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セッションから

ファッションの危うさと発見される自然の価値

株式会社スペースビジョン研究所 宮前保子

 

 見慣れた街の緑やオープンスペースの「形」にも緩やかな流行がある。 近代都市の新しい装置として生まれた街路樹を例にとってみると、 最初の街路樹である明治7年に植えられた銀座のマツとサクラから、 わずか30年しか経過していない明治40年にスタンダードが確立した。 この時のスタンダードとは東京街路樹計画で選ばれた樹種(イチョウ、 ユリノキ、 アオギリ、 トウカエデ等10種)であり、 その後長きにわたって街路樹の「形」をつくりだしてきた。

 最近は屋上庭園がブームであるが、 その目的や機能にはいくつかの潮流がある。 1940年代に伊勢丹が日本庭園風の空間を屋上に整備したが、 当時の屋上庭園は集客の目玉装置であった。 1980年代後半には人工土壌や軽量土壌の開発によって、 就業者の憩いの空間装置として屋上だけなくアトリウムなども含めた人工地盤緑化が拡大している。 しかし、 現在のブームは、 ヒートアイランド現象緩和への寄与という環境機能の確保が主目的とされ、 東京都では緑化を義務付ける条例制定が大きな推進力となっている。

 このようにある種の緑やオープンスペースの「形」は、 西洋文化を鏡とした「装い」への憧憬から生まれ、 新しい技術や制度に裏打ちされて流行を生み、 ブームをつくりだしてきた。 しかし、 緑の流行は服飾や道具とは異なる局面で危うさを持ちつづけている。 大きく育った街路樹がトレンドに合わないと伐採され「蓄積された時間」が抹殺される危うさ。 屋上が緑であればと人工芝で埋められる「擬似」や「代替品」が流布する危うさ。 一方でおしゃれな街にするためには、 流行とトレンドをしっかり取り込んだランドスケープデザインが要請される。 このように緑やオープンスペースに関する流行やブームは、 混沌を売物にしたある種の都市や商業区域のような都市のある区域では無原則的な導入を容認せざるを得ないだろう。 しかし、 歴史的な街区や田園地域、 自然地域における「はやり」のデザイン導入には様々な根源的と思われる課題や問題があり、 「デザイン不自由」のなかでもっともっと熟考されるべきであるし、 工夫したい。

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シオサイト
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シオサイト
 このようなデザインの分野と平行するように近代以降、 新しい風景が発見されてきた。 これは自然の美や価値を発見しつづけた道筋であるといえる。 自然が人間にとっての風景となる歴史的段階は3つの段階を踏むといわれている。 第1段階は「出生地の自然」を風景としてみる段階、 第2段階は観念上の自然を風景として理想とする段階、 第3段階は生産的労働の対象となりえなかった自然が風景として「発見」される段階である。 例えば「瀬戸内の多島海風景」、 「日本アルプスの山岳風景」などは第3段階の発見された美である。 ところが最近の棚田や里山へのまなざしは第4の段階に到達したといえる。 つまり自然を風景としてだけ捉えるのではなく、 そこに自然の多様性という価値を見出したという点で新しい段階に到達した。 このように、 さまざまな価値を伴った自然が重層的に我々をとりまいており、 何かのきっかけで突出した価値をもつ自然が浮かびあがることもあれば、 身近なところにある自然に価値が見出されることもある。 新たな美意識の誕生が新しい自然美の発見をもたらすという循環が生まれるともいえる。

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六本木ヒルズ
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杉並区東高円寺
 創造と発見、 同じように新しさを目指すこの2つは都市環境デザインに関わる概念である。 そして緑やオープンスペース、 自然のデザインに求められる創造性とは、 時間のなかで蓄積されてきた価値を忘れず、 後の時代に発見されるべき価値を損なわないことである。 都市では文化がファッションを生み出し、 ファッションが文化となるが、 同時に文化が自然の美を発見し、 自然の価値の発見が文化となることこそ都市環境デザインを規定する概念とおきたい。 六本木ヒルズのマンション屋上に出現した田圃はファッションかモードかあるいはスタンダードたりうるか。

宮前保子 みやまえ やすこ
1951年大阪生まれ。 京都大学農学部を卒業後、 京都大学大学院に進学。 博士課程修了。 農学博士。 99年より02年まで京都造形芸術大学助教授。 現在、 90年に創設した(株)スペースビジョン研究所 取締役所長。 自然環境を視点においた地域デザインを展開。

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