信仰と尊敬の相違〜その3                  

 


小林よしのり氏の女系天皇論は独自の「史料検証」を一切行っていない証拠が、

実は『新天皇論』の中にあります。

 

巻末に参考文献が46件掲載されているのですが、

その中で原典史料らしきものといえるのは『古事記』(次田真幸訳注・講談社学術文庫)と、

『日本書紀』(宇治谷孟訳注・講談社学術文庫)、

『神皇正統記』(山田孝雄校訂・一穂社)の3点だけとなっています。

彼は皇統論を発表するのに、原典をほとんど当たっていないことを暴露しているのです。

例えば、元明天皇から元正天皇への継承が女系継承だと述べていますが、

その時代のことを扱うにつき、『続日本紀』を読まずして、なぜ書けるのか、私には疑問でなりません。

 

 

----------小林よしのり----------

皇統問題について描くとき、わしはまず自分で勉強して描く。

自信を持って発表しても、高森明勅、所功、田中卓先生から間違いを指摘される時もある。

専門家の指摘は大変ありがたい。

 (340頁)

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まず自分で勉強して描くと言っても、

誰かが発表している書籍を読んでいるだけとなります。

 

 

----------小林よしのり----------

やっぱりそうか。

渡部昇一氏はシロウトだからな。

わしだってシロウトだけど、少なくとも多くの本を読んで、専門家の意見には耳を傾ける。

皇室の問題を自分の妄想だけで、でっち上げて語るわけにはいかないよ。

(340頁)

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渡部昇一先生は、あらゆる原典を読まれることで有名な方です。

古代から平安期の皇位継承について語るのであれば、少なくとも『古事記』、『日本書紀』以外では、

『続日本紀』、『日本後紀』、『続日本後紀』、『文徳実録』、『日本三代実録』など六国史にあたるのは常識です。

おそらく渡部先生はすべてに目を通しておられることでしょう。

そのような議論を望んでおられたのではないかと察します。

むしろ、他人の書いたものを読んで、自分の妄想だけででっち上げているのは

小林よしのり氏自身ではないでしょうか。

 

例えば、第19章「旧宮家復活なんてありえるか?」では、

宮中某重大事件などを取り上げて、伏見宮系の皇族を非難していますが、

それは浅見雅男著『闘う皇族、ある宮家の三代』『皇族誕生』という本の内容を、そのまま漫画に描いているだけで、

それが間違いないのかということについて一切『史料検証』が行われた形跡がありません。

浅見雅男氏の記述に誤りがあれば、そのまま小林よしのり氏も間違うという構造になっているのです。

事実、現在の皇室と旧宮家の共通の祖先は貞成親王なのですが、高森明勅氏が述べた

「今上陛下と旧宮家がはじめてつながる共通の祖先は北朝三代、崇光天皇の子である栄仁親王」というのを、

検証もなしに採用した結果、そのまま間違いを垂れ流し続けるということも起こりました。

 

また、「皇族降下準則」についても、浅見雅男氏や小田部雄次氏の著書を基に書いた結果、

実際は「準則」は一度も適用されず、

その間の皇族降下はすべて皇室典範増補第1条の情願であった事実すらわかっていなかったのです。

 

第22章「男系継承はシナ宗族制の模倣」についても、酒井信彦氏の論文(『諸君』平成18年10月号に掲載)

「男系天皇絶対論の危険性〜女系容認こそ日本文明だ」の内容をそのまま漫画にしただけとなっています。

酒井氏の論文については、

http://sakainobuhiko.com/2006/10/post-9.html

で、全文確認することができます。

『新天皇論』の第22章を読み比べれば、一目瞭然です。

 

酒井氏の論文に書かれていた内容をそのまま使って、漫画でシナ宗族制度の説明を行っているのですが、

酒井氏はそのシナ宗族制度は日本に入ってこなかったのであるから、

男系継承にこだわる必要はないということを述べています。

ところが、小林よしのり氏は、酒井氏の説明をさんざん使用した結果、

日本の皇室における男系継承は、シナ宗族制度の模倣であると結論づけたのです。

肝心なところで酒井氏と内容が異なっているのであれば、独自の検証が必要となるはずですが、

そのようなことには一切触れず、以下のように締めくくる。

 

----------小林よしのり----------

男系天皇維持を唱える者が「シナ・朝鮮から独立した日本文明」を誇るのには

致命的な矛盾があると言ったのは、そういうことだ。

彼らは結局「男系絶対主義者」でもない。

「男系継承」とはどういう歴史的経緯を持つのか知ろうともせず、

中途半端な男系主義を妄信しているだけであり、

「男系固執論者」と呼ぶのが正確であろう。

なお「男系固執主義者」の命名は田中卓氏である。

元東大教授で朝廷儀礼の研究者、酒井信彦氏は

「女系天皇こそ日本文明に適う」と主張している。

確かにその通りで、女系も認め、双系継承に移行した方が、

日本人一般の家の継承に関する伝統・文化に適合するのだ。

 

ごーまんかましてよかですか?

女系を認めたら皇統の断絶だとか、

日本文明の終わりだとか言っている者もいるが、これはむしろ逆である。

女系天皇公認は、古代から続いていた不完全なシナ文明の最後の頸木を解き放つ

画期となる歴史的英断なのである!

(231-232頁)

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上記の前の段階で、さんざん酒井氏の論文を丸々使っておいて、

さらには、肝心なところは違っているのに、

最後になって「元東大教授で朝廷儀礼の研究者、酒井信彦氏は女系天皇こそ日本文明に適うと主張している」

などと酒井氏の論文などなかったかのように紹介しているのです。

これがプロパガンダではなく、一体何がプロパガンダであるといえるでしょうか。

 

これまで『戦争論』などにより、従軍慰安婦、南京大虐殺など、左翼のプロパガンダに対して、

必死になって戦ってきた人が、今は上記のようなプロパガンダを行っているのです。

 

小林よしのりさん、あなたは一体何を守りたいのですか?

私たちが守りたいのは「自分の勝ち」ではなく、歴史・伝統に基づく皇統であり、

わが日本国の皇室です。




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