ゴー宣ネット道場トッキー氏への反論
漫画家の小林よしのり氏が主催している「ゴー宣ネット道場」というサイトの中で、
小林さんのアシスタントをやっているトッキーこと時浦氏が、
サイト内にある「トッキーのどうがお願いします」というブログの中で、
皇統論について私のことを批判してきました。
それについて反論します。
批判された内容は、(男子誕生の)「確率論」と「フランス王室論」です。
要するに、側室制度がなければ男系継承は維持できないという話を
まだやっているのです。
批判してきたといっても、サイトの読者からのメールをそのまま転載しているだけ。
私はネット上の誰かわからない人への反論はしないことにしていますが、
この件はとりあえずゴー宣ネット道場から出てきたものということで、
反論することにしました。
それでは順次、批判の内容を見ていきましょう。
【確率論】
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確率は分母が大きければ大きいほど妥当性を増す。
今後、悠仁親王殿下の1世帯しか残らなくなる状況で
確率を論じても妥当性など無い。
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分母が大きいほど妥当性を増すからこそ、
私たちは旧宮家の復活を提唱しているわけですから、
これは批判どころか我々への援護射撃と受け取ることができる内容です。
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悠仁親王殿下の妃殿下選びが難航することが予想されるが
そのことを全く配慮していない。
また、精神的なものが女性の妊娠には大きく影響する。
雅子妃殿下のように重圧が加わわる中、何人もの子どもを
望む事はあまりに酷である。
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これについては拙著でもホームページでも繰り返し主張していますが、
これまで皇太子殿下のご縁談は、
候補になった人が次々と週刊誌に追いかけ回され、話が潰さてきた経緯もあるので、
男系とか女系とはそういうことではなく、
皇族のご結婚問題そのものを考え直す必要があります。
女性宮家だったら簡単に結婚ができるなど、考えが甘すぎるでしょう。
そういった中でも、旧宮家の復活により、宮家が増えれば、
一つを潰しても意味がないので、悠仁親王殿下のご縁談のプレッシャーは
多少なりとも小さくなるだろうと期待しています。
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谷田川氏の確率論は小学生の算数の宿題のようで余りに程度が低い。
次の質問に答えてください。
「花子さんが子どもを三人産みました。
男の子が一人以上産まれる確率は何%でしょうか?」
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まったく根本の論点をすり替えた批判です。
そもそも小林よしのり氏が
「一夫一婦制で、何世代も確実に男子を産み続けることなど不可能なのだから!
明治天皇も大正天皇も側室の子である。
その後に昭和天皇、今上陛下、皇太子殿下と3代も嫡男が続いたのは
異例の幸運だったのであり、逆に女子ばかり続くことだって当然起こる」
と述べたことが、ことの発端です。
お子の数では、大正天皇は4人、昭和天皇は7人、今上陛下3人ということで、
男子誕生の確率は93%、99%、87・5%ですから、
嫡男が続いたのは異例の幸運でも何でもなく、
当たり前のように男子が生まれただけのことだということです。
お子がまったく生まれないケースのリスクについては以前に月刊『正論』で、
歴代天皇を世代別に分類して考察しています。
【フランス王室論】
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確かにカペー家は一夫一婦で男系が続いている。
しかし、「一夫一婦」といっても生涯妻が一人だった訳ではない。
カペー家の代々の当主は妻が2人〜4人いる。
理由は簡単で離婚(結婚を無効に)したからである。
相性が合わないとか別の女に惚れたとか理由は様々だが、
ロベール2世(カペー朝2代目)、(カペー朝6代目)、アンリ4世(ブルボン朝初代)は
男子が産まれないために妻を離縁し、再婚している。
「伴侶は生涯一人」ということであれば
実に早い段階でカペー家の男系は途絶えていたのである。
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話が混同していて、どこから解説しようかと思いますが、
まず、男子が産まれないという理由で離婚した場合であっても、
離婚しなかったら男系は途絶えたかどうは別問題です。
このことがまったく理解できていないようです。
その前にまず日本の皇室と西洋の王室との根本的な違いを説明しておきましょう。
天皇とは祭祀を司る「位」なので、皇室は「家」ではありません。
したがって、皇位というのは相続するのではなく、譲位するのです。
西洋の王室とは、まさに「家」なので相続です。
相続は直系で継承するという意図が働きます。
天皇の位は無私の「公」であるのに対して、家や財産は「私」です。
なので、家や財産はわが子に継がせたいという「私」が出てくるので、
相続は直系の力学が働くのです。
日本でも武家などの家は、傍系の男子より、
娘に婿養子をもらって継がせるというのはそういうことなのです。
皇位は相続ではないので、無理にわが子に継がせることはありません。
だから、皇位継承の約半数は傍系継承となったのです。
話を戻して、フランス王室で子が産まれず離婚したのは、
男系を継続できないからはなく、わが子に王位を継がせたいためです。
なるべく傍系には継がせたくない。
指摘のあった部分を具体的に見ていきましょう。
【ロベール2世】
カペー朝の二代目なので、そこで子ができなければ断絶するのはやむを得ないので、ここは特に問題のある部分ではないでしょう。
【ルイ7世】
ルイ7世には兄弟がいたので、子がおらなくても男系は断絶しませんでした。
ちなみにルイ7世とアリエノールの離婚の原因は不仲にありました
(真面目なルイ7世と奔放なアリエノールは性格が異なりすぎた)。
子が産まれなかったから離婚したというより、
不仲だから子ができなかった側面が大きかったのです。
なぜなら、アリエノールは再婚相手のイングランド王アンリ2世との間に
8人も子供を産んでいます。
【アンリ4世】
子ができなかった妻(マルゴ王妃)と離婚しましたが、
色々な政治的問題があって不仲だったこともあるし、
そのまま結婚生活が続いていたら、
従兄弟のコンデ公ルイの遺児が後継者と想定されていました。
アンリ4世には兄弟もいたので、
離婚しなかったからといって男系が途絶える要素はほとんどありませんでした。
繰り返しになりますが、日本の皇位継承とは異なり、
フランスの王位継承は家産相続なので、
わが子に継がせたいということと、政治的混乱を招かないために、
なるべく傍系継承を避けるということでした。
したがって、王位継承の危機だから離婚したという事実はなく、
あくまで当事者の事情が優先されただけのことです。
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ヨーロッパの貴族は何世代離れても貴族である。
ヴァロワ朝のフランソワ1世は150年以上、ブルボン朝の
アンリ4世は350年以上も離れた血筋で王位を継承している。
ところが皇室においては天皇から血筋が離れれば臣籍降下となる。
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日本も貴族は何世代離れても貴族ですけど。
王族と貴族は違いますぞ。
大丈夫ですか?
と、まあ揚げ足をとっても仕方がないので、本題にお答えしましょう。
王族が何世代離れても王族というのはそのとおりです。
もっというと上記の例だけではなく、
国をまたいで王族という支配階級が存在したのです。
ここは重要なところで、私はこれまで何度も説明してきましたが、
これまでの西洋の王室における女王の配偶者は例外なく外国人でした。
これは厳密に言うと女系容認ではなく、王族の男系子孫を婿養子にもらうのです。
だから、男系の血筋が変わったときに〇〇朝、△△朝と呼び名が変わってきました。
すなわち、西洋の女系容認とは、女系の血筋を認めているのではなく、
男系の血筋が変わることを認めているのです。
西洋でも血筋はあくまで男系をベースにしています。
それは何世代離れても王族という国をまたいだ支配階級グループが
存在したからできることでした。
日本の皇室は、そのような支配階級グループではないので、
男系の血筋を絶やさず、そして、必ずしも母方の血筋にはこだわらず、
天皇から血筋が離れようとも、
神武天皇の男系子孫で継承するようにしてきたのです。
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皇室は聖域であり聖域から離れれば俗人となるのである。
ある時期に宮家が充実していてもある時を境に宮家が
減少してしまう事がある
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ある時期に宮家が充実しているときもあれば、
宮家が減少してしまうこともあるので、世襲親王家を室町時代に創設したのです。
それは前の天皇から十親等離れた後花園天皇が即位するという
皇位継承危機から学んだ教訓でもありました。
後花園天皇を排出した宮家が、
現在、いわゆる旧宮家といわれている伏見宮家です。
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中世の貴族は出産と子育てが切り離されており、
出産後の子供の面倒は乳母が見る。
母親は子育てから解放され、次の子供を産む。
まさに子供を産む機械である。
フランス王室の正妻が5人〜10人の子供を産む事は珍しくない。
出産・子育てに関する感覚が現在と全く違うのであり、
現在の皇室と同列に論ずる事はできない。
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これはまったく論点のすり替えです。
小林よしのり氏は現在だけの皇室の話ではなく、
歴史的にも側室制度があったから男系継承は続けることができたのであり、
一夫一婦制では男系継承は不可能だったと述べています。
現在はもちろん過去も不可能だったと主張していたのであり、
それは間違いであるということを、フランス王室を示して反論したのです。
その反論に対して、現在には当てはまらないというのは、単なるすり替え論法です。
ちなみに現在の皇室に当てはまるかどうかというのは関係がありません。
例えば、昔が出生率4で、今が2だったとしましょう。
その場合、宮家を二つ増やせば、今も昔も男子誕生率は同じです。
少子化を問題視するなら、宮家を増やすようにすればいいのであって、
少子化と男系継承は直接的に関係がありません。
一組のカップルが生むか、二組のカップルが生むか、だけの問題で、
確率は同じなのです。
したがって、旧皇族方に皇室にお戻りいただいて、
宮家を増やす方向に持っていくべきだという結論が導かれるのです。
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フランス王室における男系男子限定は政治の産物にすぎない。
フランス王室が女系を認めるとイギリス王室のプランタジネット家に
フランス王室の王位継承権が発生するため、
サリカ法典を掘り起こして王位継承における男系男子限定の根拠にしたのである。
男系論者のように「2000年続いた男系そのものに価値がある」などと言えば
フランス人は目を丸くするだろう。
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これもまったくすり替えの論法ですね。
私はフランスの男系継承に価値があるなど一言も述べていません。
政治の産物であろうと、なかろうと、そんなこと関係がありません。
一夫一婦制を原則とした結婚制度で男系継承は可能なのか、不可能なのか、
ということを示す例として用いたただけであり、
それ以上もそれ以下の意味もありません。
私に対する批判であれば、まったく的外れで、
見当違いの批判であることは誰の目にも明らかでしょう。
以上、すべての批判にお答えしました。
正直言って、これを書いてトッキーさんに送った人は、西洋史の素人です。
これをトッキーさんは、転載して様子を伺ったのでしょうが、
ご主人である小林よしのり氏が採用しなくて正解だったということです。
ただし、女系天皇論者が今もなお論破された状態であることは
何ら変わりはないという事実は動きません。
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