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ルゥキアーノスとその作品

子音の訴え

Divkh Sumfwvnwn
(Lis Consonantium (or Iudicium Vocalium))




[解説]
 この模擬の告発は、おそらくはルゥキアーノスの作品ではなく、彼の時代よりよほど後代のものであろうが、アッティカ語においては、本来は二重のSで表記される多くの単語が、やがては二重のTで発音され表記されるようになったという事実に基づいており、付随的に、ιがρに、γがκやλに、ζやχやρがσに、τがδ、θ、ζに代用される語に言及する。適切に訳出できないのは、英語に同種のものを有していないからである。(A. M. Harmon)

 邦語訳出にあたっては、近藤司郎氏の訳を下敷きにさせていただいた。多謝。



"t"
子音Σの私訴:七母音法廷においてΤに対し

[1] パレーロン区のアリスタルコスが執政官のとき、ピュアネプシオーン月〔10/11月〕の7日、ΣがΤを相手取り、二重Τで発音されているすべての単語を奪われたと申し立てて、暴行と強盗の廉で、七母音法廷に公訴を提起した。]

[2] 母音-裁判員諸君、私の財を消尽し、権利なきところに舞い降りてくるこのΤによって蒙る不正がわずかであるかぎりは、私が感情を害することなく、言われた事柄のいくつかも聞き流してきたのは、諸君もご存知の、諸君ならびに他の字母諸君に対して守っている私の節度のせいであります。しかるに、私がしばしばおとなしくしてきたことに満足しないどころか、今はもはやより多くをさえ無理強いする、強欲(pleonexiva)と無法(ajnomiva)もこれほどまでに至っては、両者をともに知っている諸君に対し、今これの執務審査を申し立てるのも、やむを得ません。かてて加えて、私が締め出されるという小さからぬ恐怖が私に襲いかかるのです。というのは、既成事実にそのつどより大きなものを付け加えて、私をみずからの場所からすっかり締め出し、その結果、おとなしくしていたら、ほとんど、文字の中に数えられることもなく、騒音に等しい有様になるでしょうから。

[3] そこで、義しいのは、今裁きの席にある諸君ばかりか、自余の文字たちも、その企てに対する何らかの守りをすることであります。なぜなら、自分の持ち場から他者の持ち場への強行突破を、望む者たちに出来、これを諸君が — 諸君なしには意味あることは何ひとつ書かれることは断じてないのだ — 容認するなら、いかなる仕方で文字配列が最初に定められた掟を有するのか、私は見ることができないからである。いや、何らか義ならざることを容認するほど、諸君がそれほどまでの無頓着と看過に陥っているとは決して思っていないし、諸君がこの係争をなあなあで処理しようとしても、不正されている私が見のがすこともないのです。
[4] ほかのものたちが違法行為を始めたとき、その時すぐにその敢行が打倒されしたらよかったのに。そうすれば、今に至るまで、ΛがΡと、kishvris〔軽石〕やkefalargiva〔頭痛〕をめぐって争論して争うことはなく、ΓがΚと喧嘩して、gnavfalla〔洗い張り屋〕でgnavfalla〔枕〕をめぐって再三すんでのところで殴り合いになることもなく、またΛとも争いをやめていたろう。彼〔Λ〕からmovliV〔やっとのことで〕が取り上げられたり、mavlista〔何よりもまず〕が盗みとられたりして。また自余のものたちも、不法の混乱の開始をやめたことであろう。というのは、各人は、自分の得た持ち場に留まっているのが美しいのである。権利のないところへの越権は、正義を破壊するものの所行である。
[5] これらの法習をわれわれに最初に定めたのが、島民のカドモスであれ、ナウプリオスの子パラメーデースであれ — さらには、シモーニデースにこの先慮を結びつける人たちもいるが — 、持ち場には優先席が確定しており、何が一番であり、二番であるかを彼らは定めたばかりではなく、われわれ各個が有する性質や能力をも彼らは洞察したのである。そして諸君〔αειουηω〕に、おお、裁判員諸君、より大きな名誉を授けたのは、自分自身で音声することができる故であり、半母音〔λρμνσ〕に次席を〔授けたの〕は、聞かれるまでに付け足しが必要だからである。だが、全部の末席を、全〔字母〕の9つの部分〔πτκφθχβδγ〕が持つよう規定したのは、これらには自身では音声さえ付け加わらないからである。かくして、これらの法習を守るのが道理なのである。

[6] ところがこのΤは — 呼ばれている語よりももっとわるい語で彼の名を呼ぶことが私はできないのですが — 神々にかけて、諸君の中のお二人、AとUという、善にして、見られることが本分の方々の援助がなければ、単独では聞かれることもできない。にもかかわらずこやつは、それまでの暴行以上の暴行で私に不正したのである。父祖伝来の名詞や動詞から〔私を〕追放し、同じく接続詞と同時に前置詞からも追い出し、その結果、場外れな強欲にもはや耐えられないのです。そこで、始まりはどこから、またいかにしてか、言うべき刻です。

[7] かつて私はキュベロス — それは感じの悪くない小国で、アテーナイ人の植民市だという — に外遊したことがあります。連れだったのは、最善の隣人である最強のΡでした。ある喜劇作家のところに泊まりました。彼はリュシマコスと呼ばれ、生まれはもとボイオーティア人のように見えたが、アッティカの中心部の出身と言ってもらいたそうでした。まさしくこの異邦人のところで、このΤの強欲を私は目撃したのです。もちろん、彼の試みがわずかであるかぎりは、〔tevssara(4)を〕tevttara、〔tessaravkonta(40)を〕tettaravkontaと敢言したり、さらにまた、〔shvmeron(今日)を〕thvmeronや、これに同類のものらを、独自のものだという気になって、私から共に生まれ共に育った文字たちを奪い取ったとしても、慣例だと私は思い、聞いたことは私にとって我慢でき、それらにさして咬みつくことはなかったであろう。
[8] しかるに、それらから始まって、図々しくも、〔kassivteron(錫)を〕kattivteron、〔kavssuma(靴底)を〕kavttuma、〔pivssa(瀝青)を〕pivtta、しかして、対面も何もなく、basivlissa(女王)をもbasivlittaと名づけるに及んでは、これらのことに度はずれて腹が立ち、そのうちにsu:kaをもtu:kaと名づける者が現れるのではないかという恐れに満たされたのです。なにとぞ、ゼウスにかけて、意気消沈し、救援者たちにも打ち捨てられた私の、義憤を御宥恕ください。というのは、危険は些細なことや偶然のことにかかわっているのではありません。私にとっては、知己であり、共に暇つぶしをしてきた文字たちを奪われているのですから。おしゃべりな鳥、私のkivssa(カケス)を、いわば胸のど真ん中で強奪して、彼はkivttaと名づけたのです。また、私のfavssa(モリバト)を、nhvssai(アヒルたち)やkovssufoi(クロウタドリたち)もろとも奪ったのです、アリスタルコスが禁じているのに。さらにまたmevlissa(蜜蜂たち)もその少なからざるのを引き剥がしました。そしてアッティカへ赴き、そのど真ん中から、諸君やその他の綴りたちが目撃するなか、無法にも+UmhssovV(ヒュメーッソス山)を強奪したのです。
[9] しかし、以上のことを私が言うのは何故か。彼はQessaliva全土から私を追放し、Qettalivaと言うべきだと主張し、私に対してあらゆるqavlassa(海)を閉ざして、菜園のseuvtlia(砂糖大根)さえ物惜しみし、まさしく諺に言われるとおり、pavssaloV1本さえ私に残さない有様なのです。

 私が我慢強い文字であることは、諸君みずからも証言していただきたい。smavragdoV(エメラルド)を引き剥ぎ、Smuvrna(スミュルナ)全土を取り上げたΖを決して訴えることをしなかった私のために、また、あらゆるsunqhvkh(協定)を踏みにじり、そういったことのsuggrafeuvV(歴史著述家)としてテュキュディデースをsuvmmacoV(味方)にもつΞを〔訴えることもない私のために〕。というのは、私の隣人Ρが病気になり、自分のところに私の〔mursivnh〕をmurjrJivnhとして植えかえたばかりか、このとき憂鬱のせいで私のkovrsh(横っ面)をはたいたことをも容赦した。私とはそういう者なのです。
[10] それにひきかえ、このΤは、残りの〔文字〕たちに対しても自然本性的にいかに暴力的か考察しましょう。他の文字たちに手出ししなかったどころではなく、ΔにもΘにもΖにも、ほとんどすべての字母に不正したということのために、不正された当の文字たちを私のために召喚してください。お聞きください、おお、母音-裁判員諸君、Δがこう言っているのを。「彼はわたしからejndelevceia(粘り強さ)を奪い、あらゆる法にそむいてejntelevceiaと言われることを要求しています」。Θが涙を流し、頭の髪をかきむしっているのは、kolokuvnqh(カボチャ)くすねられたからです。Ζからは、surivzein(口笛を吹く)とsalpivzein(トランペットを吹く)〔を奪われ〕、その結果、もはや彼には文句を言うgruvzeinこともできない〔と言っているのを〕。何びとがこれらのことに辛抱できるであろうか。それとも、この極悪非道のΤにいかなる裁きであればこと足りるのであろうか。

[11] あまつさえ、部族を同じくする字母の種族に不正するばかりでなく、人間族に対しても、すでに性格を変移させてしまったのです。というのは、彼ら〔人間族〕が舌で素直に振る舞うことを許さないのですから。むしろ、おお、裁判員諸君、人間の事が、途中で、もう一度、舌のことを私に思い出させたのですが、彼は舌の役割から私を追い払い、glw:ssaglw:ttaにしたのです、ああ、真に舌の病たるΤ! しかし、彼のことに移るのはまたの機会にして、人間たちに過ちをおかしている件について、私は人間たちに賛意を表しよう。というのは、彼は呪縛のようなもので縛りあげて、彼らの発音を引き裂こうと企んでいるのですから。そして、ひとは何か美しいものを見ると、これを美しい(kalovn)と云いたいのに、やつが忍びこんで、talovnと言わざるをえなくするのです。あらゆる場合に優先席を得ることを要求して。さらに、別の人は、klh:ma(小枝)について対話しようとするが、やつは — 真にtlhvmon(不逞なやつ)だから — klh:matlh:maにしてしまうのです。また、普通の人たちに不正するばかりではなく、すでに大王 — 大地も海も道を譲り、自分たち〔大地も海も〕の自然から離脱してしまったと伝えられるが — 、やつはその〔大王〕にさえ策謀して、KurovV(チーズ)か何ぞとして表明したのだ。

[12] やつが人間たちに加えた不正は、発音に関するかぎりでも、以上のごとくである。しからば、行動(e[rgon)においてはどうか。人間たちは泣き声をあげ、自分の運命を嘆き悲しみ、カドモスを呪うことしばしばです。字母の種族にΤを持ちこんだとして。なぜなら、潜主たちはこやつの身体に導かれて、やつの体形を真似て、ついにはそのような形に木材を工作して、これの上に人間を磔にするという。またこやつにちなんで、この邪悪な工作物も邪悪な同名を結びつけたという。されば、以上すべてのことからして、Tはいかほどの死刑にあたいすると諸君はお考えになるであろうか。私としては、Tの罰に残されるのが義しいのはただひとつ、おのれの形によって償いをすること、これのみだと思います。

//END
2011.11.27.

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