パブリックコメントのポイント



政府(内閣官房皇室典範改正準備室)は、

有識者ヒアリングをふまえた論点整理を10月9日に公表し、

それについて12月10日までパブリックコメントを募集している。


そもそもこの議論は、皇位継承制度と区別する、ということでスタートしたものである。

皇太子殿下、秋篠宮殿下の次世代の男子は、秋篠宮家の悠仁親王殿下お一方だけとなり、

このままでは女性皇族方が結婚されるたびに皇族数が減少していく。

当面の皇族数減少に歯止めをかけ、

皇室活動に支障が出ないよう女性皇族方にはご結婚後も皇室にとどまっていただけないか、

というのが議論の出発点であった。

そして、皇位継承制度の議論と区別するため、

あくまで一代限りとするという方針が打ち出された。

その結果、出てきたのが、このほど公表された“論点整理”である。


この論点整理の締めくくりで、

「現在、皇太子殿下、秋篠宮殿下の次の世代の皇位継承資格者は、

悠仁親王殿下お一方であり、安定的な皇位の継承を確保するという意味では、

将来の不安が解消されているわけではない」(13頁)と指摘しているように、

一代限りの女性宮家創設は、何ら根本的な問題の解決にはつながらない。

表面上は皇位継承の議論と区別するとしているが、

女系の宮家、女系天皇の実現への一里塚と考えている本心が見え隠れしている。


しかし、だからといって、論点整理そのものに反対の意見を表明することには

一抹の不安が残る。

というのは、有識者ヒアリングで櫻井よしこ氏らがそのことを指摘しても、

結果的には論点整理の具体的な方策には反映されず、

「皇位継承論と区別する」という理由で排除されることになった。

論点整理に否定的なパブリックコメントが多数寄せられても、

「論点整理に対する意見ではない」として一蹴されてしまうことは十分に考えられる。

そして、論点整理の枠内の意見だけを取り上げ、

女性宮家創設の方向性を固められることも予想できる。


そこで私は、政府にパブリックコメントを送りつける場合は、

論点整理そのものに対する批判に加え、

論点整理の具体的内容にも言及するべきではないかと考える。

ここからは、どのようにすれば効果的なパブリックコメントを作成できるか、

ということについて検討していきたい。


まず、論点整理の概要についてまとめる。


●(T)案 女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とする案

・(T−A)案 夫と子も皇族身分を取得する

・(T−B)案 夫と子は皇族身分を取得しない


●(U)案 女性皇族に皇籍離脱後も

皇室の御活動を支援していただくことを可能とする案


簡潔に言えば、T案は女性宮家の創設、

U案は別の方法で同じような効果を求める、ということだ。


論点整理によれば、T案についてA案とB案に分かれたのは、

制度上は世帯内での身分の違いや、家庭生活に支障がないよう

夫と子も皇族となることが望ましいが、

「女系天皇につながるおそれがある」という反対意見に配慮するため、

2つの案が用意されることになった。

また、江戸時代までは、女性皇族は皇族以外の者に嫁いでも

皇族の身分を失わないのが通例であったことを挙げ、

現行制度で(T−B)案は受け入れやすいのではないかという見解も示された。


まず(T−A)案については、皇位継承制度と区別するとしても、

わが国の歴史上、女系の皇族は存在したことが一度もないという事実を

軽く見るべきではない。

皇位継承権がなくても女性宮家の子供は女系皇族となる。

皇室の正統性は歴史・伝統に裏付けられていることを考慮すれば、

簡単に国家の歴史にない制度を導入することには慎重にあるべきだ。

また、「天皇及び皇位継承権者」と「その家族」に皇族の身分が付与されるのが、

現行制度の根幹
であることを考えれば、

皇位継承権のない皇族を新たに創設することは、

現行制度の根幹を揺るがしかねないことにもつながる。

憲法学者の百地章氏が指摘するように、

これまでにない新たな身分制度の創出と考えることもでき、

現行憲法に抵触するおそれもある。


また、女性宮家は一代限りとなることから、

生まれた子は男女を問わず結婚と同時に皇籍を離れることが示されているが、

皇族として育った人間が、一般人として生活していくことの大変さを考えれば、

そのような事態を生むことは最小限にとどめるべきである。


(T−B)案については、論点整理でも指摘されたとおり、

一世帯のなかで、夫婦別姓と親子別姓が実現し、

社会生活でも様々な支障が発生することが予想されるので問題が大きい。

論点整理でも皇室は国民の象徴であることが確認されていることから、

国民の生活ではありえない夫婦別姓、親子別姓というなじみのないものを、

国民統合の象徴である皇室で実現されるのは好ましいことではないだろう。


最後の(U)案は、女性皇族の結婚による皇籍離脱後も

皇室活動を支援できる制度をつくるということだが、

現行制度を前提とすれば、これが最も受け入れられやすいのではないだろうか。

論点整理によれば、結婚後のお立場が「国家公務員」であるとして、

少し違和感があるかとは思うが、

皇籍離脱後、公費で皇室活動を支えていただくとなると、

広い意味で公務員といった立場にならざるをえない側面はあるので、

許容範囲ではある。

論点整理の最後では、

「皇室の御活動も含めた象徴天皇制度は、我が国の根幹を成すものであり、

国民の理解と支持があってはじめて成り立ちうるものである」と述べているということは、

最も反対の少ない、より多くの国民から受け入れられやすい方法を

尊重しなければならないはずだ。


(T−A)案は、女系天皇の呼び水になることを警戒され、

また、女系皇族というわが国の歴史にない前例をつくることから、慎重・反対意見は多く、

(T−B)案は世帯内で夫婦別姓、親子別姓となり社会生活の支障が心配される。

(U)案は、反対意見や問題は小さく、最も優先的に検討されるべきではないかと考える。


これらをふまえ、論点整理に対するパブリックコメントの記述例は、次のようになる。

(※提出件数が多いため、長文を書くと担当者がしっかり読まない可能性があるので、

簡潔に箇条書きで書くことが望ましい)



このほど政府が公表した「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」は、

問題の本質的な解決にはつながらず、いたずらに国民の意見を分断することにもなって、

とても承服することはできない。

ただし、論点整理についてあえて意見を述べるとすれば次のとおりである。


(T)女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とする案

(T―A)配偶者及び子に皇族としての身分を付与する案について


・皇室の正統性は歴史・伝統に裏付けられていることから、

安易にこれまでの歴史に存在しない方法を採るべきではない。


・皇位継承制度と区別するとしているが、いずれ皇位継承の議論が行われる場合、

女性宮家及びその子孫は、必然的に議論の対象に含まれることから、

厳密には区別することはできない。


・天皇及び皇位継承権者とその家族に皇族の身分が付与されるのが、

現行制度の根幹であることを考えれば、

皇位継承権のない皇族を新たに創設することは、現行制度の根幹を揺るがしかねない


・皇位継承権のない皇族の創設は、新たな身分制度をつくり出すことになり、

現行憲法に抵触するおそれが強い。

実質的には新たな公家制度などと同じ意味合いとなる。


・生まれた子は男女を問わず結婚と同時に皇籍を離れるとするが、

皇族として育った人間が、一般人として生活していくことの大変さを考えれば、

そのような事態を生むことは最小限にとどめるべきである。


・一代限りの暫定的方法論のために、

皇室の家法であるべき皇室典範を改正することは避けるべき。


(T−B)配偶者及び子に皇族としての身分を付与しない案について


・一世帯のなかで、夫婦別姓と親子別姓が実現し、

社会生活でも様々な支障が発生することが予想されるので問題が大きい


・国民の象徴的存在である皇室で、家族ということを考える上で、

社会生活上、問題の大きい制度を取り入れるべきではない。


・根本的解決にはならないのに、そこまでして当該制度を採用する意味が感じられない。


・一代限りの暫定的方法論のために、

皇室の家法であるべき皇室典範を改正することは避けるべき。


(U)女性皇族に皇籍離脱後も皇室の御活動を

支援していただくことを可能とする案について



・現実的な問題が最も少なく、

暫定的な方法論として各方面の国民から受け入れられやすい。


・皇室典範を改正する必要性はないことから、

本当の意味で皇位継承制度の議論と区別することができる。


・憲法第1条で、天皇が日本国民統合の象徴であることを掲げていることから、

政府は皇室制度についてはできうるかぎり

最も反対の少ない方法を尊重する責務がある。


◆最後に、歴史・伝統に照らして、また制度上においても、

最も矛盾が少なく、問題の根本的解決につながる方法は、

昭和22年に皇籍離脱した旧11宮家の復帰である。

今回のような暫定的な方法論ではなく、なるべく早くその方向性を模索していただきたい。




なお、パブリックコメントの送り先など詳細は下記サイトをご覧下さい。

「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」に関する意見の募集について








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