天皇陛下の「お気持ち」に思う
天皇陛下が象徴天皇としてのあり方などについて「お気持ち」を表明された。
ポイントは2点だと思う。
@天皇の高齢化に伴う対策として、国事行為やご公務の縮小では無理がある
A摂政を置いても天皇としての役割を十分に果たせない状態が
長く続くのはよろしくない
日本国憲法第1条について、かつて昭和天皇が
「日本の国体の精神にあったこと」と仰せになったように、
象徴天皇というのは長らく日本の歴史・伝統にあった姿である。
ただし、象徴天皇といっても時代によってそのあり方は違ってくる。
その点について、天皇陛下はお気持ちのなかで
「伝統の継承者として、これを守り続ける責任に深く思いを致し、
更に日々新たになる日本と世界の中にあって、
日本の皇室が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、
人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至っています」と仰せになっている。
天皇陛下はご即位以来、いや皇太子時代から先帝陛下のもとで
現代における象徴天皇のあり方を模索してこられたわけだが、
そのことについて正解など存在しない。
そして天皇陛下があまりにご高齢となった場合、
象徴天皇としての役割を全うしていくことが難しいとお考えになっておられる。
ご公務を少なくするというのでは、
象徴天皇としての役割を果たすことにはならないし、
摂政を置いても、本来天皇が求められる務めを果たせないまま、
生涯を終えるまで天皇としてあり続けるのは、
天皇としてつらいお立場となるだろうし、
近代国家としての象徴天皇制度としても良い状態であるとは言えない。
こういった理由から、天皇陛下は世代交代を望まれたということだろう。
繰り返すが現代における象徴天皇のあり方に正解はない。
天皇にとって一番大事なのは宮中祭祀であり、
ご公務など減らしても問題ない、と考える意見もあるだろう。
歴史と伝統をひたすら忠実に守るのであれば、
それも一つの考え方だが、それはある種の原理主義である。
時代は流れゆくもの。
伝統を墨守しているだけでは世の中に対応していくことはできない。
時代は変わっても変わらないものがある。
それが天皇陛下がお気持ちのなかで最後に仰せになった
「皇室がどのような時にも国民と共にあり、
相たずさえてこの国の未来を築いていく」ことであり、
これが世界で唯一となる日本の国体の精神である。
現代にあった象徴天皇のあり方について
最もお考えになってこられたのが天皇陛下である。
その天皇陛下の思いを私はまず尊重したいと考える。
ただし、天皇と近代国家制度のなかで、
譲位の制度を構築するのは容易ではない。
歴史的に譲位は当たり前のように行われてきたという事実だけでやろうとするのは、
あまりに短絡的だ。
譲位が頻繁に行われてきた時代の皇室は、
現代とは異なり、閉ざされたものだった。
天皇はすだれの内側にいて、
大名でも滅多にそのお姿を拝謁できるものではなかった。
もちろん公務などやらない。
この民主主義の時代の象徴天皇は、
そんなに簡単に代替わりがあっては困るだろう。
一方で、一般社会のように65歳になったら退くというのもおかしいし、
例えば80歳や85歳とした場合、その数字の根拠は誰にも説明できない。
また、一定年齢を超えたら定年制のように自動的に譲位するというのもおかしい。
体力や気力は個人によって差もある。
一方で、80歳を超えれば譲位することができるとしても、
前の天皇は85歳まで在位したのに、
自分は80歳になってすぐに譲位してもいいのだろうか、
とお考えになることもあるだろう。
考え出せばきりがないほど問題は山積だ。
いずれにしても皇室典範を改正するのであれば、
方向性としては一定年齢以上になると譲位できるようにして、
その年齢までに回復が困難なご不例があった場合は
摂政を置くことで対応するという制度にするしかないだろう。
それ以外の方法を模索できるのであればそれでもいい。
とにかく天皇陛下は「お気持ち」を表明された。
いかなる立場の人であっても、
日本国民はひとま陛下のお気持ちを真摯に受け止めるべきだろう。
その上で、何が出来て、何が出来ないか、冷静に考えていくことが求められる。
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