title.gifBarbaroi!
back.gifソポニアの黙示録

原始キリスト教世界

ギリシア語のバルクの黙示録




[解説]

 本書は第三バルク書とも言われ、スラブ語のエノク書やシリア語のバルクの黙示録と同様にバルクの天上旅行のことを述べ、第一の天から始めて第五の天を旅行する所で中断されている。初代教会においては、オリゲネスもこの書に言及しているが、実際に発見されたのは,1896年にその写本が大英博物館で発見されジェームス(M.R.James)がこれを公刊した(Apocrypha Anecdota, II. Texts and Studies, V. 1, 1897)。本書はユダヤ教の立場から書いたものであるが、最後の晩餐における神(キリスト)の血としてのぶどう酒などに言及しているので、キリスト教徒の手も加わっている。著者は、シリア語のバルクの黙示録を知っていたようであるから、紀元第2世紀中に書かれたものであろう。著者は当時のノスティシズムまたはギリシァ的な混合宗教思想の影響を受けていたと察せられる。(『新キリスト教事典』)。

 邦訳は、土岐健治によるものが、『聖書外典偽典 別巻』補遺I(1979.11.10.、教文館)に収録されている。





[底本]
TLG1154
APOCALYPSIS BARUCH
(a. A.D. 3)
1 1
1154 001
Apocalypsis Baruchi Graece (iii Baruch), ed. J.C. Picard, Apocalypsis
Baruchi Graece [Pseudepigrapha veteris testamenti Graece 2. Leiden:
Brill, 1967]: 81-96.
5
(Cod: 3,257: Apocalyp., Pseudepigr.)





ギリシア語のバルクの黙示録(第3バルク)』

"t"
バルウクの黙示録

"p"

1
 神の命令によってバルウクが見た口に言えない事柄に関する彼の話と黙示。主人よ、祝福したまえ。
2
 バルウクの黙示、彼はGel...河のほとりにいる、ヒエルウサレームの捕囚を泣きながら、このときアビメレクも神の手によってアグリッパの地所に庇護されていた。そしてこの人物〔バルウク〕は、聖の聖なるもののあったところ、美しの門のほとりに腰をおろしていた。

[1]
1

 「ああ、今こそ、わたしバルウクは、民についても、ナブウコドノソール王が神の都が破壊されることを神に容認されたことをも、わが思いに泣いて言います。
2
 『主よ、何ゆえあなたの葡萄畑を焼き払い、これを荒廃させたもうたのですか? なぜにこのようなことをなさったのですか? いったい何のために、主よ、ほかの教育によってわたしたちに報いることなく、このような族民にわたしたちを引き渡されたのですか? 彼らは罵って言っています。「やつらの神はどこにいるのか?」と』。
3
 すると、見よ、わたしが泣き叫び、そういったことを言っているとき、わたしは見た、主の天使がやってきて、わたしに言うのを。『悟れ、おお、そなた、大いに愛されている者よ、そうして、ヒエルウサレームの救いについてそれほどまでに気にかけるでない、主なる全能の神がそう言われているから。
4
というのは、わたしをそなたの前におつかわしになり、神のすべてのことをそなたに告げ教示するようになさったのだから。
5
つまり、そなたの祈願はその御前に聞きいれられ、主なる神の耳に届いたのである』。
6
 まさにこういうことをわたしに云うので、わたしは沈黙した。さらに天使がわたしに言う。『神を苛立たせることはやめよ、そうすればこれよりもっと大きなほかの神秘をそなたに教示しよう』。
7
 そこでわたしバルウクは云った。
 「主なる神にちかって、わたしに教示してくださり、あなたから言葉を聞けるなら、これ以上の饒舌はやめましょう。神が裁きの日にわたしに裁きを下したもうでしょう、今後話すようなことがあれば」。
8
すると諸軍の天使がわたしに云った。『こちらへ、そうすれば神の神秘をそなたに教示しよう』。

[2]
1

 そしてわたしを連れて、わたしを導いた、そこは天が据えつけられているところ、誰ひとり渡ることのできない、神が据えられたありとあらゆるものに抜きん出た馴染みのない風でさえ〔渡ることの〕できない河があるところである。
2
 さらにわたしを連れて、第一天に導き、巨大な門をわたしに示した。そしてわたしに云った。『これを入ってゆこう』。そこでおよそ30日行程ぐらいを翼に乗ったようにしてわたしたちは入っていった。
3
 すると〔天使は〕天の内側の平野をわたしに教示した。なるほど、そこには人間が住んでいて、彼らの顔は牛の顔、角は鹿の顔、足は山羊の足、腰は子羊の腰をしていた。
4
 そこでわたしバルウクは天使に尋ねた。『わたしに告げてください、あなたにお願いです、わたしたちが旅してきた天の厚さはどれくらいですか、あるいはその広さはどれくらいですか、あるいは平野はどれくらいですか? わたしも人間たちの息子たちに話して聞かせられるように』。
5
 すると天使 — この天使の名はパマエール — がわたしに云った。『そなたが眼にしたあの門は天の門、大地から天までの隔たりは、その〔天の〕厚さと同じくらい。また、そなたの眼にした平野の厚さも同じくらいだ』。
6
 さらに諸軍の天使が再びわたしに言う。『こちらへ、そうしたらもっと大きな神秘をそなたに教示しよう』。
7
 そこでわたしが云った。『あなたにお願いです、この人間たちは何者かわたしに示してください』。するとわたしに云った。『これは神に挑戦する塔を建てた連中だ。そういうわけで主が連中を封じこめなさった』。

[3]
1

 さらに主の天使はわたしを連れて、第二の天にわたしを導いた。そうしてそこでもわたしに最初の扉と同じような扉を教示した。そして云った。『これを入ろう』。
2
 そこで翼をつけなおして60日行程ぐらいわたしたちは入っていった。
3
 そしてそこでも平野をわたしに示したが、やはり人間で満ちていった。しかし彼らの外観は犬そっくり、足は鹿の足をしていた。
4
 そこで天使に尋ねた。『あなたにお願いです、主よ、云ってください、この連中は何者ですか』。
5
 すると云った。『この連中は、塔を作る相談をした者たちです。そなたが眼にした連中こそ、数多の男女をレンガつくりに追いたてた。そのさい、ひとりの女などは、自分が出産する刻にレンガつくりをして、中断することを容赦されず、自分の生子を亜麻布の中に入れて運び、レンガつくりをするありさまだった。
6
 そこで主が彼らに現れ、かれらの舌を変えられた、連中が塔を463ペーキュスまで建造したときからこのかた。
7
 それでも〔連中は〕たがねを取って、懸命に天に穴を開けようとして言った。「天は陶土でできているのか青銅でできているのか鉄でできているのか、この眼で見てみよう」。
8
 それを見て神は連中を容赦なさらず、盲目と舌の取り替えによって連中をお打ちになり、連中をごらんのとおりになさったのである』。

[4]
1

 そこでわたしバルウクは云った。「見よ、主よ、大きな驚くべきことをわたしに示しました。今こそわたしに、主のちからですべてをお示しください」。
2
 すると天使がわたしに云った。『こちらへ、前進しよう』。<…欠損…>天使と連れだって、その場所からおよそ185日行程ぐらい。
3
 そしてわたしに平野と、見てくれが岩のようなヘビを示した。さらにわたしに冥府を示した、その〔冥府の〕姿は暗黒で、穢れていた。
4
 そこで〔わたしが〕云った。「あのドラコーンは何ですか? そして、あの〔ドラコーン〕のまわりの荒々しい者は何者ですか?」。
5
 すると天使が云った。『ドラコーンは、人生を悪くすごした連中の身体を食うもの。つまり、連中によって養われているのです』。
6
 またこちらは冥府、これもまたあれ〔ドラコーン〕に似たものだが、あいつ〔ドラコーン〕ときたら海の水をおよそ1ペーキュスほども飲む、それでもそれ〔海〕の水が減ることはない」。
7
 バルウクが云った。『いったいどうしてですか?』。すると天使が云った。『聞くがよい。主なる神は330の河をお作りになった、そのうちすべての中で第一等は、アルピアス、アビュロス、ゲーリコスである。じつにこれらによって海の水は減ることがないのだ』。
8
 そこでわたしは云った。「あなたにお願いです、わたしに示してください、アダムを惑わせた木は何ですか?」。
 すると天使が云った。『葡萄の木だ、これを植えたのは天使サマエールだが、そのことに主なる神はお怒りになった。そして彼と彼の植え木とを呪われた。だからこそ、あの時それに触れることをアダムにお許しにならなかったわけだ。だからこそまた悪魔が妬んで、自分の葡萄の木で彼を欺いたのだ』。
9
 そこでわたしバルウクは云った。『それでは、葡萄の木がそれほどの悪の原因であり、神から呪いを受け、初めに造られたものの堕落のもとであるからには、どうして、今ではこれほどの有用性をもっているのですか?』。
10
 すると天使が云った。『そなたの質問は正しい。神が大地に大洪水を起こされ、あらゆる肉と40万9000の巨人たちを滅ぼし、水位が高山の上15ペーキュスまでも上昇したとき、水は楽園の中まで浸水し、花という花をダメにした。ただし、〔水は〕ブドウの蔓だけは完全に区別して、外に投げだした。
11
 そして大地が水から出現し、ノーエが箱船から出てきたとき、見つけた植物から植え始めた。
12
 こうして蔓も見つけ、取って、それがいったい何なのか心に思案した。そこでわたしが行って、それにまつわることを彼に云った。
13
 すると彼が云った。「いったいこれを植えたらいいのですか、それともどうすれば? アダムがこれのせいで破滅したというなら。わたし自身もこれのせいで神の怒りを招きたくはない」。そしてそう言うと、それをどうしたらいいか神が自分に啓示してくださるよう祈った。
14
 そして40日間にわたる祈りを成就し、あれこれお願いして、泣いて云った。「主よ、この植物についてどうすればいいかわたしに啓示してくださるようこいねがいます」。
15
 そこで神は天使サラサエールをおつかわしになり、彼〔ノーエ〕に云った。「起て、ノーエよ、その蔓を植えよ、主が次のように言われるゆえに。『この苦さは甘さに変えられるであろう、これの呪いは祝福になるであろう、これから生じるものは神の血となるであろう、そしてこれによって人間どもの種族が罰を受けたごとく、今度はイエースウス・クリストスのおかげで、これ〔葡萄〕によって復活(anaklesis)と、楽園への入場を授かることになろう』」。
16
 こういう次第で、知りなさい、おお、バルウクよ、アダムがこの木のせいで罰を受け、神の栄光を剥ぎ取られたごとく、そのように今の人間たちも、これから生じる酒に飽くことをしらなければ、アダムよりもっとひどい違反を犯すことになり、神の栄光から遠く隔てられ、永遠の火にみずからをゆだねることになろう。
17
 さもなければ、あらゆる善がこれによって生じる。というのは、これをがぶ飲みする者たちは、次のようなことをするのだ。兄弟も兄弟を憐れまず、父も息子を、生子も両親を〔憐れまず〕、酒の災いによって、ありとあらゆることが生じる、例えば、殺人、姦通、姦淫、偽誓、盗み、そしてそういったことに類似のことどもである。そしてこれによって善はなにひとつ正しくなされることがない』。

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[5]
1

 そこでわたしバルウクは天使に向かって云った。『ひとつの言葉をあなたにお尋ねしたい、主よ。
2
 ドラコーンは海の水を1ペーキュス飲むとあなたがわたしに云われたからには、それの腹はいったいどれくらいなのか、わたしに云ってください』。
3
 すると天使が云った。『こいつの腹は冥府。そして、30人の男によって鉛弾が飛ばされるぐらい、やつの腹はそれぐらいだ。では、来なさい、これよりもっと大きな業をもそなたに示せるように』。

[6]
1

 そしてわたしを連れて、太陽が進み出るところにわたしを導いた。
2
 そして、下に火の燃える四人の御する戦車をわたしに示した。そして戦車の上には、火の冠をかぶった人が座っており、戦車は40人の天使たちによって引かれていた。そして見よ、太陽の前を、9つの山のように、鳥が飛びまわっていた。
3
 そこで天使に云った。『あの鳥は何ですか?』。するとわたしに言う。『あれは人の住む世の守護者です』。
4
 そこで云った。『主よ、人の住む世の守護者とはどういう意味なのですか? わたしに教えてください』。
5
 すると天使がわたしに云った。『この鳥は太陽に沿って飛びまわり、両翼を拡げて、その〔太陽の〕火と燃える光線を受けとめているのです。
6
 もしもそれを受けとめなければ、人間の種族はもとより、ほかのどんな生物も助からないであろう。むしろ、神はこの鳥に〔そうするよう〕指図なさったのです』。
7
 すると、〔鳥は〕自分の両翼を広げた、そしてわたしは見た、その右の羽に、およそ4000モディオスぐらいの大きさを有する打穀場ほどの巨大な文字を。しかも文字は黄金の文字であった。
8
 すると天使がわたしに云った。『あれを読みなさい』。そこで読んだ。そして次のように〔読みあげて〕言った。『われを生みしは地にもあらず、天にもあらずして、火の翼われを生む』。
9
 そこでわたしは云った。『主よ、この鳥は何ですか、そしてその名は何ですか?』。
10
 すると天使がわたしに云った。『これの名はポイニクスと呼ばれる』。
11
 『いったい何を食べるのですか?』。するとわたしに云った。『天のマナと地の露です』。
12
 そこでわたしは云った。『この鳥は排泄するのですか?』。
 するとわたしに云った。『蛆を排泄する、そしてこの蛆から排泄されるものが、王たちや支配者たちが用いるところのキナモーモンとなる。しかし待て、そうすれば神の栄光を眼にできよう』。
13
 そして、彼が話しかけているとき、雷鳴の響きのような雷鳴が起こり、わたしたちの立っている場所が揺れ動いた。そこで天使に尋ねた。『わが主よ、あの音は何ですか?』。すると天使がわたしに云った。『今、天の365の門がことごとく開き、光と闇とが分かたれているところです』。
14
 すると声が伝わってきて言う。『光を与える者よ、世界に光を与えよ』。
15
 すると鳥の鳴き声が聞こえてきたので、云った。『主よ、あの鳴き声は何ですか?』。
16
 すると云った。『あれは、地上の雄鶏たちを目覚めさせているのです。というのは、両刃のように〔鋭く〕、雄鶏も世界の中にある者らに、独特の鳴き方で知らせるからです。つまり、太陽は天使たちによって備えられ、そして雄鶏は声によって〔備えられる〕のです』。

[7]
1

 そこでわたしが云った。『いったい太陽はどこで〔仕事に〕専念するのですか、雄鶏が鳴いた後からは?』。
2
 すると天使がわたしに云った。『聞きなさい、バルウク。そなたに示したことはすべて、第一の天と第二の天にあることどもです。しかし太陽が通過するのは第三の天で、世界に光を与えるのです。しかし、待ちなさい、そうすれば神の栄光を眼にできるでしょう』。
3
 そしてわたしが彼と話しあっているときに、鳥と、それが眼の前にあらわれるのを見た、そして少しずつ少しずつ生長し、成鳥になった。
4
 するとその〔鳥の〕背後に太陽が輝き出で、天使たちがそれ〔太陽〕とともにあって〔車を〕引き、その〔太陽の〕頭上に冠があったが、その〔冠〕の眺めをわたしたちは直視して見ることができなかった。
5
 すると、太陽が光り輝くのと同時に、ポイニクスも自分の翼を広げた。このときわたしはこのような栄光を見て、大いなる恐怖に萎縮し、逃げだし、天使の翼の中に隠れた。
6
 すると天使がわたしに云った。『恐れるな、バルウクよ、むしろ待っていなさい、そうしたら彼らの没むのも眼にすることができよう』。

[8]
1

 そしてわたしを連れ、わたしを日没の方へ導いた。そして日没の時がやって来たとき、わたしは見る — 面前にまたもや鳥がやってきて、太陽が天使たちといっしょにやってくるのを。そしてそれ〔太陽〕がやってくると同時に、わたしは天使たちを見る、すると、その〔太陽の〕頭頂から〔天使たちは〕冠を脱がせた。
2
 ところが、鳥はすっかり萎縮して、その翼をたたんでいた。
3
 そこでそれを見て、わたしは云った。『主よ、どうして太陽の頭から冠を脱がせたのですか、また、鳥がこんなに萎縮しているのは、どうしてなのですか?』。
4
 すると天使がわたしに云った。『太陽の冠は、1日経巡ってくると、4人の天使がこれ〔冠〕を受け取って、天に運びあげ、これを改新するのです、これとこれの光線が地上で汚れているからです。そして今後も、毎日、そういうふうにして改新されるのです』。
5
 そこでわたしバルウクは云った。『主よ、いったいどうしてその光線は地上で汚れるのですか?』。すると天使がわたしに云った。『人間どもの不法や不正を観るからです、すなわち、姦淫、姦通、盗み、掠奪、偶像礼拝、酩酊、殺人、争い、嫉妬、悪口、不平、陰口、占い、そしてそういったことどもに類似したこと、こういったことは神に喜ばれないのです。だから汚れ、だからこそ改新されるのです。
6
 また、鳥について、どうして萎縮しているのかということだが。太陽の光線を抑えているから、その火と、1日中燃えていることから、そのせいで萎縮しているのです。
7
 その翼が、先ほど云ったとおり、太陽の光線を遮ることがなかったら、いかなる息あるものも助からないでしょうから』。

[9]
1

 そして彼らがともに引き下がると、夜になったが、これには同時に月と星たちがとがともなっていた。
2
 そこでわたしバルウクは云った。『主よ、わたしに月をも示してください、お願いします。どうやって出てくるのですか? そしてどこに立ち去るのですか? そしてどんな格好をして歩きまわるのですか?』。
3
 すると天使が云った。『待ちなさい、もう少ししたらそれをも眼にできるでしょう』。そして翌日、わたしはこれをも見た、女の格好をして、車輪つきの車上に座っているのを。そして彼女の前にはウシたちがいた、また車の中には子羊たちと、同じく多数の天使たちが〔いた〕。
4
 そこで〔わたしが〕云った。
『主よ、ウシたちと子羊たちは何ですか?』。するとわたしに云った。『天使たちです、彼らもまた』。
5
 そこで再び尋ねた。『〔月は〕満ちるときあり、欠けるときありというのは、いったいどういうことですか?』。
6
 『聞きなさい、バルウクよ。そなたが見つめている〔月〕は、比類なく美しいもの(horaia)として神によって書かれていたのです。
7
 ところが、最初の人アダムの違背の際、〔月は〕サマエールのそばにいました、〔サマエールが〕ヘビを身にまとったときに。〔月は〕身を隠そうとせず、むしろ大きくなったのです。そういう次第で神が彼女にお怒りになり、彼女をすり減らして、彼女の日々を短縮なさったのです』。
8
 そこで〔わたしが〕云った。「四六時中光るのではなく、夜の間だけ光るのは、いったいどうしてなのですか?」。すると天使が云った。『聞きなさい。王の御前では、家僕たちは率直にものをいうこと(parresiasthenai)ができないように、太陽の御前でも、同様に、月や星たちは光を放つことができないのです。つまり、星たちは常に〔宙に〕ぶらさがっているのですが、太陽によって〔光を〕分散されます。月は無事ですが、太陽の熱によって消尽してしまうのです』。

[10]
1

 そして、こういったことをすべて天使長から学ぶと、わたしを連れて第三〔第四の間違いであろう〕の天に導いた。
2
 そして〔わたしは〕見た、平坦な野と、その真ん中にある水をたたえた湖を。
3
 そしてその中には、ありとあらゆる種類からなる鳥の大群がいた。しかし、此岸にいるものらと類似したものはいなかった。いや、大きなウシぐらいもあるツルを見た。じっさい、あらゆるものが世界にあるものらを凌駕した大きさであった。
4
 そこで天使に尋ねた。『この平野は何ですか、また湖は何ですか、またこの〔湖の〕中にいる鳥の大群は何ですか?』。
5
 すると天使が云った。『聞きなさい、バルウク。湖と、その中にいる他の驚くべきものらとを取りまいている平野は、義人たちの魂が、三々五々話をしてすごす時にやってくるところにほかなりません。
6
 また水は、これを雲が取って地上に雨を降らせ、果実が生長するものです』。
7
 そこでもう一度主の天使に云った。『鳥たちは?』。するとわたしに云った。『あれは絶えず主を讃美するものたちです』。
8
そこでわたしバルウクは云った。『主よ、雨となって降る水は海に由来すると人間たちが言うのは、いったいどういう意味ですか?』。
9
 すると天使が云った。『雨には、海に由来するものと、陸上の水に由来する雨もある。果実を生ぜしめるのは、後者に由来するものです。
10
 だから、これからは知りなさい、天の露と言われるものは、これがもとになっていることを』。

[11]
1

 それからわたしを連れて、天使はわたしを第五の天に導いた。
2
 すると門が閉ざされていた。そこで〔わたしは〕云った。『主よ、この門は開かないので、わたしたちは入れないのですか?』。すると天使がわたしに云った。『諸天の王の鍵を持てる者ミカエールがやって来るまでは、わたしたちは入れないのです。しかし、このまま待っていなさい、そうすれば神の栄光を眼にできるでしょう』。
3
 すると雷鳴のような大きな音がした。そこで〔わたしが〕云った。『主よ、あの音は何ですか?』。
4
 するとわたしに云った。『今、人間どもの願いを受け取るために、大将軍ミカエールが降りてくるところです』。
5
 すると、見よ、声が伝わってきた。『門たちよ開け』。
 すると開いた。すると雷鳴のようなきしみ音がした。
6
 するとミカエールがやってきた、するとわたしといっしょにいた天使が彼を出迎え、彼を礼拝し、そして云った。『ご機嫌よろしゅう、わが、われら全部隊の大将軍』。
7
 すると大将軍ミカエールが云った。『あなたもご機嫌よう、われらの兄弟、美しく生をすごし者たちに黙示を説き明かす者よ』。
8
 そして、そういうふうにして、立ったままお互いに抱擁を交わしていた。このとき、大将軍ミカエールがすこぶる大きな盃(phiale)をつかんでいるのを〔わたしは〕見た。その深さは天から地までほど、広さも北から南までほどあった。そこで〔わたしは〕云った。『主よ、天使長ミカエールがつかんでいるのは何ですか?』。
9
 するとわたしに云った。『これは、義人たちの諸徳と、彼らが行じる善きことどもが注ぎこまれるところ、これらは彼によって天上なる神の御前に運ばれるのです』。

[12]
1

 そしてわたしが彼と話しあっている時に、見よ、天使たちが花でいっぱいの籠を運んでやってきた。そしてこれをミカエールに与えた。
2
 そこで〔わたしは〕天使に尋ねた。『主よ、これは何者たちですか、そして彼らの運んできたものは何ですか?』。
3
 するとわたしに云った。『あの者たちは、主権者たち(exousiai)を担当している天使たちです』。
4
 すると天使長は籠を受け取って、これを盃の中に放りこんだ。
5
 すると天使がわたしに言う。『あの上にあるのが、義人たちの諸徳です』。
6
 このときわたしは見た、別の天使たちが、いっぱいではない空の籠を運んでくるのを。しかも悲しみつつやってきたが、あえて〔ミカエールに〕近づこうとはしなかった、褒美(brabeia)を成就することができなかったからである。
7
 するとミカエールが声をあげて言った。『あなたがたもこちらへ、天使たちよ、運んできたものを持ってきなさい』。
8
 そしてミカエールもはなはだ悲しみ、わたしといっしょの天使も〔悲しんだ〕、盃をいっぱいにできなかったからである。

[13]
1

 それからまた、さらに別の天使たちが同様に泣きながら、嘆きながらやってきて、恐る恐る言った。『ご覧ください、わたしたちは汚れてしまいました、主よ、邪悪な人間たちに引き渡されたからです、わたしたちは連中から退散したいのです』。
2
 するとミカエールが云った。『あなたがたは連中から退散することはできない、「敵」が完全に支配するようなことのないために。しかし、あなたがたが何を要求しているかわたしに云いなさい』。
3
 すると彼らは云った。『あなたにお願いです、ミカエール、わたしたちの大将軍よ、わたしたちを連中から移し替えてください、邪悪で無思慮な人間どものもとに留まっていることはできませんから、連中の内にあるのは、善いものは何ひとつもなく、ありとあらゆる不正と強欲ばかりなのですから。
4
 教会はもとより、霊的な師父のもとにも、善いものひとつの中へも連中が入ってゆくのを、わたしたちはかつて見たことがないのですから。それどころか、殺人のあるところ、連中もその真ん中にいるのです、また姦淫のあるところ、姦通、盗み、悪口、偽誓、妬み、酩酊、争い、嫉妬、不平、陰口、偶像礼拝、占い、そしてそういったことに類似したことの〔あるところ〕、そこにおいて連中は、そういったことや別のもっと劣悪なことどもの遂行者として存在するのです。だから、わたしたちは連中から出て行けるようお願いするのです』。
5
 すると天使ミカエ−ルが云った。『待機していなさい、どうすればよいのか主から聞いてくるまで』。

[14]
1

 そしてミカエールがただちに引き返すと、諸門が閉まった。そして雷鳴のような音がした。
2
 そこで天使に尋ねた。『あの音は何ですか?』。するとわたしに云った。『今、ミカエールが人間どもの諸徳を神のところに持って行っているのです』。

[15]
1

 そしてただちにミカエールが降りてくると、また門が開いた。すると彼はオリーブ油を持ってきていた。
2
 そして、籠を運んできた天使たちに、その〔籠〕をオリーブ油で満たして言った。『持っていって、わたしたちの友たち、つまり、身を粉にして美しい業を働いている人たちに、報酬を百倍にして与えなさい。美しく種播く者たちは、美しく刈り集めもするのだから』。
3
 さらに、空っぽの籠を持ってきた者たちにも言う。『あなたがたもこちらへ。持ってきたとおりに報酬を受け取り、人間どもの息子たちに返しなさい』。
4
 それから、いっぱいの籠を持ってきた者たちにも、空っぽの籠を持ってきた者たちにも言う。『行って、わたしたちの友たちを祝福し、主がこう言っておられると彼らに云いなさい。「汝らは少しのものを信じているので、汝らを多くのものにゆだねよう。わたしたちの主の喜びの中に入るがよい」と』。

[16]
1

 今度は向きを変えて、何も持ってこなかった者たちにも言う。『主がこう言われている。「陰気な顔つきをするな、泣くな、人間どもの息子たちを見捨ててもならぬ。
2
 いや、むしろ、連中の所業によってわたしを怒らせたゆえに、行って、連中を族民ならぬものに対して、悟りなき族民に対して、妬ませ、怒らせ、逆らわせよ。
3
 なお、そのうえに、毛虫、トビバッタ、サビ病、そしてイナゴ、雷電と怒りをもった雹を送りこめ。そして連中を剣(machaira)によって、死によって真っ二つにし、連中の生子を悪霊(daimonioi)によって〔真っ二つにせよ〕。
4
 わたしの声に聞き従わず、わたしの言いつけを心に留め置きさえもせず、実行もせず、それどころか、わたしの言いつけとわたしの教会を軽蔑する者となり、わたしの言葉を連中に布令した祭司たちに対する暴行者となったのだから」』。

[17]
1

 そしてこの言葉と同時に門が閉ざされ、わたしたちも立ち去った。
2
 そしてわたしを連れて、天使はわたしを最初の〔場所〕にもどした。
3
 そして我に返ると、わたしにこのような名誉を授けてくださった神に栄光を帰した。
4
 おお、このような黙示に出会った兄弟たちよ、あなたがたも、みずから神を讃えなさい、〔神〕ご自身が、今も、常にも、永遠の永遠に至るまでも、わたしたちに栄光を与えてくださるように。アメーン」。

2004.03.01. 訳了。




[画像出典]
 Apocalypsis Sancti Johannis [Germany, ca. 1470].
 Brilliantly colored block book, one of ten examples of xylographic printing in the Rosenwald Collection. (Lessing J. Rosenwald Collection)
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