佐藤喜子光さん顔写真 佐藤喜子光 地域力創造研究所理事長。1942年生まれ。京都大学教育学部卒業。近畿日本ツーリスト梶A立教大学大学院観光学研究科教授を経て、現職。著書に『旅行ビジネスの未来』(東洋経済新報社、1997)、『観光を支える旅行ビジネス』(同友館、2002)、『めざせ!カリスマ観光士』(同友館、2003)。共著に『観光学への扉』(学芸出版社、2008)など。
 

『地域旅で地域力創造〜観光振興とIT活用のポイント』を語る

地域のショールムといえる地域旅(着地型旅行)には地域力アップにつながる大きな可能性がある。しかしネックは流通網。ICTを活用し、情報発信と販売促進の両方をセットで解決しようと熱く語られました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

前田:
 今回、『地域旅で地域力創造〜観光振興とIT活用のポイント』という本をお書きいただきました。この本の狙い、あるいはどういう方にどういうことを伝えたくてということを簡単にお話いただけますでしょうか。

どんな思いで書いたか

佐藤:
 まず、この本の執筆者はたくさんいます。
 顔ぶれがバラバラで、コンサルタントもいるし、公務員もいるし、団体役員もいるし、様ざまなんですが、共通点があります。みなさん地域振興の現場の実務者です。これが共通点です。なおかつ考え方に共通項があります。哲学と言いますかね。
 言い方は失礼かもしれませんが、苔の生えた観光にはもう飽き飽きという方が、新しい観光に取り組んでいるということです。なおかつ、観光の話はどちらかというとサイドワークでして、その観光をつかってどうやって地域振興をするか、地域力を創造するかということについて共通した哲学にたっている人たちで書きました。

地域旅は地域そのものを売り出す

 特徴は二つあります。
 一つは地域力創造、つまりその地域のものを売り出すとことですから、外部の人ではなくて、その地域に住んでいる方。なりわいといいますか、生業をしている人たち。そこで生産活動をし、消費活動をしている人たちが、自分たちの持っている生活の文化、あるいは自然環境を、どうやって自分たちで商品化してお客さんに提供していくかという仕組み、我われはそれを地域旅オペレーターと呼んでいるのですが、日本にはいまはないんですね。そのことをどうやって構築していくか、そのイロハがここに書かれています。これが一つです。

情報発信と販売促進にITを活用

 地域旅、あるいは似たような言葉で着地型旅行という言葉もありますが、その地域で旅行をつくるというのは、今までもあるのですね。ただし、ほとんど売れていません。なぜかというと流通網がないのですね。情報が発信されない。ということで、たとえ良い物をつくっても、それが流通しない、それが一番難関だということが分かってきているところなので、そこがポイントです。
 この本の大きな特徴は、それを最新のITを活用して情報発信と販売促進の両方をセットで解決するということが書かれています。
 いまたくさんでている観光情報は、だいたい事前情報なんですね。私から言わせると。つまり観光に行く前にみる情報なんです。ガイドブックとかも、みなそういうものです。
 ほんとは観光客はそのあと現場にいったときも、情報が必要なんです。突発事故もありますし。私はそれを自中情報と呼んでいます。そのなかのやりとりで、お客さんがだんだんその地域になじんでいきます。今度、帰りました。帰ったらそれっきりになってしまうのが今までなのですが、そのあと、事後情報といって、その後もお客さんをつないでいく。このための事前、自中、事後の観光情報をそれぞれきちんと整備していこうという枠組みをきちんと書いています。

地域旅は地域のショールーム。地域のファンをつくる仕掛け

 それによって何ができるかというと、お客さんが地域と密着する。つまり永久にその地域のファンにしていく。そうすると二度、三度、観光に来るということもありますが、たとえ来なくても、美味しかったものを、その地場産品を宅配便で取り寄せるということで、少なくともその土地のものは永久に買ってもらえると。だから観光+物販のシステムを、観光という地域のショールームでしょうかね。体験型のそのなかで培われたファンとして、永久に取り込まれていくシステムを作ろうと。その仕組みが、この本のなかに書かれています。
 それが一番の特徴だと思います。
 どんな人に読んで頂きたいか、というと、地域振興をしている方、あるいは観光振興をしている方に関係するさまざな方、地域の住民の方であっても良いと思いますね。そういう方々に読んで頂きたいな、と思っています。
前田:
 どうも、有り難うございます。

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本書のはじめに(未定稿)

本書の関連セミナー

・春から夏にかけて東京と京都で開催予定です。
2011年4月28日京都セミナー
 
 

−−目次(仮)−−

はじめに

序章 地域力創造 椎川 忍

1 「地域力」とは何か
  1 地域力の評価
  2 地域資源
  3 人間力
2 地域力創造のカギ
  1 人間力を伸ばす
  2 「絆の再生」
3 地域力創造の視点から見た「地域旅」への期待

第1章 地域が立つ観光とは 佐藤喜子光

1 見る観光では地域は立たない
2 地域を立たせる観光〜「地域旅」

第2章 地域のファンをつくる地域旅 大方優子/齋藤明子

1 地域から見たデスティネーション・マーケティング
  1 デスティネーション・マーケティングのめざすところ
  2 デスティネーション・マーケティングのプロセス
2 地域のショールーム〜「地域旅」をつくる
  1 地域旅の概念
  2 体感型ショールームとしての地域旅
  3 観光させる側・ホストたちの現状
  4 三つの事業形態に分けられる旅行業
  5 地域旅の司令塔〜DMO機能を備えたランドオペレーター
  6 地域旅づくり

第3章 地域とファンをつなぐICT 岩城博之

1 「ふるさと楽市楽座」による観光情報提供
  1 観光情報提供システムの不在
  2 ふるさと楽市楽座の哲学
  3 観光客の行動プロセスと必要な情報
2 e-地域資源活用事業の成果

第4章 先進的な取り組み事例

1 各地の個性とその背景を活かした特色あるツーリズムを育てる自治体
 〈山口県〉吉井明生
  1 「地旅」づくりの推進
  2 産業観光の新分野を切り拓く〜宇部地域
  3 エコツーリズムで地域振興と自然保護の両立をめざす〜美祢市・秋吉台エリア
  4 文化観光で通過型観光地からの脱却をめざす〜岩国市・錦帯橋エリア

2 市民が創った観光ビジョンに基づいて観光施策を推進する自治体
 〈福井市〉中川伸一
  1 地域の沿革
  2 福井市観光ビジョン
  3 まち歩きを楽しむ仕掛けづくり
  4 朝倉氏の遺跡を活用したおもてなし
  5 地域がつくるオリジナルツアー

3 行政の枠を超えて“新しい出雲・伯耆の国”を演出する情報発信センター
 〈NPO法人大山中海観光推進機構〉石村隆男
  1 大山王国の概要
  2 情報発信事業
  3 大山ミュージックリゾート事業
  4 ランドオペレーション事業
  5 大山パークウェイプロジェクト
  6 今後の展開

4 物見遊山の観光地からニューツーリズムのメッカへ転身を図る司令塔
 〈社団法人天草宝島観光協会〉岩見龍二郎
  1 観光地としての地位の確立から低迷まで
  2 天草宝島観光協会の誕生
  3 ニューツーリズム創出・流通促進事業
  4 今後の展開

5 グランドデザイン“スローな阿蘇”を実現していくプロモーター
 〈財団法人阿蘇地域振興デザインセンター〉坂元英俊
  1 グランドデザイン〜スローな阿蘇づくり・阿蘇カルデラツーリズム
  2 「阿蘇ゆるっと博」〜“阿蘇大陸”の開幕

6 埋没している地域資源を商品化するランドオペレーター
 〈御所浦アイランドツーリズム推進協議会〉吉岡慎一
  1 御所浦の概要
  2 地域資源の有効活用に向けて
  3 御所浦らしさを実感させるための「御所浦の姿形」の特定
  4 御所浦の目標市場
  5 御所浦の新しい地場産品と観光商品
  6 御所浦の新しい情報戦略〜市場(消費者)へ向けた情報発信体制
  7 御所浦の新しい事業推進体制

おわりに

 

佐藤喜子光さんの本(既刊書・好評発売中)

装丁:上野かおる
A5判・256頁・定価2415円(本体2300円)
2008.11.10 初版発行、ISBN978-4-7615-2446-3
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