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back.gifラケダイモン人たちの古習


プルタルコス

ラコニア女たちの名言集




Plutarchus : Apophthegmata Laconica [208b-242d]
底本は、THESAURUS LINGUAE GRAECAE CD-ROM #D



アルキレオニス
 ブラシダスの母親アルキレオニスは、自分の息子が亡くなったとき〔前422年、アムピポリスの戦いで〕、何人かのアムピポリス人たちがスパルタの彼女のもとにやって来ると、息子は美しく、かつ、スパルタにふさわしい仕方で亡くなったのかどうか尋ねた。そこで彼らが褒めちぎり、その勲功たるや、全ラケダイモン人たちの中で最高の善勇の士であったと言うと、彼女は言い返した、「おお、外国の方々よ、たしかにわたしの息子は生まれも育ちも善い子でありました。が、ラケダイモンはあれよりも勝った男たちを多く持っているのです」。


ゴルゴ
1
 王クレオメネス*の娘ゴルゴは、ミレトス人アリスタゴラス**が、イオニア人たちのために〔ペルシア大〕王との戦争を彼に呼びかけ、多くの財貨を約束し、彼が断れば断るほどさらに高額に吊り上げていたとき、「お父さまをだめにさせるつもりです」と彼女が言った、「おお、父上、この外人は。すぐにこの家からこの人を追い出さなければ……」。
 *クレオメネス1世、在位、前525頃-488年。アギス家の王。
 **前497年没。イオニア反乱(前499-492年)の首謀者。

2
 また、あるとき父親が彼女に、ある人に報酬として食べ物を与えるよう言いつけ、「わしに酒を美味にする法を教えてくれたからな」と付け加えると、「すると、おお、父上」と主張した、「お酒がますます飲まれるようになり、飲んだ人たちはますます軟弱に、ますます劣悪な人たちになるということですね」。
3
 また、アリスタゴラスが家僕たちのひとりに履き物を履かせてもらっているのを目撃して、「お父さま」と彼女は言った、「この外国人は手を持っていません」。
4
 また、ある外国人が大いに飾り立てられた衣装をまとって近づいてきたとき、これを押しのけて、「こっちに来ないで」と言った、「女のすることだって出来ない人なんて」。
5
 また、あるアッティカ女に、「どうしてあんたたちラコニア女たちだけは、男たちを支配できるの」と尋ねられて、「だって」と彼女は主張した、「男たちを生んだのは、じっさいあたしたちだけですもの」。
6
 また、夫のレオニダス*がテルモピュライに出陣するのを、スパルタにふさわしい働きをするよう激励しながら、〔自分は〕どうすればいいかと尋ねた。すると彼は言った、「善き男と結婚すること、そして、善き子どもたちを生むこと」。
 *アギス家の王、在位、前488-480年。クレオメネス1世は異母兄にあたる。前480年、怒濤のごとくなだれ込んでくるペルシア軍を、テルモピュライにおいて、手勢わずか300で防戦、ついに全滅。戦死した初めてのスパルタ王となった。


ギュルティアス
1
 ギュルティアスは、あるとき自分の娘の子アクロタトスが、子どもたちのひとりと喧嘩して深手を負って、死んだようになって家に運び込まれ、家族や知己の者たちが泣き叫んでいるとき、「おまえたちは黙ることが出来ないのかい」と彼女は言った。「この子はどんな血筋の生まれなのかを示したのだから」と。そうして、善き人たちは喚くのではなく、治療をもとめるべきなのだと主張した。
2
 また、報せの者がクレタ島から帰り着いて、アクロタトスの死を報告したとき、「ためらいはしなかっただろうね」と彼女は言った、「敵に向かって行ったとき、自分が相手に殺されるときとか、相手を屠るときとかに。わたしにも、国にも、そして子孫にもふさわしい仕方で戦死したと聞くことの方が、より快いことなのだから。たとえ生きていたとしても、未来永劫に悪い〔=臆病〕者であるよりは」。


ダマトリア
 ダマトリアは、息子が怯懦で自分にふさわしくない男と聞いて、それが帰ってきたところを亡き者にした。次の墓碑銘は彼女に帰せられている。〔Anth. Pal. VII 433〕
  法習に違背せしダマトリオスを殺害せしは母、
  ラケダイモンの女がラケダイモンの男を。
1
 別の〔〕ラコニア女は、持ち場放棄した息子を、祖国にふさわしからざる者として亡き者にした。「わたしの孫生(ひこばえ)ではない」と言ってである。彼女に帰せられるのが次の墓碑銘である。〔Anth. Pal. VII 433〕
  消え失せよ、悪しき〔=臆病な〕孫生は闇の中を通って。おまえを憎んで
  エウロタス河は怯懦な鹿のためにさえ流れない。
  無用の犬ころよ、役立たずよ、今すぐハデスに消え失せよ、
  消え失せよ。スパルタにふさわしからぬ者など、わたしは生んだこともない。
2
 他の女は、息子が野戦に斃れたと知って言った。〔Anth. Pal. 229〕
  怯懦な者たちなら泣き喚いてもらえよう。しかしわたしはおまえを、わが子よ、涙なしに
  葬りましょう――わたしの子でもあり、ラケダイモンの子でもあるおまえを。
3
 ある女は、息子が助かったが戦場から逃げたと聞いて、彼に書き送った、「あることについて悪いうわさが広まっています。それを今すすぐか、生きてあることをやめるか、しなさい」。
4
 他の女は、息子たちが戦いから逃げ、自分のもとにやってきたとき、「どこへ」と彼女は言い放つ、「逃げて行くつもりだい、悪い〔=臆病な〕奴隷人足たちよ。もしかして、ここへ――おまえたちが生まれ出た秘所にもぐりこむつもりかい」。〔着物の裾を〕たくし上げて彼らに自分の下腹部を見せながらである。
5
 ある女は息子が接近するのを目撃して、祖国はどんな戦況かと訊いた。そこで、「全滅です」と言うと、彼女は屋根瓦を持ち上げて彼めがけて投げつけ、亡き者にした。「すると、やつらはおまえを悪い報せの者としてわたしたちのところに寄越したのだね」と言いながら。
6
 ある人が母親に兄弟の高貴な死を説明したところが、「そうすると、恥ずかしくないのかい」と彼女が言い返した、「そんな道連れになり損なったってことが」。
7
 ある女が自分の息子たち5人を戦争に送り出し、街の前にたたずんで、戦闘の成り行きやいかにと待ちわびていた。そこにやってきたひとりの男が、彼女が訊いたのに答えて、子どもたちは全員亡くなったと告げたところ、「あたしの訊いているのは、そんなことじゃないよ」と言い返した、「悪い〔=臆病な〕奴隷人足め、いったい祖国の戦況はどうなんだい」。そこで、勝利したと告げると、「そいじゃ、喜んで」と言った、「子どもたちの死も受け入れるよ」。
8
 ある女が息子を埋葬していると、凡庸な婆さんが彼女に近づいて、「ああ、あなた、不運なこと」と言ったところ、「双神にかけて、むしろ美しい運命ですわ」と彼女が言った。「だって、この子を生んだのは、スパルタのために死ぬことで、わたしにとって、そのとおりになったのですもの」。
9
 あるイオニアの女が、自分の薄織物のかなり高価なのを威張っていると、ラコニア女が4人の端正な息子たちを示して、これこそが、生まれも育ちもよい女の手柄であり、これを褒めちぎり、賞賛されるべきことだと主張した。
10
 ある女は、息子が外地で素行が悪いと聞いて、書き送った、「あることで悪いうわさが広まっています。それを払いのけるか、生きてあるのをやめるか、しなさい」。
11
 さらに、似たような話であるが、キオス人たちの亡命者たちがスパルタにやってきて、多くのことでペダリトスを告発した。これを彼の母親テレウティアは呼び寄せて、何を訴えているのかを聞き、彼女には息子が間違っているように思われたので、彼に手紙を送った、「ペダリトスの母より。より善いことを為すか、今あるところに留まるか、しなさい。いずれにしろ、スパルタに救いを求めることは断念なさい」。
12
 別の女は、不正のかどで裁判にかけられる息子に、「わが子よ」と言った、「容疑を自分で〔解消する〕か、生を解消するか、しなさい」。
13
 他の女は、野戦に向かう息子に付き添いながら、「わが子よ」と言った、「一歩ごとに勇徳を思い起こしなさい」。
14
 他の女は、自分の子どもが野戦から帰ってきたものの、足に傷を負い、激痛をうったえたとき、「もしも勇徳を」と言った、「思い起こすなら、おお、わが子よ、痛みはなくなり元気になるでしょう」。
15
 ラコン人が戦争で傷つき、歩くことも出来ず、四肢でいざっていた。その彼が嘲笑をうけて恥じたのに対して母親は、「いったい、どれほど善いことでしょう、おお、わが子よ」と言った、「〔おまえの〕勇ましさを享受することの方が、愚か者たちの嘲笑に恥じ入ることよりも」。
16
 他の女は子どもに楯を手渡しながら、激励して、「わが子よ」と言った、「〔帰るときは〕これを〔持って〕か、〔死傷者として〕この上に〔乗って〕」。
17
 他の女は戦争に行く息子に楯を渡しながら、「この楯は」と彼女は言った、「お父さまがおまえのためにずっと守ってきたもの。だからおまえも、これを守るか、生きていないか、しなさい」。
18
 他の女は、自分の戦刀が短いという息子に向かって言い返した、「一歩〔の踏み込み〕を足しなさい」。
19
 他の女は、自分の息子が野戦で善勇の士らしく戦死したと聞いて、「だって、わたしの子ですもの」と言った。しかし、他人の〔息子〕が、怯懦な振る舞いで助かったと聞いて、「だって、わたしの子じゃありませんもの」と言った。
20
 別の女は、息子が戦闘で、配置された持ち場で戦死したと聞いて、「それを取り除いてください」と言った、「その子の持ち場には、この兄弟を充ててください」。
21
 他の女は、祭列を勤めている最中に、野戦のさいに息子が勝利したものの、深手を負って死んだと聞いた。それでも花冠を外そうとせず、近くの女たちに向かって威張って言った、「どんなにずっと美しいことでしょう、ああ、お友だち、野戦で勝利して亡くなることの方が、オリュムピア祭で勝ち残って生きることよりは」。
22
 ある人が妹に、彼女の子どもの高貴な死を説明したとき、妹が言い返した、「あの子のために喜べば喜ぶほど、あなたのためには残念でなりません、勇徳にあふれる道づれに後れをとったのですもの」。
23
 ある人がラコニア女に、不倫に応じる気があるかどうか使いを遣ったところ、彼女が言った、「子どものときは、父親に聴従するよう学び、またその通りしてきました。妻となってからは、夫に〔聴従するよう学び、またその通りしてきました〕。だから、もしも義しいことをその方がわたしに勧めておいでなら、最初に夫に打ち明けさせてくださいな」。
24
 貧しい乙女が、どんな持参金を結婚相手に与えるのかと尋ねられて、「父祖伝来の」と言った、「慎み深さを」。
25
 ラコニア女が、夫に言い寄ったことがあるかどうか尋ねられて、「わたしがではなく」と言った、「夫がわたしに」。
26
 ひそかに私通したある女が嬰児を始末したが、一声も発することなく我慢したので、父親はもとより近くにいた他の多くの人たちも出産に気づかなかった。品の良さが無様さに直面すると、苦痛の大きさに勝利したというわけである。
27
 ラコニア女が〔奴隷に〕売られ、何の知識があるかと尋ねられたとき、言った、「誠実なありかた」。
28
 他の女が槍の穂先にかけられた者となり、同じように尋ねられたとき、「家をよく取り仕切ること(eu oikein oikon)」と言った。
29
 ある女がある人に、おまえを買い取ったら、善い女になるかどうか尋ねられ、「あなたが買い取れなくても」と言い返した。
30
 他の買われた女は、何の知識があるかと触れ役が訊いたとき、「自由女のありかた」と言い返した。さらに、買い手が、何かにつけて自由女に合わないことを彼女に言いつけたとき、「このようなご自分の所有物に物惜しみしたことで嘆くことでしょうよ」と言い返して、みずからを抹殺した。

1999.05.04 訳了

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