広域計画と地域の持続可能性〜地域活性化の視点から〜
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広域政策の変化

 

■定住自立圏構想(2009〜)

 こういった見方は最近広域政策として始まった定住自立圏構想にも含まれているのではないかと思います。

 定住自立圏構想については本の5章2節で大西教授が詳しく論じていますし、私の3章でも少し触れています。

 さてこの政策は広域行政圏に代わる国の新たな広域施策であり、その公的な目的は「互いに連携・協力することにより、圏域全体の活性化を図ることを目的とする」(総務事務次官「定住自立圏構想推進要綱について(通知))と書かれていますが、そこでは熱い活性化はイメージされていません。

 この制度を簡単に解説しますと、中心になる市が中心市になりますと宣言をしますと、周辺の市町村と協定を結ぶことができるようになります。協定が結ばれると国から支援が来るという仕組みです。

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 中心市は5万人程度が想定されていて、ある程度、周辺から人がくる街だろうということで昼夜間人口比が1以上が条件です。

 たとえば医師を周辺の市町村に派遣したり、商店がなくなっている周辺に中心市から配送するなど、いろいろなことが想定されています。

 この辺は、選択と集中ですね。表向きは圏域全体で活性化するんだということなんですが、実際は、中心市にある程度機能を集中させて、それをもってサービスが地方からまったくなくなることがないようにしようという感じです。

 そういう意味でも活性化のイメージは変わってきているのです。


■広域政策の昨今

 高度成長期には人口増に対応する公共サービスを供給するために、一部事務組合などで一緒に対応しようとしていました。上下水道や、ゴミ処理施設などはスケールメリットを活かすほうが効率が良いという事で、連携が図られてのだと思います。

 安定成長期になると、そういった社会基盤はだいたい整備できたんだけれども、人口は相変わらず大都市圏に行ってしまうということが問題になり、大都市圏にあまり人が行かないように自立した圏域形成のための連携が促されました。

 地方圏、地方の定住圏のなかで若者が生活できるように雇用を生み出す、それから高度な文化施設ですね。そういうものを供給していこうとしていました。

 最近は、逆にそういったものは箱モノと言われ、使われていないじゃないかと批判もされています。だから最近の広域圏施策は、中山間地域から人がいなくなってお年寄りが取り残されている、それにたいして、基礎的サービスすら供給できなくなっているなかで、それをどうするかに注目が集まっています。

 ですから先ほどの定住自立圏構想も、自立した圏域を促すというよりは、実際は、中心市はまだなんとかなっている、それに対して周辺町村は非常にまずいという状況のなかで、周辺市町村のサービス供給を支援するという仕組みなのです。


■広域圏の変化

 今、広域圏が大きく変化しています。分化、多様化していると言えるでしょう。

 安定成長期は自立した圏域形成のために、経済も概ねこの圏域で自立し、サービス供給も同じような圏域で自立して行わせるという政策が多かったのです。定住圏もそうでした。地方拠点都市地域も遠くに人がいかないようにというものでした。

 近年の状況は、サービス供給は道路整備などある程度拡大したのですが、自動車で供給するというかぎり、更なる拡大には限界があります。それにたいして経済圏は業種によっても異なりますし、またグローバル化の影響で海外と取引するような部分もあれば、地産地消でクローズドにやっている部分もあり、非常に多様になっています。

 ですから経済圏とサービス供給圏を一体として考えること自体が難しくなっている。特にグローバル化の影響で乖離が大きくなっていると考えられます。


■「維持の広域政策」の基本的な論点

 そのなかで経済圏については本書の4章で松原先生が詳説していますが、ここではサービス供給圏、具体的には、お医者さんが足りないとか、高齢者が困っているということについてどうすべきかを考えてみます。

 さきほどから述べているように、サービス供給圏としての広域政策は守りに入っており、経済圏と一緒に考えるのは難しいと思います。

 定住自立圏は表向き自立した圏域を目ざしていますが、実際はそうはなっていないのです。そうなると地方圏の自治体、あるいはそれを支える政府が行う広域圏政策も、維持の広域政策になっているのではないかというのが、私の主張であります。

 これには反論があるかと思いますので、あとで頂ければと思います。

 維持の広域政策の基本的な論点、その存在意義は、次のようなものです。

     
      コストを最小化する圏域を設定=最適化。
      理論的にはそれぞれに最適規模がある。
      実際には多くが行政界単位で供給される。
      供給圏を最適に近づけるための広域・狭域の施策
        →委託、一部事務組合、広域連合、自治区など。
 
 本書でも書きましたが、このような理由からさまざまな広域政策があるのですが、それに対して批判もあります。理念的な問題としては「地方自治の本旨から遠のく」と言われ、実務的には「調整したほうが効率が良いと分かっても、現実には調整が難しい」と言われます。たとえば市町村同士で給与が違うのに、一部事務組合でどうやって調整するのかといった、学者にとってはそんなに大きな問題とはおもえないことも、現場にとっては大きな障害になっています。

 そういったところを乗り越えなければいけません。

 事務の共同処理の例は、制度については表3(p67)にまとめておりますし、実例はそれぞれの市町村でNIMBY施設を分担してる例を図7(p70)などで解説していますので、ご覧ください。


■人口減少と広域政策

 これが人口減少でどういうふうになるかをお話したいと思います。

 まずサービス供給のスケールメリットを活かせるか、です。

 たとえば人口が増えていくなら下水道を整備していけば効率がよくなるのですが、人口が減少すると、むしろ浄化槽がで良いんだ、そのほうが効率的だとなってしまいます。

 そうすると、みんなで一緒に整備する意味がなくなってきます。バラバラにやっていれば良いということになります。

 これは、単に下水道か浄化槽かという問題ですが、こういうことが、さまざまなサービス供給で起こってくると、広域で処理することのメリットが見いだせなくなります。

 加えて、市町村によって、金持ち市町村と貧乏市町村が出来てきますから、ウィンウィン(WIN-WIN)の関係は作りにくくなります。これは平成の大合併でも見られたことです。

 たとえば東北地方の合併の状況をみますと、かなり合併したなかで、一つだけポンと残っている市町村があったりします。だいたい、そういう町村は原発が立地していたりして、裕福な市町村であることが多いのです。

 そうなると裕福なところは、「自分のところの儲けは他にやらないよ」ということになると、どうしても上からの調整をしないと格差が大きくなってしまう。あるいは全体で最適な広域連携の状況をつくれないんじゃないかということになってくるわけです。

 「上からの」というと、地方分権の今は流行らないんですが、ある程度、上からの広域調整が必要なんじゃないかというのが、私の主張です。

 定住自立圏構想も中心市にとっては、ほかの周辺市町村と一緒に何かやるからお金が貰えるという仕組みですが、お金が貰えないならモチベーションがないわけです。そういったことが、人口減少社会になると顕著になっていくのではないか。

 だからある程度、広域政府からの関与を残しておくべきではないかというのが、3章の趣旨です。


■おわりに

 ただ反論もございますでしょうし、私自身も自問自答しているところがあります。

 たとえば先ほど広域政策は分化したと申しました。それなのに本当に地域の統合ができるのか、もうできないのか、私の大学院でも議論しています。

 社会人大学院なのですが、学生さんが「いや、できるんじゃないか」ということで、地域ソーシャルイノベーションといって、地域の社会的企業をうまくつかって地域内に好循環を作り出すという、内発的発展に近い部分ではあるのですが、イノベーションをおこしていくことを研究しています。

 今日の私の話は未来が見えにくい話で、実際、私の世代は未来が見えにくいのですが、それでも建設的な意見を出そうということで、水平的機能分担型の広域連携もできるのではないかと、思っています。これはそれぞれの市が今までフルセット型でそれぞれの施設を持っていたけれども、これをA市は病院、B市は文化施設のような形で分担できないかという考えです。

 供給施設では同様のことができているのですが、他の施設では今までできていません。これができないかということで研究しています。(国交省での研究参照)。

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 また南信州地域では小さな街が先進的な取り組みをやっていますが、その背後には飯田市があるのです。たとえばワンコイン医療などでは各市町村が頑張っていますが、ほんとに重大な医療は飯田市が担っています。

 そういった状況が、それぞれの分野であり、南信州という圏域をつくっているのではないかと思います。

 これから、そういったことも含めて研究を進めていきたいと思います。

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