第28話
ヤマバト(trygon)について
雅歌の中でソロモンは証言して言う、「ヤマバトの声がわたしたちの地に聞こえる」〔雅歌、第2章12〕。自然窮理家はヤマバトについてこう言った、 これは単婚種で、すこぶる控えめにして、荒れ地に住まい、人ごみを好まない、と。
そのようにわたしたちの救主も、オリーブ林の山でおすごしになる、[というのはイエスは]ペテロやヤコブやヨハネをお連れになり、[一行は山に登って]、かくて彼らにモーセやエリヤが見え、天上から語りかける声が〔聞こえた〕のである。「これはわが最愛の息子、わたしの心にかなうものである」と〔マタイ、第17章1-5。マルコ、第9章2-7。ルカ、第9章28-35〕。ヤマバトは控えめであることを好み、キリストの担い手たる(christophoroi)気高きことこのうえない人々も、控えめであることを好んだ。「ヤマバトのように、そのように声を出そう、イエバトのように、そのようにまめであろう」〔イザヤ、第38章14〕。「ヤマバトと、ツバメと、野のスズメは、自分たちの行く時を知っている」〔エレミヤ、第8章7〕。[そういうふうにあなたも、おお人間よ]。
美しくも自然窮理家はヤマバトについて言った。
「ヤマバトのように、そのように声を出そう、イエバトのように、そのようにまめであろう」〔イザヤ、第38章14〕。自然窮理家はヤマバトについてこう言った、 すこぶるおしゃべりである。しかし、寡婦になると、亡き夫への思いから殉死し、別の男と交わることはない、と。
だからこの鳥は、キリストに譬えられる。なぜなら、あの方は、わたしたちにとっては、ヤマバトの中でもおしゃべりきわまりない賢明なヤマバトであり、真にさえずるスズメ、天が下に福音のお告げを響き渡らせた方 この方に、花嫁みずからも、すなわち、異教の教会も呼びかける、「あなたのお顔をわたしにお示しください、あなたのお声をわたしにお聞かせください、あなたのお声は快く、あなたのお顔は愛しいゆえに」〔雅歌、第2章14〕。あのお方はイエバト やわらかく、暴虐をおこなうこと真になく、いつわりなきイエバト。なぜなら、あの方の口には、書かれているとおり、いつわりがないからである〔第一ペテロ、第2章22。イザヤ、第53章9〕。
かく美しく、自然窮理家はヤマバトについて言った。
註
ハトの種類については、『動物誌』第5巻13章に詳しい。すなわち
ドバト"peristera"は、普通にハトの一般的名称。
ノバト"peleias"または"peleia"は、ヨーロッパの野生バトColumba oenas(ヒメモリバト)。
モリバト"phatta"は、Columba palumbus, ring-doveで、今でもphasaと言われている。
カワラバト"oinas"は、Columba livia, rock-doveとされる。
コキジバト"trygon"(ポーポー鳴くもの)は、Columba turtur〔現在は、Streptopelia turtur〕, turtle-dove〔右図〕とされる。
〔島崎註(6)-(7)〕
七十人訳では、"trygon"は、ヘブライ語「トール」の、"peristera"は、ヘブライ語「ヨーナー」の訳語に当てている。第35話「ハト(peristera)」参照。
「トール」が定期的な渡りをして、春にもどってくることは、エレミヤ書8:7「ヤマバトもツバメもツルも、渡る時を守る」との記述が見られることからわかる。また、雅歌2:11-12「ごらん、冬は去り、雨の季節は終わった。花は地に咲きいで、小鳥の歌うときが来た。この里にもヤマバトの声が聞こえる」と詠われている。(『聖書動物大事典』p.423)。
ハトが一夫一婦を守ることは、『動物誌』第9巻7章(612b)、「配偶者の一方がやもめにならないかぎり、相手以外の多くのものと交わろうとはしないし、配偶関係を廃棄することもないのである」。
画像出典、Ulysse Aldrovandi『鳥類誌(Ornithologiae hoc est De auibus historiae)』XV。