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原始キリスト教世界

シビュラの託宣(断片)




[解説]

シビュレーまたはシビュラ(Sibuvllh or Sivbulla
 アポローン(ときに他の神)の神託を告げる巫女.最初にヘーラクレイトス(前500年頃)の中に見いだされる.本来は固有名詞であって,各地のシビュレーは,同一人が転々と居を移したことによって説明されていたが,前4世紀にはすでに複数(シビュライSibyllai)で考えられ,2,3,4,5,6,10人のシ ビュッレーが挙げられている.前1世紀のローマの学者ウァローは,ペルシア,リビア,デルポイ,キメリア(イタリアの),エリュトライErytllrai(リューディアの),サモス,キューメー(アマルティアAmaltheia,へーロビレーHerophile,デーモビレーDemophile,あるいはデーイポべーDeiphobe),ヘレースボントス(トロイアの近くのマーレぺ−ッソスMarpessosにいた),プリュギア(アンキューラAnkyraにいた),ティーブル(アルブネアAlbuneaと呼ばれた)いたの十人を挙げている.

 最初のシビュレーは,トロイアのダルダノスとネーソーNesoの娘シビュレーで,予言の術にすぐれていたため,この名が普通名詞的になったとも,ゼウスとラミアー(ポセイドーンの娘)の娘であるリビアのシビュレーだともいわれる.つぎはマルぺーッソスのヘ一口ビレーで,ニンフと人間の娘で,トロイア戦争を予言した.彼女の作なるアポローン讃歌がデーロスに保存されていて,その中で彼女は自分を《神の正妻》,《娘》と呼んでいたということである.彼女は生涯の大部分をサモスで過ごしたが,タラロス,デーロス,デルポイにも行った.彼女はその上に乗って予言する石を持って歩き,その石はデルポイに保存されていた.エリュトライのシビュレーはニンフと人間テオド一口スTheodorosの娘で,コーリュコスKorykos山中の洞穴に生れるやいなや,成長して,へクサメトロスの詩形で予言を始めた.両親は彼女をアポローンに捧げた.彼女は990年生きたという.このシビュレーはイタリアのキューメーの名高いシビュレーと同一人であるとされている.彼女は片手に握れる砂粒の数だけの寿命をアポローンから与えられたが,エリュトライの地を決して見ない約束だったので,キューメ一に移った.エリュトライ人は,彼女にエリュトライの土の印章で封をした手紙を送って,彼女を殺したとも,彼女はアポローンより長寿を与えられたが,青春をも同時に貰うことを忘れ,アポローンが彼女と交わることを求めたのに,拒んだため,年とともに身体が枯れしぼみ,ついに蝉のごとく小さくなり,かごの中に入れられ,子供たちが彼女に《シビュレーよ,なにがほしいか?》と尋ねると《死にたい》と答えたと伝えられている.

 シビュレーの予言は一種の狂乱のうちに与えられ,彼女のヘクサメトロス詩形の予言集は古くから編纂されていた.これらの予言集で一番有名なのはキューメーのシビュレーのものである.これはソローンの時代(前6世紀)のもので,ギリシアよりキューメ一にもたらされた.キューメーのシビュレーはこの集をローマの王タルクゥイニウスTarquinius(プリスタスPriscusともスペルブスSuperbusともいう)に高価で提供した.王は金を惜しんで,拒んだところ,彼女は九巻のうち,三巻を火に投じて,同額で残余を提供,王がふたたび拒むと,さらに三巻を焼いた.王は最後の三巻をもとの価で買い取り,二人の貴族にその保管を命じた.この本はカピトーリーヌスのユービテル神殿下の部屋に石の箱の中に収められ,保管者はのち十人(中の五人は平民),前1世紀には15人に増加され,地震や疫病に際して,彼らはこの本により神の怒りを解く法を見いだしたという.前83年にカピトーリウムが焼けた時に,この本も焼失,その後各地より同類の予言集を求めて,この集はアウグストゥス帝がパラーティーヌスのアポローン神殿に収めた.これは5世紀初めに,テオドシウスとホノーリウス帝の将軍スティリコーの時に焼失した.現存する14の同類のシビュレーの本は,ユダヤ・ヘレニズムとキリスト教の偽造に由来するものである.
 (『ギリシア・ローマ神話辞典』)





[底本]
TLG1551
ORACULA SIBYLLINA
(2 B.C.-A.D. 4)
2 1
1551 002
Fragmenta, ed. J. Geffcken, Die Oracula Sibyllina [Die
griechischen christlichen Schriftsteller
8. Leipzig: Hinrichs, 1902]:
227-233.
5
(Q: 663: Orac.)





断片集(Fragmenta)』

1.1
可死的存在にして肉なる人間ども。無でありながら、
生の終極を覗きこむことなく、何と速やかに高ぶることか。
神を憚ることなく、恐れることもないのか。汝らの監督者(ejpivskokoV)、
至高の知者、万物をみそなわす証人、
万物をやしなう創造者〔たる神を〕。彼は甘き霊(pneu:ma)を万物の中に
下し置き、〔これを〕ありとあらゆる死すべきものらの嚮導者となさったかたであるのに。
神はひとり、唯一支配なさる方、巨大、生まれざるもの
万能者、不可視、ご自身は万物をみそなわすが、
しかしご自身は、ありとある可死的な肉によって眼にされることのない方。
1.10
いったい、いかなる肉が、天上にあって真実なる
死すべからざる神、天蓋に住みたもう方を、眼で見ることができようか。
いやそれどころか、太陽の光線に向かってさえ、
立つことができぬのが人間ども、可死的存在として生まれた
者ども、骨々にまつわりついた血管と肉なのだから。
唯一者にして、世界(kovsmoV)の嚮導者たる方のみを崇拝せよ、
唯一その方のみが、永遠に至るまで、そして永遠から
自生者(aujtogenhvV)、生まれざるもの、常時万物を統治し、ありとあらゆる死すべきものらに、普遍の光によって、規準(krithvrion)を分け与える方である。 だが、汝らは悪だくみにふさわしい報酬を得るであろう、
1.20
というのは、真実なる永遠の神、
これを讃え、聖なる百牛を供儀することをやめ、冥府に住むダイモーンのようなものらに供儀したからである。
汝らは高慢(tuvfoV)と狂気をもって歩み、正しい
真っ直ぐな小径をやめて離れ去り、茨と
棘の中をさまよった。死すべき者どもよ、とどまれ、虚しい者どもよ、
影と光なき黒い夜を歩きまわることを、
そして夜の影を後にせよ、だが、光をとらえよ。
見よ、この方はありとあらゆるものらにとって確実で、迷いなき方である。
来たれ、いつまでも影と暗黒を追い求めてはならぬ。
1.30
見よ、太陽の甘くめくばせする光がさんさんと輝いている。
そして、知れ、汝らの胸の中に知恵をたくわえることを。
神はひとり、雨、風、地震を遣わせる方、
稲光、飢饉、疫病、惨めな心配事、
また、降雪、霰をも〔遣わせる方〕。いったい、どうして一つひとつあげつらうことがあろう。
彼は天を嚮導し、地を統治し、みずから存在したもうのである。

2.1
ところで、もしも神々が〔子孫を〕生みなし、しかも不死のままであるなら、
神々は人間どもより多くなり、
死すべきものらには、立つ場所さえなくなったことであろう。
3.1
ところで、もしも生成するものはすべて消滅もするものなら、ひとの
腰や胎から神が形づくられてあることはできない。
いや、唯一神のみが一にして万有の至高者にして、この方がおつくりになったのが、
天、太陽と星々、また月、
みのりをもたらす大地と海の水の隆起、
高き山々と、泉の尽きせぬ流れである。
さらにまた、水中には、数えきれぬほどはるかに多くのものを生み、
大地には、うごめく這うものらを活かし、
また、翼で大気を揺り起こし、鋭い騒ぎ声でさえずる多彩な鳥類、
3.10
震え声で、羽で甲高い鳴き声を立てるものたちを〔活かし〕、
山々の谷間には、獣たちの野生種を置き、
ありとあらゆる家畜をわたしたち死すべきものに服従させたもうた。
そして、万物の嚮導者として神の生子を任命し、
ひとには、ありとあらゆる多彩で把握しきれないほどのものらを服従させたもうた。
いったい、可死的存在のいかなる肉が、そのすべてのものらを知りえようか。
いや、唯一ご存知なのは、初めにこれらのものらをつくった方だけ、
不滅なる永遠の創造者、霊圏に住む方、
善きものらにはるかに多くの善き報酬をもたらす方、
だが悪しき不正なる者らには、苦汁と怒り、
3.20
戦争、疫病、涙にみちた苦痛を喚起する方だけである。
人間どもよ、どうして虚しく高ぶって、根絶やしにされるのか。
イタチやけだものを神とすることを恥じよ。
心の狂気と憤怒が感覚を奪い去ったのではないか、
神々が皿を盗み、壺を掠めるなどとは。
さらに、〔偶像神は〕果てなき黄金の天蓋に住むことなく、
虫に喰われたものらを見つめ、びっしりと密なる蜘蛛の巣に恐れおののいている。
愚かなる者らよ、蛇ども、犬ども、猫どもを跪拝し、
鳥類や、大地に這う獣や、
石像や、手でつくった神像、
3.30
路傍の石の塚を崇拝するとは。汝らはこれらを拝むとは、
いやそればかりか、数多くの虚しいものら、口に出すことさえも恥ずかしいものらを〔拝むとは〕。
思慮なき音節明瞭な者〔人間〕どもの神々は、奸計によって嚮導者であるにすぎず、
まことに彼ら〔人間ども〕の口からは、死をもたらす毒が流れている。
これに反し、彼〔神〕は命にして、不滅なる永遠の光、
蜂蜜よりも〔 〕甘き喜びを人々に
〔 〕注ぎ出す、されば、〔汝は〕唯一者に首を垂れ、
敬虔なる生涯のうちに小径を横たわらせるがよい。
〔汝らは〕これらすべてのものらを後にして、義に満ちた高杯
— より生(き)であり、強く、重々しく、よくよく無雑であった — を
3.40
無知慮という狂った霊によって〔汝ら〕皆が引き寄せた。
だから、酔いがさめることも、慎慮して正気になることも、
万物をみそなわす王たる神を知ることも拒むのだ。
このゆえに、燃える火の炎が汝らに襲いかかり、
生涯、永遠に火焔に焼かれることであろう、
役立たずな偽りの偶像のせいで恥を思い知りつつ。
これに反し、真実なる永遠の神を讃える者たちは、
生命を嗣ぐのである、永遠の時間、自分たち自身が
〔かつてと〕同様に楽園の繁茂した園に住み、
星の輝く天からの甘きパンの馳走にあずかりながら。

4.1
そこで、われに聞け、音節明瞭なる者〔人間〕どもよ、永遠の王が支配しているのだ。

5.1
唯一神のみが統治されることなき創造者である。
彼みずからが、音節明瞭なる者〔人間〕どもの形の性格を支え、
彼みずからが、生あるものの生みの親として、万物の自然を混合したもうた。

6.1
いかなる時に彼がやって来ようとも、
影さす黒き夜の真ん中に火があるであろう。

"7*".1
<神は>こしらえられたものならず。

"8*".1
ところで、エリュトライア(=Eruqraiva)が神に向かって。「いたいどうして」と〔彼女は〕謂う、「おお、主よ、預言の必然をわたしにみまわれるのですか、そしてむしろ、大地から宙に舞い上がった〔預言?〕を、御身の浄福きわまりなき再臨の日まで、守り通されないのですか」。

2009.06.23.

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