不完全だからこそ人間



大晦日から元旦にかけての朝まで生テレビで、

お笑い芸人ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんが、

「日本は非武装中立に」、

侵略されたら「白旗上げて降参」、

尖閣諸島について「取られてもいい」、

敵を殺さないと自分が殺される状況になったら「殺されます」、

沖縄について「元々中国から取ったんでしょ?」と発言して、

ネット上ではちょっとした大騒動になっていた。

この発言についてバッシングを受けると村本さんは、

「おれが前から自分は無知だ、と言ってて、今回の朝生のオファーあった時に、

小学生以下のバカ丸出しの質問して話し止めるけど

それでいいなら出るってのが条件だったから、

おれ的にはなんでも質問できて、最高に楽しかった」、

「テレビで無知晒してバカ晒してまわりにブチ切れられて

誰かが学べばいいんじゃない?

自ら賢いなんか一言も言ってないおれを呼ぶってのは

そういう番組だってこと」と答えている。

私の率直な感想は「つまらない」かな。

彼が無知なのは仕方がない。

そんなこと責めても意味がない。

彼が言ったことは「既出」で、何の新鮮味もない。

政治素人ならではの素朴な発言が新鮮であったりすることもあるが、

今回発言したことは、まあ誰でも言えるような薄っぺらいものだった。

思想の善し悪しは別にして、もっと面白味がほしいところだ。

この件について村本さんは問題提起として興味深い発言をした。

「兵器を持ってほかの国に侵略されないようにするか。

威嚇して近寄らせないようにする、己が北朝鮮、

いや人間は結局、チンパンジーだって、ことね。

腑に落ちた。おれはチンパンジーだって認めたくないから非武装中立を叫ぶけど」

おそらく非武装中立論に対する反論に対する反論だろう。

ただ、チンパンジーは戦争しないし、殺人、いや、殺チンパンジーもやらない。

人間がチンパンジーよりも知能を持ってしまったがために、

動物にはない業や欲が出て、殺人や戦争を行うようになった。

チンパンジーはかなり以前からひとつの完成形の姿を見せているが、

人間は知能を手にすることによって「不完全」に陥ってしまった。

革新左翼やリベラル派が戦争のない世界、

殺人のない世界を理想として掲げているのは、

ある意味チンパンジーを目指していると言えなくもない。

ところが人間が高度な知能を手にした以上、チンパンジーに戻ることはできない。

人間は「不完全」と付き合い続けなければならないのだ。

そして、政治は「不完全」な人間の集合体を動かしていくのである。

村本さんに対して激しくバッシングをした人たちに対して、

彼は、知識はあっても低脳(チンパンジー)だと思うだろうが、

我々は、そういう人たちも含めた

「人間の性(さが)」から逃れることはできない宿命にある。

チンパンジーは目先の欲が満たされたらそれ以上を求めない。

しかし、人間は満たされると次なる欲が生まれる。

他人より優位に立ちたいと考える。

他人よりお金を持ちたい、おしゃれな服装をしたい、ステータスを得たい。

これらは人間だからこそ出てくる業(ごう)であり、

人間の不完全性を形成している。村本さんも当然この中に当てはまる。

生きていくのに十分過ぎるお金を稼いでいるだろう、

女性にもモテるだろう、美味しいものを食べられるだろう。

でも、もっと上を目指したいのではないか。人間だから。

それらが一方でチンパンジーにはない争いを生む。

革新左翼の失敗は、共産主義思想という完全なシステムに、

不完全な人間をあてはめようとしたことにある。

そんなものが成功するわけがない。

じゃあ、この人間の不完全性を埋めるのは何なのか。

それが、時間によって築き上げられた伝統的価値観や道徳であったり、

宗教であったりする。

一世代の人間は不完全であっても、

幾世代もの時間が加わることによって、不完全を補うこ とができる。

人間が完全な生き物になれるのであればこれらは必要ないが、

不完全である以上、伝統や信仰に頼りながら生きていくしかない。

冒頭に述べた面白味のある発言とは、

こういったことをふまえてさらなる独自の発言をするか、

あるいは素人ならではの素朴な視点とユーモアで

独特な表現をすることではないか。

村本さんは自分が馬鹿なピエロになって、

それを見た人が学べばそれでいいじゃないかと思っているようだが、

そんなピエロは村本さんでなくても他の人でもできる。

村本さんではなくても、誰でもできることをやるのは

優れた芸人のやることではないと私は思う。

なぜここまで言うのか、その理由は、

私はお笑い芸人として村本さんを高く評価するし、

THE MANZAIで優勝する以前からセンスを感じていたからだ。

村本大輔という人物の面白さからすれば、

今回の朝生での発言は、残念なほどつまらなく、面白くなかった。

それは彼が日の丸万歳と言っていても同じ。

右でも左でも、保守でも革新でも、つまらないものはつまらない。

私が期待しているのは、どんなジャンルであっても彼オリジナルの面白さなのだ。










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