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世界遺産の光と蔭

 

世界遺産指定は、 観光開発の手段なのか

 実は、 私はなぜ世界遺産を指定していくのかまだ十分い理解できていません。 国が文化財指定をしていくのはナショナリズムが背景にあるから、 まだ理解できます。 しかし世界遺産は誰がどういう目的で指定しているのか、 釈然としません。 人類の遺産といっても、 それを支えているのは個々の地域であり個々の文化ですから、 それを「世界遺産」と言うのはどういうことなのか悩むところです。 と言いますのも、 もしも月に何らかの素晴らしい遺産があり、 それを人類の世界遺産だとして月を指定するとすると身勝手な感じがするからです。

 世界遺産指定は一種のグローバリズムだと思います。 この世界遺産の働きかけを一番頑張ってやっているのは、 途上国です。 途上国で世界遺産指定されると、 インターネットに登録され、 その情報は世界中に発信されることになります。 つまり「あそこに行ってみよう」という観光誘導、 それも世界レベルでの観光誘導を引き起こす引き金になるのです。

 例えば、 私が先日訪れたベトナムでは、 ハロン湾が最近世界遺産に指定されました。 すると、 すぐにリゾート開発が始まり、 ものすごい勢いで埋め立てが進んでいます。 外国のプランナーやデザイナーが走り回って、 アメリカ型のリゾートを作る計画がすでに進められていました。 それを推進しているのは地域の知事クラスの人たちで、 これは世界遺産に名を借りたリゾート開発ではないかと感じました。 地域の人たちがその開発で得ることのできる恩恵は必ずしも大きくはありません。 せいぜいホテルに雇われるぐらいでしょう。

 中国のいくつかの都市でも同様のことが起こっています。 明朝の城壁が完全な形で保存されている平遥(へいよう)の街は不便な土地だからこそ残ったという街ですが、 世界遺産に指定された途端に観光開発に乗り出しました。 また蘇洲も指定される前は素晴らしい街だったのですが、 指定されると過剰な整備が進み、 今や指定取り消しを受けかねない状況になっていると聞きます。 そうなると、 むしろ世界遺産指定を受けることが困った状況を引き起こすように思えてきます。


世界遺産とグローバリズム

 そんな風に世界遺産がすぐに観光開発に利用されてしまう背景には、 アジア全体が人口が多く、 しかも開発途上国が多いことから、 世界遺産を観光開発に使いたいというニーズが根強くあると言えるでしょう。

 一方、 世界でも人口が少ないところでは、 世界遺産指定がされてもそういうアクションがなかなか起こりにくいという地域もあります。 しかし、 アジアでは世界遺産指定以降に起きる現象で大きな問題を抱えているように思います。 このようにみると、 世界遺産の論理の背景には、 経済のグローバリゼーションと同じ思想があるように思えて、 それを地域でどう受け止めるかが大きな課題だと思っています。

 今回の世界遺産指定は、 熊野古道だけでなく、 高野山や熊野権現も含んで指定されています。 周辺の田辺、 串本、 勝浦はそれぞれ産業は少しずつ違っても、 水産がベースになっていてよく似た問題を抱えています。 水産と観光、 温泉をベースにして、 これからよく似た状況が展開していくのではないかと思っています。 つまり、 どこかがうまくいけばすぐにそれを真似しようという展開になるのではないか、 と感じています。

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