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back.gif第2弁論


Lysias弁論集



第3弁論

シモンに対して 弁明






[解説]



 「遊女を持つのは快楽のため、妾を持つのは日々の身のまわりの世話をさせるため、妻を持つのは、嫡子をもうけるためであり、内向きのことに対する信頼に足る守り手を手に入れるため」(伝デモステネス弁論、第59番「ネアイラ告発」122)。

 そして、おのが命を捨てて顧みぬくらいに純粋な恋愛のために、ギリシア人たちには少年愛(paid-erastia)があった。これは、要するに、成人男子と未成年男子との間の同性愛にほかならず、恋する側の成人は愛者(erastes) 、恋される側の未成年は愛童(paidika) と呼ばれていた。プラトンの文才は、少年愛が有する恋愛感情の美しさを活き活きと描き出している〔例えば、『カルミデス』『リュシス』『酒宴』〕。

 しかし、ギリシアの同性愛は、日本の若衆道が武士の華であったのと同じく、アテナイ市民団というものが、実は、戦士集団にほかならなかったことの、ひとつの証左だといえるかもしれない。そして、若衆道も少年愛も、時には人々に称揚されさえしたが、それが「表の文化」になることは決してなかった。アテナイにおいては、同性愛による売春を行った者は、一切の公職から排除されていた。おそらく、破廉恥罪の一種として、市民権の部分的喪失を招来したのであろう。政界進出を志していた第3弁論の話し手にとっては、この告訴は相当な痛手であったに相違ない。

 さて、プラタイア人の未成年(おそらく、奴隷であろう)テオドトスをめぐって、二人の愛者――シモンと「私(氏名不詳)」が争い、争いはついに傷害事件にまで発展した。しかし、双方ともに訴え出ることはしなかった。ところが、事件後、4年も経ってから、意外にも、シモンが「私」を殺人未遂の罪でバシレウスに訴え出た。告訴事由は、おそらく、〃愛童テオドトスに貸し与えた三百ドラクマを略取せんと謀り、愛童との仲を裂いて、これを味方につけ、殺害の意図をもって重傷を負わせた〃というような内容であったと考えられる。

 本弁論は、これに対する被告「私」の弁明であるが、争点は二つ――1)殺害の意図(pronoia) はあったのかどうか、2)どちらが先に手を出したのか、である。

 殺害の意図をもって傷害を与えた場合は、アクロポリスの西方の丘にあるアレイオス・パゴスの法廷で裁かれる。有罪となれば、国外追放となるであろう。財産没収は免れるが、それは、傷を受けた被害者に充分な償いをするためである。

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