季刊まちづくり号外(WEB版)
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仮設住宅からケアタウンへの連続性の確保

後藤純(東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員)

 

 

1.高齢社会総合研究機構

 東京大学高齢社会総合研究機構は、超高齢社会の広範で複雑な課題を解決するために、医学、看護学、理学、工学、法学、経済学、社会学、心理学、倫理学、教育学など、各領域の専門家が学問領域を超えて結集した組織である。当機構は、このような組織の特性をいかし、被災地における支援及び復興に対して、あらゆる英知を結集して被災者の皆様の役に立ちたい。

2.問題認識

 東北の被災地においては高齢化率が全国平均を超えている自治体も多く、一部では既に30%を超えている。また単身高齢者の割合も15%前後と高く、高齢者との同居世帯率も高い。長引く避難所生活においては、これまで自立した生活を送ってきた高齢者も、体力・気力もすっかり衰え、生活習慣も崩れてしまい、実質的な要介護度も上がっている。まず避難期においてはケアスタッフの充実(介護認定見直し含む)が重要である。
 そして仮設期〜復興期にかけては高齢者の生活の質に配慮した仮設住宅地整備が必要となる。画一的な仮設住戸パタンの南面平行配置の仮設住宅地では、過去の震災で指摘されたとおり高齢者の寝たきりや閉じこもりが増え、認知機能及び身体機能はさらに低下してしまう。仮設期は最低でも2年〜長ければ5年以上かかるが、住宅のみ構成される仮設住宅地はケアサポート機能を追加する余地がない。すなわちケアが必要となった時、高齢者は再びコミュニティから切り離され、元の生活とは一層かけ離れた地域にある高齢者施設へと隔離されてしまい、二度と戻れなくなる。復興に取り組む世代にとっても両親、祖父母のケアの問題は気がかりとなる。

3.ケアタウン構想

(1)ケアタウンの理念

 持続的可能な都市(サスティナブルタウン)を目指していくという社会共通の目標のもとで、当機構はケアタウン構想を理念として掲げている。高齢化の進んだ被災地の復興に際して重要なことは、経済面での復興はもとより、高齢者が孤立することなく、安心してコミュニティ内での役割をもち暮らし続ける試みを実現することである。このことが、すべての人が将来に向けて安心して過ごせる超高齢社会のコミュニティづくりの第一歩である。

(2)環境移行の支援とコミュニティ復興の連続性

 また復興への道筋として最も重要なことは、避難期、仮設期、復興期の全過程を通じた環境移行の支援とコミュニティ復興の連続性の確保である。
  1. 環境移行の支援とは、あくまでも従来からのコミュニティが損なわれることなく、被災者が自分らしく生活し続ける環境を確保できるような支援のことである。
  2. コミュニティ復興の連続性とは避難所から復興後の生活に至るまで「住まい」「生活」「かかわる人」が途切れることなく引き継がれることである。具体的には「住まい」の連続性は、コミュニティが崩れることなく避難所から仮設住宅に移れること。またまちの核にはコミュニティケアの拠点となるサポートセンターがあり、高齢者を含む全ての人がその人らしく過ごすためのケアシステムが展開されていることである。「生活」の連続性は、例えばコミュニティケアに関連して地元の人々を雇用し、農林漁業、製造業、サービス業など震災以前の職に戻る足がかりとして、コミュニティケアにビジネスとして関わることで生計の基盤を立て直すことである。これらは産業復興とともに地元の就労の場へと移行される。「かかわる人」の連続性とは外部支援が直接的なフルサポートをし続けるのではなく、徐々に地元によるビジネス(復興作業やケアサポート)を地元が中心となり立ち上げられるように専門家等の人材及び資金支援し、徐々に実施主体を地元に移行させていくことである。

4.ケアタウンとは

 このような理念のもとで展開されるケアタウンは次の3つの要素から構成される(図1)。

(1)能力を活かし可能な限り自立できるまち

 介護ヘルパーや子育て支援、配食サービスやふれあい喫茶等、いくつになっても地域を支えるコミュニティビジネスにとりくめるまちである。また趣味の活動、ボランティア活動、いくつになっても自己実現の機会があるまちである。高齢者が多少の身体的・認知的衰えはあってもいきいきと楽しく生活できるまちであればこそ、若い人が安心して復興にまい進できるまちとなる。

(2)地域社会で孤立をせずに暮らせるまち

 人とのつながりが維持できる交流の場と機会のあるまちである。単身高齢者が住宅に閉じこもらないように、日々まちへ出かけ人とコミュニケーションを取りたくなる工夫が随所にあるまちである。

(3)ミニマムケアで生活習慣を維持できるまち

 高齢期の身体機能の衰えは、生活のリズム(睡眠、食事、保清、排泄、離床・移動、更衣)が崩れることから始まる。身体・認知機能が衰えても、コミュニティケアによって、生活のリズムを維持しつづけられるまちである。そのためには在宅医療、在宅看護、在宅介護により24時間365日の支えと連携した住まいが必要である。また自立した生活から徐々にケアが必要となる時期に、コミュニティやインフォーマルサービスによる「見守り」が必要である。

5.住まいとコミュニティケアの連携(仮設住宅とサポートセンター)

 ケアタウンの実現のための橋頭堡として重要なのが、住まいの連続性を担保する仮設住宅とコミュニティケアの拠点としてのサポートセンターとの連携である。サポートセンターには、生理的欲求を満たすための最低限必要なケアを提供できる機能が必要である。例えば共同浴場、共同キッチン・ダイニングなど。また24時間365日のケアを支える訪問医療、訪問介護、看護事業所やデイサービス機能も必要となる。そして交流スペースとしての飲食店や人があつまるパブリックスペースなども考えられる。例えば各住戸に浴室や台所があっても後期高齢者になると一人での入浴は不安が多く、1日3食自炊するのも負担となる。共同浴場、共同ダイニング(もちろん食事サービス付き)がないと、栄養不足だけでなく、外出が減り、日中の活動量が減ることで生活のリズムは崩れていく。また生活の連続性という観点から、これらのサポートセンターは地元で経営・運営されることが望ましく、ケアだけでなく、コミュニティビジネスの拠点へと拡張していくことも考えられる。
 また仮設住宅は、これらコミュニティケアの機能と一体的に整備する必要があり、高齢者の寝たきり予防、介護予防や、コミュニケーションの取れる共同空間など原則的に重要となる。仮設住宅建設にはスピードが求められるため画一的な仮設住戸のみで構成される場合が多い。これに対して、大月敏雄准教授(建築学)を中心として、仮設住宅建設のスピード及び効率性を落とすことなく、コミュニティケア内包型仮設住宅地の整備計画が検討され、実装に向けた働きかけを始めている。

6.復興を目指して

 まとめとして、多分野の専門家との協働による復興支援の重要性を指摘したい。例えば建築/都市の専門家は集会場などの共同スペースの必要性を提言している。他方介護看護の専門家はコミュニティケアの拠点が強く求めており、厚生省も整備に乗り出した(2011年4月20日)。ケアの専門家からは高齢者にはオーバースペックの仮設住宅も多く、他方でケアが必要なときにはその拠点をつくれないとの課題が指摘される。上述のとおり共同スペースも、ケアの拠点も共存可能であり、ソフト事業が展開されるコミュニティインフラ整備も建築/都市の専門家の役割である。被災地支援のために様々な分野で必要とされる機能を、統合的に提供することが早期の復興のためにも重要である。
 詳しい提言内容は東京大学高齢社会総合研究機構「東日本大震災復興まちづくり提言〜Aging in Community ケアタウン構想」を参照

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2011.05〜