この国は小選挙区制で大丈夫か



衆議院の定数は0増6減により265議席となったので過半数は233議席となる。

安定多数は244議席、絶対安定多数は261議席。

この安定多数、絶対安定多数というのは、

読売新聞のナベツネこと渡辺恒雄氏が記者時代に計算して考え出したものだと、

元朝日新聞編集委員の(故)石川真澄さんから聞いたことがある。

私が石川さんに初めてお会いしたのは

朝日新聞を定年して大学教授をなされていたとき。

そう考えるとナベツネさんは本当にご長寿だな。

かつて政治改革ブームというのがあって、

実質は「政治改革イコール選挙制度改革」であり、

そして「選挙制度改革イコール小選挙区制推進」だった。

政治家の金権腐敗は中選挙区制に原因があると言われた。

政権与党である自民党は過半数を維持するために

複数の候補者を擁立しなくてはならないことに対して、

野党は確実に1人の候補者を当選させようとするので、

自民党の一党優位体制が長らく続いた。

中選挙区制の定数で一番多かったのが5議席。

与党である自民党は5人の候補者を擁立するので、派閥が5つ生まれた。

自民党議員の敵は、

政権奪取を諦めて確実な当選を狙ってくる野党候補者ではなく、

同じ自民党の候補者と議席を争うことから、

中央政界でも激しい派閥抗争が繰り広げられた。

派閥を維持するためにはお金がかかる。

派閥の領袖には金を集める力が求められた。

各議員も同じ政党の候補が敵になるということは、

政策では争えないので、

日頃から選挙地盤を維持するため

日常的にドブ板選挙を展開しなければならず、お金がかかる。

派閥のドンは所属する議員に対して盆暮れにお金を配らなくてはいけない。

政治にはお金がかかる。

政治にお金をかからなくするために小選挙区制の導入が提唱された。

小選挙区制になると、当選は1人となることから、

与党も野党も候補者を結集しなくてはならず、二大政党制に集約されていく。

与党と野党と一騎打ちとなるので、ドブ板選挙ではなく、政策論争が中心となる。

いつ政権交代が起こるかわからないという緊張感の中で

健全な二大政党制が機能すると期待された。

それでどうなったかはご覧のとおり。

野党第一党であった新進党や民進党は崩壊し、

自民党の一党優位体制が今も続いている。

当初は政界再編の過渡期だとも言われたが、

小選挙区制導入から二十年以上も経つと、

さすがにいつまで過渡期なのだと言わざるをえない。

中選挙区制時代は、「地盤、看板、カバン(お金)」がないと当選は難しく、

二世議員が有利となり、外からの有能な新人が当選しにくいと言われた。

しかし、小選挙区制になって与党に風が吹くと、

とても政治家としての能力があると思えない

訳のわからない新人までもが当選するようにもなった。

政治改革ブームが沸き起こったとき、

マスコミは小選挙区制に賛成する議員を「改革派」、

反対する議員を「守旧派」とレッテルを貼った。

これは単純に政治改革に期待するというだけのものではない。

第八次選挙制度審議会が読売新聞の小林與三次を会長に

主要マスコミ各社で結成された。

マスコミ総出で選挙制度改革を推し進めたのだ。

だから、いまだに小選挙区制導入の反省が一切見られない。

マスコミ総出で小選挙区制を推し進めているときに、

石川真澄さんは一貫して紙面でも反対を貫かれていた。

石川さんとは思想的には相容れないものがあったが、

記者としての姿勢に私は尊敬の念を抱いた。

石川さんは比例代表制を中心とした選挙制度にして

民意をより反映させるようにするべきだという主張だった。

私はデモクラシーとはある意味で民主主義の抑制だと考えているので、

民意の反映を最重要視とはしない。

ただし、選択肢はある程度あったほうがいいと考える。

マーケティングのプロによると、

ビジネスでは消費者への選択肢は

多ければ多い方がいいというわけではないという。

選択肢が多ければ消費者は選択に迷う。

だからといって選択肢が少なくてよいというわけでもなく、

だいたい5種類ほど提示すると商品が最も売れるそうだ。

政治もそれと同じで、かつての中選挙区制のように

1選挙区で5人程度当選するのが最もわかりやすいのではないか。

中選挙区制だと政権交代が起こらないというのは、野党の怠慢に過ぎない。

複数区だとよほどのことがないかぎり落選しない議員が生まれるが、

そういった人たちは瞬間風速的な世論には流されないので、

安定した政治ができるという利点もある。

しかし、改革は進まないというマイナス面もある。

55年体制というのは今も続いているのかどうかよくわからないが、

55年体制を象徴する時代は、野党の第一目標は政権奪取ではなく、

憲法改正阻止だった。

与党に3分の2を獲らせないこと。

だから中選挙区で候補者を絞り込んだ。もうそんな時代ではない。

小選挙区制は日本の風土には合わない。

中選挙区制が良いかどうかはともかく、

新しい時代に即した選挙制度を模索する動きはあってしかるべきだと思う。









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