前田:
『オオクボ 都市の力』をお書き頂いたときに、どなたに何を伝えたかったのか、まず、そこからお答え頂けないでしょうか。
稲葉:
どなたにというか・・・まず、最初にいつか大久保で都市論を書いてみたいということがあったのです。それは、20年近く前、大久保に行った最初の頃に思ったのですが、なぜ思ったかは、今はもう分かりません。
私の場合、大久保にかなり長く関わることになったのですが、大久保がちょうどかわり始めたときから、もの凄い勢いで変貌していく過程をずっと見続けてきました。
たぶん、それを調査とかをしながらやってきた人たちはほとんどいなかったと思うので、私たちが調べたこと、感じたことを、なんらかの形でまとめて、伝えていくというのは、これから研究される方々の参考になるのかなということまとめたということがあるのかな、と思います。
前田:
都市の力とという書名を付けられたのは、どうしてでしょうか。
稲葉:
う〜ん。やっぱりあのまちのダイナミズをどういう書名で表すかというときに、もうそれしかないという感じで、最終的に言いたかったのは、最後の「すべてを受け入れてこそ多様性」、そして「軋轢なくして交感なし」「変化に終わりはない」という三つのことは、私が大久保から与えてもらった、大久保をずっと見続けることで、あるときそういう言葉が降りてきたみたいな、そういう事だったと思うのです。
ここにこそ都市が本来もっているような魅力というか、奥深さ、そういうものが大久保、あるいは新宿に凝縮されていると、いうことです。
かつ、今、日本の都市がどこも行き詰まっていると思うのですけど、その打開のヒントとなるものが大久保にあるのではないかと思います。単に、それは大久保だからということではなくて、きちんと見ていけば普遍的な新しい、次にどうやって切り開いていくのかということ、そういうことが立ち上がってくるような土地だと思います。
前田:
次を切り開いていくということですが、読んでいただかないと分からない点はあるかと思いますが、いくつかポイントをあげていただけないでしょうか。
稲葉:
そうですね。
多様性ってものすごく使われていて、流行語のようになっているけれども、その多様性って都合良く使われている部分もあるような気がするんですね。だけども大久保を見ているとほんとにありとあらゆる要素が入ってきて、普通だったらこれは排除したいというものを含めて受け入れていく。それでこそ多様性だし、やはり多様性を求めるならば、それなりの覚悟も必要なんだよと、きれい事ではないというようなことを、大久保は、まさにまちそのものが語りかけてくれると、そういうように思います。
前田:
覚悟ですか。
稲葉:
そうですね。
前田:
どうも有り難うございました。
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『オオクボ 都市の力』
●主要目次●
序 オオクボから「都市とは何か」を考える
第1章 誘惑される「オオクボ」案内
1 マルチエスニックタウンの出現
2 オオクボ九龍城の内部
3 オオクボを行き交う人々
第2章 なぜ外国人は大久保に集まってきたのか
──多様な住宅ニーズに応えられる仕組み
1 大久保という磁力に引きよせられた外国人たち
2 「外国人居住問題」の時代──90年代初めの大久保
3 多様化する外国人の住宅市場──10年後の大久保
第3章 どのようにしてエスニックタウンは発展したのか
────同胞から日本人へ市場を拡大していくまち
1 「エスニック系施設」はどのように増えてきたのか
2 生活者のまちからエスニック・ビジネスの拠点へ
3 エスニックタウンからオオクボタウンへ
第4章 なぜダイナミックな都市変容が起きたのか
────スモールビジネスから発展していくまち
1 細街路からはじまったエスニックタウン
2 韓国系ニューカマーの進出とバブル崩壊
3 小さなムスリム・スポットの出現
4 大久保通り商店街のエスニックタウン化
5 大久保からオオクボになったまち
第5章 大久保から「オオクボ」への軌跡
────周縁性と移民都市
1 江戸時代にはじまった移民の歴史
2 郊外住宅地に流入した新住民
3 多様な流動層のまちへ──大久保・歌舞伎町・新宿
4 新宿・歌舞伎町の周縁にある移民都市
第6章 都市の生命力と多様性
1 「混在」「交錯」「曖昧化」する都市空間
2 すべてを受け入れてこそ多様性
3 軋轢なくして交感なし
4 変化に終わりはない
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