川上 光彦 金沢大学理工研究域環境デザイン学系教授。工学博士。1972年京都大学大学院修了。主な社会的活動として、石川県都市計画審議会会長、NPO法人金澤町家研究会理事長など。著書に『まちづくりの戦略―21世紀へのプロローグ 』(共編著、山海堂)、『都市計画』(森北出版)など。

 

『人口減少時代における土地利用計画』を語る

2010年9月、建築学会が行われている富山大学に川上光彦生先生をお訪ねし、出版の狙い、誰に何を伝えたいかをお話いただきました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

 

本書の狙いは?

前田:
 今回お書き頂いた本で、読者にどういうことを伝えたかったか、またどう役立てて頂きたいかを、簡単にお答いただけますか。
川上:
 今回、これまで土地利用に関連するテーマを一緒に調査研究してきた仲間たちとともに『人口減少時代における土地利用計画』を書かせて頂きました。
 これは、これまでいろんな都市計画のなかで、たとえば線引き制度とか、用途地域とか、あるいは開発許可というものが整備されてきて、行政の実際の現場で、かなり運用されてきたわけです。実際に、うまくいっているところと、うまくいっていないところがあります。
 特に大きく構造的に変わったものとしては、一つは社会的な条件が大きく変わってきたということが上げられます。成長発展の時代から、停滞、または人口減少の時代に大きく変わってきています。一方で、環境問題が重視され、コンパクトな公共交通を中心とした市街地をつくるといった社会的な変化も大きくあります。
 それらに関連して、地方分権とか地域主権という形に都市計画の制度も変化してきています。地方自治体、特に市町村が独自の条例を使ったり、あるいは法律に基づいていろんな制度を活用するという時代になってきています。先行して全国各地の市町村で独自の工夫もされてきています。
 そういうものをこれまでの評価とともに紹介して、これから自治体が中心になって、人口減少、あるいは環境問題を考慮したコンパクトな市街地を形成するというなかで、どういうふうな取り組みがあるか、あるいはの自分たちのところでどういう工夫をしたらよいかを、事例の紹介を含めて総論的に述べているものです。
 是非、これを参考にして、自治体の職員の方、あるいはこれから自治体等で働こうと思っている学生の方、あるいは実務的に協力いただいているコンサルタントの方、あるいは研究者の方、あるいは一般の市民の方、そういう方々に是非、読んでいただいて参考にしていただきたいな、と思っております。

中心部も郊外もハッピーなんてことは幻想では?

前田:
 もうひとつだけ宜しいですか。
 コンパクトシティとか、中心部にある程度の密度で人が住んでいくことが良いということは分かるのですが、一方でそれが、広がってしまった郊外の人たちを見捨てるような印象を持たれることがあります。現に青森ではコンパクトシティ推進派の市長さんが選挙で負けたりといったこともありました。
 とはいえ中心部も郊外もハッピーということはありうるのでしょうか。
川上:
 コンパクトシティとかスマートシュリンクということで、中心部ばかりが注目されるのですが、やはり郊外発展の基調はまだ続きますし、いったん居住市街地として形成された郊外は簡単には変化できないということです。それを持続可能なものとしながら、できるだけ、集中したり、選択したりということが必要となってくるとおもいますが、地域特性に合わせて、これからいろんな工夫をしていく必要があるとおもいます。
 この本では先行的な事例もたくさん紹介していますので、各自治体でそれを参考にして取り組んで頂ければとおもいます。また我われもいろんな形で協力したいとおもいます。
前田:
 ということは、広がっていく郊外をそのまま自由にしていても未来はないけれども、すぐにそれが縮退していくと言うことではなくて、むしろ持続可能にしていくために考えなければいけないことが書いてあると考えて宜しいですか。
川上:
 郊外についても、やはり持続可能性を探っていくということが、これからの重要な点だとおもいます。
前田:
 有り難うございました。

関連セミナー

○2010年11月5日「人口減少時代の土地利用計画
〜土地利用計画を実現するための自治体の独自条例
川上光彦・難波健/於:京都


人口減少時代における土地利用計画
〜都市周辺部の持続可能性を探る〜

川上光彦・浦山益郎・飯田直彦+土地利用研究会 編著
装丁 KOTO DESIGN Inc.

B5変判・176頁・定価3990円(本体3800円)
ISBN978-4-7615-3186-7
2010-08-30 初版発行

担当編集者による関連ブログ

●目  次●

序章 土地利用計画制度の現状と課題/川上光彦
 1 都市周辺部の土地利用計画制度概観
 2 本書の構成とねらい

第1部 持続可能な都市の形態と周辺部の課題
第1章 低炭素型都市における持続可能な都市形態と周辺部/海道清信
 1 持続可能な都市を目指して
 2 低炭素型都市への注目
 3 名古屋市低炭素都市戦略と都市構造
 4 わが国における集約型都市構造の計画タイプ
 5 欧米における集約型都市構造政策と計画
 6 低炭素型都市構造に向けた土地利用の再編
第2章 交通行動から考える都市周辺部の土地利用/谷口 守・橋本晋輔
 1 「選択」と「集中」の時代
 2 課題の俯瞰と都市周辺部の位置づけ
 3 地区レベルでの検討
 4 交通行動から再構築した都市周辺部
 5 交通面から探る持続可能な都市形態
第3章 都市周辺部のあるべき土地利用計画とその実現/中出文平
 1 都市周辺部の土地利用の計画を考える視点
 2 市街化区域の拡大
 3 用途白地地域の問題点
 4 都市計画区域外の開発への対応
 5 不連続な都市計画規制への対応
 6 求められる都市計画区域の新設・拡大
第4章 用途地域外における適切な土地利用管理のために必要なこと/明石達生
 1 2つの正反対の主張
 2 農地法だけで都市の拡散を防げるか?
 3 3411条例が持つ可能性
 4 韓国の土地適性評価からの示唆
 5 適切な土地利用管理に必要な科学的調査
第5章 景観計画による都市周辺部における土地利用管理の総合化/小浦久子
 1 連動する土地利用と景観
 2 景観計画による都市周辺部での対応可能性
 3 景観計画による開発調整の仕組み
 4 景観計画による総合的土地利用管理の可能性
 5 市街地再編を調整する空間計画へ
第6章 基盤施設の整備経営から見た都市周辺部の土地利用計画/飯田直彦
 1 関係が深い土地利用と基盤施設
 2 規制と基盤整備の関係
 3 基盤整備の財源である税と起債の性格
 4 各種都市基盤の整備と維持管理の分担のあり方
 5 基盤施設整備と都市的土地利用のあるべき前後関係
 6 基盤整備計画と関連づけた土地利用計画
第7章 まちづくり条例による都市周辺部の土地利用の計画と管理/浦山益郎
 1 都市周辺部における土地の利用と管理
 2 土地利用管理におけるまちづくり条例の役割
 3 事前協議を通じた開発管理の仕組み
 4 住民合意の計画による利用管理
 5 都市周辺部における土地利用の計画と管理の展望
第8章 郊外住宅地の維持更新の条件と取り組み方策/勝又 済
 1 人口減少社会における郊外住宅地の変化
 2 郊外住宅地の維持更新の条件
 3 郊外既成ミニ開発住宅地に期待される「定住性」
 4 「定住性」を高めるための方策
第9章 都市周辺部における農地の保全・利活用・管理/大橋南海子
 1 新しい「農のアーバンフォーム」の必要性
 2 「農」のアーバンフォーム・マネジメント
 3 今後の展開に向けて
第10章 線引きによる都市周辺部の発展と農地課税のあり方/阿部成治
 1 線引き制度の登場と宅地供給
 2 都城市における線引きの人口制御効果の検証
 3 香川中央都市計画区域の線引き廃止と坂出市
 4 市街化区域農地への宅地並み課税と市街地整備
 5 「農地に準じた課税」がもたらす諸問題
 6 都市周辺部の持続的発展と農地課税のあり方

第2部 都市周辺部の土地利用計画制度の現状と課題
第11章 市町村合併を通して見る都市計画区域のあり方/山口邦雄
 1 再編が必要な都市計画区域
 2 都市計画区域指定に係る歴史的経緯
 3 市町村合併による都市計画区域の変化
 4 区域再編の取り組み
 5 今後の都市計画区域のあり方
第12章 開発許可制度をマネジメントする都市計画マスタープラン/飯田直彦
 1 市街化調整区域に土地利用方針が要る理由
 2 市街化調整区域でのきめ細かい開発許可制度
 3 モニタリングの必要性
 4 都市計画マスタープランへの期待
第13章 都市周辺部における大規模商業施設の立地規制と誘導/姥浦道生
 1 大型店立地コントロールの法制度とその運用状況の俯瞰
 2 基礎自治体レベルの対応
 3 広域レベルの対応
 4 効果的な商業施設の立地コントロールに向けて
第14章 コンパクトな都市構造の実現に向けた中活認定都市の土地利用規制/川崎興太
 1 コンパクトな都市構造を目指す中活認定都市
 2 中活認定都市における土地利用規制の実態
 3 中活認定都市における土地利用規制の課題
 4 都市周辺部における土地利用計画・規制制度の展望
第15章 市街化調整区域における地区計画による規制と誘導/浅野純一郎
 1 市街化調整区域における地区計画とは
 2 ロ型地区計画の運用実態と課題
 3 地区計画による土地利用マネジメント〜福岡県久山町〜
 4 市街化調整区域地区計画の可能性
第16章 開発許可条例による市街化調整区域での規制と誘導/松川寿也
 1 住民参加型土地利用計画を実現する開発許可条例
 2 線引きによる影響を緩和する開発許可条例
 3 開発許可条例を見直す取り組み
 4 制度改正後の開発規制と誘導方策のあるべき姿
第17章 まちづくり条例と法制度の連携・補完による土地利用の規制・誘導/松川寿也
 1 土地利用調整系のまちづくり条例とは
 2 まちづくり条例と連携・補完する都市計画制度
 3 農業側の土地利用調整手法を支援するまちづくり条例
 4 土地利用調整系まちづくり条例の可能性

第3部 自治体による都市周辺部への新しい取り組み
第18章 青森市〜コンパクトシティのこれまでとこれから〜/海道清信
 1 三層構造のコンパクトシティ
 2 青森市が講じたコンパクトシティ施策
 3 コンパクトシティ・青森のこれから
第19章 富山市〜串と団子型コンパクトシティへの取り組み〜/中出文平
 1 都市計画マスタープランの考え方
 2 公共交通沿線居住推進地区と都心地域の整備
 3 LRTの整備と富山地方鉄道富山軌道線の強化
第20章 松本都市圏〜市町村合併を契機とした線引き制度への対応〜/中出文平・松川寿也
 1 線引き都市計画区域を超える開発
 2 都市計画区域再編に向けた取り組み
 3 都市計画区域再編後の土地利用制度の構築
第21章 埼玉県内28市町〜暫定逆線引き地区それぞれの選択〜/飯田直彦
 1 暫定逆線引き地区の設定とその廃止
 2 土地区画整理事業で市街化区域に編入(選択肢(1))
 3 地区計画で市街化区域に編入(選択肢(2))
 4 市街化調整区域の継続(選択肢(3))
 5 選択に伴うアフターケアとモニタリング
第22章 札幌市〜都市内部の充実と周辺部の生活維持を目指した計画的誘導〜/星 卓志
 1 人口急増期における計画的市街地整備
 2 市街化調整区域の土地利用コントロール
 3 今後の課題と取り組み
第23章 兵庫県〜市街化調整区域における条例による土地利用コントロール〜/姥浦道生・難波 健
 1 条例の背景と仕組み
 2 特別指定区域の指定の実態と課題
 3 開発の誘導効果〜小野市を事例として〜
 4 開発コントロール制度の課題〜小野市の運用から〜
第24章 金沢市〜独自条例による都市周辺部の土地利用の規制・誘導〜/川上光彦・木谷弘司
 1 条例制定の背景
 2 金沢市の独自条例(まちづくり条例)の概要
 3 まちづくり条例による規制・誘導の課題と展望
第25章 四日市市〜市民と行政が合意した計画による都市周辺部の土地利用調整〜/浦山益郎・稲垣圭二
 1 都市周辺部における土地利用問題
 2 都市周辺部問題への対応策としての3条例
 3 市民が作成した構想から都市計画マスタープラン地域別構想への翻訳
 4 地域別構想の実際〜既成市街地と市街化調整区域の事例〜
 5 市民と行政が合意した計画による土地利用管理
結章 持続可能な都市周辺部の再編に向けて/浦山益郎・飯田直彦・姥浦道生
 1 持続可能なアーバンフォームの実現
 2 土地利用コントロール手法の戦略的利用
 3 都市周辺部の土地利用マネジメントのポイント〜開発管理と利用管理〜
 4 土地利用マネジメントの主体形成


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地域主権で始まる 本当の都市計画・まちづくり ☆ コンパクトシティ ☆ 持続

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