ミステリー
スフィンクスもどきの怪物、
散策者を襲う!!
ハイテク国家日本を襲った
春のミステリー(3)
(4.23. 1996 / 改訂4.17. 1997)
翌日の早朝から、一級と自警団はヒトワがよく出没する小橋の上で、その出現を待ちうけた。待つこと1時間。ついにヒトワはその恐ろしい姿を現した。
全長約1メートル。頭は忍者、目は鳩、犬の手足に蛍の胴体とお尻。そのお尻はやはり黄色の光を発し、バタバタと羽を動かし、宙に浮いている。遠巻きに息を飲んで見守る人々の前、一級とヒトワは対峙した。ヒトワはいつものように、渋く低い声を覆面の向こうから発した。
「ヒ・ト・ワ」
すると一級は、一息大きく吸い込んで、腹の底から沸き起こる大音声でこう続けた。
「人 吾は」
自警団の人々、そして散策者たちは、ヒトワの口許がニヤリと満足そうに笑うのを、忍者マスク越しでも見逃さなかった。お尻の光は黄色のまま、ヒトワは、
「ワレナリ!」
と叫び、まばゆい白色の光に包まれたかと思うと、その姿は光と一緒にかき消えた。
一級は合掌して瞑目を捧げ、感嘆の声が僧侶を包んだ。
「人は人吾はわれ也 とにかくに吾行く道を吾は行なり」
とは、哲学の道、法然院下あたりに置かれた石碑に刻まれている西田幾多太郎の言葉だった。
一級は人々にこう解説した。
「ヒトワは、この小道沿いに住む鳩と蛍、桜の木、そしてここをよく散歩する犬の精神が哲学談義をするうちに生みだした妖怪です。哲学する鳩と蛍、犬と桜は、最近の人間たちに思索することの重要さを思い出してほしいと願った。せめてこの哲学の道で、たまには先人に思いを馳せ、生きるということについて考えてほしかった。その一念で妖怪ワレハを生み出したのです。人間ではない彼らこそ、真に西田博士の遺風を受け継いだ者たちだったのかもしれません」
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