第19話
ハゲワシ(gyps)について
美しくも、われらの主にして救主は、福音の中でおっしゃった、「その日には、身重の女たちと乳飲み子をもつ女たちとは不幸である」〔マタイ、第24章19。マルコ、第13章17。ルカ、第21章23〕。自然窮理家はハゲワシについて、高い場所や中空で過ごし、高い岩上や山の端で寝ると言った。
さて、〔ハゲワシは〕身ごもると、インドに行き、子安石を手に入れる。この石は、芯のところが球形になっていて、これを振ると、中に別の石があって振動し、あたかも鈴を振ると響くようになる。そうして、陣痛におそわれても、子安石の上にとまると、難なく産めるのである。
さればあなたも、おお人間よ、聖霊を身ごもったら、理性的な子安石を手に入れなさい。それは、家造りたちに資格審査された人、隅の頭石〔マタイ、第21章42、第一ペテロ、第2章7〕として生まれついた方にして、預言者イザヤが言ったごとく、あなたはこの方の上にとまって、救いの霊を生むのである。「というのは、あなたに対する恐れのゆえに、主よ、わたしたちは身重となり、産みの苦しみを味わい、あなたの救いの霊を産んだのですが、これを地上でしたのです」〔イザヤ、第26章18〕。真に聖なる子安石とはこの石 わたしたちの主イエス・キリスト、両手を使わずに分娩された方、すなわち、人間の種ならぬ処女から生まれた方、そして、子安石が内に別の石を持っていてそれが鳴るように、そのように主の身体も内に神性を持っていてそれが鳴る。
かく美しく、自然窮理家はハゲワシについて言った。
註
ある種のワシが、巣の中に「ワシ石(aetites)」を持っていることについては、プリニウス『博物誌』にある。
「これはいろいろな薬に用いられ、火に焼いても効力を失わない。その石は大きくて、内部にいまひとつの石がある。それを振ると内部の石が瓶の中でのようにからから鳴る」(X_12)。
「ワシの巣の中に見出されるワシ石は、流産を引き起こそうとするすべての奸計から胎児を守る」(XXX_130)。
「ワシ石を生贄にされた動物の皮に包んで、流産を防ぐために、妊娠中の婦人や四足獣の体に護符として付ける。それは分娩の瞬間まで外してはならない。そうでないと子宮の脱垂が起こる。他方、分娩中にそれを外さないと子供が生まれてこない」(XXXVI_151)。
ワシがハゲタカに代えられたところに、自然究理家の属する文化圏の問題を見るべきかも知れない。すなわち、
「驚くべきことに、エジプト人は、非常に重要な二女神〔ネイトとイシス〕の神聖な動物として、この堂々たる猛禽類〔ハゲタカ〕を選んだ。……ハゲタカは雛(ひとつがいに一羽のみのことが多い)を注意深く育て、雛は長いあいだ親鳥の世話になっているため、人間の母親が赤ん坊に示す心遣いと比較されるようになったと思われる。……エジプトハゲワシ(neophron percnopterus)の雌は、テーベではムト女神、エレイティアポリスではネフベト女神の神聖な化身として崇拝されていた。ネイトとイシスも、死者の保護者であるハゲタカと対比されることがある」(『エジプトの神々事典』p.207)。
第2部 第7話「ハゲワシ」の註をも参照せよ。
画像出典、Konrad Gesner『Historiae Animallum』III。