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趣旨説明
都市環境デザインにおける
「デザインの力」

フォーラム委員長・LEM空間工房 長町志穂

   

 景観法の施行やまちづくりにおける住民参加の普及など、都市デザインをとりまく状況は激変し、より今日的なプロフェッショナリズムとは何かが問われている。プロダクトデザインなど消費型のデザインブームに対し、日常的で恒久的な「都市デザイン」の視座がいかなるものであるべきか、デザインに何が出来るのか、深く考え議論する必要があると考え今回のフォーラムは企画された。


デザインの定義

 都市デザインの領域においては、その「デザイン」という語彙そのものが広く深い。色や形を決めることも、都市計画の方向性を決めることも、コミュニティの活性化活動もすべてデザインであるといえる。そういった意味で、この都市環境デザインフォーラム関西では過去様々なデザインの議論をしてきたわけであるが、今回は特に「感覚(Sense)」にフォーカスしようとしている。ケビンリンチによって示された環境評価の五つの次元「活力(Vitality)・感覚(Sense)・適合(Fit)・到達(Access)・管理(Control)」のうち、最も評価が難しいとされている部分で、特にデザイナーという職能が大きな役割を担う領域である。


デザイナーの役割

 今日では、建築家を含むデザイナーの役割・職域は、単に形をつくることではないことは誰もが知っている。しかしながら、目に見えないものを見えるものにする狭義の意味でのデザインワークは、他に代役のない仕事であり共に活動するコンサルタントなどの専門家からの期待も大きい。にもかかわらず多くの場面で「何故、どうして」ということが起きている。

 一方で公共工事などではプロフェッショナリズムとしてのデザインを軽視し、デザイナーなきデザインが実行されることも見受けられ、民間では行き過ぎたマーケティングから導かれた「売らんがための稚拙なデザイン」もあふれている。心地よい街をつくるために有効な住民参加のシステムなども、デザインのレベルという視点からすれば、関る専門家の力量が問われるもので危ない部分がある。


めざすべきものは何なのか

 では、いったいどういったデザインが都市デザインに必要なのだろうか。フォーラムに先駆けてのセミナーでは、「際立たずおさまる美しさ」をめざす声もあれば「目立つ破調の美しさ」に期待したいという意見もあった。大阪大学の鳴海氏は、あるべき都市デザインを見定められぬデザイン行為に対し、芭蕉の俳諧の境地「かるみ」を例に警鐘をならされた。

 「あるがままの自然」や「アノニマスな心地よさ」は肯定しつつ、デザイナーの宿命である建設する行為も肯定できる本質的な創造のための価値観の共有が必要である。議論を積み重ねていくうちに我々に見えてきたことは「めざすべき方向性を見定め共有したい」という想いであった。


三つの分科会

 「デザインの力」を信じ「めざすべき方向性を見定め共有する」ために、三つの分科会形式で議論を進めることにした。

 分科会Aでは「デザインの力」を「場所に生命を吹き込む力」であると考え、コラボレーションの経験豊かな専門家が光・風・水・土・緑という形のない「場所の生命」を共振させるデザインについて語り合うことで、五感で感じる心地よさの生みだされる姿に迫りたい。

 分科会Bでは「ファサード」にフォーカスし、大阪市・京町堀をケーススタディに魅力的な街が持つ広義の「ファサード」の意味や可能性、魅力的な都市のランドスケープについて深く議論しようとしている。

 分科会Cでは「デザインのレイヤー・時間軸」をテーマに議論する。「異なるつくり手が年月の中で重ね合わせていくデザインの力」によって、時を越えて輝きを増していくデザイン創出への手がかりを探ろうというものである。


「デザインの力」を信じて

 様々な価値観が混在し最も広範囲なデザインジャンルである都市デザイン。本フォーラムによって、次の世紀に残せる魅力的な街を生み出し守るために、専門家がめざすべき方向性や価値観をいくらかでも共有することができ、「デザインの力」で「もっと幸せになれる」と確信できればと思う。

     
     長町志穂(ながまち しほ)。
     京都工芸繊維大学工芸学部卒業。松下電工株式会社照明デザイン室を経て、LEM空間工房設立。照明を横軸に、アートワーク、インテリアデザイン、建築・空間における照明デザイン設計、あかりによるまちづくりなど幅広いデザインジャンルに関る。受賞暦:グッドデザイン賞 約100点、06年ランドスケープライティングアワード部門最優秀賞、第13回空間デザインコンペティション佳作など。JUDI関西会員、商環境設計家協会会員、神戸市あかりのいえなみアドバイザー等。
 
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