季刊まちづくり号外(WEB版)
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被災市街地再生担い手支援事業
の提案

小泉秀樹(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授)
2011.4.14(13:03)

 

 

 被災市街地では、今仮設住宅の建設が始められているが、必ずしもスムースに進んでいない。避難所暮らしが長くなりつつあるが、被災者の健康面を考えても、仮設住宅の建設について早急に進める必要があることは間違いない。
 しかし、三陸沿岸部の被災地では、もともと急峻な崖に囲まれている場合もあり、公共が所有している用地だけではたりない。甚大な被害を被った市街地では、安全性の観点からも安易には仮設住宅を建設することはできない。また、そもそも瓦礫の処分もなかなか進まないといったこともある。更に言えば、仮設の建設は再生へと連続的なものとして考えて置く必要があり、瓦礫処分から仮設市街地・集落そして各種の再生事業の展開と、時系列に連続させながら合理的な土地利用の配置戦略が必要とされる。
 また後背地の集落への設営には、私有地を利用することに関する意向調整が必要となる。山を切り開くならば別かもしれないが、集落内の小さな空地や田畑を利用するには、意向調整が欠かせない。さらに、支援を申し出ているやや内陸部の自治体(例えば遠野市)などへの仮設の建設も、被災集落単位での移住を行い、かつその後の復興まちづくりにおいても、綿密な連絡をとりつづけるような配慮を行う必要がある。このような意向調整作業も必要になる。
 また、復興の仮設居住が長引くことが予想されることからも、仮設住宅が集合して形づくられる「仮設集落」として一定の生活環境を確保するが必要不可欠になる。どのように仮設住宅を配置し、コミュニティ施設を配置し、高齢者向けのケアサービスや、子供の保育サービスなど、生活に必要なサービスの提供ともセットで作り上げて行く必要がある。コミュニティ・デザインといった能力が必要とされる。
 しかし、被災自治体では、そもそも自治体職員の多くがお亡くなりになったり、被災している状況にあり、こうした諸種のことがらに十分に対応できるだけのリソースを現在は持ち合わせていないようだ。また、仮設の建設には相当な専門的な能力が必要となる。更に言えば、まちづくり、都市計画だけではない、建築計画や高齢者介護といった異なる領域の専門家の力も必要になる。
 こうしたことから、被災地に、仮設住宅が建設されようとしている現在から、再生計画を策定し、その実現を見守るまでの間、専門家を派遣するプログラムが至急整備される必要があると考えている。一つの被災自治体に、都市計画・まちづくり系の専門家が最低でも3名は必要ではないだろうか? 時間的制約を考えると、都市全体の土地利用配置や再生のプランを自治体職員と構想する作業と、集落毎のニーズや意向を把握する作業、そして仮設集落のプランを現地にあわせて具体化する作業を並行的に進める必要があるからだ。
 さらにそれ以外にも、建築計画や住宅設計の専門家や、高齢者介護、子供の保育サービスなどの担い手を、セットで派遣できればすばらしい。避難所におけるケアや保育サービスを充実させながら、自治体レベルの再生の青図と、仮設集落の計画を同時並行的にねりあげ、そのなかで各種サービスの拠点もかたちづくり、仮設集落の建設と時間的ギャップが生じないように、サービスを展開できるような、方法がとれないものか?
 国交省では、すでにまちづくり計画担い手支援事業という先例がある。これを被災地向けに手厚くした「被災市街地再生担い手支援事業」を創設し、被災市街地に適用することが必要ではないか? もちろん、事業のアウトプットは広い意味での「再生計画」でよく、法定都市計画なんて制約があれば、うまく作動しなくなるだろう。
 また、各種の専門性を有する大学教員や大学院生のボランティア・スタッフの協力・サポートがそこにあればさらに頼もしい。この専門性を有する教員や学生のボランティア活動にかかる移動費用や宿泊代だけでも何らかの形で捻出できれば、継続的に地域に関われる専門的人材は飛躍的に拡大する。国交省、厚労省、文科省、経産省等が協力し、このような新しい総合的専門家派遣プログラムを創設することが必要とされているだろう。


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