高森明勅氏の女系論を批判する

 



『SAPIO』(1/11・18)に高森明勅氏による

《「女性宮家創設」議論で避けて通れない天皇陛下のご意思と

「女系・女性天皇」容認論》

という記事が掲載されているので、

その内容について批判したいと思います。

 

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(旧宮家の男性は)一般国民として生まれ、

民間で生活していた者が結婚という事情もなく、

ある日、突然、皇族になったところで、

国民から尊敬の念を集められると思えない。

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ここで言うところの国民とは、現代のみの国民です。

50年後、100年後の国民にとっては、

ある日、突然に皇族になった方ではありません。

 

“時間の縦軸”ではなく“水平軸”でしか捉えられないのが、

女系論者の特徴です。

水平軸優先は、まさに理性主義です。

 

50年後、100年後の国民にとっては、皇籍復帰なさった旧宮家の方々は、

生まれながらに皇族なのであって、

神武天皇から父子一系でつながる正統なる皇位継承資格者なのです。

現代人の感想が、未来も同じであると考えてはいけません。

世論調査の結果は、日々変更していくことを見ても明らかです。

 

古代に武烈天皇が跡継ぎ不在で崩御されたとき、

応神天皇の五世孫を探し出し、越前におられた継体天皇が即位されたいきさつについて、

女系論者が言うには、当時においても反対があって、

20年も大和に入れなかったということを述べるが、

では50年後、100年後はどうなっていたかを考えてみるといい。

天皇を中心に一つにまとまっている。

聖徳太子が摂政に就いたのは、継体天皇即位から85年後です。

もっとそれ以前に継体天皇の皇子である欽明天皇が即位するころには、

天皇の正統性を疑う者はいませんでした。

 

旧宮家の方々の皇籍復帰に、たとえ国民の一部が不満を持つとしても、

それは一時的なことであって、数十年後にはなくなることです。

ましてや継体天皇のときと異なり、藩屏としての一皇族の話です。

国民が納得するかどうかだけの議論は意味がありません。

 

また、よく誤解されることですが、

そもそも国民が納得するかというほどのことでもありません。

現在、天皇陛下から見た傍系の皇族方の

顔と名前が一致する国民は、どれだけいるでしょうか。

愛子内親王殿下や、悠仁親王殿下のお顔と名前を覚えている人は多いと思いますが、

三笠宮家や高円宮家の女王方の顔と名前を

完全に覚えている国民はどれだけいるでしょうか。

 

注目されるのは直系の宮様だけで、

傍系の宮家というのはそういうご存在となります。

国民が納得するしないというほどの大げさな話ではなく、

現在における傍系の宮様方のようなイメージで、

男系男子の皇族が増えるだけのことです。

 

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過去にも10代、8人の女帝がいたし、

第43代元明天皇から第44代元正天皇への継承は「母から娘」へ皇位が移っており、

当時の大法令の規定に照らしても「女系継承」と言える。

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元明天皇は誰から皇位を継承したのでしょうか。

息子であった文武天皇です。

「母から娘」が女系継承なら、「息子から母」は何と呼ぶのでしょうか。

「逆男系継承」ですか?

 

「皇統譜」を見ればわかることですが、

皇統というのは、誰から皇位を受け継いだかということではなく、

血統的に誰とつながっているかということが原則です。

その血統はすべて男系を基準に記されています。

 

また元明天皇から元正天皇への皇位継承の過程について、

正史である「続日本紀」には、

天皇の詔として、男系男子に継承する原則が示されている。

これを女系継承と述べるのは、高森氏の勝手な想像であって、

史料的検証は皆無となる。

学者としての資質を疑いたくなります。

 

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男子にこだわるあまり、直系女子よりも傍系男子を優先させると、どうなるか。

本来は親から子、子から孫へと縦の継承が、

男子の生まれた家に転々と移る横の継承なってしまう。

国民統合の象徴として、不安定な印象を与えるだろう。

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これもまったく歴史的事実を無視した見解となります。

初代神武天皇から第13代成務天皇まで(欠史八代を含む)を除き、

連続して親子継承が続いたのは、

第119代光格天皇から第125代今上陛下までの7代が最長です。

それまでは、高森氏が述べるがごとく、

「男子の生まれた家に転々」と移りながら、縦の継承を続けてきました。

 

「国民統合の象徴として不安定な印象を与えるだろう」というのは、

現代人で水平軸でしかものごとを考えられない高森氏の個人的見解に過ぎず、

歴史的事実とはまったく無関係であるということです。

 

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皇位継承問題についてはルールを論じるべきで、

特定のお方のお名前を挙げるべきではない。

それをすれば、単なる人気投票となり、

「自分たちの判断」を軸に据えることになる。

この発想自体、安定的な皇位の継承を崩すことに繋がる。

その時々の国民のムードや感情に左右されるからだ。

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だったら男系男子の皇統を守るというルールを考える上で、

高森氏が述べる前述の

「(旧宮家から)皇族になったところで、国民から尊敬の念を集められると思えない」

などと述べる必要性はありません。

その国民とは、まさに「その時々の国民のムードや感情」となります。

高森氏が述べるように大事なのは原則です。

言い訳のように国民が納得するかどうかなどを論じずに、

男系男子の原則を守るか、

それを崩すかという単純明快なことを論じればいいのです。

 

ところで、小林よしのり氏が運営するゴー宣ネット道場に、

高森氏による「女性宮家の基礎の基礎」という動画があります。

そこで5つのポイントというのが挙げられています。

 

@陛下のご意思を拝察すべし

A女性宮家は宮家である

B配偶者は皇族になられる

C皇族のお子様は皇族である

D女性宮家は世襲される

 

@については、高森氏は、宮内庁の羽毛田長官を突き動かしているのは、

「陛下の御憂慮」であり、「陛下が心中深く女性宮家を願っておられる」と述べています。

そして、「これがわからなければ、皇室・典範について議論をする資格がない」とまで述べる。

 

これは完全にごまかし、すり替えの論理となります。

確かに孫の世代で男系男子が悠仁親王殿下お一人になるということについて、

「陛下の御憂慮」があることは拝察できます。

しかし、「陛下の御憂慮」が、なぜイコールで「女性宮家を願っておられる」になっているか。

ここが刷り込みの論法です。

 

「陛下の御憂慮」を拝察できなければならないと思いますが、

その解決方法まで勝手に忖度してしまうのは別の話です。

高森氏は勝手に「陛下が心中深く女性宮家を願っておられる」

とまで述べてしまっている。

これは完全に出過ぎた行為であって、控えねばならないと考えます。

 

女性宮家創設の報道があった直後に、

秋篠宮殿下が会見で以下のように仰せになりました。

 

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いわゆる皇室の制度については、皇室典範があります。

制度論については、これは国会の論議に委ねることになるわけで、

私が何か言うということではありませんけれども、

その過程において、今後の皇室の在り方を考えるときには、

何らか、私若しくは皇太子殿下の意見を聞いてもらうことが

あって良いと思っております。

(文仁親王殿下お誕生日に際し)

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これは政府や宮内庁が、ご意向を確認せずに進めていることの証とも考えられますので、

方法論まで軽々に忖度・拝察するなどと述べるのは慎むべきではないかと考えます。

 

A〜Cは、一代限りにおいて皇族の身分とするという案に対する批判です。

結論については私も同じ意見ですが、理由がまったく異なります。

高森氏は一代限りではなく、完全なる宮家として、

世襲により女系まで認めるべきという主張です。

 

その根拠については、この論考も含めて繰り返し論破していることなので、

改めて論じるまでもないと思いますが、

一つだけ述べておかなければならないことがあります。

 

女性宮家の配偶者にスパイが入るかもしれないというのは低レベルの主張で

言語道断と述べていますが、私はそうは思いません。

日本人の感性として、女性皇族と結婚するだけでも畏れ多いなのに、

自分も皇族の身分を取得するとなると、

畏れ多いという言葉では表現できない感覚を持つことでしょう。

 

黒田清子さまのご結婚について、渡邉允前侍従長が

「内親王のご結婚は、おいそれと決まるものではありません。

まだ具体的な経緯はお話しできませんが、秋篠宮さまのお力が大きかった。」

と公言しているとおり、相当の苦労が伺われます。

もし黒田慶樹さんに皇族になっていただく話であったなら、

うまくいかなかったのではないでしょうか。

 

まともな感性を持つ日本人なら、

皇位継承権のない内親王と結婚するだけでも大変であるのに、

一般人である自分も皇族になるという歴史上一例もないことになるなど、

恐れおののくのが普通だと思います。

ということは、恐れおののかない人が対象になってくるわけですから、

スパイかどうかはともかく、誰しもが不安に思うことも無理はないでしょう。

 

世界史的に見ても、外部の男性が王族にはいるのは非常に問題が多いのも事実です。

わざわざそのような方法を選択しなくても、

二千年以上続く、一貫した原理原則を守っていくことが、

皇室の安定、しいては日本の安定につながると考えるべきではないでしょうか。




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