第13話

セイレーン(seiren)たちと馬身ケンタウロス(hippo-kentauros)たち


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 預言者イザヤは、「悪霊たちやセイレーンたちやハリネズミたちがバビュロンのなかで踊るであろう」〔イザヤ、第13章21-22〕と告げた。自然窮理家はセイレーンたちや馬身ケンタウロスたちについて言った。セイレーンたちといわれるのは海にいる動物であるが、芸神(Mousa)たちと同じく、節よき声で歌い、近くを航行する者たちが、彼女らの歌を耳にすると、海の中に身投げをして、亡くなる。また、臍に至るまでの半身は人間の姿をしているが、それ以外の半身はガチョウの姿をしている。同様に馬身ケンタウロスたちも、半身は人間の姿をしているが、胸から下の半身は馬の形をしている。

 かくのごとくありとある二心ある男も、その生活の全般にわたって安定なき存在である〔ヤコブ、第1章8〕。教会に集まる連中も何人かはいるが、外見は敬虔な様子をしていても、その〔敬虔さの〕力は否定し〔第二テモテ、第3章5〕、教会の中では人間であっても、ひとたび教会に別れを告げるや、獣になるのである。されば、こういった連中は、セイレーンたちや馬身ケンタウロスたちといった敵対者たち — わたしが言うのは、権力者たちや異端的な嘲笑者たちということ — の顔つきをしているのである。なぜなら、自分たちの甘言や美辞によって、あたかもセイレーンたちのように、純朴な人たちの心を欺くからである〔ロマ、第16章18〕。「悪しき交わりは、有用なならわしを損なう」〔第一コリント、15章33〕。

 かく美しく、自然窮理家はセイレーンたちや馬身ケンタウロスについて言った。





 

第13話 再話 セイレーンたちと馬身ケンタウロスたち

 「悪しき交わりは、美しきならわしを損なう」と、神の使徒は主張する。自然窮理家はこう言った、 — 牡・牝、ある動物がいると言われる。牡は臍に至るまでが人間だが、残りは馬である。同様に牝も、臍に至るまでは女に似ているが、残りはガチョウの外見をしていて、これはセイレーンと言われる、と。「歌はセイレーンたちのもの」とヨブは主張する〔出典不明〕。

 これこそが、敵対者たる権力者たちや神を知らない者たちや異端的なペテン師たちの顔つきをしている所以である。というのは、偽善に満たされたような者たちや、ペテン師たちや誘惑者たちがいて、彼らは神の教会に潜り込み、自分たちの甘言でもって純朴な人たちの心を惑わすような連中だからである。むしろ、わたしたちは連中の偽りの教えに欺かれないよう、連中を避けよう。というのも、これらは動物であると言われているが、じつはさにあらず、悪霊の精神の幻影にすぎず、同様にペテン師たちや偽キリストたちの虚言も欺瞞にすぎないからである。すなわち、外見は敬虔な様子をしているが、その力は否定するのである。




 ケンタウロスといえば馬身と思っているわれわれにとって、"hippo-kentauros"とは贅語のようであるが、自然究理家には、"ichthyo-kentauros"〔魚身ケンタウロス。トリトーンのこと〕と区別するために必要であると感じられたらしい。

seiren.jpg  自然究理家の依拠する旧約聖書は七十人訳聖書であるが、ここにセイレーンたちとケンタウロスたちとが同時に登場する。
イザヤ書、第13章21-22
21 そして、そこには
 獣たちが休らい、その住処は騒々しさに満たされ、
 またそこに、セイレンたちが休らい、ダイモンたちもそこで踊り、
22 驢馬ケンタウロス(ono-kentauros)たちも
 そこに住みつき、ハリネズミもおのが住処で
 巣篭もりをするだろう。その時はすぐにして、遅延することはない。

第34章11-14
11 また、鳥たちやヤマアラシたちやトキたちやオオガラスたちもそこに巣くい、
 〔主は〕荒れ野の測り縄をそこの上に張られ、
 驢馬ケンタウロス(onokentauros)たちもそこに住むであろう。
12 この地の支配者たちはいなくなるであろう。
 なぜなら、この地の支配者たち、この地の王たち、この地の最も大いなる者たちも滅びに至るであろうから。
13 そして彼らの都城には、そしてまたその砦の中にも、
 いばらが生え、セイレンたちのねぐら、駝鳥の庭になるだろう。
14 そしてダイモンたちは驢馬ケンタウロスと出会い
 彼らはお互いに呼び交す。そこに驢馬ケンタウロスは
 休らうであろう、自分たちの休み所を見い出すからである。
 セイレンはヘブライ語「タン」の訳語に充てられているが、「このタンという語はつねに、荒れ野に棲息するある種の動物を指すのに使われており、たいていはヤアナー(ダチョウ)やイー(ジャッカル?)と関連して登場する。……タンにあたるシリア語は《ジャッカル》(荒れ野で独特な悲しげな遠吠えをするので有名な獣)を意味する。タンという語の出てくる箇所はいずれも、ジャッカルかそれに近い種と解釈するのが最も妥当ではないかと思われる」(『聖書動物大事典』p.152)。
 驢馬ケンタウロスの方は、ツィイームの訳語であるが、これは「乾燥地や荒れ野に棲息するさまざまな動物」つまりジャッカル、ハイエナなどを指すと考えられている(『聖書動物大事典』p.63)。

 いずれにしても、ここでの自然究理家の関心は、実際に何を指すかではなく、異種二形の合体した動物が、「二心」あるものとして連想されたことにあるといえよう。point.gif第20話「アリライオン」

 画像出典は、Ulysse Aldrovandi(1522-16,5)の『怪物誌(Monstrorum historia)』。リュコステネス(Conrad Lycostenes <1518-1561>)からの採録とある。