書籍紹介(書評2)

Book Review 2


石原莞爾といえば、『世界最終戦論』とすぐに結び付けられるが、彼の著作はそれだけではない。彼の生涯を通してみると、純粋な軍事関連の論著よりも、東亜連盟等政治(というよりも日本の進むべき道)に関する著作の方が多い。そして、人によれば驚くべきことかもしれないが、『世界最終戦論』の拠り所である日本の軍事力が消滅した敗戦後も活発な著述活動をしているのである。
本書は副題にもあるように、1945(昭和20)年8月15日以降の石原莞爾の著作を集めたものである。本書収所の論作の多くは、たまいらば刊の選集にも入っている。しかしながら、選集には収められていない、石原莞爾の思想をより深く知る上で重要な「日蓮教入門」が含まれている。また、戦後の重要な著作が選び集められている(選集では幾つかの巻に分散している)ので、『世界最終戦論』以外の彼の思想に触れるようとされる方には、格好の書である。
さて、本書に収められている諸著作には、次の三原則について繰り返し触れられている。(というより、この三原則を軸に本書は編集されている。)
  1. 農工一体
  2. 都市解体
  3. 簡素生活
この三原則に戦後の石原莞爾が集約されているといっても過言ではない。
彼は、都市中心の社会から、農村中心の社会への転換を説く。勿論、これは空襲で焼け野原になった日本の諸都市や、敗戦直後の食料不足といった現実問題を背景としているであろう。
しかしながら、この三原則は五十年近く経た現代においても十分参考にする価値のあるものである。食料自給率の問題、モノや人や車が都市に集中することで発生する様々な問題、(忘れされている)来るべきエネルギー危機の問題、さらには様々な環境問題等々に対する一つの解決策として、彼の提案は有効性を持ち続けている。また、現代における情報ネットワークの発展は、「都市解体」を実現可能なものとしている。彼の先見性は、『世界最終戦論』だけでなく、ここにも見ることが出来る。

石原莞爾は半世紀前に既に一流のエコロジストでもあったのかもしれない。

 

最後に、本書を読むきっかけを与えて下さった志賀様に心よりの謝辞を申し上げます。

(石原莞爾よりの書評になってしまった...。)

 

石原莞爾 没後48回目の8月15日(1997/8/15)記す。

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