W杯に棲む“何か”



ロシアW杯は、予想通り決勝戦でクロアチアが敗れ、

フランスの優勝で幕を閉じる。

W杯は内容よりも勝つべきチームが勝つ。


以前にも述べたとおり、W杯で初優勝するためには開催国であるか、

優勝経験のないチーム対決による決勝戦のいずれかの条件がある。

実は、この開催国という一方の条件も1998年フランス大会まではなく、

それまで初優勝は優勝未経験国チームによる決勝戦しか生まれなかった。

1998年大会は決勝戦がフランスvsブラジル。

これまでの条件に照らせば、ブラジル優勝するはずだった。

しかし、このときのブラジル代表のエース、ロナウドは

重圧により試合直前に胃痙攣を起こしていたという。

私がこれまでサッカーを見てきたなかで、

FW(点取り屋)として一番凄いと思ったのはこの当時のロナウド。

強烈なスピードとパワーで相手DFを確実に抜き去り、ゴールに迫る。

なので、相手DFは二人がかりで止めるか、ファールで止めるしかない。

ロナウドは毎試合ファールを受けまくっており、ボロボロになっていた。

そこに国を背負った重圧。

一方のフランスは、ジダン、アンリ、トレゼゲ、デシャン、デサイーといった

スーパースターを擁し、ホーム・アウェイ関係なく、

どこの場所でどんな相手でもなぎ倒すという常勝軍団となり、

それが開催国というアドバンテージと重なり合った。

奇跡の融合である。

ジンクスなど吹き飛ばし、決勝戦はフランスが圧勝した。


開催国という初優勝の条件の一つは、奇跡の融合で生まれたものであり、

現実は開催国というだけで優勝に近づけるほどW杯は甘くない。

しかも、優勝経験国フランスと初めて決勝戦に進出したクロアチアが

第三国ロシアで戦えば、優勝経験国フランスが勝つのは当然の結果だった。

理屈ではなく、W杯とはそういう大会なのだ。

単なるスポーツを超えた“何か”が存在する。

世界の強豪国は良くも悪くもその“何か”を理解している。

日本はまだその“何か”を理解していない。

その“何か”を理解したときに、日本ははじめてスタート地点に立てる。

オランダやベルギー、スウェーデンなど、

とっくの昔にスタート地点に立ちながら、

優勝に手が届かない強豪国がたくさんある。

その手が届かない強豪国たちは、2010年のスペインのように、

優勝未経験国どうしの決勝戦の組み合わせを待つか、

W杯に棲む“何か”をぶち壊す不動の破壊力を身に着けるしかない。

今回のクロアチアはW杯に棲む“何か”をぶち壊してくれるのか、

ということに期待した。

もし、クロアチアが優勝すればW杯という大会が変わることになったかもしれない。

しかし、何も変わらなかった。

そんなことはわかっていた。

それこそがW杯なのだから。

W杯はまだしばらくスポーツを超えた“何か”が棲む特別の大会であり続ける。






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