消費税についての安倍総理の決断が日本経済に与える影響は?



安倍総理が消費税率を8%に上げることを決断し、憤る声もあると思うが、

日本経済としては私はそんなに悲観する問題だとは思っていない。

消費税増税反対という意見のお多くは、

現在の5%を据え置きにするべきだということだろう。

3%に戻せ、あるいは消費税を廃止しろ、という意見はほとんど目にしない。


橋本内閣で消費税率を3%から5%に引き上げたとき、

経済状態は悪化し、懸念する声も多かったが、

いま多くの人が5%のままで据え置くべきだ考えているということは、

結果的にあのときの方向性は間違っていなかったということだ。

そう考えると、今回の消費税の増税については、

方向性の問題と経済的配慮は分けて考える必要がある。


方向性の是非については、財政状態を考えても、

根本から反対している人は少数派だろう。

焦点は時期の問題だ。

時期ということは短期的な経済観測の話である。

それはそれで重要なことだ。

ただし、私がアベノミクスに期待するのは短期の景気刺激策ではない。


現在の日本経済低迷の原因は、

民間資金需要の停滞であるということは繰り返し主張している。

民間に資金需要がないことで、銀行に集まった預金は長期国債に流れ、

長期金利は相変わらず人類史上未経験の超低金利を推移している。

日本は世界で最も国民の貯蓄率が高い国である。

国民の貯蓄は企業が活用して投資しなければ経済が回らない仕組みとなっている。

民間企業の資金需要が高まらないかぎり、日本経済が上向くことはない。


民間企業が資金を調達する際には短期の視点ではなく、

中長期的な視点に基づくことになる。

10年、20年スパンで考えて資金を調達する。

私がアベノミクスの金融緩和を支持するのは、

10年、20年先に名目GDPが現在よりも高い水準にある仕組みを

確立させるものと期待しているからだ。

いくら大型経済対策を実行しても、数年で終わると思えば誰も設備投資など行わない。

20年後、今よりも経済水準が上向いていると確信するから、

新たな投資を行うことができるのだ。


消費税についてマクロ経済論として考えれば

増税分は丸々景気対策に回せばそんなに問題はない。

確かに景気マインドとして増税分の実体以上に落ち込む可能性はあるが、

経済が成長軌道に乗るまでは、財政再建は棚上げして、

経済回復のため国がやれることはあらゆることをやる

という姿勢を政府が示し続けることだ。

政府がそのような覚悟を見せれば、消費税増税分は景気対策でカバーできるし、

20年後の日本経済を見越して民間企業による投資が徐々に上向くだろう。


8月末の概算要求をみると来年度予算は

史上最高額の90兆円台後半に達する見込みだ。

それ以外でも景気対策を目的とした補正予算が組まれることになっている。

マクロ理論での消費税増税分はカバーできる。


かつて橋本内閣は消費税の増税などの失政により経済を大きく減退させた。

ただし、橋本内閣は財政再建を掲げ消費税のほか、

社会保障費など大幅な国民負担増を行ったし、

不動産関連の不良債権問題も解決しておらず、金融危機を引き起こそうとしていた。

今回とは少し事情がちがう。


あのとき金融危機の直接的要因となっていたのは、BIS規制だった。

国際基準により銀行は自己資本比率(国内業務4%、国際業務8%)

を確保しなくてはならない。

北海道拓殖銀行や日本長期信用銀行はそれでやられた。

バブル時の不良債権問題が解決しておらず、

BIS規制で定められた自己資本比率の維持が銀行を苦しめていた。

金融機関による貸し渋り、貸し剥がしが最も酷かった時期だ。


しかし小渕内閣の登場で危機は収まり、経済を立て直すことに成功した。

具体的には財革法を凍結し、財政出動による大型景気対策を行ったほか、

不動産関連の不良債権処理を進めるため、銀行に優先株などを発行させ、

それを引き受けることにより金融機関に資本注入を行い、

自己資本比率の問題をクリアにした。

これにより日本経済は息を吹き返し、株価は2万円を回復した。

このまま続けば日本経済の復調も近いと思われたところ、

小渕さんは突然の病に倒れた。

その後、森内閣は中途半端な政策を続け、

小泉内閣では無意味な不良債権処理と緊縮財政により

日本経済をさらなる低迷へと導いた。


要は対応を誤らなければ消費税増税ぐらいだったら乗り切れるということだ。

今回は金融不安などは存在しない。

ただし安倍政権が対応を誤らないことまで私は保障することはできない。

小泉時代の亡霊を引きずる勢力も自民党の中にはまだいる。


まずはアベノミクスの徹底に期待する。

アベノミクスをやらずに消費税が5%のままであるのと、

アベノミクスを徹底して消費税が8%のどちらかを選択しなければならないのであれば、

迷わず消費税8%を選ぶ。

大切なのは20年後の“名目”GDPが現在よりも大幅に増加していることだ。

そのためには安倍政権が揺らぎない信念でアベノミクスを継続し、

その流れがこの先ずっと続くと誰もが思うようになるまで断行していくことだ。








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