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セッションから

フォーラムに向けて―わかりやすさの落とし穴

株式会社GK設計 宮沢 功

 

ファッションとしてのデザイン事業

 1960年代から70年代にかけてだと思う、 街路を構成する舗装や街路灯などの公共施設に対し物理的な機能面に加え、 景観が人々に与えるイメージが都市環境デザインにとって大切な視点であると言われた。 その結果、 デザイン舗装、 デザイン照明、 デザイン高欄などと言われ、 親しみやすさ、 暖かさ、 地域特性の表現と言うことで、 茶色を主体としたカラー舗装、 インターロッキングブロックと波模様や花柄模様の舗装パターン、 橋梁の親柱、 高欄に地域の歴史や特産品などがレリーフで表現された。 駅前目抜き通りの街路灯にも特産品や地域にまつわる様々なモチーフが彫刻され、 果ては照明器具そのものの形とし表現された。 この現象の背景は住民や来訪者に説明しやすい「わかりやすさ」「親しみやすさ」の表現として選択されたと考えられる。 ファッションは一般的に短期的でありその時代性を敏感に映し込んだものである。 服飾や消費財などに対してはその時代を積極的に楽しみ生きるための媒体として有効であろう。 しかし、 景観デザインの対象とする施設は、 10年、 20年、 50年とそこにあり続けるものである。 親しみやすさや地域性の表現がこのように短絡した、 直喩的表現になったことは「わかりやすさ」「親しみやすさ」の表現という考え方のみがファッションとして解釈された結果ではないか、 あえて言えばデザイン事業そもののが一つの「流行」として捉えられたのではないかと思う。 景観デザインのテーマは1960年代の都市景観基盤としての標準化、 大衆化、 1970年代後半からの地域性、 個性化、 1990年代から現在に至る省エネ、 情報化、 ユニバーサルデザインと変化している。 これらのテーマは本来その時代を反映した様式として表現されるべきであり、 考え方のみがファッションとして捉えられた場合、 稚拙で表層的な表現になってしまう。


モードがつくる公共空間の質

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都市サインの典型となった大阪市歩行者用サイン
 公共空間の設えは、 照明灯、 バスストップ、 フェンスなどのストリートファニチャやサイン、 舗装等がある。 これらのSFはその時代の社会背景によって形態、 機能、 材質などが変化する。 1960年代の公共空間が未整備の時代には設備そのものが整備されることに意味があった。 歩道はアスファルト舗装、 道路灯にはハイウェイポール等、 それらのスタイルは1970年の大阪万博でデザインされたSF、 サインに象徴されるような原型的造形を基本としたニュートラルなデザインであった。 それはSFやサインが都市景観の基盤をつくるものとして考えられ、 どんな条件の景観に対しても調和するように考えられた結果である。 1980年代には都市景観形成への関心の高まり、 地方博、 ふるさと創生事業の推進、 自治体のCIブームなどが、 公共空間の設えとしてのSFデザインに対しても様々な形態、 素材などの試みがなされ、 いくつかのスタイルが出現した。 都会的なシャープでシンプル、 モダンな造形、 細い部材を組み合わせた新しい技術イメージを感じさせる軽快なSF、 都市景観を一体的な個性ある空間として感じさせるためのシステマティックな組み合わせ機能、 共通したデザインによるファミリーとしてのSFデザイン等、 が試みられ、 公共空間を構成する様々な要素による個性的な空間づくりがなされた。 これらの動きは大きな社会的要因や地域の文化的、 風土的要因を反映させ道路や広場、 地域の景観的質を高め、 空間としての個性を表現する一つのスタイル(様式)として成立する事になる。


これからの公共空間の設え

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アルプスのシルエットが付けられた道路灯
 公共空間は基本的に長期的な視点で整備されるものである。 そのため短期的な社会状況の反映としてのファッション性はなじまない。 様々な要素としての時代の反映、 地形や風土、 歴史や文化としての地域性の反映が、 長期的で飽きのこない様式として景観デザインの中に表現されることが都市景観の本来の在り方だと考える。 社会状況や地域性の構成要因は時間とともに変化し、 その当時に形成された都市空間は将来の地域性、 時代性を反映しないものとなっているかもしれない、 しかしそのときにつくられたデザインは歴史を重ねる一つの様式として存在し、 次の新しい様式がそれに重なり深みのある味わい深い公共空間を形成する。 一方、 公共空間におけるファッション性も都市生活には欠かせない。 商業施設や屋外広告、 都市のイベントなどはその時代、 その時期の流行を敏感に反映、 演出やイベントとして表現される。 日常生活には楽しさや、 リズムなどの変化も重要な要素として機能している。 このリズムや楽しさ、 感動や刺激を提供するのが流行である。 公共空間における様式と流行をバランスよく使い分けることが大切なのではないか。

宮沢 功 みやざわ いさお
1941年東京生まれ。 東京都立工芸高等学校卒業後、 GKインダストリアルデザイン研究所に入所、 ヤマハオートバイ、 京都信用金庫インテリア、 大阪万博などの経験の後、 1982年GK設計設立と同時に移籍、 以後、 SF・サインなど人の視点からの環境デザインを探求。 2001年8月から同社取締役社長。

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