婚外子格差違憲判決への政策的対応は簡単




相続における婚外子格差の違憲判決を受けて、

民法改正が論じられると自民党内でも反対意見が出て、議論が紛糾しているようだ。

私はそもそも婚外子の相続格差は違憲だと思っていないので、

民法改正は必要ないと考えているが、

最高裁判決は軽視できないということで、

現行法の趣旨を残しつつ政策的に解決するなら、その方法は非常に簡単である。


民法を改正して嫡出子による母の“代襲相続”(だいしゅうそうぞく)を認めればいいだけだ。

代襲相続とはあまり一般的には聞き慣れない言葉かもしれないが、

相続問題を考える上で重要なキーワードとなる。


例えば父A、長男B、次男Cというケースで、

父Aが死亡すれば、BとCは2分の1ずつ相続する。

ところが長男Bが父より先に死亡した場合、

次男Cが全部を相続するかというと必ずしもそうはならない。

Bに子がいれば、その子がBに代わって相続する。

これを代襲相続という。


それでは父A、母B、子C、婚外子Dというケースで考えてみよう。

父Aが1200万円の財産を残して死亡したとする。

現在の民法だと相続分は、母B[600万円]、子C[400万円]、婚外子D[200万円]となる。

このCとDの差額が法の下の平等に反するというのが最高裁判決だ。


婚外子差別を無くすと母B[600万円]、子C[300万円]、婚外子D[300万円]となる。

これだと実はそんなに大した問題ではない。

母Bの600万円はいずれ子Cが相続するのだから、

最後は子C[900万円]、婚外子D[300万円]となり、結果的に3:1で分けることになる。


問題は母Bが先に死亡した場合だ。

この場合、子C[600万円]、婚外子D[600万円]となる。

両親が死亡する順序によって、CとDの相続分がまったく異なってくる。

自民党内からは母親の相続分を上げたらどうかという意見も出ているようだが、

父が先に死亡した場合は意味があるのだが、母が先に死亡した場合では意味がない。

そこで母が先に死亡した場合の父の相続に限っては、

子に代襲相続を認める規定を設ければいい。


現在はこのようなケースの代襲相続は認められていない。

理由は単純で相続の二重取り、三重取りが発生するからだ。


例えば父A、長男B、次男C、婚外子Dというケースで考えてみよう。

父Aが1000万円の財産を残して死亡した場合の相続割合は、

長男B[400万円]、次男C[400万円]、婚外子[200万円]となる。

ところが長男Bが父より先に死亡して、相続する子がいないとする。

民法では死亡した人に配偶者や子がいない場合の相続権は兄弟に移行する。

それではこのケースの場合、長男Bの相続分は次男Cが受け取るのかというと、

そうはならない。

現在の民法では一度の相続で相続人同士の代襲相続は認められておらず、

あくまで代襲相続は相続人が生きていた場合のことを想定して、

その相続人に代わって受け継ぐという趣旨である。

要するに父が死亡した場合の母と兄弟は、相続の当事者なので、

当事者内で代襲相続が発生すると複雑化して混乱しかねないうえ、

この場合、次男Bは母親の分と長男の分も持っていくことになり、

三重取りとなってしまう。

これはあまりにも取り過ぎだろうということで、現在の民法では認められていなかったが、

最高裁があのような判断を下すのであれば、

民法改正により相続人同士の代襲相続を認めてもいいのではないか。


少なくとも生計を共にした母の代襲相続を子に認めるだけで、結果はまったく異なる。

父A、母B、長男C、次男D、婚外子Eという事例で、

父が1200万円の財産を残して死亡した事例で考えてみる。

婚外子格差を廃止している場合、母B[600万円]、

長男C[200万円]、次男D[200万円]、婚外子[200万円]となる。

母が先に死亡している場合でも、長男C[500万円]、次男D[500万円]、

婚外子「200万円]である。

まあ妥当なところだろう。


もちろん父が複数の女性との間に婚外子をもうけていた場合、

正妻母子の取り分は減ってしまうというケースも考えられるが、

そこまで想定する場合は、正妻の相続割合を増やして対応することもできる。


一番大事なのは、死亡した被相続人の意志を尊重する仕組みを

重視することではないだろうか。

現在の民法では、全財産を長男に相続させるといっても、

そのまま相続されるという仕組みにはなっていない。

“遺留分”(いりゅうぶん)という制度があるからだ。


例えば、父が死亡して相続人に長男、次男の二人がいるとして、

父の財産1000万円はすべて長男に相続させるという遺言が存在したとする。

この場合でも、次男は本来相続できる500万円の半分、

250万円は遺留分として相続する権利が存在するのだ。


なぜこのような制度が存在するのか。

遺留分には一定の意味がある。

長男に全財産を相続させるというのであれば、まだ理解できるところもあるが、

例えば父が無茶苦茶な人で、まったくの他人に全財産を譲ると遺言されてしまった場合、

血のつながっている家族はあまりにも不憫といえよう。

場合によっては突然生活ができなくなってしまうこともありえる。

そのように法定相続人を守るために遺留分の制度は存在すると考えられているが、

婚外子の場合、遺留分がないからといって

突然生活ができなくなるというケースはあまりないだろう。

そもそも別で暮らしている場合が多いからだ。


遺留分を完全に廃止するのではなく、遺留分の割合を下げるなどの対応により、

遺言を尊重する仕組みをつくることで正妻母子を守ることにもなる。

婚外子の相続平等に対応するため、

正妻は夫の生前に遺言を残させるようにすればいい。

相続は当事者の自由意思により決める制度にすればいいのだ。

揉めたときだけ法定相続分を適用すればいいし、

別段、嫡出子と婚外子の法定相続分が同じでもいい。


遺留分割合を下げることと、相続人間の代襲相続を認めるだけで、

今回の最高裁判決の効果を法技術的に無くしてしまうことはできる。

あとは政権与党の覚悟だけである。









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