歴史と向き合う街とは 癒しの風景とは
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熊野でどう考えるべきか

 

団体旅行者をどう受け入れるか

 それでは、 今日のみなさんのご発表を聞いて、 手がかりになりそうなポイントを整理して考えていきたいと思います。

 まずは団体客を受け入れるべきかどうかについて。

 団体客を送り込む旅行会社にとって、 地域のことはほとんどどうでもいい問題だととらえられていると思います。 多くの観光客を動かせばいいと、 旅行会社関係のコンサルタントが地域に過剰で不似合いな提案をすることもしばしばあると聞きます。 地域そのものとしては、 本当は、 団体客を受け入れなくてもやっていけるのではないかと思います。

 例えば、 中国の世界遺産の例では、 街に入るときに入場料をとるという所があるそうです。 外国人からは結構高額な料金をとるそうで、 いずれ評判を落とすんじゃないかと思います。

 いずれにせよ、 団体客は、 旅行社が売り出す旅の商品を買ってやってくるわけです。 地元としては、 拒否することも出来ませんし、 難しい問題です。 うまく受け入れる方法は今すぐには思いつきませんが、 まず第一に考えなければならない課題だと思います。 ひとつの解としては、 先ほどの発表にあったかと思いますが、 体で体験すること、 つまり古道なんだから歩いてみることが重要だということは鋭い指摘だと思います。

 また熊野参詣が隆盛を極めたのは信仰ということもありますが、 健康や延命に対する御利益を求めたことも理由です。 この地から浄土を求めて船出して死んでいったお坊さんがたくさんいたことも、 この地域が持っている「命というテーマ性」とも関係があるんじゃないかと思いました。

 ですから、 「健康」というキーワードは歩くこと、 身体性を体験することと関係しあっているわけですから、 それを観光客を受け入れる体制にうまく活用できないかと思います。 四国の八十八カ所巡りも同じコンセプトがあります。 日本の巡礼はヨーロッパ的な巡礼とはちょっと違う中身を持っているという気がしました。


情報発信をどうするか

 私もここに来るにあたって2冊ほど本を買って読んでみましたが、 なかなか地域の真髄に触れられる本はないと感じました。 もちろんないことはないのですが、 それは専門的すぎて難しい。 つまり旅行ガイドみたいな本はいっぱいあるのですが、 地域を理解するための情報があまり発信されてないのです。 先ほどの健康というキーワードとも関係してくると思うのですが、 どういう発信の仕方をするかが今後問われてくると思うんです。 インターネットで情報を流せばいいというのとはちょっと違うと感じています。

 団体観光客は地域について何も知らないでやってきます。 バスで来てガイドさんの説明を聞いて、 それぞれの場所場所には10分かそこら居るだけで立ち去るわけですから、 地域から浮いている存在です。 私がむしろ重要視しているのは、 団体じゃない観光客にどういう情報を流すのかということです。

 さらに「誰が」情報発信するのかはもっと大きい問題です。 情報はいっぱいあるから、 信頼できる情報が必要になってくるのです。 このサイトの情報なら信頼できるとか、 情報発信元が役所や公的な存在であるといった工夫が必要となってくるでしょう。

 中上健二さんのホームページなんかを作って、 「熊野の見方」などの情報を発信すれば、 信頼していただけるんじゃないかとも思いました。 いろんな方々の固有名詞を持った情報発信が出来れば、 情報の偏りはあるでしょうが、 役所の人が作る人畜無害な情報よりも、 魅力的な情報に接することが出来るでしょう。 そんなこともこれから考えていかなきゃいけない問題かなと思いました。


海岸保全

 天神崎のトラスト活動が始まったとき、 私も何年かのあいだ参加しました。 ただ、 実際に来たのは今回が初めてです。 台風の影響もあったと思うのですが、 回りがちょっと荒れつつある感じで、 実際の風景は期待したものとは違っていました。

 山の方はまた違うと思いますが、 海岸を回ってみると整備の方法はもう少し工夫が必要だと感じました。 例えばビオトープ的な所の環境デザインなど、 もっといろんな工夫があってもいいでしょう。 海はまさに天然ビオトープですから、 それに合った環境作りをこれからやっていく必要があると考えました。

 今は海岸の北側の埋め立てがどんどん進んでいます。 とりわけ街に近くなるほど埋め立てが多くなって、 将来の景観はどうなるのだろうと不安になります。 串本の方もそうです。 これらの埋め立ては公共事業としてやるわけで、 今は景観法も成立しているのに、 現場にはまだそうした景観思想が到達してないという現実を見せつけられたという思いです。

 また韓国から参加の権さんが指摘されたように、 韓国と比べると日本の海岸は異常と思えるほど防災施設で固めています。 これももう少しデザイン的な観点から考えないといけないと思いました。

 海岸整備もまちなかの区画整理もその思想がよく似ていて、 これは日本全国が抱える問題でもあります。 新旧の調和がうまくない。 古いものをなぜ簡単に壊せるのかと思いますが、 これはやはりプロの責任だと思います。 こうしてどこにでも同じような街が出来てしまって、 鳥がとまった形の街灯がわずかに田辺らしさを表すぐらいです。 これもなぜこのデザインになったのか、 私は不思議に思います。

 地元の人は「ああ田辺も近代都市になったな」ぐらいの気分なんでしょうが、 地元の人も楽しみながらもっと違うデザインの選択もできるはずだと思います。 しかし、 建築家や広場を設計する人にはそうした技術がないのかと思えるほどの街並みを多く目にしますので、 これも日本の都市環境デザインの大きな課題ではないかと考えます。

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