衆議院の解散総選挙に大義は必要か?



このタイミングでの解散総選挙に大義はないという見方が

朝日新聞の社説を筆頭に示されているが、

そもそも内閣主導による衆議院の解散総選挙に大義などあるのか

ということを考えなければならない。

解散権は「伝家の宝刀」「総理の専権事項」といわれるだけあって、

総理(正確には内閣)が都合の良いタイミングで判断できる制度である。

ところが衆議院の解散権が一方的に内閣にあるのかということについて

政治学的に微妙な問題がある。

内閣不信任案が出されないのであれば、

内閣は粛々と職務を全うすればいいのであり、わざわざ解散する必要性はない。

大きな政治問題があって、その是非を国民に問うといっても、

衆議院選挙はいわゆる国民投票ではないので、

1イシューの判断をそこで求めるのは制度的におかしい。

そもそも代議制というのは、日常生活に精一杯の国民が

A、B、Cと数々ある政治課題をいちいち判断することは不可能なので、

自分に変わって政治を一括して託す人物を選ぶ制度である。

つまり、代議制とは民主主義を集約(制約)する側面があるのだ。

だから、総理が解散によって国民の信を問うというのは

代議制の本旨からするとおかしい。


議会政治の本場、イギリスでも首相の解散権を禁じる制度改正が行われ、

現在は任期満了か内閣不信任案が可決されないかぎり、

下院(庶民院)が解散されることはなくなった。


実は現行憲法に内閣主導の解散権が認められるかについて

憲法施行直後にも問題となったことがあった。

何が問題かというと、現行憲法には内閣が解散権を行使できるという

明確な規定が存在しない点だ。

現行憲法に衆議院の“解散権”について規定されているのは、

第69条だけである。

69条に記されているのは

「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、

又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、

総辞職をしなければならない」

ということだ。

つまり、不信任案が可決されたときに、総辞職するか、衆議院を解散するか、

選べるということであり、

これ以外に解散について定められた規定は、任期満了しかない。


では、なぜ安倍総理は不信任案が出されてもいないのに

衆議院を解散することができるのか。

その根拠条文は憲法第7条にある。

日本国憲法について少しでも知識があれば「あれ?」と思うだろう。

憲法の第1条から第8条はいわゆる天皇条項である。

なぜそんなこところに内閣による衆議院の解散権が規定されているのか。

憲法第7条とは天皇の国事行為を定めた条項であるが、

その内容をここで紹介してみよう。

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[憲法第7条]
天皇は、内閣の助言と承認により、

国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。

二 国会を召集すること。

三 衆議院を解散すること。

四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。

五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに

   全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。

六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。

七 栄典を授与すること。

八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。

九 外国の大使及び公使を接受すること。

十 儀式を行ふこと。
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第三号に「衆議院を解散すること」とある。

この「衆議院を解散する」という国事行為は、

同条の本文により「内閣の助言と承認により」と書かれている。

つまり、この国事行為における内閣の助言と承認による衆議院の解散が、

内閣による解散権の法的根拠となっているのだ。

これだけ。


これを普通に読めば、この規定で総理が衆議院を解散できるのか、

と思うだろう。

これで衆議院が解散できるなら、

第一号の憲法改正も内閣の助言と承認で出来てしまいそうな気がする。

事実、GHQによる占領期間中、

憲法第7条を根拠に解散することができるのかどうか、

ということが国会論争となり、憲法を創案したGHQに確認したところ、

それはできないということが伝えられたため、

わざと野党から不信任決議案を提出させて、

それを可決して解散するという方法が採られたことがあった。

実際にはじめて憲法第7条に基づく衆議院の解散が行われたのは、

主権回復後の昭和27年となり、

以後、憲法第7条の解釈として内閣に解散権が認められていることになったのだ。


つまり、制度的に内閣に解散権が認められている以上、

解散に大義など必要はないのだ。

内閣に解散権を認めていることそのものが

大義のない制度といえる面があるということである。

これに異を唱えることは憲法違反であり、

文句があるなら、安倍総理ではなく、

戦後の憲法体制そのものを批判するべきである。

朝日新聞は安倍総理の衆議院解散を批判するなら

憲法改正を主張しろと言っておく。










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