戦争(432/1)以前の往古の著作家たち……。アルゴス人アクーシラーオス。ヘカタイオスT17a参照。

T3
Joseph. c. Apion. I 13(EUSEB. PE X 7 p.478 AB):
 しかしながら、彼らのうち、歴史の著述を手がけた人たち、わたしが言っているのは、ミーレートス人カドモス(III)やアルゴス人アクーシラーオスの一派の人たち、他に誰かその後に生まれたと言われるならその人たちのことだが、ヘッラスに対するペルシアの征戦(480/79)よりわずかに前の時代に存命したのである。

T4
MANAND.P. ejpideikt. 6. III 338, 4 Sp:
 系譜論も神話と異ならないとみなす人々は、例えば、もし望むなら、アクーシラーオス=AkousivlewVやヘーシオドスやオルペウスが『系譜論』の中で述べているようなことは、神話だと主張する。なぜなら、これらの系譜論は、神話と少しの違わないから。

T5
CLEM. ALEX. Strom. VI 2, 26, 7 p.443, 2 Stãh:
 ヘーシオドスの〔詩句〕を散文に書き改め、自分自身のものとして出版したのは、エウメーロス(III)とアクーシラーオスといった歴史著述家たちである。

T6
JOSEPH. c. Apion. I 16(EUSEB. PE X 7 p.478D):
 いかほどの点で、ヘッラーニーコス(4 T 18)が系譜論に関してアクーシラーオスに異議を唱え、いかほどの点でヘーシオドスをアクーシラーオスが訂正したか、わたしよりもよく知っている人たちに教えることは、わたしにとって大変な苦労である。

T7
SUID.「ミーレートス人ヘカタイオス」の項(1 T 1)。
 〔ヘカタイオスは〕……歴史(iJstoriva)を最初にものにし、説話(suggrafhv)を〔最初にものにしたの〕はペレキュデース(I 3)であった。アクーシラーオスのものは偽作だからである。

T8
CICERO De or. II 53:
 多くの人はこの編年体に似た記述法に倣い、何の装飾も施さず、時代や人、故地や偉業の単なる記録のみを書き残したのである。ギリシア人ではペレキュデース、ヘッラーニーコス、アクーシラーオス、わが国の人ではカトー、ピクトル、ピソといった人たちがそうであり……

T9
DIONYS. HAL. De Thuc. 5:
 ヘカタイオスT 17参照。

T10
CLEM. ALEX. Strom. I 21, 103, 1 p.66, 10 Stãh:
 プラトーンは『ティマイオス』の中でアクーシラーオスに追随している……(F 23を見よ)。

T11
a) DIOG. LAERT. I 41:
 なお、ディカイアルコス(IV)は、われわれに同意できる〔賢人〕として4人を挙げている。タレース、ビアス、ピッタコス、ソローンである。そしてこのほかに6人を名を挙げ、そのなかの3人を選んでいる。〔6人とは〕アリストデーモス、パムピュロン、ラケダイモーン人キローン、クレオブゥロス、アナカルシス、ペリアンドロスである。一部の人たちは、アルゴス人カバスないしスカブラスの子アクーシラーオスを付け加える。[42] ヘルミッポスは『賢者について』(IV)の中で17人を主張する。……ソローン、タレース、ピッタコス、ビアス、キローン、>ミュソーン<、クレオブゥロス、ペリアンドロス、アナカルシス、アクーシラーオス、エピメニデース、レオーパントス、ペレキュデース、アリストデーモス、ピュタゴエアス、ラソス……アナクサゴラス。 b) CLEM. ALEX. Strom. I 14, 59, 5 p.38, 7 Stãh:
 ある人々は、アルゴス人アクーシラーオスを七賢人に算入する。他の人たちは、シュリア人ペレキュデースを。

T12
SUID.「サビノス」の項。
 ソフィスト。ハドリアヌス帝時代に生まれた。トゥキュディデース、アクーシラーオス、その他の人たちの註釈を書いた。

断片集

系譜論(第1巻-第3巻)

第1巻

F1
MACROB. s. V 18, 9:
 DIDYMUS enim, grammaticorum omnium facile eruditissimus, posita causa quam superius Ephoros(II) dixit alteram quoque adiecit his verbis:(10)
 例のことを言っておくのがより善い。すなわち、アケーロオス河はすべての河のなかで最も年長であることから、人々はこれに名誉を分け与え、すべての流れを端的にその名で称したということである。たしかにアクーシラーオスは、『歴史』第1巻を通して、アケローオス〔河神〕はすべての河の中で最年長であることを明らかにした。すなわち彼は謂った、「オーケアノスは自分の妹テーテュスと結婚した。そして彼らから三千の河が生まれた。しかしアケローオス〔河神〕はそれらの中で最年長であり、最高の名誉を与えられた」。

 

第3巻

F2
HARPOKR.「ホメーリダイ」の項。
 キオス(CivoV)の氏族(この氏族のことはアクーシラーオスが第3巻の中で)が、詩人にちなんで名づけられたとヘッラーニーコスが『アトラスの娘たち』(4 F 20)の中で謂っている。

F3
SCHOL. T HOM. Il. XXIII 296「この馬〔アイテー〕は、アンキーセースの子エケポーロスがアガメムノーンに与えたもの、その由は、風の吹きまくイーリオスへは随行せずに、故郷にとどまり楽をしようとて。というのもゼウスが彼に大身代を授けられたので。場広やかなシキュオーンに住まうていたが」。
 アクーシラーオスは『系譜論』第3巻の中でエケポーロスということば注1)を次のように固有名詞と解した。「アンキセースはクレオーニュモスの子、その子がエケポーロス」。ペレキュデースも第3巻(3 F 20)の中で、「ペロプスの子クレオーニュモスは、アトレウスが建設したクレオーネーに住んだ。彼の子アンキーセースが生まれた。その子がエケポーロスである」。

F4
SCHOL. APOLL RHOD. IV 992「ケラウニアの海に島あり、言い伝えによれば、地下に鎌が隠されている……この鎌でクロノスは冷酷にも父親の陽物を切り取ったという……それゆえ、パイアケス人を育てた聖なる乳母は、名をドレパネーと呼ばれる。パイアケス自身も、その生まれはウゥラノスの血を引く者なのだ」。
 アクーシラーオスが第3巻で謂うところでは、ウゥラノスが去勢されたとき、たまたま滴が、つまり血の滴りが大地にそそがれ、そこからパイアケス人が生まれたという。ある人たち(Hesiod. Th. 185)は、ギガンテスが〔生まれたのだという〕。アルカイオス(F 116)も、パイアケス人がその種族を得たのはウゥラノスの血の滴りからだと言う。ホメーロスは、パイアケス人が神々に近い生まれなのは、ポセイドーンに連なる血筋のゆえだと謂う(Od. V 35 vgl. VII 56ff. 201ff.)。

巻数不明の断片

宇宙論と神統論(1巻)

(F 1を見よ)

F5
PHILODEM.p. eujseb. 137, 5 p.61 Gomperz:
 ある書では、万物はニュクス〔夜〕とタルタロス〔奈落〕から生まれたと言われる。ある書では、ハーデス〔冥府〕とアイテール〔上天〕から、と。ある人は、ティターン戦争のことを書いて(p.312 Ki)、アイテールから起こったと謂う。アクーシラーオスは、大地のカオス〔混沌〕から自余のすべてが生まれた、と。

F6
a) PLATON Symp. 178 AB:
 なぜなら、この神〔エロース〕がぬきんでて最古参であるということが尊いのでありますから。……その証拠には、「恋(エロース)」には両親がなく、これを挙げている者は散文作家にも詩人にも誰もありません。いやまったく、ヘーシオドス(Th. 116ff.)は言っております、まず最初に「空虚(カオス)」が、さて次には[広胸の「大地(ガイア)」、永遠にゆるぎなき万物の座、と「恋(エロース)」が〔生じた〕と謂い]「混沌(カオス)」の次にこれら二神「大地(ゲー)」と「恋(エロース)」とが生じた、と。パルメニデース(18 B 13 Diels)は生成について、「「恋(エロース)」をば万の神々の最初に案出せり」と言っております。またアクゥシレオースもヘーシオドスと同意見です。このように多くの側から、「恋(エロース)」が最古参であることが一致承認されているのです。
b) DAMASK.p. ajrc. 124(I 320 R):
 わたしに思われるところでは、ヘーシオドスは先ず初めに「混沌(カオス)」が生じたと報告して……そこから「大地(ゲー)」を第一のものとして導き出している……しかしアクーシラーオスは、第一原因は誰にも知られぬものとして、「混沌(カオス)」を前提しているようにわたしに思われる。だから、1つの〔原理〕の後に、2つの〔原理〕が。つまり、「洞闇(エレボス)」という男性原理と女性原理である「夜(ニュクス)」である。……そしてこれらの混合から「上天(アイテール)」、「恋(エロース)」、「知慮(メーティス)」が生まれたという。さらに、同じ諸原理から、他にもはるかに数多くの神々を、これに付け加えていると、エウデーモスの歴史(F 117 Sp.)にある。
c) SCHOL. THEOKRIT. XIII 1/2 c p.258, 8 W:
 エロースを誰の子と<みなすべき>か、定かではない。ヘーシオドスは、「混沌(カオス)」と「大地(ゲー)」の〔子〕だと。シモニデースは(F 43)は、アレースとアプロディーテーの〔子〕だと。アクーシラーオスは、「夜(ニュクス)」と「上天(アイテール)」の〔子〕だと。アルカイオス(F 13)は、「虹(イリス)」と「西風(ゼピュロス)」の〔子〕だと。サッポー(F 132)は、アプロディーテー(?)と「天空(ウゥラノス)」の〔子〕だと。各人各様である。

F7
ET. M. 523, 49(=SCHOL. HESIOD. Th. 134 p.482 Gaisf.):
 コイオス、クレイオス、ヒュペリオーン、イアペトス……これらの者らはティタネスTita:neV〔ティターンの男性複数形〕とかTitanivdeV〔ティターンの女性複数形〕と呼ばれると、アクーシラーオス。

F8
PHILODEM. p. eujseb. 60, 15 (Philippson Herm. LV 255):
 アクーシラーオスによれば、ウゥラノスは、ヘカトンケイル〔百手巨人〕たちが優勢にならぬよう、これを縛りあげたうえタルタロスに投げこんだ。そういう連中だと知ったからである。

F9
PHILODEM. p. eujseb. 92, 12 p.43 G:
 ホメーロス(Il. II 26)は、オネイロス〔夢の精〕たちは神々の使者であるばかりか、ヘルメースとイリスはゼウスの使者だと謂う(Il. II 786ほか)。ある人たち(Hom. Il. XVIII 166-68ほか)は、後者〔イリス〕はヘーラーの〔使者〕でもあるという。アクーシラーオスは、神々すべての〔使者〕だと。アテーナイ人ペレキュデース(3 F 130)は、ヘルメースもそうだという。

F10
同上、同書、92. 24 p.43 G:
 また、リンゴを護っているのはハルピュイアだとアクーシラーオス。エピメニデース(68 B 9 Diels)もそうだといい、ヘスペリスたちに同じだという。しかし前者はリンゴを護ることがティタノマキアだという――

F11
同上、同書、43 p.15, 1 G:
 老いてはいたが、プローテウスは不死を得た。そして、彼はポルキュスの父であると言う人々もあれば、ポルキュスがエウドテアの〔子〕であり、ポルキュスの子がグライアたちだという人々もいる。アクーシラーオスもそのように。

F12
同上、同書、61 b p.46 G:
 テュポーンはゼウスの王権を狙ったと人々は述べている、例えば、アイスキュロスは『プロメーテウス』(351 ff.)の中で、また、アクーシラーオスも、エピメニデース(68 B 8 Diels)も、他にも多くの人たちが。エピメニデースによれば、ゼウスが眠っているときに、テュポーンは王宮に攻めのぼり、城門を下して、内に攻め入った。しかしゼウスが来援し、王宮が占領されているのを見て、雷霆で撃ち殺したと言われる。

F13
同上、同書、42, 12 p.14 G:
 ヘーシオドス(Th. 306 ff.)とアクーシラーオスは、不死なる犬ケルベロスやその他の怪物たちを、またヘーシオドス(Th. 523 ff.)によれば、プロメーテウスの肝臓を喰う鷲を、エキドネーとテュポーンの〔子〕だと――

F14
SCHOL. NIKAND. Ther. 11「」。
 少なくとも咬む動物の誕生について、ティターンたちの血から生まれたということは、ヘーシオドスに見出すことはできない。しかしアクーシラーオスは、あらゆる咬むものはテュポーンの血から生じたと謂う。ロドス人アポッローニオスは、『アレクサンドレイアの建設』の中で、ゴルゴーンの血の滴りからという。

F15
SCHOL. HESIOD. Th. 379 p.508, 19 Gaisf.「曙(エーオース)はアストライオスに太い肝もつ風たちを生んだ、すなわち/晴れ空もたらす西風(ゼピュロス)、脚迅い北風(ボレアース)、/また南風(ノトス)」。
 鋭い、速い、澄んだ風を「晴れ空もたらす西風」と云った。また西風のことをEu\roVとも言う。……アクーシラーオスは、ヘーシオドスに拠って、3つの風があると謂っている。つまり、北風(Borra:V〔アッティカ方言〕)、西風、南風である。すなわち、「晴れ空もたらす」は西風の形容句だと謂うのである。ホメーロス(Il. XI 306)は、「晴れ間もたらす」は晴天をもたらす南風のことだと云った。……探求さるべきは、「晴れ間もたらす」と西風とは結合しないと云ったということである。

F16
PHILODEM. p. eujseb. 46a 1 p.18 G:
 死すべきものらや血に汚れた神々について、今も、万事をことごとく分離し、各部について長引かせてはならない。が、アクゥセイラオスは、ホメーロス(Od. VII 59 f.)が巨人族について『アルキノスの(?)』の中で言及しているように、キュクロープスたちについても簡潔に〔言及〕している。

神々の息子たち(第1巻?)

F17
SCHOL. PIND. P. III 25c「いたずらにゼウスの子たちが怒ることはない。彼女〔コロニス〕はそれを心得違いから軽く見て、長髪のポイボスと以前交わったことがあったのに、父に隠れて他の結婚をよしとしたのである。そして神の聖い種を宿しながら」。
 というのは、父親が彼女にイスキュスといっしょになるよう強いたとき、アポッローンは彼女とすでに交わっていたからである。何ゆえアポッローンよりイスキュスを優先させたのか、アクーシラーオスが謂うには、神に蔑ろにされることをおそれて、死すべき者といっしょになることを望んだからだと。

F18
PHILODEM. p. eujseb. 45b 5 p.17 G:
 アスクレピオスはゼウスによって殺されたと書いたのは、ヘーシオドス(F 125)、ピンダロス(P III 57)、アテーナイ人ペレキュデース(3 F 35c)、パニュアッシス(F 19)、アンドローン(10 F 17)、そしてアクーシラーオスである。エウリピデース(Aik. 3)もこう言う。「ゼウスはおのが子を殺したもうた」。

F19
同、p. eujseb. 63, 1 p.34 G:
 アンドローンは『同族論』(10 F 3)の中で、ゼウスの命により、アポッローンはアドメートスの下僕となったと言う。しかしヘーシオドス(F 126)とアクーシラーオスは、ゼウスによってタルタロスに投げこまれそうになったが、レートーの哀願によって、人間の下僕になったのだという。

F20
STRABON X 3, 21:
 アルゴス人アクーシラーオスは、カベイロスとヘーパイストスからカミッロスが生まれたと言う。そしてこれ〔カミッロス〕から3人のカベイロスたちが生まれ、これの同族が3人のニンフであるカベイリスたち〔カベイリデス〕であると。しかしペレキュデース(3 F 48)は、アポッローンとレーティアから9人のキュルバンテースが生まれ、彼らはサモトラケーに住んだという。そしてプローテウスの娘カベイリスとヘーパイストスから3人のカベイロスたちと3人のニンフであるカベイリスたちが生まれたという。そしておのおのに聖所が生じたと。

F21
[APOLLODOR.] Bibl. III 156:
 アソーポス河〔神〕はオーケアノスとテーテュスの〔子〕。しかしアクーシラーオスの言うには、ペーローとポセイドーンの〔子〕。しかし一部の人たちの〔言うには〕、ゼウスとエウリュノメーの〔子〕。

F22
PAP. OX. XIII 1611 fr.1 col. II 38:
 テオプラストスの『王制について』第2巻の中で、カイネウスの槍について言われていることは、以下のとおりである。「この人物こそは、カイネウスのように槍をもってではなく、笏杖をもって真に王たる者なのである。なぜならカイネウスは、他の王たちとことなり、笏杖によってではなく、槍によって支配するのが自分にはふさわしいと考えたが、結局そうすることはできなかったのだからである」。このことは、アルゴス人アクーシラーオスによって物語られた歴史に引きつけて(?)解釈すべきである。というのは、カイネウスについて彼は次のように言っているからである。「エラトスの娘カイネウスとポセイドーンは交わる。やがて――というのは、彼〔=カイネウス〕にとってかの〔ポセイドーン〕からも他の誰からも子を生むことは神聖なことではなかったからだが――彼〔女〕をポセイドーンは、当時の人間たちの中で最大の強さをもつ不死身の男にする。そして誰かが彼を鉄や青銅で傷つけようとしても、その者は完膚なきまでにうち負かされてしまうのだった。そしてこの〔カイネウス〕がラビテス族の王となり、ケンタウロスたちとくり返し闘った。やがて彼は一本の槍を広場にたて、これを神々の一柱と見なすように命じた。ところが、これが神々の不興を買い、またゼウスは彼がこうしたことをするのを見て恐れ、ケンタウロスたちをけしかける。そこで,ケンタウロスたちはカイネウスを地中へ真っ直ぐに打ち込んで、上から岩をのせて墓標にする。こうして彼は死ぬのである」。カイネウスが槍をもって支配するというのは、恐らくこういうことなのであろう。エウリピデースの『アルクメオーン』(F 73a)の中で、コリントスを通りがかった彼に神によって言われること、「そして、わしとあの女との間には子ができなかったが、あの処女はアルクメオーンに二人の子を生んだのだ」も、これによって解釈可能である。神との交わりによっては子を成さないことが、上述の話によっていかに解釈されうるかを探求すればだが。

アルカディア王家の系図

F23
a) CLEM. ALEX. Strom. I 21, 102, 5 p.66, 5 Stĕh (Euseb PE X 12 p.497 D):
 そしてヘッラス一円で、イナコスの跡を継いだポローネウスの御代に、オーギュゴス時代の洪水があり、シキュオーンの王国……クレーテーにおけるクレースの王国があった。[6] というのは、ポローネウスは最初の人類であったとアクーシラーオスが言っているからである。ここからまた『ポローニス』の詩人(F 1 Ki)も、彼のことを「死すべき人間たちの父」であると謂ったのである。それゆえプラトーンは『ティマイオス』(22 A)の中で、アクーシラーオスに追随して書いている。「そしてまたある時、彼らに古い時代のことを話してくれるように仕向けるつもりで、この都市の側の最古の話を試みたというのだ。つまり、最初の人間と言われたポローネウスとニオベーについて、また洪水後の出来事を」。
b) AFRICAN. b, EUSEB PE X 10 p.488D:
 当時の人たちから地生えの者と信じられていたオーギュゴスの時代以降に、アッティカ地方に最初の大洪水が起こったが、それはポーレウスがアルゴス人たちを支配していた時だと、アクーシラーオスが記録している……4 F 47a参照。
c) SYNKELL. p.119, 14 Bonn:
 したがって、ヘッラス人たちにとって、オーギュゴス以前に言及に値することは何もないと報告されている、ただし、これと同時代のポローネウスと、ポローネウスの父親イナコス〔河神〕とは別である。〔ポローネウスは〕アルゴス人たちを王支配した最初の人物だと、アクーシラーオスが報告している。

F24
PAUSAN. II 16, 3:
 ペルセウスは、アルゴスにもどると、……プロイトスの子メガペンテースを説得して支配領域を自分のものと交換させ、こうして相手の支配領域を譲り受けてミュケーナイを創設した。というのは、この場所で彼の両刃剣の鞘(muvkh)抜け落ちた……からである。[4] ホメーロスは『オデュッセイア』(II 120)の中で、ミュケーネーという婦人について、1節で次のように言及している。「テュローやアルクメーネーや、また花冠よろしきミュケーネーも」。この〔ミュケーネー〕は、イナコス〔河神〕の娘にして、アレストールの妻であったと、ヘッラス人たちが『大・名女列伝(=HoivaV megavlai)』(F 146)の詩句が言っている。この都市の名もこの女性から起こったわけである。ただ、アクーシラーオスに帰せられる説――ミュケーネウスがスパルトーンの息子で、スパルトーンはポローネウスの息子だという――は、わたしとしては受け容れられない。ラケダイモーン人たち自身もそうだからである。なぜなら、ラケダイモーン人たちのところでは、スパルテーという女性の肖像彫刻がアミュクライにあるのであって、ポローネウスの子スパルトーンと聞いただけで仰天することであろう。

F25
a) [APOLLODOR.] Bibl. II 2 (TZETZ. Lyk. 177):
 〔ポローネウスの娘〕ニオベーとゼウス――この〔ニオベー〕はゼウスが交わった最初の死すべき者〔=人間〕の女性である――の子アルゴスが生まれた。またアクーシラーオスが謂うところでは、ペラスゴスもまた〔生まれ〕、これにちなんで、ポロポンネーソスの住民がペラスゴイと呼ばれたという。ヘーシオドス(F 43)は、ペラスゴスは地生えの者だと謂う。
b) 同上、同書、III 96:
 ペラスゴス、これをアクーシラーオスはゼウスとニオベーの子だと言い、……ヘーシオドスは地生えの者だという。

F26
同上、同書、II 5:
 アルゴスと、アソーポス〔河神〕の娘イスメーネーとの子がイアソス、これ〔イアソス〕の娘としてイーオーが生まれたと謂われる。『年代記』の編著者カストール(II)や悲劇作家の多くは、イーオーはイナコス〔河神〕の娘だと言う。ヘーシオドス(F 187)やアクーシラーオスは、彼女はペイレーンの娘だと謂う。彼女性は、ヘーラーの女祭司を務めていたのを、ゼウスが堕落させた。この乙女が手をつけられたことがヘーラーに露見したので、白い雌牛に変身させ、これといっしょにならぬと誓わされた。それゆえヘーシオドスは謂うのだ、神々の怒りが、恋ゆえに生じる誓いを誘い出すと。

F27
同上、同書、II 6:
 そこでヘーラは、ゼウスからその雌牛を請い受けて、その万人に全身に眼を持ったアルゴスを任命した、これをペレキュデース(3 F 67)は、アレストールの子だと言う。しかしアスクレーピアデース(12 F 16)はイナコス〔河神〕の子だという。アルゴスと、アソーポス〔河神〕の娘イスメーネーとの子がケルコープスである(Hesiod. F 188)。アクーシラーオスは、彼のことを大地の子だと言う。この〔アルゴス〕が、ミュケーナイ人たちの聖林に生えていたオリーヴ樹に、彼女を縛りつけた。

F28
同上、同書、II 26:
 そしてアクリシオスはアルゴス人たちを王支配し、プロイトスはティリュントスを。そしてアクリシオスにはダナエーが生まれ……、プロイトスには、ステネボイアから、リュシッペー、イピノエー、イピアナッサが生まれた。後者の女たちは、成人するや、気が狂った。ヘーシオドス(F 27)の謂うところでは、ディオニュソスの秘儀を受け容れなかったから、しかしアクーシラーオスの言うところでは、ヘーラの木像を蔑ろにしたからであるという。

ヘーラクレース

F29
[APOLLODOR.] Bibl. II 94:
 第七の難業として、クレータの牡牛を連れてくるよう〔エウリュステウスは〕命じた。この牡牛は、アクーシラーオスの謂うには、ゼウスのためにエウローペーを背に乗せて海峡を渡ったやつだという。しかし一部の人たちは、ミノースがポセイドーンに供儀をささげて、海から現せたまえと云ったとき、ポセイドーンによって海から奉納されたものだという。

F30
SCHOL. HV HOM. Od. XIV 533:
 アテーナイ人たちの王エレクテウスは、その名をオーレイテュイアという、美しさこの上なく際立つ娘を持っていた。あるとき、彼女を飾り立て、ポリアス・アテーナに犠牲を捧げるためにアクロポリスへと赴く行列の籠の運び手(kanhfovroV)として送り出す。ところが風神ボレアースが彼女に恋をして、見張りにも番人にも気づかれず、この乙女を掠め去った。そしてトラケーまで運び、妻とした。こうして、自分と彼女の間にゼーテースとカライスといった子どもたちが生まれ、彼らは男らしさから半神たちといっしょにアルゴー号に乗り、金の羊毛を求めてコルキスへと航海した。この歴史はアクーシラーオスによる。

F31
[APOLLODOR.] Bibl. III 199:
 イリッソス河のほとりで遊んでいたオーレイテュイアをボレアースが掠っていっしょになった。彼女は、娘としてはクレオパトラとキオネー、息子としては有翼のゼーテースとカライスを生んだ。息子たちはイアソーンといっしょに航海し、ハルピュイアたちを追いかけて死んだ。しかしアクーシラーオスの言うところでは、テーノス島でヘーラクレースに殺されたという。

F32
PHILODEM. p. euvseb. 34c (Philippson Herm. LV 270):
 アクーシラーオスは、ヘーラクレースは火によって焼け死んだと謂う。

テーバイ伝説

F33
[APOLLODOR.] Bibl. III 30:
 アウトノエーとアリスタイオスとの子としてアクタイオーンは生まれた。彼はケイローンのもとで育てられ、狩人としての教育を受け、やがて後にキタイローン山中で自分の犬どもに食いちぎられた。彼がこのような死にざまをしたのは、アクーシラーオスの言うところでは、セメレーに求婚したために、ゼウスの怒りを買ったからだという。しかしたいていの人たちは、アルテミスが水浴しているところを目撃したからだという。

デウカリオーン、デウカリオーンの子孫、アルゴー号物語

F34
SCHOL. H Q HOM. Od. X 2:
 デウカリオーン――彼の時代に大洪水が起こった――は、プロメーテウスの息子、母は、たいていの人たちの言うには、クリュメネー。しかしヘーシオドス(F 3)によれば、プロノエー。アクーシラーオスによれば、オーケアノスの〔娘〕にしてプロメーテウスの〔妻〕ヘーシオネー。

F35
SCHOL. PINDAR. O IX 70a:
 デウカリオーンとピュッラにまつわる話は共通である。また、石を背後に投げて人類を創造したということも、アクーシラーオスが証言している。

F36
SCHOL. APOLL. RHOD. IV 57:
 カリアのラトモス山、ここに、エンデュミオーンが過ごした洞窟と、ヘーラクレイアと言われる都市がある。エンデュミオーンを、ヘーシオドス(F 11)はゼウスの子アエトリオスとカリュケーとの子だと言い、ゼウスから、「しにたい時に、みずからに死の配分者たること」という贈り物をもらった者だという。ペイサンドロス(om Ki)、アクーシラーオス、ペレキュデース(3 F 121)、それにニカンドロスも『アイトーリア誌』第2巻(F 6 Schn)も、叙事詩作家テオポムポスも〔そういっている〕。

F37
同上、同書、IV 1147:
 この毛皮については、たいていの人たちが金色だと報告しているということ。しかしアクーシラーオスは、『系譜について』の中で、海によって深紅に染められていたと謂っている。

F38
同上、同書、II 1122:「そしてアルゴスが最初に口火を切った」。
 この人物は、プリクソスの子どもたちの一人。この子どもたちのことを、ヘーロドーロス(31 F 39)は、アイエーテースの娘カルキオペーの血を引くと謂う。しかしアクーシラーオスと、ヘーシオドスは『大・名婦伝(Megavlai =Hoivai)』(F 152)の中で、アイエーテースの娘イオポーッセーの血を引くと謂う。またこの人物〔アポッローニオス〕は、彼らを4人だと謂う。アルゴス、プロンティス、メラン、キュティソーロスである。しかしエピメニデース(68 B 12 Diels)は、5人目にプレスボーンを付け加える。

トロイ戦争

(S. F 2-4)

F39
SCHOL. AB HOM. Il. XX 307「それに疾うからプリアモスの家系の者をクロノスの子は憎んでいるので、此からこそは勇ましいアイネイアースがトロイエー人の君主になろう、また後の世に生まれてくるその子孫たちも」。
 アプロディーテーは、「プリアモス家の支配の崩壊せしおりには、アンキセースの子孫は、トロイア人たちの王たるべし」との神託が下ったので、すでに盛りの過ぎたアンキセースと交わった。そしてアイネイアスを生んだうえで、プリアモス家崩壊の口実をでっちあげようとして、アレクサンドロスにヘレネーへの渇望を植えつけ、こうして強奪の後、見かけ上はトロイ勢に味方しながら、真実には、彼らが完全に絶望してしまって、ヘレネーを返還してしまわないよう、彼らの敗北をやわらげていたのである。この報告はアクーシラーオスによる。

F40
SCHOL. QV Od. XI 520「だが何という豪の者を、青銅〔の刃〕で〔ネオプトレモスは〕斃したことか、あのテーレポスの子、エウリュピュロス殿をである。彼を囲んで多勢のケーテイオイが、婦人の贈り物ゆえ、命を落としたものであったが」。
 アステュオケーと、ヘーラクレースの子テーレポスとの子エウリュピュロスは、父の支配権を継いで、ミュシアの指導者となった。プリアモスはその権勢を耳にして、身方につくよう彼のところに使者を送った。ところが相手が、母親のせいで自分にはできぬと云ったので、プリアモスはその母親[アステュオケー]に黄金の葡萄の木を贈った。彼女は葡萄の木を受けとり、息子を戦場に送った。これを、アキッレウスの子ネオプトレモスが亡き者にしたのである。この歴史はアクーシラーオスによる。

F41
[APOLLODOR.] Bibl. III 133:
 さて、メネラオスは、ヘレネーによってヘルミオネーをもうけ、またそのうえに、一説(Hesiod. F 99)では、氏素性はアイトーリアの女奴隷[ピエリス]からニコストラトス、あるいは、アクーシラーオスの謂うところでは、[テーレーイスの子]>ピエリス<の子メガペンテースをも〔もうけた〕。ニンフのクノーッシアからは、エウメーロス(F 7 Ki)によれば、クセノダモスをも。

F42
SCHOL. APOLL. RHOD. IV 828:「アウソニアのスキュッラ……夜をさまようヘカテーがポルキュスと交わって生んだ、これをクラタイイイスとも人々は呼ぶ」。
 アクーシラーオスは、スキュッラはポルキュスとヘカテーとの子だと言う。ホメーロス(Od. XII 124)は、ヘカテーではなくクラタイイスだという。……『大・名婦伝(Megavlai =Hoivai)』(F 150)の中では、スキュッラはポルバースとヘカテーの子だという。ステーシコロスは『スキュッラ』(F 13)の中で、スキュッラはラミアの一種の娘だと謂う。

F43
SCHOL. VH Od. XVII 207「作りなされた美しき流れの泉……ここから市民たちは水を汲む。これを作りしはイタコス、ネーリトス、ハタマタポリュクトール」。
 プテレラオスの子イタコスとネーリトスは、ゼウスからその氏を得、ケパレニアに住んだ。彼らを満足させたその一族に自分たちの習慣を残した後、イタケーにたどり着いた。そしてある場所が、周囲の土地よりも高いため、集住に適しているのを見て、そこに定住して、イタケーを建設した。かくて、この島はイタコスにちなんでイタケーと称され、そばにある山は、ネーリトン山にちなんでネーリトンと〔称された〕。この歴史はアクーシラーオスによる。

不確実断片と疑わしいもの

F44
SCHOL. PINDAR. O VII 42a:
 ピンダロスは、トレーポレモスの母の話を、この詩人とは逆に報告している。すなわち、ホメーロス(Il. II 658)は、彼女のことをアステュオケーと呼び、アクトールの娘であることにしたがって、その箇所で、「彼を生んだのがアステュオケイア」と謂っている。どうやら、ピンダロスは、アカイア人の(?)歴史書を入手したことがあるらしい。というのは、その人が次のように系譜を物語っているからである。「ヒュペロケーの子がエウリュピュロス。その子がオルメノス。その子がペレース。その子がアミュントール。その子がアステュダメイアで、トレーポレモスの母である」。そしてアミュントール自身も、氏素性はゼウスにまでさかのぼる。アミュントールはゼウスの子だと言う人たちもいる。

F45
SCHOL. THUKYD. I 51, 4「アンドキデース」
 十大弁論家たちの一人だと、アクーシラーオスが謂う。

偽作

F46
JOSEPH. AJ I 108:
 ヘーシオドス(F 256)とヘカタイオス(1 F 35)とヘッラーニーコス(4 F 202)とアクーシラーオス……古代人たちは1千年生き延びたと記録している。(ヘカタイオス F 35参照)。

2007.10.16. 訳了。


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